表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/50

罪と罰?

「ふー、さっぱりしたぁ!いろんな意味で」

満足そうににんまりとしたアヒル口を晒した遥が、鼻歌交じりにドライヤーを掛けている。

まさか狭い風呂の中であんな事やこんな事させられるとは思わなかったぜ……

俺は、無理な体勢で痛めた腰をミシミシ言わせながら伸びをした。

「ね、ね、ショウ!まだ三時だよ。ちょっと散歩でもしない?」

俺のTシャツを羽織っただけの格好で、むぎゅっと背中に抱きついて来る遥の

ふわふわな胸の感触を感じて体の一部が膨張して来る。


おまえ……さっき頑張ったばかりなのに、大概にしてくれよ……

我が息子ながら、若いってもんだよな。

「ふうう」

思わず大きく溜息をついてしまった俺に、

「なによう、あたしと一緒に居るのが退屈なの?」

とぷくっと頬を膨らませて文句を言う遥。

「違うって。だけどお前、どうするんだ?」

振り向き様にぷにゅっと頬にくっ付いた遥の頬の柔らかな感触にニヤけそうになりながら、

いかんいかんと自分を律して厳しい声を絞り出す。

「ほえ?何を?」

大きな瞳をパチクリさせ、不思議そうに俺を見詰める遥。

「はあ……能天気だな、もう。今日の休みのことだよ。 

 一応由香里先生には電話して風邪ひいた、って連絡しておいたけど、

 おばさんには何て言う積りだ?」

「ゐ!」

俺にズバっと言われ、良く解らん発音で絶句した遥の顔がサーっと青ざめていく。


コイツ、なんも考えてなかったんだな……


「あうあう……えと、んと……

 ナ〜イショ、ってのはダメ……?」

背中に抱きついていた遥がゴソゴソと俺の前に這って来て、

胡坐をかいた俺の膝の上にちょこんと乗り首筋に唇をつけて甘える様にボソボソと呟く。

「内緒になんて出来る訳ないだろ。

 もし後でバレたら、どうなると思う?」

「ひぃぃぃぃ」

遥のおでこを指でつい、と押しながら首筋から離し、ちょっと怖い顔で睨んで言った俺の言葉に

可愛い顔をくしゃ、と歪めて世にも情けない顔を見せる。


おばさん、怒るとマジで怖ろしいからな……


「こう言う時にはこっちから正直に話して謝っちゃうのが一番だぜ。

 それも、出来るだけ早い方が良い」

家族が亡くなった後、嫌な事や辛い事を後回しにして収拾付かなくなった事を

何度も経験している俺が実感を込めて諭すように言うと、

「……そうだね、じゃあ、これからすぐウチ行って来る」

遥はしょぼんとしながら呟き、服を着替え始めた。

「待てよ、俺も一緒に行くから」

「え……でも、悪いのは私なんだし」

ほっとした様な表情を俺に向けながら、バツが悪そうにもじもじする遥を軽く抱きしめ

「何言ってんだ。俺達はいつでも一緒だろ」

とピンク色の唇にキスをする。

「えへへ……ショウ、大好き!」

遥は嬉しそうに笑うと、もう一度唇を重ねてきた。



「なるほど、ね。

 そういう訳だったの」

遥の家の居間の床に正座する俺達の前で、今晩のカレーを作り掛けていたおばさんが

お玉をヒュンヒュンと振りながらスタスタと往復している。

「さっき、由香里先生からお電話が有ったの。

 大丈夫だとは思いますが、遥とショウくんの様子はどうですか、ってね」


遥の体がビクっと震えるのが横目に見え、思わず苦笑してしまう。

それにしても、内緒にしてたらエラい事になっていただろうな……

俺は自分の経験則に思わず感謝してしまった。

「ま、今回は二人で正直に言ってきたからパパには内緒にしておくわ。

 あと、ショウくんには殆ど責任は無いんだから良いとして……

 遥。」

「ひゃい!」

遥が思うさまキョドりながら半泣きの顔を上げるのを見て、俺も一緒に顔を上げおばさんの顔を見る……と……


穏やかな微笑と声なのに、おばさんの姿が途方も無くデカく見える!

俺は思わず天井に向かってその姿を見上げてしまった。

遥はカタカタと小刻みに震えながらおばさんの顔に視線を向けているが、

その瞳はまるでトンビに追い詰められたスズメの様な印象を感じさせた。

「あなた、来月のお小遣いナシね。後、今日から再来週いっぱいまで、

 ショウくんの部屋に行くのを禁止します」


あちゃー……ま、でも無期限禁止に比べれば相当マシか。

俺の予想としては、期限切らずにしばらく禁止、位言われると思ってたけど。俺は罰が思ったより軽かった事に安堵しながら遥を見る。

と、遥はまるで魂が抜けたかの様にあんぐりと口を開けたまま呆けていたが、

瞳からぶわあっ!と涙を溢れさせながら突然叫びだした。


「へ……ええ!?そ、そんな!そんなのヤダ!ヤダ!

 ヤダようっ!!ショウの部屋にっちゃけなひだんで!!」


をい、遥さん。落ち着け。最後の方は日本語になってないぞお前。

「お黙りっ!!

 あなた自分が何をしたか解ってるの!?

 今までお酒なんて飲んだ事無かった娘がいきなりそんな事して!

 下手すれば急性アルコール中毒で死ぬ所だったのよ!

 大体、最近のあなたはショウくんに頼り過ぎです!

 ショウくんが大好きなのは構わないけど、

 あなたがショウくんに大きな負担を掛けてる事を自覚なさいっ!!」

それまでの穏やかな表情から一変し、キッとなった怖い顔で遥を睨みつけ叫ぶおばさん。

「ひん!……れも、れも……ヒョウに逢えなひなんへあらひ死んひゃうもん!」

ボロボロに泣きじゃくってビビリながら、それでも食下がろうとする遥。


さて、どうしたもんかね……

俺はこの状況をどうやって収めようかと必死で考えを巡らせ始めた。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ