書斎にて捕まる
「国家転覆……?」
たぶんお父さんが聞けば変なものでも食ったんだろうと言われそうなことを言ったエルンさんに私も驚いてそのまま返すしかできなかった。
そのまま返された言葉にエルンさんは大きく頷いた。
「どちらにしろ手伝ってくれというつもりではいたの。今回は予定を年単位で早めただけよ。
理由はいろいろあるからゆっくり話すけれど、一番は……これを見てもらったほうが速いわ」
そう言ってエルンさんは私達の目の前に窓をだしてそこに映像を流し始めた。
窓の位置は高い、私には全く見えない位置になっていて、背伸びもジャンプもしてみるが画面の角しか見えない。
「術式で他生物と人間を合成したんだな」
私達の中で術式に詳しい束さんがそう呟いた。その顔は血の気が引き若干青くなっていた。
人間と他生物の合成? 犬耳のついた人にするということ?
「その通りよ。これは、王族が自分たちで魔術をかじって作ったものよ。戦力か道楽、どちらが目的なのかはまだ不明だけれど」
「あの……」
私には全く見えていないため、そのことを伝えようと口を開きかける。が、エルンさんはそれに首を振った。
「見ないほうがいいわ。その年齢で見るのは衝撃がありすぎる」
「そう、ですか」
私はおとなしく引き下がることにした。おそらく、なんといっても見せてはくれないだろうから。
「ところで、素材の人間は何処から連れてきたんだ? ここに来るまでに見てきたからわかるが、この国で奴隷のような服装の人間を見た覚えはないぞ」
須佐之男さんがエルンさんにそう聞いた。そういえば、ここに来るまでに本で見るような布切れしか着ていないような人は見てない。
「うちの国に奴隷制度はないの。ほとんどは民間から攫ってきたみたいよ」
「手口は?」
「政府関係者の素行調査を依頼して、その途中でってところね。依頼する人物は民間人に紛れているから警戒もされにくい。証拠を求められた場合は王族が仲間だから公文書でもなんでも完璧な偽造がし放題」
「ずいぶん面倒な」
「ここ数年行方不明者が続出してるから調べたんだけど、案の定ってところね。
証拠を集めるのに隠れる必要があるし、時間が掛かるから数年での計画を立ててたけど、零がいてくれるならそんな必要はない。彼がいれば指パッチンで全部揃うもの」
「零がいると無力感がでるのよねー」なんてエルンさんはため息を付いた。それを見た男の人二人も大きく頷く。
指パッチンで事件の証拠を用意できる。完全犯罪もなんのその、お父さんの規格外差はいつ見ても呆れが出るほどだ。まぁ、その力の大きさに呆れているだけで、お父さん自身は別にそんなことはない。
ふと、先ほどの会話の中で気になることが出来た。須佐之男さんに聞いてみる。
「須佐之男さん。おか、姫さんってそういえば見知らぬ人について言ってましたよね?」
「ああ、そういえば…………ああっ!?」
私の気づいたことに須佐之男さんが大声を上げる。
「どうした? 姫さんがついていったからって何も……そうか、人さらい!」
束さんが気づいて私の方を見た。私はそれに頷いた。
おそらく、見知らぬ人間ということで今頃大勢に囲まれているのではないだろうか。
男の人二人が慌てたようにエルンさんを見る。
「「どうする!?」」
重なった支持を仰ぐ声に、エルンさんは少し思案し、
「まぁほっといても大丈夫よ」
全て放り投げた。
驚きの顔で二人が口をポカリと開ける。そんな二人の顔にクスリと笑うとエルンさんはいった。
「だって、姫ちゃんに援軍なんか出したら足手まといになるじゃない」
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「よし、堪能完了です。これでしばらくは兄さん分がなくても大丈夫ですね」
フェリーさんの地下室にて、深呼吸を終えた私はガッツポーズでそういった。
少々名残惜しいが、いつまでも兄さんの香りに浸っているわけにも行きません。今のところ一番怪しい副団長さんを調べないといけません。
「仕方ないですね。完全補足の技『天帝玉座』」
今回の補足場所は副団長さんのご自宅です。位置は知りませんが、この能力は私が知っている知っていないは関係無いから無問題です。
はてさて、ここから北にいったところの……あそこですね、分かりました。ここと違ってずいぶん豪華なお屋敷ですねぇ、どんな魔法を研究しているんでしょうか。
「とにかく行って見るほかないですね」
『転送』を使用し、副団長さんの家の前についた。扉の前には大きな庭に大きな門。そして、それを守る門番さん。まぁ、私は庭の中に出たから関係ないんですけどね。
「はてさて、お邪魔しまーす」
鍵のかかった扉を能力でこじ開けて、誰にも見つからないように姿を消しながら探索を開始する。
十分ほど立った頃、面白いものを見つけた。副団長さんの書斎だ。
「まさか一階にあるとはおもいませんでした」
探索が楽にすんでよかった。などと考えながらまたも鍵を外して書斎を漁る。
と、目的のものを見つけた。国から偽装書などを使ってエルンさんをフェリーさんに調べさせろという胸が書かれた手紙だ。
「いやぁ、これがあれば、後はあのおばあさんに渡すだけ……」
「とはいかないよ。少女よ」
背後からの男性の声に動きを止める。
「副団長さん……とみていいですか?」
「そうだ。と言ったとして、確かめることは出来ないと思うが?」
「そのとおりですね。それで、どういった要件ですか?」
「私とともに来てもらおうか。魔術のたぐいが使えたことには驚きだが私含め四人の相手はできんだろう?」
後ろには四人いるわけですね。しかもおそらくは魔術使いさんと。
「あのおばあさんは?」
「あのばあさんはグルじゃない。副団長が誰かを引っ掛けてもらうために流しただけだ」
そうですか、ならこれで何かやったとしてあのおばあさんに危険が来ることはない……と。
そうですね、抵抗してもいいのですが何を企んでいるのかも気になります。
少し、遊んであげることにしましょう。
「いいですよ。ついていってあげます」
「ああ、そうしてくれ。じゃあまずは目隠しをさせてもらうぞ」
そう言って人の気配が私の後ろにつく。私はうこかずに、目隠しを受け入れた。
そして、目隠しされた私の腕に手錠のようなものがはめられた。
「この錠は魔法の発動を阻害する術がかけられている。痛い目を見たくなかったらなにもしないことだ」
「そうですか。分かりました。それで、何処に連れて行ってくれるんです?」
「さあて、何処だろうな」
そう言って男は私の方に触れた。その瞬間、私の体が宙に浮いた。
なるほど、動いた道順を覚えられないようにするためですね。
「どこでもいいですね。さっさと行きましょう」
「肝のすわった少女だ。綺麗だし別の形であってたら食事に誘ってただろうに」
「夫がいるのでお断りですよ」
私の返しに男は笑った。男とその仲間の足音が聞こえる。それ以外は何も聞こえない。
さて、そろそろ小細工を開始しましょうかね。私はそう思い能力を発動させた。




