家族団欒?
「美味い!」
遥の作った肉じゃがの美味さに思わず声を上げる。
「ホント!えへへ」
嬉しそうに照れ笑いする遥。
「ああ、本当に美味いよ、遥。
こんなに美味い肉じゃが、初めてだよ」
俺はお世辞じゃなく心からもう一度褒める。
「やん、もう!」
遥が赤くなった頬を両手で押さえ、ぶんぶか頭を振る。
「バカみたい…」
沙里がぼそっと呟く。
コン
「痛っ!何するのぉ!?」
おばさんに軽く拳固で叩かれた沙里が口を尖らす。
「お姉ちゃんに何てこと言うの。謝りなさい!」
「…ごめんなさい…」
涙ぐみながら沙里が謝る。
「ふふ、良いのよ〜ん。今日のあたしは気分最高なんだから!」
にぱっとアヒル口を晒しながら遥が沙里の頭を撫で撫でする。
「…う〜〜〜」
沙里は何とも言えない顔で箸を握り締めて唸った。
「なあ、ショウ。お前のバイト、平日は夜七時までだよな」
おじさんが俺に聞いてくる。
「ええ、忙しいとき以外は基本的に五時から七時です」
俺が答えると、
「お前たちがこの家に帰って来たのは八時ちょい過ぎだったよな。
それまで何やってたんだ?」
「え…」「!」
一瞬、絶句する俺と真っ赤になって俯く遥。
「お?なんだなんだ?もしかしてショウの部屋であああー!母さんそのビールまだ残ってるぅ!!」
飲み掛けのビール瓶をおばさんにすいっと取り上げられて悲鳴を上げるおじさん。
「…あなた、その内娘達に総スカン喰らうわよ?」
おばさんにギン!と睨まれておじさんが涙目で謝る。
「ごめんなさいもうしません…」
すっとビールをおじさんに返す。
「もう、しょうがないなあ…はいパパ、お酌してあげる」
遥が優しく言いながらおじさんにお酌する。
「おお、遥。お前は一生パパのものだぞ〜」
嬉し涙に暮れながら言うおじさん。
「それはイヤ。あたしはもうショウのものだモン!」
悔し涙に暮れ、ビールを一気飲みするおじさん。
「くううっ!こんなに早く娘を取られる気分を味わなきゃ行けないとはっ!!
母さん、ビールお代わり!!」
「ダメです」
ピシャリと拒否され泣き濡れる。
「あなた、それに取られるワケじゃ有りませんよ。
元々ショウくんはウチの家族なんだから、同じことですよ」
ぐっ…
俺は胸に暖かい塊が詰まるのを感じた。
ヤバイ!
そして、さっと俯いた。
込み上げてきた、嬉し涙を隠す為に…
「あ!ショウ兄ちゃんが泣いてるぅ!」
俺の顔を覗き込んだカナが大声を上げる。
「ち、違うぞカナ!これはジャガイモが胸につかえて苦しかっただけだ!」
思いっ切り墓穴を掘っちまう。
顔を上げると、おばさん、おじさん、カナサリ、
そして遥が微笑みながら俺を見詰めていた。
「…ありがとうございます」
俺はバッと立ち上がり、深く頭を下げた。
「何いってるのよ!」
遥が俺の背中をバン!と叩く。
微笑みながら、おじさんが俺に語り掛けてきた。
「ショウ、お前はとっくに家族の一員なんだ。
まあ、その、なんだ、少し気が早いが、遥をよろしくな。
ああ、でも赤ちゃんはまだ早いから避に痛いよ痛いよ母さん痛いよ!!」
おじさんがまたしても耳をぎゅうっと抓られて悲鳴を上げる。
学習しろよ、おっさん…
「ダメ!そんなの許さないんだから!!」
沙里が立ち上がりながら大声を上げる。
「ショウ兄ちゃんのお嫁さんになるのは私だもん!
ハル姉になんて、絶対渡さないんだからぁ!!」
半泣きになって俺に抱きつく沙里。
俺は沙里を抱き上げて、頭を撫でてあげる。
「沙里、ありがとう。とっても嬉しいよ。
でも、ごめん。俺は遥をお嫁さんにするって決めたんだ。
だから、沙里をお嫁さんにもらう事は出来ないんだ」
沙里がショックの余りか愕然とした表情で俺を見詰める。
「ショウ!そんな事…」
遥が青くなりながら叫ぶ。
「ごめんね、沙里。俺を嫌いになるならなっても良い。
だけど、遥の事は嫌いにならないでくれ。
だって、お前たちはあんなに仲の良い姉妹だったじゃないか!
俺の為に沙里と遥が仲悪くなるなら、俺はもうこの家には来れないよ」
「ショウ!!今そんな事言わなくても…」
遥が悲鳴に近い声を上げる。
「いいえ、遥。今だからこそ、ショウくんに言ってもらった方が良いわ」
おばさんが俺たちを見詰めながらピシッと言い放つ。
「そんな…そんなのやだ!ショウ兄ちゃんは私が幸せにしてあげるんだもん!
やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだーーーーー!!!」
バタバタと暴れて俺の手から飛び降りる沙里。
「バカ!みんなのバカぁっ!!」
ダッと駆け出す沙里。
「あ!沙里、待ってくれ!」
追おうとする俺をおじさんが止める。
「待て、ショウ。今は放って置いたほうが良い」
その時、すいっと香奈が立ち上がる。
「ご飯、また後で続き食べるから」
にっこりと笑いながらリビングを出て行く。
「香奈、お願いね」
おばさんが微笑みながら香奈に声を掛ける。
「まっかしといて!ふぉろーしてくるからね!」
天使の微笑を残し、香奈は二階へと上がって行った。