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東方兄妹記  作者: 面無し
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一瞬の激昂

「ほら、もっと抵抗してください。あんな実験していたんですからもっといろんな、非人道的な魔術や道具や武器を持ってるんでしょう? 正直者が馬鹿を見てしまうような卑怯な罠があるんでしょう? 鍛錬を積んで強くなった強者を鼻で笑えるような反則能力を持ってるんでしょう? 生命を生命とも思わないような、黒くて汚くて卑怯で、そのくせ強力で反則的で誰も太刀打ち出来ないようなそんな力を持っているんでしょう? 早く、早くそれを出してくださいよ。

 全部、全部ぶっ壊したいんですよ。あなた方の持つそれを、壊して割って砕いて擦って粉々に砕いて気晴らしがしたいんです。あの可哀想な子を作ったあなた方への恨みをそれで我慢したいんです。だから、だから出してくださいよ」


 鎧が目の前をちょこまかと動く。翻弄するためだろうが、その動きは読みやすい。彼の攻撃は力任せで技術のかけらもないもので、目の前を動かれるのに苛立った私は彼の体を岩の槍で貫いた。

 豪華な服がよろいの後方で呪文を唱えて迎撃してくる。なんの捻りもない単純な効果、その割には威力は低く防御がしやすい。一応すべて防いで見ると、何か変わった物を唱えたが、降下は驚くものでもないただの転位だった。周囲を移動しては単純な攻撃を繰り返す彼が苛立たしくて、私は天井から作った柱で彼を砕いた。

 黒ずくめの人が私の横を走りぬけた。逃がさないと風で放り投げ戦いなさいと叫ぶが相手はそれを無視して逃げようとした。逃げるのを捕まえ、逃げるのを捕まえ、その人は学習を知らないと思えるほどに逃げようとしかしない。私が何度叫んでも戦おうとしない、腹が立った私は吹き飛ばした彼を壁に叩きつけ、これでもかというほどの石つぶてでぶち抜いた。

 そして、王座にふんぞり返った王を見つめ、動こうともせずに私を見下ろす彼が汚らわしくて、私はその体に無数の杭を打ちつけた。


「出してくださいよ、出してくださいよ、出してくださいよ、出してくださいよ、出してくださいよ、出してくださいよ、出して……出し……出せって言ってるでしょう!?」

 

 動きもしない残骸を追い討ちしながら私は怒りのままに大きく叫ぶ、あの子を生み出したような非道なものを出せと。

 叫んで、叫んで、叫んで、叫んで、叫んで、叫んで、叫んで、叫んで、叫んで、そして、ひときわ大きい叫び声を上げたときに、その自分の声で我に返った。

 頭が沸騰しそうなほど怒っていた反動なのか、荒い息にあわせるように頭は急速に冷えていきました。

 抵抗は温かった。目の前の彼等はあまりにも脆弱で、私が叫んだ魔術も道具も武器も能力もありませんでした。

 実験のことを彼等が知っていたのは本当のことですが、彼ら程度の技術しかないものがあの子を作り出したと思えません。

 私は黒幕にたどり着いたと勘違いして空振っただけでした。


「調べないと、いけませんね」


 私はため息とともに目前の彼らの体を修復しました。

 そして、気絶したままの彼らの記憶を調べた。

 わかったことがあります。彼等の記憶はどんな実験をするのか、その実験がどんな効果をもたらすのかしか知らない、どうやって実験をするのかについて、彼らは全く知りませんでした。彼等では実験をする技術も追いつかないでしょう。

 彼等は自分の役に立つ実験を隠蔽していただけで実験を発案し実行していたわけではなかったわけですね。

 次に、実行犯は彼らの記憶に出てくる黒いフードの人物であるということ。一見すればそこに倒れている黒ずくめかと思ったが、実はフードの人物にしたがっていただけの白髪の少女で、記憶は全く別のものでした。

 あとは実験に使っている地下施設があることと、月から来たとされるつき一族の使者とされる人物がかかわっていたこと。

 ああ、そういえばひとつ不思議なことがありますね。この少女の記憶がフードの人物に会ったところからしかありませんでした。私の能力で調べているのだから、生まれたときの記憶から覗けるはずなんですけど、何かの細工があるのかもしれません。その細工の詳細がわからないのでどうしても見ることができませんでした。

 気お撮り直して周囲の状況に感覚を向けてみます。建物内に巨大な霊力の反応がありました。おそらくエルンさんが呼白ちゃんを連れてきているのでしょう。

 地下施設は彼らに任せれば問題ないはずですね。では、私は月の使者さんの方へ向かうことにしましょう。「何かあれば月の城へ」記憶の中の使者の言葉にしたがって。



     ****



「そう、もともとは私の調査が目的だったのね」


「はい。あなたが実験のことを嗅ぎまわっているのを知っていたのかもしれません」


目の前で魔術師長の事情聴取を進めている。まぁ、もうあらかた予想が付いているから別にしなくてもいいけれど、念のためだ。

 魔術にかかった零は今も熟睡中で、いつもの能力無効が嘘のように普通の人間丸出しである(魔術には効かないと言っていたし、そのせいだろう)。


「事情はわかったわ。特に私達が思ってたことと変わりはないみたいね。

 このまま調査に協力してもらってもいいかしら?」


「はい、もちろんですよ」


 私の要請に魔術師長は快く返事をしてくれた。

 彼女の魔法は以前に一度だけ見たことがある。練り上げられていて、相当な使い手だと思った記憶がある。零が寝てるのをいいことに断られなくてよかった。


「じゃあ、このまま進んじゃいましょうか」


「はい、よろしくお願いします」


 魔術師長がおじぎをする。まぁあんまり仲良くはないし、貴族の私が相手だからその態度も当然なのだけれど。……どうにも一緒に戦う仲間にしては違和感があるわね。


「言葉、崩してちょうだいね」


「えっ? いいんですか?」


「もちろんよ。固くなられると私も気を使っちゃうから」


「そうですか。……じゃ、行きましょうか。こんなかんじでどう?」


 いい感じだと私は笑顔で頷いた。

 さて、準備もできたところで進みましょうか。


「それではしゅっぱ~つ!」





 熟睡中ねぇ……まぁ間違いではないが、半分正解ってところかな。

 外面では意識もないし、脳波も睡眠状態だろう。体も動かせないしな。だが、俺が起きていられるのが現実だけと言った覚えはない。夢の中で活動する技『白夜夢』ってのを使った。

 ただいま夢の世界である。まぁ俺の精神世界なので現実の物体が伸びたり縮んだり色々おかしくなってるし、白昼夢とは違って好き勝手に世界をいじれるわけでもないのでそれほど便利なわけではない。現実で目覚めるまで何もできないしな。

 まぁ便利と言える機能があるとすれば……俺が得た情報から姫ちゃんがどう考えるのか聞けること、時間の進みだけは遅くも早くもできるのでゆっくり思案できること、最後に……能力を使えば他人の夢に入れることだな。


「さぁて、おとなりで寝ているお嬢さんはどんな夢を見ているのかなぁっと」


 夢を移動するための扉を出す。人の夢によって形が変わるのだが、今回のは石で出来たずいぶんと重厚な扉だった。

 女の子の夢を除くなんてデリカシーもないが、そんなことは関係ない。


「お邪魔しまーす!」


 俺は勢い良く扉を開けた。


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