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東方兄妹記  作者: 面無し
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裁決と忠告

 昼間であるのにどこか薄暗さを周囲に感じながら見上げる月の城、それは石造りであるのにどこか薄く光っているように見えた。

 俺達が見送ってから長く経つ。月での技術は俺が知っているより進化しているだろう。時間を圧縮し、数十億の年月を数千万年にまで押し込める術を持つ彼らなのだから。

 目前の城の主がいつこの地上に来たのかは知らない。しかし、月に行ってからこちらに来たことは確定している。研究のこともあるし、いざとなれば周囲を浄土にすることもいとわないだろう。

 周囲の町並みに人気はない。調べた結果、ここに城が建築されてからしばらくして、城下町から次第に人がいなくなったらしい。面倒な引っ越しを、なんとなく違和感があるなんて曖昧理由で。

 だが、なんとなくで引っ越したくなる気持ちもわかる気がする。月の城を眺めながら俺はそう思った。この城はあらゆる生きているものを遠ざけるような静寂を纏っている、こんなものの側にいれば自分が周囲の中で異物である感覚が抜けきらず、ストレスが溜まるだろう。多分住人は無意識にそれに気づいて離れていったんだろう。

 城の門へ手を掛ける。瞬間、押し返されるような圧力に襲われた。此処から先、お前には進む資格が無いとでも言われているような気分だ。だが、そんな圧力は


「俺には関係ない」


 俺はそのまま門を押す。圧力が強くなろうが関係ない、今回の件を潰すと決めたからには無理矢理にでも潰れてもらう。

 門を開いて、扉を開いて城の中へ入った。そんな俺の目前には出るわ出るわ無数の無機質な人型が。

 侵入者を排除するためのロボットであろう彼らは、目の役割をしているであろう赤い光を灯しすセンサーを俺に向け、向かってくる。

 そんなロボを見ながら俺は気を落としながら呟いた。


「意外と弱そうだなぁ」


    ****



 私の用意した無機質の兵隊は、侵入者に飛びかかろうとした瞬間にその全てが砕けた。そして、それに合わせるように、敷地内に設置した術式、兵器、罠、その他もろもろ全てが破壊されていた。

 侵入者は一瞬にして城の内部の兵器を殲滅したのだ。それも、全くのノーモーションで。

 私は戦慄した。あんな人間がこの地上にいるなんて思いもしなかった。あれでははるか昔に都市にいて、隕石で死んだっていう用心棒みたいじゃないか。

 

「嘘だ、なんであんなのが……」


 私は急いで引き上げ準備を始めた。勝てるわけがないと予想がついていた。

 私の寿命からすれば一瞬の出来事とはいえ、数十年かけた計画だったのに台無しになってしまった。月を攻め落とす準備が整うまでもう少しだったというのに。

 転移の術式を起動させる。移転先はもう用意してある、王城のち家のあれを回収しに後はこれに乗るだけだ。

 私は踏み出す。足が術の陣に乗ろうとした瞬間。


「させませんよ」


 背後からの氷のような声とともに、足元の光が砕け散った。

 ドクリと心臓が跳ねた。慌てて声を確認しようとし、その場に固まった。

 振り向けない、後ろの存在が発する気配が剣のように私を貫いていたから。

 強烈で圧倒的な存在感に、汗が吹き出し血の気が引くのがわかった。

 振り向かなくてもそこに何がいるかだけは理解できる。私を貫き、そのまま城を覆うかのような怒気と殺意の塊が私の背後にいた。

 それが放つ感情がねっとりと私に絡みつきそのまま私の中を埋めていく。

 私は震えることも出来なかった。怖い、死にたくない、来ないでほしい、そんな感情は塗りつぶされてしまった。

 動くことも出来ず、私は悟った。『絶対』というものが私の背後にあると。




 私は目前にいる者に視線を向けた。自分の中にある全てをぶつけながら。

 ああ、目前にいるのが元凶か。この人があの子を作ったのか。そう考えればそう考えるほど、怒りと殺意、二つの感情が混ざったものが私の中から止めどなく溢れた。

 溢れたそれは血のようにドロドロとしていて、私はその環状のままに目前の人物へと近づいた。

 背後からその背に触れる。そのまま後ろから絡みつくようにその身を引き寄せた。

 引かれるままに倒れたその人の肩に顔を乗せ顔を確認すると、私が声をかけた時の驚いた表情のまま、その顔は白くなってしまっていた。

 わたしを怖がるそんな顔に私は話しかけた。


「そんなに怯えてどうしたんですか? そんなすぐに痛いことなんてしませんよ」


 答えはなかった。

 そんなに怖がるなんて人間っぽい。そう思うとおかしくて、笑ってしまう。

 そんな面白さも考慮して、私は彼女をどうするか決めた。


「そうですね、聴覚と視覚を封印して、再生能力をつけ、ジャングルにでも放り出してあげましょう。いろんな動物に襲ってもらえると思いますよ。

 その後十五年後くらいにはですね、存在を気付かれないように細工して西暦二千年あたりの東京に放り出してあげましょう。車と人と電車なんかにぶつかってもらえますよ。

 その後は、そうですね……その後は、宇宙にでも放り出してあげましょう。今度は何も感じないというのはどういうことなのか、よくわかると思います」


 答えは返ってこない。

 あんな酷いことをした人がこうも怖がりだと予定が狂ってしまいますね。

 まぁいいです。抵抗される部分の予定が消えただけですし、後は予定を早めていっぱいぶっ殺しちゃいましょう。


「ゆっくりゆっくり、何度もぶっ殺してあげますね」


 私の手で声を上げる様子を想像して、わたしは少し微笑みながらその人に手を向けた。




    ****


「おーおー、切れて見境のない姫ちゃんは恐ろしいねぇ」


 すべての兵器が殲滅された城で、地下から溢れる姫ちゃんの気配を感じながら俺はあぐらをかいてお茶を飲んでいた。

 もともと処刑は姫ちゃんに任せるつもりだったけれど、今回は格別に酷いものになっている。よく似たことをされた奴は俺の記憶にも後一人くらいか。まぁそいつの処刑後の様子といえば……あっ思い出す前から吐き気してきた。こりゃダメだわ、やめとこ。

 聴覚を上げれば、今まさに地獄を旅行中の断末魔が聞こえるだろう。

 断末魔を聞きながらくつろぐ趣味はない、しばらくは姫ちゃんを待つことになるだろう。


「あっ、そういえば」


 気づいたことがある。この城の内部で感じたあの圧力、それは俺たち地上の人間が持つ穢れを反発する結界のものだったらしい。まぁ俺が無理やり入れたところを見ると、おそらくは人除けの意味が主だったんだろう。

 もう一つと言っては何だが、この城の敷地内は穢れがない、月と同じ環境ということだ。今回の黒幕が浄化したんだろうが、これなら黒幕は地上にいても月人の気の遠くなる寿命を維持できるわけだ。


「ずいぶん手のこんだことをしたもんだなぁ」


 そう呟きながら俺は城の敷地を他の地球の状態へと戻した。

 そして、ついでといっては何だが、永琳に一応今回の件を報告するために、永琳の真横に空間の窓をつなげ、その中へと頭を突っ込んだ。


「よう永琳」


「ずいぶん懐かしい窓ができたと思ったら、やっぱりあなただったのね」


 くつろぎ中だったらしい永琳は、カップを片手に持ちながら物珍しそうに俺を見た。


「いやなに、軽い報告があってね」


「報告? 三人目が出来たとかかしら?」


 大したことではないと手を振る俺に、永琳は茶化すようにそういった。

 確かにうちの子は三人になったが、姫ちゃんは今回妊娠してないぜ。

 俺は首を振りながら答えた。


「今回は別の話だ」


 俺の答えに、永琳はそう、と頷くとすぐに返してきた。


「じゃあ、地上に来た月人を叩いたから、みたいな感じかしら」

 

 ああ、やっぱり永琳は話が早くて助かる。


「そんなところだ。姫ちゃんが切れちゃってるし重要人物だったとしても返せないから」


「あら、そうだったの。返さなくてもいいわ、特に問題はないし」


 永琳は特に興味もなさそうに肩をすくめるとそういった。

 そうか、と一つ頷き、他に話すことはないかと考える。一つだけ、あった。


「永琳」


「何?」


 声が少し低くなった俺に、永琳の顔から先ほどまでのくつろぎ気分が消えた。


「月人は自分の故郷をずいぶんと下にしたんだな」


「……そうね。自分たちの故郷をくだらないものとするようになったわ」


 永琳は俺の言いたいことが解っているのだろう。その目の奥には少しの怯えが見えた。


「そうではないと思いたいが、お前もそうだったならわかるよな?」


「覚悟はするわ。バレたなら、私も神姫の逆鱗に触れることになる」


 どうなるかは想像したくないと永琳は顔を伏せた。

 彼女は賢者だ。俺の言いたいことはすぐに分かるだろう。

 だが、俺は念押しのためにあえてそれを口にした。


「お前もお前の回りにいる人間も、性質が違うだけで同じ人間だということを憶えておけよ。もしうっかりそれを伝え忘れたなら、そいつらの保証はせんぞ」


「わかったわ」


 顔を伏せたままの永琳を見ると、少し悪いことをしてしまったかと思わないでもないが、これは必要な忠告だ。月の民は今永琳がいるからという理由だけで俺に襲われていないのだから。

 それじゃあと永琳に手を振ると、永琳も手を振り返してくれた。

 顔を引っ込ませ、窓を閉じきる直前、小さく謝罪の声が聞こえたのは気のせいではなかったはずだ。

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