副長の策謀?
「ここですね、エルフェリーさんの自宅というのは」
おばあさんに聞いたエルフェリーさんという魔女さんの家は、聞いていたものとはずいぶんと違っていました。大きな大きな豪邸だと聞いていたんですが、どう見たって崩れかけの山小屋みたいにしか見ません。本当に家なんでしょうか?
「んー、何にしても調べるのが先ですよね」
まずは、怪しまれないように隠蔽をしないといけません。
「可視光透過の技『透明人間』結界透過の技『無法結界』気配遮断の技『気々無色』」
結界透過は私個人にしか書けられないのが難点なんですよね。全員にかけられたのならエルンさんのお城にも入れたのですが。
さて、どうこう思っている時間はないですね。私が兄さんと同じ力を持っていられるのは三十分が限界ですし、いくら使うのが一瞬とはいえ連続で使えば反動は大きくなりますから。
「レッツゴー、ですね」
と、言うわけでフェリーさんのご自宅を散策中です。地下への入り口があることを発見した時は驚きましたが、本拠地を幻術で地上に見せかけ、自分の魔法の情報が漏れるのを防ぐというのが目的なんでしょう。
今のところ、特に変わったところはないですねぇ、普通に魔法陣なんかが描かれているだけでした。(何の魔法陣なのかはわかりませんが)
エルンさん襲撃を裏付けるような証拠も見つかってませんし、副団長さんの間違いではないのでしょうか?
そんなことを思いながらも机に置かれた書類を漁っていると、気になるものを見つけた
「あれ、これは副団長さんからの手紙ですね?」
中には国からエルンさんを調べて欲しいと依頼が来ているということと、公式の書類なんかも同封されていることが書かれた手紙だった。
この手紙を見た私は首をひねった。違和感がありすぎなんですよね、この依頼。
副団長さんがエルフェリーさんが悪い人だと一般人にタレコミをして、それと同時期にエルフェリーさんに副団長さんからエルンさんに近づいて調べて欲しいなんて手紙が来ている。
どう見たってタレコミはエルフェリーさんが疑われる状況を作っていますし、この手紙はそれの後押しをしている。
副団長さん……あからさまに怪しいですね。
しかも、ここの入り口の小屋に入った時に気づいたんですが、兄さんがここにいますね。香りの残留程度からして私が来る少し前に出て行った感じですね。
うーん……兄さんが戦った形跡はあるんですけどエルフェリーさんを拘束したり殺しちゃった感じの残りはないんですよね。ああ、そういえば黒龍になった時の香りもありましたし、腕試し程度のバトルをした感じでしょうか。
兄さんが一緒にいるということは、エルフェリーさんは悪い人ではないということでいいはずですね。それに、おそらく今いないのは兄さんも情報が変だということに感づいて、調べているというのが正解でしょう。おそらく、エルンさんを貶めようとした怒りを原動力にして。
「知り合いの人が悪くされると怒る自分より友人を第一にする兄さん……格好いい」
ああ、この地下に残る兄さんの香りが愛おしいです!
もう後五分だけ堪能しましょう……。大きく、深呼吸。兄さん、あなたはどうしてそんなに素敵なのですか? 兄さん、あなたはどうしてそんなに魅力的なのですか?
「ああ、兄さん! それは兄さんが零くんだからです!」
私は地下の部屋で思い切りそう叫んでいた。人がいなくて思い切り楽しめるのだ。こういう時に好きなだけ兄さんへの愛を叫んでおかないと。兄さん以外に見られたらどん引きされちゃいますからね。
じゃあ、後五分だけ……。
****
「我が愛しきお嫁さんの魂の叫びが聞こえた」
「零、急にどうしたの?」
姫ちゃんの声を間違えるはずがない。俺を格好いいと確かに言っていた!
「姫ちゃん、離れていても俺を格好いいだなんて……可愛いぜ」
「零、独り言は気持ち悪いわよ?」
「独り言とは失礼な、嫁と愛を交わしていただけだよ」
今、姫ちゃんが俺のことを名前で読んだね。うん、嬉しすぎて顔が熱くなるよ。
「物理的にありえないこと言わないで」
「愛に物理など無いよ」
おい、引くな。これくらいできないと何億年も夫婦を続けている貫禄が出ないから出来るだけだ。
結婚する前の付き合ってる時からできてはいたけど気にすることはない。だってこれは愛なのだから。
「程々にしないと変態に間違われるわよ?」
胸の中で人が納得している時に横槍をささないで欲しい。
「姫ちゃんへの愛で変態に間違われるならいいよ。夫冥利だ」
「意味が違うと思うんだけどねぇ」
フェリー、どうしてため息をつく? 好きな相手の妄想で変態認定してもらえるんだぜ? 愛が本物だったってことの太鼓判を押されたも同然だろうに。
「まぁ我が愛しき嫁の話は後でじっくりするとして……ここはどこかな?」
フェリーに任せて転移した先はどうにも薄暗く、足元からは賑やかな声が聞こえてくる。
「あぁ、ここは王城近くの議会室の天井裏よ。エルンさんが怪しくないのなら政治に関わりそうな人が多く来るここに来たほうがいいと思ったの」
なるほどね、さっきから俺が愛の丈を話していてもばれないあたり、床下……天井下は賑やかなのだろう。
「じゃあ、会話やその他の傍受を始めようか」
会話傍受の技『全話記録』取引傍受の技『表取引』策謀傍受の技『無能策士』の三つで大丈夫だろう。
指を鳴らし、技を起動する。足元の議会室を範囲指定して発動させ、目前に三つの窓を出現させる。
「これに、今からここで行われる取引と策謀、それとそれらに対する会話が全て記録される。暇つぶし程度に洗っていこうか」
「盗聴よりずいぶんと性質が悪いわね……」
「それはどうも」
傍受されるの人達に半ばご愁傷様とでも言いたそうようなフェリーを横目に俺は調査を開始した。
フェリーには取引の窓と会話の窓を半分ほど担当してもらうことにした。
「あっ」
調べ始めてからしばらく、フェリーが声を上げた。
「何か見つかった?」
「あ、ごめんなさい。ずいぶん珍しいものが取引されてたから」
フェリーは申し訳無さそうに肩をすくめた。
フェリーが声を上げるなんてよっぽど珍しいものだったんだろう。
「ついでにそれって何か教えてもらえる?」
「月一族の懐中時計よ」
懐中時計? それが珍しいなんていうことは、つき一族っていうのに秘密があるのだろう。
「月一族っていうのは?」
「えっとね、この国の貴族の家系の一つで、王の戴冠式以外では陰すら見当たらないほどの引きこもり一族よ。
有名なこの国の噂に月一族には時間を操る技術があるっていうのがあって、それのせいで彼等が使ったことがあるとされる時間に関する道具はかなりの高値がつくのよ」
「月一族自身引きこもっているから余計に価値もあると」
「そういうこと」
月一族ねぇ、この問題が終わったらおじゃますることにしよう。
っと、なんだか面白い作戦を見つけたぞ。
「フェリー、これだぜ」
「どれよ」
フェリーを隣につけて策謀用の窓を見る。
俺達が除いた窓には面白い案件が並んでいた。
「『国家転覆』『紅一族の乗っ取り』『魔法使い長の暗殺』これはこれは、重なりすぎてて面白いだろう?」
「ええ、とっても面白いわね。特に三つとも別の勢力が話しているところが」
三つの策謀はそれぞれ市民、魔法使い達、王族の三つの勢力それぞれ話していた。
同時に同じ場所で別の話をするとか……よくお互いに気づかないものだ。いや、人が多く気づかれないだろうと思っているからこそ周囲に気を使っていないだけか。
何にしても、今回のこれはかなり面白いことになりそうだ。まぁ成功するのは国家転覆だけだろうがね。
「魔法使い長は王の相談役、紅一族はあんたのところの副長、国家転覆は市議会長か……ん?」
市議会長の名前の後に妙なものが付いているのに気づいた。『王』という字がくっついている。
この国の構造なんかと関係があるんだろう。それを知らないことには何が起きているかわかrんので国の構造をフェリーに聞いてみることにした。
フェリーは顎に指を当てて思案した後、わかりやすく説明してくれた。
「王の下に貴族、貴族の下に市民がいるのが基本構造。
貴族は王族と全く血のつながりはなく、現在の王族が国を広げた時に、特に王族と敵対すること無く同盟を組んだ者達で、この国にはさっきの月一族以外には紅一族ぐらいしかいないわ。
王国は一つだけど、その中は三つに分けられていて、それぞれの貴族と王族がおおまかな法律を覗いて自由に統治をしてるの。
市議会はそれぞれの統治下に一つずつあって、そこに書いてある『王』は王が治める土地の市議会長ってことね。
貴族と王族は仲良くもなく悪くもなくだから、正直に言えば三つの国があって、その間には特に何の国境とかもないだけっていう感じかしら」
「なるほどね、じゃあ国家転覆っていうのはあくまで王族の打倒だけって認識で大丈夫かな?」
「おそらくそうだと思うわ。話に出ているのも王族のことだけだし」
なら王族の転覆はどうでもいいので放っておいて問題ないだろう。
他の二つはなんとかしようかな。ついさっきで会ったばかりとはいえフェリーも俺の知り合いだ。死なれるのは嫌な気持ちになるのでな。
でも、フェリーの件は後でも大丈夫だろう。王族から依頼が来ているのだしすぐに動くことはないはずだ。
「エルンの方から動かしてもいいか?」
「大丈夫よ。私は後回しでもまだ動かなさそうだしね」
フェリーなら気づいていると思っていたよ。じゃあ、副長の話をクローズアップしようか。
窓に映る副長と会話相手の発言に触れてロックし、それ以外を手で払って消去する。
「便利ねぇ」
「重宝するよ。特に盗み聞きする時に」
「道具は扱う人次第って本当ね」
失敬な。盗み聞きと言っても悪用はしていないぞ。
まぁそれはいい。エルンに関する話を進めよう。
会話の内容を要約するとこんなかんじだ。
『実は紅一族は妖の一族らしいぜ!』
『そうか、ならば倒さねばならないだろう!』
『今、家の団長に調べてもらってるから大丈夫!』
『うっひょー、じゃあ事実だったら使用人もろとも!』
『わかったぜ! じゃあ打首準備しとくぜ―!』
多々の脚色は入ったが、こんなものだ。
前にも言ったと思うが俺は妖怪というだけでぶっ倒すのは嫌いだ。攻撃する理由としてあまりにも弱いし、それに差別にも見えるからだ。バトル好きの俺が言って説得力があるかは別だがな。
さて、今回の件だが正直許すことはできない。エルンが妖怪だとどこから漏れたのかは知らないが、彼女に害をなすというなら容赦はしない。
「首謀者は分かった。脅しついでに系列を全部潰すとしようかね」
「ちょっと待って、彼女は妖怪なの?」
立ち上がろうとした俺にフェリーが声をかけた。その顔は驚きと同意に深刻な問題に直面した時の緊張が漂っていた。
俺は頷く。
「ああ、彼女は妖怪だ。この土地が氷に覆われた時代から住むものだ」
「私達魔法使いや国の軍隊は攻撃手段としての役割があるわ。
私の知識では妖怪とは基本的に人間に害を与えるもの……エルンさんはほんとうに大丈夫なの?」
そう言うフェリーの言葉は疑念に満ちていた。
「俺の知り合いだから信用しろ。というのは無理か?
それに、お前に五行の術を教えた奴も妖怪だったはずだろう?」
俺はフェリーに疑問を返した。彼女はしばらく考えた後、答えた。
「彼女は私自身が話しをしたから……その上で信用できると思ったの。
あなたの知り合いを問答無用で疑おうとは思わない。けれど、あなたは強すぎるから、あなたの前ではおとなしいという可能性はないと言い切れないでしょう?」
彼女の言うことには納得できる。相手が強すぎるから、逆らえないから、仕方なくそうしているとは考えたくはない、しかし、ありえるかもしれない。
しかたがない。ここはエルンのこれまでを見てみることにしようか。
「わかった。確かめることにしよう」
そう言って俺は手を叩いてフェリーとのあいだにあった空気を吹き飛ばした。
それを着てフェリーは首を傾げた。
「どうやってよ?」
「俺だぜ? これまでの歴史なんて俺に掛かっちゃ図書館の本も同然よぉ」
不敵な笑顔を作りながら、指を鳴らす。同時に歴史をダイジェストで体験する技『経験体験』を発動した。
空中に穴が現れる。にっこり笑顔のまま、首を傾げるフェリーをそこに突っ込んだ。
「えっ? ちょっと!?」
「いってらっしゃーい!」
じゃあ、エルンの歴史は頼むことにしよう。
その間に俺は……姫ちゃんと感動の再開でもしておくからさ。




