激写!?
唇をそっと離すと、
「ああん…もうおしまいなのぉ?」
と上目遣いに俺を見詰めながら甘えた声を出す。
「続きは後でな」
俺は遥のスベスベなほっぺに軽くキスして、軽い体を抱きながら立ち上がった。
「きゃう!」
可愛く悲鳴を上げ、俺に掻きつく遥。
その姿が愛らしく、俺は溜まらずにもう一度遥のアヒル口にキスをした。
パシャッ!
瞬間、眩い光が俺達を刺す!
「なんだぁっ!?」
「きゃあっ!?」
驚きながら発光源を探して辺りを見回すと、一番奥の書架から
メガネを掛け、一眼レフカメラを持った女生徒が姿を現した。
「あなたは!」
遥が叫ぶ。
メガネの女生徒がニヤリ、と笑う。
「うふふ、調べ物してたらとんでもないスクープ写真が手に入っちゃった」
悪っぽい微笑を浮かべながらメガネが呟く。
「…!最悪!なんで…」
俺の腕の中で遥が唇を噛む。
遥をそっと降ろし、俺は女生徒につかつかと歩み寄る。
「な、なによ…!何をする積り!?」
女生徒が鼻白む。
俺は女生徒をじっと見詰めながらハッキリと言った。
「あんた誰だっけ?」
一瞬空気が固まり、時間が止まる。
今だっ!!
パシッ!
俺は女生徒の手から一眼レフをひったくった。
「ああっ!!」
女生徒が一瞬戸惑った後に声を上げるが、俺は既に女生徒から離れている。
「ナイス、ショウ!」
遥が指を鳴らしながら歓声を上げた。
「ああっ!!ドロボー!!」
女生徒が叫ぶが、俺は黙ってフィルムを巻き戻してカメラから取り出す。
「何言ってんだ。断りなく人を写すってのは、肖像権の侵害って言う犯罪になるんだぜ」
俺は、新聞配達のバイトが切っ掛けで知り合った新聞社の記者さんから聞いた知識を披露した。
「へえ〜!」
遥が感心した様に嘆息する。
「…っ!でも、私のカメラを取り上げたのだって泥棒じゃない!」
女生徒が悔し紛れに叫ぶ。
俺は女生徒に近寄り、フィルムを抜いたカメラを手渡した。
「カメラは返したぜ。後、フィルムはネガプリントだけして、
俺達の写った所だけ切り取ってから返すよ。
プリント代金は、まあサービスしとくさ」
ふるふると悔しそうに震える女生徒。
「…だけど、私があなた達のキスシーンを見たのを記事にすれば同じ事よ!」
…記事?
「記事って、なんの事だ?」
メガネと遥がピシ、と固まる。
「…もしかしてショウ、ホントにこの娘の事知らないの?」
遥が呆れた様な声を出す。
「知るかよ。他のクラスの女の事なんか」
がくう、と遥が突っ伏す。
うん、相変らずのリアクション大魔王っぷりだなぁ…
「あんたって、時々大ボケかますわよね…」
すっくと立ち上がり、ポンポンと俺の肩を叩く。
「いい、ショウ?この人は二年C組の川崎明美さんって言って
新聞部所属のスクープ記者なの。
彼女に秘密を暴かれたりスクープされて、大変な目に遭った生徒がたくさん居るの!」
遥が吐き捨てるように説明する。
珍しいな、遥がこんな言い方するなんて…
「ふふ、そうね。若宮さんにはお世話になってるわ。
例えば、芳野先輩とのスクープとかで…」
ピクッと反応する遥。
俺の腕を掴み、カタカタと小刻みに震え出す。
俺は遥ををぎゅっと抱き締めて
「気にするなよ」と耳打ちし、すっと遥から離れて川崎に近づく。
「な、何よ…」
俺の怒気に気圧されて後退る川崎を壁まで追い詰める。
「なあ、俺の一番大切な遥を悲しませたりしたら、そのお礼は丁重にさせてもらうからな」
極上の微笑を浮かべながら川崎に優しく言う。
「ショウ…」遥が呟く。
「な、何よ!脅迫する積り!?」
川崎が悲鳴に近い声を上げる。
「俺はただ、俺の平穏な日々を壊されたくないだけだ。
お前だって自分の大切な人や日常を壊されたくは無いだろ?
それを解って欲しいだけさ。
心配しなくても暴力なんて振るわないさ。
死んだ親父から、女の子に暴力を振るう奴は男じゃないって言われたからな」
俺はそれだけ言うと、壁際から離れた。
川崎がずるすると壁に背中を付けたままへたり込む。
「頼むぜ、川崎。俺達をそっとしといてくれ」
俺は遥の背中に手を置き、
「さ、行こうぜ。部活遅れてるだろ」
と声を掛ける。
「うん!ショウ、大好き…」
遥が涙を浮かべながら俺を見上げる。
すげぇキスしたいが、ぐっと我慢する。
「じゃあな、川崎」
俺は司書室の鍵を開け、遥を促して廊下へと出た。
「それじゃあ、遥。俺は帰ってるから」
遥が潤んだ瞳で俺を見詰めている。
「うん…今日はショウの部屋に行くからね。ご飯、持ってく」
「ああ、待ってるよ」
遥は名残惜しそうにしていたが、ぶんぶんと手を振りながら駆け出していった。
さて、帰るか…っと、待てよ?何か忘れている様な…?
ああっ!やべぇ!企画委員会忘れてたぁっ!!
俺は慌てて会議室へとダッシュした。