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東方兄妹記  作者: 面無し
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イサの見た怪物

 西に行くに当たって、移動手段として選んだのは船だ。音速飛行機では見逃すだろうし、遊びの要領で作った広域妖力探知レーダーの試運転も兼ねて、ゆったり揺られながら西の大陸の妖怪や悪魔たちを見ていこうと思ったのだ。現在はインド洋のあたりをぶらぶらしている。

 今のところ、俺の興味を促すような強力な反応はない。いや、鳴りを潜めているというのが正しいのかもしれない。国下や天が己の妖力を圧縮して人間に化けていたように、あの二人レベルの強力な妖怪であれば、人間に人外であると悟られずにいることも可能だ。このレーダーに映らないほど妖力を圧縮してカモフラージュしているんだろう。強力な力は他との争いの種にもなったりするし、そこら辺が関係しているのだろうと思う。


「でも、楽しくない」


「兄さん、自分で探したら見つかりますよ?」


「うん。わかってはいるんだけどさ。やっぱり能力で簡単に色々できるのは味気ないからね」


「戦闘の時も縛りが基本ですもんね」


 姫ちゃんの究極にして最高のお膝の上に乗りながら姫ちゃんとそんな風に会話する。現在、俺の飲んだ子供薬の影響は少し抜け他程度だ。外見的には小学校三年生程度。姫ちゃんを膝に載せられるようになるにはあと五年分ほど抜けて欲しいところだ。


「でも、こうも出てこないと縛りも外したくなってくるよ。

 せっかく中国だって全域入るように試行錯誤を重ねて調節したのにさ」


「他の妖怪さんも大変なんですよ。わかってあげましょう。

 最終目的地はヨーロッパの方ですし、そこまでいけば何かありますよ」


「それならいいけど……あれ? 他の三人は?」


「ああ、あの三人なら船室を見学してくるって言ってましたよ」


「ああ、またか」


 今回の俺達の娘の呼白、そして連れの須佐之男と束錬。この三人は俺の作った船に驚愕してわいのわいのと毎日のように機械部分を見てはしゃぎまくっていた。男二人は初めて見る科学の力に、愛娘は術式と違う方法で動く機械達に興味をもったようで、三人で仲良く機械を見て回っては俺にあれやこれやと質問を投げかけてきたりしている。

 呼白は須佐之男と束錬によくなついている。特に束錬は『たばさん』なんて呼んで肩車してもらったりおんぶしてもらったりなんだりと色々かまってもらっている。……俺はやらせてもらったことがないからかなり羨ましい。あの子はまだ俺達二人を両親として呼ぶことが恥ずかしいらしい。長く待つことは構わないが、早めに呼んでほしいものだと思う。

 さて、現在のヨーロッパは中世少し前程度の頃だろう。西ローマ帝国が滅亡するまで、あと六十年程だと考えていい。キリスト教が宗教だから、悪魔やそれに関するものたち、例えば魔女や黒猫、ジャックはここらへんの出身だし、ガーゴイルなんかはここらへんの妖怪だ。エルンはおそらくここにいる。この予想は勘だが、高矢の爺さんにもいるかいないかを勘で当ててもらったので間違いはないと思う。


「ヨーロッパに行く前に海の妖怪なんかを一匹釣り上げてみたいところだよね」


「兄さんのお好きなようにしていいですよ。私の兄さんなら万事大丈夫です」


「じゃあ、お言葉に甘えてやっちゃおうかな~」


 いい加減に音も発さないレーダーに飽きてきた俺は、姫ちゃんに誘発されて能力で溶解を探すことにした。ここらへんの海の妖怪、怪物といいえばクラーケンやあたりが王道だろうか。この地域だし、人魚とかウンディーネなんかもいいだろう。まぁ、何にしても釣り上げることに変わりはない。俺は空間倉庫から釣り竿を取り出し、能力で改造をする。


「強力な妖怪を探知、捕獲する技『強者必縛』」


 俺の言葉に合わせて釣り竿は青い光を薄く放ち、釣り針は震えたかと思うと海へと飛び込んでいった。しばらく待っていれば勝手に引っかかってくれるだろう。


「待ってる間はお好きなようにってかんじだね」


 姫ちゃんの方を見てニヤリと笑うと、それに乗るように姫ちゃんも笑みを返してくる。


「じゃあ、昼酒を楽しむなんてチョットいけないことをしてみませんか?」


「いいね、さすが姫ちゃん。酔った勢いでイチャイチャしちゃおうか」


 会話に意識が入っていき、周りがどうでも良くなってくる。二人で体を揺らしながら、相手の頬に額に唇に自分の唇を代わる代わる落としていく。二人だけの世界は歯止めが効かなかった。


「もう、兄さんったら」


「一月に一度って決めてたし、日にち立ってないけど……大丈夫?」


「ええ、構いませんよ。この間見たく。好きなだけかわいがってください」


「言ったね? 後悔しても、遅いから」


「大丈夫ですよ兄さん。兄さんとなら後悔なんて……」



    ****


「うわぁ」


「たばさん、見えないです」


「見ちゃダメだよ。子供が見るもんじゃない」


船の奥から出てきて、二人が何しているのかと思ったらこれだ。しかも昼間からで、目隠しもなしとはいつものことだが、今回のあれは行き過ぎてしまうんじゃないだろうか。と、そう思ったところで目隠しと防音が駆けられた。あの二人も俺達に気づいたのかもしれない。呼白ちゃんの教育上とても良くないだろうし、目隠しは必要だろう。

 目隠しが掛かったのであたりを見回してみて気づいた。船のヘリに淡く光る釣り竿がかけてある。どう考えたって零の用意したものだろうが、何の効果があるのかわからない。釣り竿だし魚がたくさんかかる効果とかでも付いているんだろうか? 予想しても考えつかないので隣の神様に聞いてみる。


「須佐之男さん。あれ何だと思います?」


「あの釣り竿か? 光っているということは零が何かしたな。

 零がこの暇な状況でやるとしたら妖怪を呼ぶことだろうし……」


 顔を見合わせて頷く。


「厄介ですよ。俺達で対処できるのがくるかわからない」


「最悪の事態があるかもしれないってことか。

 もしもの場合、俺達よりも呼白ちゃん優先で大丈夫かい?」


「いいですよ」


 呼白ちゃんを呼んで事情を説明し、俺と須佐之男さんの結界で周囲を囲っておく。自分の霊力にやっと慣れてきたところで、俺のはまだまだ強度が心もとないのだが、須佐之男さんはさすがの神力でそれを補填してくれた。これなら安心できる。

 今回の戦いで問題になるのは場所の方だろう。装備に関しては、俺は呪符意外には特に無いし、須佐之男さんも、前回折れた天叢雲剣は零によって修理されている。よって、装備に問題はない。が、場所は悪い。まず、船の上でただでさえ狭いのに、呼白ちゃんと零によって場所が取られている。相手が巨大だった場合は逃げ場がないし、小型の場合も、呼白ちゃんがいる分こちらは好きな様に動けない。

 

「何にしても、一番いいのは呼ばないことです。はやめに回収しましょう」


「そうだな。零のことだ。万が一もある」


 そう言いながら近づいたその時、竿が強く光りを放ち上空へ飛び上がった。竿の先から伸びた釣り色が海からどんどん回収されていき、その先にいたのは……


「ああ、零の言葉を借りるなら『ふらぐを回収した』というんでしょうか?」


「だろうなぁ、どう見たって普通の生き物じゃないもんなぁ」


あまりにも大きな生物の口だった。魚のようだが、それとは少し違う鱗のある口は、その部分だけで俺達が乗っている船の何倍もの大きさだ。大きい、ただただ大きい。さすが零だと思う、こんなのは反則なもんだ。

 目の前の何かが動いた。海が、波が、船を大きく揺らし、高く高く空中へと放り投げる。咄嗟に霊力で船の床を貫き、取っ手にして体を固定する。空中から水平に着地した時、俺達の目の前の何かの顔をやっと全体として見ることが出来た。


「呼び出したのは君たちか。私に何のようだね?」


 そして、それは流暢にしゃべりだした。しかも、俺達に分かる言語で。空中に放り出され、なにか攻撃が来るかと身構えていた俺達はその言葉に言葉を失った。声は更に声をかけてくる。


「変な糸に引っ張られたと思ったらここに出てね。まぁ私は海を泳いでいるだけで特にやることもないからかまわないのが、それでも呼ばれた理由ぐらいは聞きたくてね。

 どうして私を呼んだのかな?」


「あー、私達が呼んだんじゃなくてお父さんたちが呼んだんです。

 用事はよくわからなくって……ごめんなさい」


 言葉を探しあぐねている俺と須佐之男さんの後ろから声が上がった。

 呼白ちゃんが頬を書きながら目の前の何かに向けて声を返した。流石あの二人の娘だ、肝が座っている。普通のこどもだったら腰を抜かしてべそでもかいているところだ。

 何かは呼白ちゃんと会話を続ける。


「そうか…ぬしらが呼んだわけではないのか。ならばしかたないなぁ。

 まぁ人と話すなんて滅多になくてね。しばらく付き合ってもらえるかい?」


「あっ、はい。お話の相手くらいならいくらでも」


 そんな風に彼等はほんわか雰囲気で話を始めた。

 取り残された俺達は顔を見合わせ、元凶のいるであろう場所を見、また顔を見合わせ、ため息を付いた。目の前の何かがわからないこと、状況が変わりすぎて疲れたこと、二つに息が出た。


「なんて名前なんですか?」


「私かい? 人は私を『バハムート』と呼ぶよ。お嬢さんは?」


「わたしは呼白と言います。バハムートさんですね。よろしくお願いします」


「ああ、よろしく」


 ばはむうと。というらしい彼は楽しそうだ。手持ち無沙汰なまま空を見やる。空はいつもと変わりなくどこまでも平和で、今の俺の心情のように透き通るように青かった。



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