愛妻弁当!?
それにしても、次から次へと面倒な事が起きやがるぜ…
午後の授業が始まり、俺は頭を抱えながら考えた。
必死で食下がる涼をなだめすかし、今度時間を作って説明するから、と帰した後教室に戻ると、
そこには鬼の様な表情をした男共が待ち構えていた…
「おい、ショウ。おまえ最近怪しいぞ。
芳野さんと別れた後の若宮と妙に良い雰囲気出してるし、
南もしょっちゅうお前の所に来るし、一年の西村亜里沙と仲良く話してる所も目撃されてるし」
佐藤が俺を睨んでいるヤローども全員の疑問を代表したかの様に尋ねて来る。
「な、何言ってんだバカバカしい!
だーかーらー、遥と俺は昔から仲良いし、
亜由美とは文化祭企画委員で一緒になったし、
亜里…西村は入学当初パンクしてたのを助けてから慕われているだけだって!
何度も何度も言わせんなよ!!」
「ああ、何度も聞いてるんだが、どうも最近それだけじゃ無いんじゃないかって
意見で俺たちは一致してるんだ」
お前らは彼女無し共同組合でも作ってんのかよ!
「知るかっ!とにかく俺は飯を食うんだ。邪魔すんなよ」
ヤロー共を掻き分け、自分の席に着く。
「ったく…」
やっと愛妻弁当(?)にありつけるぜ…
カパッとふたを開く俺。
「はうっ!?」
ガパッとふたを閉じる俺。
「…何やってんだお前?虫でも入ってたのか?」
俺の様子を見ていた佐藤が不審そうに言う。
「い、いいや!なんでもない!!
今日は天気が良いから、屋上で飯食おうかと思い付いてさ!!」
HAHAHA、と笑いながら答え、立ち上がる俺。
キーンコーンカーンコーン…
「あ、予鈴だ。あと五分で授業だぞ、ショウ。
教室で食っちまえよ」
マジかよ…
「うーん、まあそんなに腹減ってないから今日は昼飯抜くかな!」
ぐぎゅるるるる…
こんな時に限って腹の虫が大声で鳴きやがる…
「なんか、怪しいな…お前、その弁当まさか女に作ってもらってんじゃねぇだろうな?
んで、アイラブショウ、とか書いて有るんじゃ…?」
ぎくっ!余計なカンだけ冴えてんじゃねぇぞ鈴木ぃっ!!
「あ、ああ!これは遥のお母さんが俺に作ってくれたんだから、
そういう意味では女に作ってもらったといえるな!
お前らだって、母ちゃんに作ってもらってんだろ?」
引き攣った笑いを浮かべながら必死で繕う。
もし見せろ、とか言われたらこいつら全員を倒してでも阻止しなきゃならんか…
まさかそこまでは言わんだろうが。
「よ〜し、じゃあその弁当見せてもらっても問題無いな。
若宮のお母さんの弁当、見てみたいよな〜みんな!」
おう!と唱和するハイエナども。
言いやがった!?!
ちきしょう、コイツらのバカさ加減を計算に入れてなかったぜ!
クラスマッチの時はてんでバラバラで勝手な事やってる癖に、
なんでこんな時だけそんなチームワーク発揮しやがるんだ・・・
「ちょっと、男子!いい加減にしなさいよ!
ショウくんが可哀想じゃないの!!」
その時、和泉から救いの声が掛かった。
和泉は美術部所属で亜里沙の先輩。次期美術部主将だ。
「…文系は主将じゃなくて部長って言うの!
って、ショウくん、なに独り言ブツブツ言ってんの?」
しーんと静まったヤロー共を牽制しながら和泉が俺に言う。
「あ、ああ、イヤ別に。
それより、サンキューな、和泉」
「気にしないで。ショウくんには前悪いことしちゃったから」
そう、亜里沙が俺に告白して来た時、和泉とその他数人は
告白を断った俺に詰め寄ったことがある。
俺の家庭事情などを交えた反論で引き下がってくれたのだが…
どっちかって言うと、借りてるのは俺なんだがな。
キーンコーンカーンコーン
「あ」
鳴り出したベルに思わず声を上げる俺と和泉とハイエナ共。
ガラっ!
「さあ、授業始めるぞ〜!着席しろよ〜!」
…せっかく遥が作ってくれた弁当を食う暇も無く、
俺は腹ペコで午後の授業に臨むハメになっちまった…
キーンコーンカーンコーン…
「お、今日はここまでだな。週番、終わりにするぞ」
「起立!礼!」
俺は終業のベルが鳴り、授業が終った瞬間にドアから飛び出す。
「あ!ショウが逃げた!」
「待て!」
ハイエナ共が俺の後を追って走り出る。
「腹ペコだってのに…勘弁してくれよ!」
カバンの中には弁当だけが入っている。
これだけ揺らせば多分崩れているだろうが、油断は大敵だ。
「待て〜!!」「見せろ!食わせろ!!」
「痛くしないから!すぐに気持ち良くなるから!!」
…なに言ってんだあのアホ共は?
階段を一気に踊り場まで飛び降り、向きを変えて更に飛び降りる!
「きゃ!な、何なのだ!?」
意外に可愛らしい声に顔を上げると、そこには由香里先生が驚きの表情で立っていた。
「先生!これ預かって下さい!」
俺はカバンからさっと出した弁当を由香里先生に押し付ける。
「ん!?何だ?」
突然の事に戸惑う由香里先生に
「後で職員室へ取りに行きますから!!」
とだけ言って再び走り出す。
「あ、ああ…?」
呆気に取られる由香里先生を後にして俺は猛烈ダッシュを再開し、ハイエナ共をブッチ切った。
「失礼します…」
お腹と背中がくっ付きかねないほど腹を減らした俺が職員室に入ると、
「ショウ!こっちだこっちだ!」
と満面の笑みを浮かべた由香里先生が手を振っている。
「キミは昼飯食べ損なったんだろ?
ここでゆっくり食べてきなよ」
職員室の端に有る応接セットに腰掛けた由香里先生と、
その隣に座る俺の担任の浅井先生がニヤニヤしている。
…なんだか嫌な予感がジワジワと背筋を這い上がってきやがった…
「い、いえ、家帰ってから食べますから!」
必死で答える俺を見て、由香里先生がぷっと吹き出す。
「そうか…まあ、「浮気はダメなんだからね!バカショウ」だったか?」
ぶほっ!!
由香里先生の台詞に思わず噴出す俺。
「えー、なんだっけ…ああ、そうそう、「今夜、いっぱいチューしてくれなきゃ
許さないんだから!!」でしたね、由香里先生」
浅井先生も面白そうに調子を合わせる。
そう、遥の弁当にはひじきとしそでハートマークとそんな台詞が書かれていた…
くくく、と押し殺した笑い声をだしながら由香里先生が
「まあ、仲良き事は美しき哉、だ。
あまり毎晩だと体に悪いぞ?いや、若いから大丈夫か」
「しっ失礼します!!」
俺はバッと弁当箱を取り、二人の先生の笑い声を背中にダッシュで職員室から飛び出た。
くそ〜、顔から火が出るかと思ったぜ!
今日は委員会も無いから、さっさと帰って弁当食べるかな。
俺は自転車にカバンをくくり付け、帰路を急いだ。