交流委員?
カラ…
会議室のドアをそーっと開け、忍び足で入室する。
「コラっ!遅いぞ、少年!」
どわあっ!!
遥や亜由美の担任、岡田由香里先生の色っぽい声が部屋中に響く。
室中の視線が俺に集中する。
「…遅れてすみません」
ふと見ると、窓際に腰掛けた由香里先生がニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「えー、あなたは何組の委員かしら?」
壇上に立っていた女生徒が俺に声を掛けて来る。
「あ、ショウくんはE組よ」
と、こちらを向いて座っていた亜由美が女生徒に言う。
って、亜由美、やっぱなんか役やらされてるのか…
まあ、昔からそうだよな、お前は。
「ショウくん、適当に空いている席に座って。
私は文化祭企画委員会副委員長の二年D組の橘です。
今日は委員長の草薙くんがお休みだから代理で議長を務めています」
簡単に自己紹介等をする橘。
「それでは、続けます。現在の議題は、委員の役割分担についてです」
亜由美が俺を見てウインクしてくる。
ノートに鉛筆を走らせている所を見ると、どうやら書記の様だ。
俺は亜由美に微笑みを返すと、空いている席に座った。
「さて、役割分担は以上になります。
ショウくんも黒板に有る自分の役を確認して見て。
何か意見のある人は挙手してください」
黒板には各委員の役割分担表が書かれている。
え、と、俺の名前は、と…
姉妹校交流委員?なんだそりゃ?
「議長、その姉妹校交流委員会ってなんだい?」
俺の質問に橘が答える。
「ええ、これはウチの姉妹校である西園学園高校の文化祭企画委員会と
連絡を取ったり相談したりして、合同イベントやお互いの文化祭にする出張展示等の
打ち合わせをする係りよ。ショウくんと岬さんにやってもらうから」
「ハァ!?そんな、なんで俺が!?」
俺は抗議の声を上げる。
と、室中の男子生徒が騒ぎ出した。
「議長!本人が嫌がっているんだからやっぱ俺がやります!」
「何言ってんだ!ここはショウの代わりに俺が!」
「いや、中学でショウと同級だった俺がやる!」
「ショウの親友の俺が泣く泣く代わるぜ!」
目を血走らせて大騒ぎしている男共。
女子はイヤそうな目で男子を睨んでいる。
…なんなんだ、こいつら…?
「シャラップ!!」
由香里先生の怒声にしーんと静まりかえるヤローども。
由香里先生がやれやれ、といった風に溜息をついた後、俺に向かって話し出した。
「ショウ、今の騒ぎを聞いただろう?
こいつ等に任せたら、文化祭どころか合コン企画委員会に成りかねない。
さっきもこの騒ぎになって、結局私と議長の権限でキミに決めたんだ。
その点、キミなら西園の女子にも手を出す心配が無いからな」
意味有り気な視線を俺に送りながらウインクする先生。
「そうよ!硬派なショウくんならあんたたちみたいにイヤらしい考えを起こさないよね!」
「そうそう、苦学生のショウくんなら、ナンパなんかしてる暇無いし!」
…ほっとけ。
「と、言う訳で、交流委員にはショウくんと岬さんにお願いします」
議長の宣言に男共はブーイング、女子からは拍手が起こる。
「頼むぞ、ショウ、岬」
「…はい…」
由香里先生に言われ、渋々承知する俺。
「はい、解りました。よろしくね、ショウくん」
俺の斜め前に座っていた見覚えの無い女子がこちらを振り向きながら微笑む。
「あ、ああ。こちらこそよろしくな」
俺は岬が差し出した手を握り、握手した。
「議長!次の議題に入りましょう」
突然、亜由美の声が響く。
ふと見ると、なんだかちょっぴりぶすくれている様だ。
「あ、はい。じゃあ次の議題は、正門に設置するモニュメントについて…」
俺は橘の声を聞き流しながら、ちょっと面倒な事になっちまったと頭を痛めた。
「では、本日の企画委員会を終了します。岡田先生、何かありますか?」
由香里先生に聞く橘。
「うん、これと言って無いが、各自しっかりと受け持った役と業務を遂行してくれ。
後、何か質問や相談が有るなら遠慮せずに委員長や私に言ってきてくれ。
何かトラブりそうになったら、可及的速やかに報告する様に。以上!」
「それでは、次の会議は明後日の放課後に行います。起立!礼!」
ガタガタと席を立ち、帰りだす生徒。
「ショウくん、帰りましょ」
亜由美に声を掛けられ、
「ああ、帰ろうか」と答えたと同時に
「あ、ショウ、キミはちょっと残ってくれ」
と由香里先生に呼び止められた。
「私、待ってても良いですか?」
と聞く亜由美に
「スマンが、ショウと二人で話があるんだ。
誘惑するわけじゃないから心配するな」
とウインクする由香里先生。
「…はい、じゃあ駐輪場で待ってるね!」
と微笑み、亜由美は部屋を出て行った。
俺は由香里先生の近くに行き、椅子に腰かける。
「さて、キミを残したのは他でもない…」
由香里先生は意味有りげな表情で話し出した。