宿酔ーい!
ジリリリリリリ!
鳴り出した目覚ましをチン!と止めてムクリと起き上がり、
「ふわあ……」と大きく伸びをする。
時間は、六時半か。
隣を見ると、なにやら顔をしかめた遥がうんうんとうなされている。
「おい、遥、大丈夫か?」
遥に顔を近づけて声を掛ける、と、まるで熟した柿の様な匂いが遥から漂っている。
「遥、おい、遥?」
俺がもう一度声を掛けると、遥の瞳がゆっくりと開いた。
「ジョウ、おばよう……」
死んだ魚の様な目で俺に挨拶をして、のろのろと起き上がろうとした遥だったが、
「ゐ!!」
とかよく解らん発音で叫ぶとぱたっと再び布団に倒れ伏した。
……「げうふっ」
なんだかヘンな音のゲップをして、
「あだまいだい……ぎぼぢわどぅい……うええん……」
目をバッテンにしながら呻き出す。
こりゃ、もしかして、宿酔いってヤツか?
俺はテーブルの上に置きっ放しにしてあるスコッチウイスキーの瓶を手に取ってみる。
中身は、もう四分の一も残っていない。
確か、このウイスキーは八分目位まで残ってた筈だから……
「おいおい、お前一体どんだけ飲んだんだ」
呆れながら遥に聞くと、
「う”〜……最初の二杯目位までは記憶があるんだけど……うぷっ!」
あ、ヤバい!
俺は台所から急いでボールを出し、俯いた遥の顔の下へ置く!
「うえええええええ……」
ケロケロと酒臭いゲロを吐き出した遥の背をこしこしと摩る。
上半身裸の遥の背中は、スベスベな感触で思わずヘンな気分になっちまう……けれど、
「おえええええええ……」
涙と鼻水とゲロを吐きながら苦しそうにぜえぜえと息をするのを見ていると
そんな気分は一気に吹き飛び、可哀想なのと可笑しいのが混ざり合い、ついクスクスと笑い出してしまった。
「あによお……バカにしてるんでしょ……」
とりあえず吐き気が治まったのか、ごろんと仰向けになりながら恨めしそうな顔を俺に向けてくる遥。
横になっても形が余り崩れない見事な乳房がぷるるん、と震えるのに目を奪われながら
「ほら、薬だ。あと、口の中濯げよ」
救急箱から出した胃散に水差しとコップを持ってきて差し出すと、
「……ありがと」
と言いながらそうっと起き上がって口を濯ぎ、胃散をコクンと飲んで再び仰向けに転がる。
「う”〜ん”……あたし、もう二度とお酒なんて飲まない……」
俺は思わず吹き出しながらボールを片付け、洗面器に新聞紙を敷いて持って来た。
「遥、今度気持ち悪くなったらコレに吐けよ。
あと、今日は学校無理だろ。俺も休んで看病してやるから」
苦笑混じりに言った俺の言葉を聞いてガバっと跳ね起き、
「ゐゐ!!」
と再び意味不明な発音で叫んでぽて、と倒れる遥。
「何やってんだよ」
ぬおおお、とか言って唸りながら涙をダーっと流している遥に呆れた様に言うと、
「ダメだよ、こんな事で学校休んじゃ……あたしも大丈夫だから、支度しよ」
と明らかに無理をしている様子で俺を睨む。
「あのな、お前、そんな状態で学校に行った方がマズイだろうに。
未成年者の飲酒は、法律で禁止されているんだぞ?」
「ぐむむむむ」
頭を抱えて唸る遥の胸がぷるぷると震えるのをガン見しながら俺は偉そうに言う。
「じゃあ、じゃあショウだけでも学校に行ってよ。
私のせいでショウが休むのなんてダメなんだから」
再びうぷ、と吐きそうになりながら必死で堪えている遥の横に寝転び、
「ほら、吐きたいのを我慢するより吐いちまった方が楽になるぞ。
とにかく、今日は俺も休んでお前と一緒に居るから。
って言うか、俺がお前と一緒に居たいんだ。良いだろ?」
「え!……もう、バカ……」
驚いたように俺の顔を見てから、かあ、と頬を染めて照れる遥が可愛くて思わず抱き締めてしまう。
「ちょ!ショウ!ダメだってばげえええええええ」
俺の腕に抱き締められたまま、俺の最愛の少女は俺の胸に向かって爽快にゲロを吐き出した。
濡れタオルで後片付けをした後に学校に電話をして、職員室に廻してもらう。
「はい、職員室です」
ラッキー!由香里先生だ!
「もしもし、ショウです。おはようございます」
「おー、ショウか!どうした?」
「はい、実は……」
俺は、とりあえず俺と遥の二人とも風邪をひいた事にして、
俺の担任の浅井先生にも由香里先生からその旨伝えて貰える様にお願いした。
「ああ、それは構わないが……なんでキミが遥の病欠について代理で報せてくるんだ?」
「ゐ!」
由香里先生の鋭い突っ込みに絶句してしまう俺。
「遥はそこに居るのか?居るなら代わってくれないか?」
バッと振り向くと、遥はう〜んう〜んと唸りながらもうつらうつらと眠り掛かっている。
今起こすのは可哀想だな……
「すみません、遥は熱が酷くて、ようやく眠った所なんです」
「ほほう、そこはキミの部屋だな?と言う事は、遥はそこに泊まった、と」
ぎくうっ!!
センセイ、鋭すぎます。
「あ、別に私が鋭いんじゃなくて、キミが考え無しなだけだ。
普通に状況分析すれば、導かれる解答だと思わないか?」
くっくっくと声を押し殺しながら笑う由香里先生に、
「ハイ、オッシャルトオリデスネ」
完全ぼー読みで機械的に返答するしかない俺……
「まあ、良い。今回だけだぞ?」
ふう、と溜息を着き、苦笑しつつ言ってくれた電話の向こうの由香里先生に
「はいっ!ありがとうございます!!」
俺は思わず正座してから、バッと土下座してしまった。
「けぷ」
電話を切るのと同時に遥が可愛らしいゲップをする。
「全く、この娘は……」
俺は苦笑しながら遥の横に寝転び、赤く染まったぷにゅっとした
気持ちの良い触感のほっぺにちゅっと軽くキスをした。