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東方兄妹記  作者: 面無し
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吸血鬼の惚気

 初めてあったのは約三年前、彼が十歳の時よ。

 親を幼くして亡くし、親戚もなく孤児院にて過ごす男の子。親をなくした所為か、その歳に似合わない脆い凛々しさを漂わせる寂しい笑顔が特徴の少年だった。

 皆が川辺で遊んでいるのを近くで優しい笑顔で見てたから、少し気になって近づいてみたの。ああ、もちろん日傘は差しているわ、そうじゃないと灰になっちゃうから。

 近づいて、聞いてみたの。


「みんなと遊ばないの?」


「お姉ちゃんも遊んでないよね?」


 そう言って彼は笑ったわ。子供のくせに口達者よねぇ。あなたと同じだよって言いながら教えないよっていうのよ。

 「それもそうね」なんて簡単にしか返せなかったわ。元々口が立つ方じゃないし、なんだか負けそうなんだもの。

 でも達者な子は嫌いじゃない、むしろ好きだから私は少し話しをすることにしたの。

 内容に特別なことはなかったわ、どんな食べ物が好きだとか、勉強が難しいだとかそういうものよ。

 でも、一つだけ無神経とわかって聞いた質問があった。


「お父さんとお母さんがいなくて寂しい?」


 聞かなくたってわかっているというのにね。でも、私は聞いてみたかった。

 友人とはいつでも合うことができ、同族がいることは知っているけど、あったことはなく、生まれた時から知識と今の容姿を持っていたから親なんてものは存在しない。

 孤独というものを感じたことはない。だから、彼に聞いて、彼の言葉を聞いてそれがどういうものなのか知りたかった。

 でも、正直に答えてくれるとは思わなかった。だから、


「寂しいよ」


この答えは少し予想外だったわ。孤児院の子どもたちに囲まれ、世話役さんは笑顔の似合う優しい人だったし、いくら少し大人びているからといって、簡単に自分が寂しいということを他の人に話すことはないと思っていたの。

 でも違った。彼は自分の中の寂さを初対面の私にあっさりと認めたわ。


「孤児院の皆は優しいけど、いつか皆いなくなることがわかっているから、皆本当の家族だとは思えない」


 里親に引き取られるのか、独り立ちをして出て行くのか、どちらかはわからないけれど、彼等はいつか離れてしまう。魔術が使えなければ手紙しか通信手段はない、住んでるところを知らないのなら、連絡を取ることは難しいでしょう……里親に引き取られたなら特に。

 彼等を囲む人達のつながりは儚く、もろい。

 ……私は思わず彼を抱きしめていたわ。

 なんとなくでも分かったの。家族のようにそばに入れる人がいないということの寂しさが。

 考えてみれば、私も一人だわ。


 今思えば、もうあの時には私は彼の家族になりたいと考えていたのかもしれないわ。


 好きだと気づいたのは一年前よ。大の大人がそんなことにも気づけ無いなんて……私も鈍いわね。

 気づいた時のエピソードを話すわ。

 そう、あれは一年前の夏だったかしら。海を見に行きましょうなんて自分で誘ったの。

 柄にもなく浮かれて、大きな岩の上に登ったりなんてしてたわ。

 そう、そして私が一番大きくて高い岩に登って振り向き、


「一番乗り!」


 なんて子供相手に胸を張ろうとした時、彼が足を滑らせた。

 私は飛び出していたわ。日傘をかなぐり捨ててね。

 馬鹿だったわ。どう落ちようと私にはどうとでも対処できたのに。

 目の前の彼が落ちるということに、私はそんなことにも気付かないほどに余裕をなくした。

 そして、焦げる体を無視して彼を掴み、空を飛翔して地面に降り立ち、彼を抱きしめた。

 陽光は私達にとって致命傷になりえる。日傘はすぐに呼び寄せたわ。

 でも、焦げてしまった体も、空をとぶための翼も、全て彼に見られた。彼に私がそういうものであることがバレた。

 終わってから、してしまったことを後悔した。

 彼の記憶は消さなければいけなかった。私のことをこの国の人に知られるのは都合が悪い。なにより、彼も私が妖怪だという事実は思い出したくないでしょうから。

 私は記憶を操る魔術に疎い。以前に負けた人間が干渉の聞かないやつでね、他人にかける魔術に関しては全くといいほど研究していなかったの。そのせいで私は選択することになった。

 彼の記憶をすべて消すか、そのまま残してこの国を去るか。

 能力どうしたって言われるとおもうんだど、私の選択肢はその二つしかなかった。私の能力は私が選択できる未来しか見せてくれないの。ごく短い時間の未来ならともかくね。

 二つの未来のどちらも私は選べなかった。気づいちゃったのよ、余裕をなくし、傘まで捨てた理由に。

 記憶を消せば彼のそばにいられる。でも、すべての記憶を消された彼は彼でなくなってしまう。記憶を残せば彼は彼のままでいられる。でも、妖怪では彼のそばにいられない。

 私は欲張りだから、この国から出て行きたくなかったし、彼に死んでほしくなかったし、彼の記憶も消したくなかった。

 私は私を見る彼と目を合わせられなかった。左右に目線をふらふらさせながら「どうしよう」なんて呟いていた。

 そう、そんな時よ、彼が私の目の前に契約書を差し出したのは。


「これは……契約書?」


「魔術のね。よくはしらないけれど、これでした約束は反故にできないんでしょう?」


「その通りだけど、何処でこんなもの」


「僕が知らないお姉さんがいたように、お姉さんの知らない僕もいるっていうことだよ」


 驚いたわ。そういう道具の取引をしている魔術師の知り合いがいるんだと思うんだけど、そんな人物がいるなんてことを私は全く知らなかったのよ。

 魔術の契約は悪魔との契約と同じで反故にするのは不可能。まぁ機転を利かせればその限りでないけれど。

 彼の提示した契約は簡単なものだったわ。私の秘密をばらさないこと。範囲が広い故に、破ることが難しい。

 私は不思議だった、なぜそんな面倒なことをするのか、と。

 彼は契約をしながらそれに答えてくれたわ。


「お姉さんを告発したとして、賞金もないし、仲の良い人はいなくなるし、僕には何ら得がないもの。でも、魔術の契約なら、お姉さんをなくさないし、僕のお願いも聞いてもらえる。得があるでしょう?」


「変わってるわねぇ、殺されると思わないの?」


「殺人事件があるこの世の中だ。妖怪だろうが人間だろうがおんなじだよ」


「賢い子……でもやっぱり変わってるわ」


「そうだね、変わっている人は嫌いかな?」


「きらいじゃないわ」


 というわけで、私は契約をした。

 契約内容は人間を殺さないこと、将来彼の雇い主になること、雇った場合彼を私に一番近いポジションに置くこと、魔術を教えること、彼を殺さないこと、の五つよ。

 彼は私の秘密をばらさないことの一つ。バレるようなことをしたのは私だから仕方ないんだけどね。

 そう、そして私は人を殺さない約束を守るために人の血液を作る研究を始めることにした。


    ****


「というわけで今に至るわ」


 そう言いながら目の前の城主は胸を張った。

 つまりは、子供に弱みを握られたから仕方なく約束を守ってるってことよね。


「胸張れることじゃないと思うんだけど」


 まぁ楽しそうではあるわね。それから、今のところ彼女が人間に無害であることも分かった。

 契約がなくとも好き勝手に人を殺すような人物でないことは分かったし、今回は零に協力するということでいいだろう。


「じゃあ、ここからは盛大にノロケさせてもらうわね」


「あっ、砂糖投入するの?」


 私一人身だから結構さっきの話も羨ましかったし呆けた顔見てたら砂糖をまるまる食べたような気分だったんだけど。まだ投入するの?


「あれは契約をした三週間後のことなんだけどね……」


「ああ、零の能力が発動しない、まだ聞かせる気ね」


 私は呆けた城主を見ながらため息を付いた。


     ****


「そうですか、ありがとうございました」


 地下の部屋で私は洗いざらいはいてくれた男の人に笑顔でそういった。


「助けて、助けて」


 話し終えた男性はうわ言のようにそればかりを呟き、歯をガチガチと鳴らしている。そんなに怖くしたつもりはないんですけどね。

 さて、洗いざらい吐いてもらったことですし、王族さんの所に攻めこむことにしましょう。

 縮こまる男性の頭を撫でてから私は立ち上がった。と、そこで思い出す。この人にもどっちにせよ罰がいるということに。

 そうですね、問題解決までどれくらいかかるのかによりますが……多分あと三日もすればいいでしょう。

 よし、ではこの人への罰は三日間の地下室禁錮刑です。


「すいません」


「ひぃ!?」


 私の声に男の人が大きくのけぞる。そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか。


「今日から三日間ほど、ここに閉じ込めます。三日したら必ず出してあげるので、我慢して下さい」


「え……あっ……はい、はい!!」


 男性は私がいなくなることのほうが重要だとでも言う風にすぐに罰を受け入れた。

 私は能力で男の人の空間魔術の使用を制限して、外に出た。

 倉庫からカウントダウン式のタイマーを取り出す。兄さん特製の一ヶ月まで計れるものだ。

 三日に設定し、倉庫に戻して周囲を見回す。ここはどこなのか……。

 と、目の前にあるのは見るからに豪華ですとでも言いたそうな大きなお城。


「ああ、王城ってアレですね」


 私は一人合点して、王都へと歩き出した。

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