霊力(物理)
私の死角に入るように影が動く。
目で追い切れない朔ちゃんの四方八方からの攻撃を、私は霊力を纏うことで無理矢理に防いでいた。
でも、朔ちゃんもしばらくすればこの防御を破ってくるだろう。この防御は全身を終えるのが利点だけれど、複数回攻撃されると霊力が揺らいで霧散しやすくなってしまう。私より上手い人ならどれだけ攻撃されても大丈夫という人もいるかもしれないけど、私にはそこまで出来ない。
後何回耐えられるかわからない。霧散する前に反撃しなきゃ。でも、爆発以外に他に私の使える術に攻撃性能のいい術はない。というか、お父さんがお前ならいらんだろうと教えてくれなかったし。
なんでいらないのか検討がつかない。このままじゃ押し切られちゃう。
「もう終わり?」
朔ちゃんの声が聴こえる。否定したい。けれども私は返せなかった。
どうやって勝てばいいんだろう。お父さんなら、お母さんなら、私同じ制限の時ならどうやって目的を達成しつつ勝つだろう。
そんな悩む私に、時間はなくなってしまった。まとっていた霊力が、朔ちゃんの一撃で消えた。消えた瞬間の衝撃が消しきれず私は空中で少しよろめいた。
そんなよろめいた私の目の前に、朔ちゃんがいる。私を逃がさないようにと能力のおまけを付けてナイフを向けている。
そんな朔ちゃんの口が「防ぐから」と、そう動くのが見えた。
何を防ぐのだろう? 私の攻撃? でも、今攻撃しているのは朔ちゃんのはずだ。ナイフを目前にしながら私の頭は朔ちゃんの言葉に混乱した。
防ぐ……反撃を? でもこの状態でできることなんてさっきと同じ霊力放出くらいしか……と、そう考えた時、ふと、私の頭に爆発を霊力で防いだ朔ちゃんが見えた。
その時気づいた。私の攻撃を死なない程度に防ぐと、そういうこと? 私がおもいっきり吹き飛ばしても生き残れるくらいには防ぐということ? 確証はない、でも、このままであれば私のジリ貧確定だ。
私が決めるのは早かった。ただ、それでも、もしもの時のために爆発術ではなく霊力の放出にしておいたのが私がお父さんと違って甘いところだと思う。
「ああああああああああああああ!!!!」
迫るナイフと朔ちゃんに向けて、私はありったけ声とともに全開で霊力をぶつけていた。
放出された霊力は青い柱となって朔ちゃんに向かっていった。
私の視界はだんだんと柱の青に染まっていく。全てが青くなる直前に、朔ちゃんが笑って頷いたのを見た。
放出し終わった私の周りには、柱とその余波で砂ほどの大きさまで砕かれた瓦礫出できた砂場が出来上がっていた。
肩で息をしながら私は朔ちゃんを探す。そんな私をおでこから垂れた血が邪魔した。
拭こうとするが、全力の霊力放出した後の私の体は信じられないほどに重かった。時間を取られている暇はない。重い体を動かして拭くのは後回しにすることにした。
朔ちゃん吹き飛ばしたであろう方向へ重い足を動かす。砂がまとわりついて余計に足が重い。でも、朔ちゃんを見つけないといけない。彼女が気がついた時に動けたのなら、それでは二度手間になってしまう。
靴が何かに当たった。血で染まった視界の中で、私はそれが何かと目を凝らした。
地面にあったのはナイフだった。朔ちゃんのナイフ。そして、それのすぐ近くに彼女はいた。
「朔ちゃん」
私は地面に倒れた彼女に声をかける。
彼女は私の呼びかけに頷いた。
「痛くて動けない、多分全身めちゃくちゃになってる。少しだけ、予想以上かな」
「今なら、私の言うこと、聞いてもらえるかな?」
私は朔ちゃんの隣に倒れ込みながらそう聞いた。
朔ちゃんは頷いた。満足そうに。
「たぶん、大丈夫なんじゃないかな? なんだか今は頭がスッキリしてるし」
「じゃあ、お願いするね。朔ちゃんはこれから自分の考えで生きていくこと、いいかな?」
「承知したわ」
倒れた私達は顔を見合わせて微笑んだ。
「何だか眠たい」
そういったのは私だったはず。疲れていてもう曖昧だ。
「いいよ、ねちゃおう」
そう答えたのは朔ちゃんだったはず。
意識を失うみたいに寝たのは両方だった。起きたのは同時だったから覚えてる。
体を直してくれたのは……寝てたからわからなかった。
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「そろそろかしらね」
地下室につながる塚堂を進む途中、私はそんなことをつぶやいた。
「ひとりごとですか? 歳ですね」
最愛の執事はそう言って私を見てくる。私は「あらひどい、まだ若いわよ」と少し怒ったようなふりをしながら彼のおでこを小突いた。
「ノロケはいいから。それで、なんなんだ?」
後方の神様が呆れたように聞いてきた。
「呼白ちゃんが戦ってたのが終わったの」
「へぇ、結果は?」
「援護を飛ばしてないからわかるでしょう? 相打ちギリギリだったけど」
「相打ちって……大丈夫なのか?」
そう心配を口にしたのは束錬といった術者だった。妹ができた兄のようなその顔に少しほほえましい気分だ。
「能力で若干の未来視をしたけど、助けたがってた相手の子も一緒にふたりとも問題なし」
私は心配することはないいうふうに走りだしたそうな男に言った。
「ちょっと、回復の手伝いだけだしておくわ」
「ありがとう」
「妹に絡むのもほどほどにね、お兄さん」
「いやいや、小さな子を守るのは大人の仕事だろう……」
束ちゃん(からかうために心ではこう呼ぶことにした)は気恥ずかしそうに頭を掻いた。
傍目から見れば歳の離れたお兄さんにしか見えない。いやはや微笑ましい。なんて、こんなことを考えているのは老人くさいだろうか? 気をつけないと。またからかわれては癪だものね。
まぁ、そんあこんな考えながら私は上の二人に回復の術式をコウモリに変えて飛ばす。
私達一行の前に地下室の扉が現れたのはそのすぐ後だった。
えらく厳重な扉だと思った。八重もの術式で守られたそれは、見た目はただの扉なのに、雰囲気は分厚い金属の扉のようだ。
「こうも厳重だと泥棒気分ね」
「ということは正義の泥棒ってところかしら」
扉を調べるフェリーに、私は零の持っていた愉快な泥棒の本を思い出して愉快な気分になりなが言った。
ああ、でもあの泥棒は正義ではなかったんだったっか。
気の抜けるような会話をしているうちに扉にかかっていた魔術の解除が終わる。
「さてと、じゅんびはいいかしら?」
「「おうとも!!」」
「いつでもいいわよー」
「早くしてくださいね」
四人の声に押されて開けた扉の向こう。その光景を私は一生忘れないと思う。
うごめく、肉、肉、肉。目も逸らしたくなる生物……いや、正直に言えば生物とも言いたくない者達がそこには押し込められていた。
腐臭と血の匂いが鼻を突く、部屋の惨状に予想をつけてはいてもどうしても顔が険しくなった。
「哀しい」
私の口からそんな言葉が落ちていた。
元の生物の一部がわかるだけに私には哀れに見えた。
少し、足が鈍る。
「行くぞ」
そんな私の前を切って出てくれたのは東国の武神だった。戦うことを確認するようなその声は、私の弱くなった意思を強くし、そのまま背中を押す。
私は顔を上げた。先を行った武神の背が見える。多くの兵を率いたであろうその背中はとても大きく見えた。
「行くわよ!」
私は声を上げた。後ろのみんなの声が聞こえた。
確認は取らずに私は走りだした。この悪夢のような現実を早く過去にしたくて。
俺が目を開けると派手に始まっていた。隣には永琳もどきがまだスヤスヤと眠っている。
ああ、この状況なら抜けてしまっていいだろう。俺としてはこんなのの相手は誰かがやってくれるならやってもらえるほうが嬉しい。正直見るのもゴメンだしね。
魔術の拘束と残る眠気を能力で消す。消して早々、何も言わずに転移した。鼻が曲がるのはゴメンだし。
転移した先は月一族の城、塗装されているわけでもないのになぜか銀に輝いているようにみえる不思議な城を俺は見上げる。
「ひどいもの見た、姫ちゃんを見て口直しならぬ目直ししたい」
そんなことをつぶやいた。




