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東方兄妹記  作者: 面無し
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~ヨーロッパあたり~七日の魔女

 兄さんと別れてから数時間。私達は海上にて目的地であるエルンさんのお城を目指して船を飛ばしていた。


「私はしばらくこの近郊にいる。また、呼んでくれ」


 そう言ってバハムートさんは海へ戻っていった。

 また、呼ぶことにはなるだろう。なんとなくそんな気がする。彼の大きな力は他の大きなものを制圧する力になる。

 なにか大きくて不吉な計画があるなら、それを全て消去できる可能性がある力だ。頼らない手はないだろう。

 さて、近況報告などは毎年のお正月くらいに三弟子さんを除く皆がくれるので、今がどういう状況なのかは若干知っていたりします。エルンさんは人間と関わり、地位を伸ばしたらしいです。


「っと、陸地が見えてきましたね」


「どうやって隠すの?」


 陸地がうっすら見えたころ、呼白ちゃんがそう訪ねてきた。


「もちろん、私の力で隠しますよ。術なんかを常時使っておくのは面倒です。

 私の力なら隠してしまえばもう一度かけ直すまで発動する必要はないので」


「そう。姫さんがそう言うならだいじょうぶだよね」


 頷きながら納得する姫ちゃんの頭を撫でながら能力を発動し、偽装の技『疑心安気』にて、私達を見た人が抱くであろう違和感を全て消去する。

 近代的なこの船も、東の国の衣服も、これならば誰にも変な目で見られないだろう。

 向こうについたらさっさとエルンさんのところに行ってしまえばいいですしね。


「さてと、皆さん。準備はいいですか?」


「もちろんだ。群雲も持ったから問題ない」


「札は全部服の中だ。いつでもいいですよ」


「うん、私も大丈夫だよ」


 三人の答えに合わせて、この時代ではありえない船の速度を落としていく。

 適当な人気のない海岸線を遠目で探し、手頃なところに泊めた。


「じゃあ、ここから一気に目的地まで飛びますね」


 そう言って私を含めた四人をエルンさんのいるあの城へ転移させた次の瞬間。弾かれたような衝撃が私達を襲った。

 四人でしりもちをつきながら周囲を見渡すと、目的地の城が遠くに見える小高い丘に出ていた。


「何があったんだ?」


「エルンさんの魔術のでしょう。多分、空間移動による侵入を防いでるんです」


 疑問を口にした束錬さんにそう伝える。事前連絡がなかったので解除していなかったんでしょう。

 空間転移の干渉は私が起こしている現象への介入ですから無効化出来なかったのも有りますね。


「じゃあ、どうするんだ?」


「この際観光気分で陸路にしちゃいましょう。いざとなれば車を馬車に見せることも出来ますし」


 それに、空間転移への干渉術となるとなんとなく複雑そうな気がしますし、解除の手間を取らせるのはなんだか悪い気がするので。

 というわけでこの一行は陸路を行くことになりました。教会なんかを観光しながら、行くことにしましょう。



    ****


 陸地に上陸し、数十分。能力に強い魔術師であると調べがついた『七日の魔女』とやらのところに行く途中に出会った親切なオッチャンに、馬車に俺は乗せてもらっていた。


「あんちゃん、あれがあんたの言ってたところだよ」


 朗らかな声でオッチャンが魔女がいるという建物を指差す。さて、指の先にはどんな豪勢な建物が……と期待してみて、拍子抜けした。家……とも言いづらい掘っ立て小屋がポツンと建っているのだ。


「オッチャン、間違いじゃないか?」


「ええ? 間違っちゃ無いぜあんちゃん。あんな立派な城は魔女さん以外は王様ぐらいしかおらんよ」


「はい?」


 この話の食い違いはどういうことだろうか? まぁ打倒に考えて魔女の細工といったところだろうが。それでも一体どんな細工なのかが疑問だ。

 まぁ、何にしても、ここが魔女の家というなら改めて調べるのも面倒だし、納得するのがいいだろう。


「わかったよ。オッチャンありがとう」


「あいあい、あんちゃんも元気でな」


 オッチャンはにこやかに俺に手を振ると、ゆっくりと馬車で進んで見えなくなっていった。

 さて、この掘っ立て小屋、仕方ないから普通に入口から入るしか無いだろう。

 深呼吸を一つして、ドアを三度叩いてみる。しばらくして戸が開くと、中から声が聞こえた。


「待ってたわ。さぁ入って」


「わかってたんだ。じゃあ、遠慮なく」


 誘いに乗って掘っ建て小屋にゆっくり入ってみる。中も普通の小屋としか見えない。

 声の主は何処だろうと周囲を見回していると、床の一部が消え、代わりに下りの階段が出てきた。


「なるほど、本拠は地下ってわけだ」


 階段を、降りていくと。広い円形ホールのような場所に出た。付いている明かりは蝋燭ではなく魔術の光のようで、地下のはずが暗さを感じない。

 ホールの向こうに、彼女は立っていた。


「ようこそ、歓迎するわ。ヘルフェリー・ノーレッジよ……フェリーって読んで頂戴。海獣倒しさん」


 紫の瞳と、同色の髪を首まで垂らしたおとなしそうな女性。ヘルフェリー・ノーレッジは、微笑みながら俺にそういった。





「あんな派手で強力な技。久々に胸が踊ったわ」


「なんだ、あの時から見ていたんだ」


 彼女に案内されて地下の家を進み、暖炉の有る小部屋へと来た。

 俺の戦闘を見ていたという彼女は胸が踊ったという気持ちをキラキラと輝かせた目で存分に語っていた。


「ええ。私は広範囲に大規模な波や熱を感知する結界を張っているから」


 俺が来ていることを察知した理由を彼女は楽しそうに話してくれた。

 俺自身を探知するのではなく、俺の技による影響が彼女に伝わったのか。


「へぇ、じゃあ、近辺で起こった災害なんかも?」


「当然把握できるわ」


 これまた便利なものである。


「仕事は?」


「王族直属の魔術師長として、まぁ便利屋ってところね」


 彼女はお茶を俺に差し出しながらそう答える。

 王族直属ということはかなり凄いんでないだろうか。と、そんなことを考えたが、それが伝わったのか彼女は「あなたが思っているほど王族直属は凄くないわ」と首を振った。


「王族直属は、城がぶっ壊せるくらいの中堅でも取れるものよ。転覆されないためにね。

 渡されるのは土地とお金。まぁ、そのおかげで魔法使いは気楽に研究ができているから不満はないわ」


 なるほど、ウィンウィンというわけだ。

 魔法の研究なんかとなると金がかかりそうだし、それを援助してもらえるのだから特に不満もない。国からしても、いざとなればその魔法で助けてもらえるのだし構わない。上手く出来ているものだ、本当に。


「ふーん。でも、長ということはそれでも強力であることに変わりはないんじゃないか?」


「ええ、まぁそれなりに強いとは思っているけど……でも、それなりよ」


「へぇー」


 彼女は俺の質問に快く答えてくれた。しばらくして、話は俺に対しての質問になっていった。


「なるほど、若干の神聖な力の跡があったのは同伴者に東方の神様がいたからね」


「向こうでは結構強力な武神なんだ。まぁ土地を離れているから弱体化してるが」


 フェリーは俺から聞いたことを羊皮紙にメモしながら次々と質問をかけてきた。


「そうそう、他にも残ってた別の力の痕跡があったわね。アレは?」


「ああ、俺の知人と娘の力だね」


「娘さんの歳は?」


「一応、知能には十歳そこら。自然発生の生命だから、実質二年たつかたたないかくらいだ」


 飛んだ規格外ね、なんて言葉が聞こえてきた。同感だがな。


「あなたが戦っていた時ってどんな術を使ったの?」


「ああ、あれは術じゃなくって技能とかのレベルのものだよ。魔術のたぐいではない」


「魔術を介さない特殊技能。悪魔や天使みたいな力ってことね?」


「うん、そう思ってくれて構わないよ。人間なら超能力だ」


「そうなの」


 彼女の質問っ攻めは長く続き、彼女の気の澄んだ頃には羊皮紙のメモは束になり、彼女の表情はにこやかだった。


「知らないことがたくさんあって楽しかったわ。好奇心が満たされるって幸せ」


「それは、お役に立てたようで」


「ええ、とっても」


 笑顔の彼女は何杯目かになるお茶を飲み干すと、少し待っていてと言って奥の方からなにか分厚い本を持ってきた。


「ここからはお礼よ。あなたの力を知ったんだし、私の研究成果も教えてあげる」


 彼女が見せてくれたのは彼女の研究の全てだった。

 目の前に写された日月火水木金土の七つの曜日。その周りをグルグルと術の文字が回転しながら浮遊し、彼女の声がその一つ一つを説明していく。理屈はともかくとして、彼女の魔法の特性はこの曜日に沿った属性の魔術。東洋の五行に日月の二つを足した魔術。東洋魔術を利用した西洋魔術といったところか。


「東洋の五行を教えてくれたのは尻尾と耳の生えた東洋魔術の使い手だったわ」


 なんかどこかで聞いたことが有る人物である。

 その人物から教わって彼女は今の魔術を考案し、目の前のものを作り上げたそうだ。


「一週間の日にちと同数の魔術を使う私を『七日の魔女』と人は言うわ。

 あらためて、よろしくね東洋の超能力者さん」


 魔女は笑う。その好奇心を目に灯しながら。

 その、好奇心に満ちた目を見て思う。暇なしになりそうだなと。

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