神様一般人と見られ止められる
「止まれ止まれ! 何者だお前たちは!」
「だから、ここの城主の知り合いなんだが……」
「嘘をつくな! あの方がお前のような名前もわからんような奴と知り合いなわけがあるか!」
赤い城の門前、呼白ちゃんを連れてきたにも関わらず俺達は足止めを食らっていた。
足止めの原因は門番で、客が事情を話しているのに確かめにすら行かない。客にも言い分があるんだから本当かどうか確かめにくらい行けよって怒鳴りたいところだ。
「そうはいっても、この娘が通行手形になると聞いたんだが?」
「こんな貴族の娘でもない平民が高貴なこの城の主に通じる手形になんてなるわけ無いだろう!
この城は俺達門番ですら国から身分の高いものが選ばれるんだ。身分の低い汚い者共が入れる場所じゃないんだよ!」
……殴り飛ばしていいだろうか。
俺の国にも身分は存在するし、神や貴族に謁見できるものは何かしらの神事に関わっていたりする一部の人間だけだ。だが、それでも身分の低いものをここまで言うことはないだろう。しかも身のこなしからして戦闘は素人だ。
ああ、そういえばこの態度に眉間に皺を寄せている方がもうひとりいる。呼白ちゃんを挟んで俺の隣。大和の国の神、須佐之男さんはその怒気と共に顔を思いっきり歪ませて拳を握っていた。
「なぁ束錬、こいつ吹き飛ばしていいかなぁ」
明らかな怒気を含んだ低い声が空気を震わし、若干に漏れでた神力が肌を刺すようだ。
だが、目の前の門番は国が違う所為かそれとも鈍いのか、神力にも怒気にも気づかずにまだ汚い言葉をまくし立てていた。
「だいたいそんな汚い服装の人間がこの俺に話しかけることすらおかしなことなんだ。いいか? お前ら教育のなってない奴らは知らんだろうが、この城はこの国が建国される以前から紅の一族とともに有るありがたい城なんだ! 普段から見ていられるだけでもありがたいものを……」
ああ、吹き飛ばしたい。だが、あまり騒ぎになるとこの城の主にも、零達にも迷惑がかかってしまう。さて、どうするか。と額に手を当てた。
そのとき、声を上げたのは呼白ちゃんだった。
「さっきからべらべらとよく回るしたですね。あなたがどんな身分とか私達がどういう身分とかどうでもいいですからさっさと通してくださいよ。消し炭にしますよ?」
その声は静かながらも剣のように鋭くて、須佐之男さんは意表を突かれて発していた怒気を一気に消してまった。
須佐之男さんと顔を見合わせ、呼白ちゃんに目を向ける。姫さんを小さくしたように整った顔は冷水のように凍りきった無表情で、身分が高いだけの素人門番なんてものを黙らせるのは十分だった。
あの親にしてこの娘有りということだろうか、この威圧感は絶対に姫さんからだ。それに、相手を見下したような態度を取る人間に怒るところも似ている。
固まった門番に、忠告を告げてやる。
「そういうわけだ。さっさと城主か上の人間にでも確認とってきな」
「いや、そんな脅しには屈しないぞ!」
俺が優しさでやった言葉に門番は我に返って虚勢を張った。
虚勢を張りだすと人は止まらないというのが俺の持論だ。さっさといおくに行くためにも実力を使うことにしよう。
俺は懐から気絶用の札を取り出しそれを虚勢を張って叫び倒している男に向けた。
そのとき、門番の前に人影が飛び出して、来た。
「お客様、力を使う必要はございません」
そう言った人影は男だった。高い長身に恐ろしいほど整った顔、燕の尾がついたような服を着た男。
その男が、俺の向けた札を手のひらで止めている。個々の家の人のようだし、話も通じそうだ。
俺はしぶしぶながらも札をおろして聞いてみる。
「あんたは?」
「ここで召使をさせて頂いておりますウィルと申します。
先までの無礼はなんなりとお詫びさせていただきますので、今はどうか矛をお収めください」
ウィルという男は深々と頭を下げてそういった。まぁ解決してくれるのであれば別に力を使うつもりはない。
俺が札を直すと、ウィルはもう一度一礼し、俺達を門の一角についた小さな扉から通し、そこで三十秒だけお待ちくださいというと、門番の方へ戻っていった。
開いたままの小さな扉から確認してみる。
「執事長! どうしてあの者たちを入れるのですか!」
「我が主が最高のもてなしをしなければならない方々だからです」
騒ぐ門番にウィルは全く動じず無表情で答えた。
「何故そんなもてなしを!?」
「我が主の一族はあの方々と何代も以前からの良き友だからです」
ウィルが冷たくそう言い放つと門番は驚愕を顔に浮かべた。
そして、信じられないといった風にまた言葉を返す。
「身分の低いあの者達があの方と良き友ですと!?」
「そうです。我が主の最も親しき友の娘とそのお連れ様であり、我等が城の人員すべてを持ってもてなすべき方々です。
それから、何を馬鹿な認識をしているのか知りませんが、我が主には貴族でないお知り合いのほうが多く、その方々はめったにお越しなさらないだけです。
もうひとつ言うならば、あなたが先ほど身分が低いと見た方々は東の国にておそらくこれ以上ないほどの最高の地位を持つ方々です。
更に言うなら、この城の人員は貴族からの採用より民間からの採用が多いです。貴族が多く見えるのは、ここの従業員が民間であると知られたくない国が従業員を貴族に仕立てあげるからです。あなたのようなお坊ちゃんは知らないでしょうがね、私も貴族からではなく、孤児院からの就職です」
ウィルの放った言葉はあまりにも冷たく門番を突き放した。門番は今までの自分の考えを粉々にされたことで半ば思考が停止し、その場に固まってしまった。
ウィルはそんな男を意に介さず、懐から何かの紙を一枚取り出して門番に放り投げると、さっさと戻ってきた。
笑顔でウィル入った。
「見苦しいところをお見せいたしました。ようこそ紅魔城へ!」
その笑顔に爽快な気分で俺達は答えた。
『お邪魔しまーす』
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「へぇ、なんか面白いことになってんじゃん」
フェリーの研究室にて、俺は彼女が王国から最近お願いされた依頼書を眺めていた。
「面白いって……ヘタしたら国が滅ぶことがよく面白いって言えるわね」
「国が滅ぼうが俺には関係ないしね。いざとなればエルンが何とかするし」
俺の持つ依頼書にはエルンが国の転覆を図っていると民間から告発が会ったと書かれていた。なんと面白い冗談なのだろうか。俺の友人を貶めようなんて……命知らずで面白いなぁ。
「そのエルンって人が国を滅ぼすかもしれないのに?」
心配そうなフェリーの言葉に俺は笑った。エルンが国を滅ぼすなんて面倒なことをするはずがないからだ。それに本気で潰したいなら俺でも読んで一日で消し炭にしてもらうだろうさ。
「エルンは面倒が嫌いだから、潰すなら俺を頼るさ。こいつは誰か知らん奴が仕組んでいることだ」
「うそー! 今回の仕事は隠蔽魔術で隠れながら調査して終わりの簡単なやつだと思ったのに―」
フェリーは俺の言葉に肩を落としながらそういった。
まぁ本当に誰が仕組んだのかは知らんが面白いことをしてくれる。見つけた暁には南極点あたりのクレバスにでも家を作って放置してやろう。
「ささ、早めに調査しようかなぁ」
「零、なんだかあなた怒ってない?」
「怒る? そんなことはない機嫌が悪いだけだよ」
「それが怒ってるっていうじゃないかしら……」
「さてね」
苦い顔をするフェリーを横目に研究室の扉を開ける。
悪い子は……だーれだ?




