天誅?
「ね〜え、ショウ。ちょっと話が有るんだけどぉ〜?
あ、あんた達、先に道場行っててね」
俺には般若の表情で、後輩たちには菩薩の表情で言う遥。
けっこう器用に使い分けやがる…
「は〜い」
女の子二人はハモったが男子生徒は黙って俯いている。
「涼クン、行こ」
女の子が声を掛けても、男子生徒は下を向いたままだ。
「…どうしたの、涼クン?」
遥が不審気に声を掛けると、涼という男子生徒がパッと顔を上げた。
…なんだ、なんで俺にガン付けてんだ、この涼?
「ショウ先輩!先輩は西村さんとお付き合いしてるんですか!?」
突然大声を出す涼に驚く俺たち。
「!涼クン、もしかして…?」
遥がピン!と来た様な顔で呟く。
「「もしかして!?」」
女の子二人がハモる。
「あ…!あの、その!」
あからさまに焦る涼。
ん?なんでそんなに焦るんだ?
「もしかして、涼クン!好きなんでしょ!!」
遥が、犯人を追い詰めた名探偵の様に叫ぶ。
大きな瞳をぱあっと見開き小鼻をぷくっと膨らませ、
アヒル口をぷにゅっと突き出して得意の絶頂って感じだ。
「あ…あ…いえ、その…」
キョトオドキョトオドと小動物の様にキョドる涼。
!そうか、彼は!
「好きなんでしょ!ショウの事が!!」
得意満面で叫ぶ遥。
「…ハァ…?」
呆然と呟く涼。
「「「アホかーーーーー!!」」」
俺と女の子二人のツッコミがハモった。
「冗談よ。亜里沙ちゃんの事が好きなんでしょ?涼クン」
しれっと言う遥に、俺たちはがくぅ、と突っ伏してしまう。
「あ…あのその!それはその…」
顔を真っ赤にして慌てまくる涼。
ううむ、図星なのか…
「そっか、涼クンは亜里沙ちゃんにラヴ♪してるのねぇ。
ううん、青春だなあ…」
どっかのオバハンか、遥は。
「きゃーーー!マジィーーー!?」
「えーー!?そんなぁ〜!」
悲鳴を上げる女の子二名。
「私達のマスコットが、あんなブリッ子に心奪われるなんてぇ!」
ん?…なんだと?この娘…
「そうよ!あんな田舎者の事好きだなんて!
嘘だって言ってよ涼クン!」
カチーーーン!!
「おい、お前ら!なんだその言いぐ」
「あんた達!何てこと言うの!
あたしはそんな事言うような子に育てた覚えはないわよ!!」
俺の言葉を遮って、遙が女の子を怒鳴った。
「…ごめんなさい」
ショボンとなり、謝る二人。
「いい?例えどんなにムカついても、相手の居ない所で好き勝手言うなんて
絶対ダメなんだから!相手を目の前にして、それでも今のセリフを言えるの?
亜里沙ちゃんがブリッ子じゃない事位、解ってる筈よ」
…う〜ん、カッコ良いね遥ちゃん。
後でイイコイイコしてあげよう。
「はい、すみませんでした先輩…」
「解れば良いの。さ、先に行ってなさい。
後、今の事は皆には内緒にしてね。涼クンの為にも」
「は〜い!」
「涼クンも一緒に道場に行ってなさい。
後で相談には乗ってあげるから」
優しく言う遥に、涼も頷く。
「…はい、解りました。ありがとうございます」
涼は遥と俺にペコリ、と一礼して女の子達と一緒に道場へと去って行った。
「うん、青春だねぇ…」
しみじみと言う俺。
むぎゅ
「痛ぇ!何すんだよ遥!」
いきなり耳を摘まれて悲鳴を上げる。
「うっさい!ちょっとこっち来なさいよ!!」
ありゃ、また鬼の様な表情に戻っちまってるよ…
遥に耳を引っ張られ、手近な第三図書館の司書室に引っ張り込まれた。
ウチの学校には図書館が三つあり、第三図書館は専門書がメインで
普段は使う人もあまり無く、司書室にも常駐している司書は居ない。
ピシャっとドアを閉め、鍵を掛ける。
「お、おい遥…?」
タタタと駆け出し、図書室との間のドアをガラッと開け、図書室に誰も居ない事を確認して
ドアを閉め、さらに鍵を掛ける。そして俺を見て、ニターリと微笑んだ。
…こ、怖ぇよ…
「ぬっふっふっふ〜…ここなら邪魔は入んないわねぇ…
ショ〜ウ、あんた何でこんな時間にまだ校内に居るのかしらぁ?」
ぬふふふ、と不気味な笑い声を立てつつじりじりと近付いて来る。
なんでそんな前屈みで、試合開始寸前のアマレスの選手みたいな体勢になってんだよ…
「はぁ?な、何のことだ?」
俺は遥の妙な気合に押されて、じりじりと後退りながら答える。
「しらばっくれんじゃないわよ。これから亜由美か亜里沙ちゃんと会う積もりなんでしょ!!」
…ああ、そう言えば遥は俺が文化祭企画委員にされた事をまだ知らないんだったな。
「あのな、実は俺は…」
「問答無用!天ちゅう!」
遥が叫び様にバッと飛び掛って来た。
「のわわっ!!」
運動神経バツグンの遥に前フリ無く飛び掛られた俺は、
遥を抱き止めながら後ろに倒れこんでしまう。
「むふふふ、天ちゅ〜う…」
目の前に遥の大きな瞳がキラキラと輝いている。
遥はふっと瞳を閉じて唇を重ねて来た。
「んむ…んん…」
少し喘ぎながら俺の首に手を廻し、むぎゅっとくっつく。
キーンコーンカーンコーン…
鳴り出したチャイムが終わるまで、俺達は唇を重ねたままだった。
チャイムが鳴り終わり、ふうっと唇を離す遥。
柔らかな頬は紅く上気し、大きな瞳は少し濡れている。
…可愛いな、やっぱ…
「んふ、天チュウ♪」
愛らしいアヒル口を晒しながら、遥がむきゅっと抱き付く。
「これから企画委員会なんでしょ?知ってるモン」
…知ってんならヘンな絡み方すんなよ…
俺の呟きにアヒル口を尖らせる遥。
「だってぇ、ウチのクラスの委員は亜由美だもん!
ショウと亜由美がイチャ付きそうでムカついたのっ!」
はいはい、解りました。
「…亜由美とあんまりイチャ付いたらホントに怒るからね?」
ヘーヘー、解りました。
「なんか、心が篭ってなむうっ!」
俺は更に尖ったアヒル口に突然キスをした。
「む…んん…」
遥は少し驚いたが、幸せそうに瞳を閉じてむぎゅっと俺に抱き付いてきた。






