表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方兄妹記  作者: 面無し
73/138

須佐之男

 大和の国、いや、形式上の領土なのだから本当は諏訪の国というのが正しいか。

 大男大会の会場として使った諏訪神社の境内。そこに、またしても大きな舞台ができていた。

 その上には筋骨隆々にして、くせ毛で縮れたロングヘアーの男が鼻息を荒くしながらキラキラした目で何かを楽しそうに待っている。

 たぶん、あの男が須佐之男なのだろう。俺と戦うのがそんなに楽しみか。

 鼻息あらく待っていてくれるのはいいのだが、今の俺はどうにも期待はずれではないだろうか。

 どう見たって年端もいかないこの姿。中身が普段の俺でも外見が伴っていなくては悪いだろう。

 大丈夫なのかと俺を連れてきた諏訪子達を見やって見るが、彼女らは「大丈夫! 行け!」とばかりに親指を上げてサムズ・アップしている。

 気が乗らない、ほんとうに気が乗らないが、行くしか無い。

 一度大きく深呼吸をすると、体を限界まで強化して、一気に空へ跳び上がる。そのまま舞台めがけて急降下し、ドンッとド派手に音を鳴らしながら着地をした。

 目の前の男は突如年齢に似合わない現れかたをした幼子に目を見開いた。

 俺は、できるだけいつもの雰囲気を出せるように勤めながら、声変わりしていない高い声をできるだけ低くして男に語りかける。


「よう、あんたが須佐之男か?」


 男は外見に似合わない雰囲気に驚いたのか返答が少し遅れた。

 そして、遅れた答えはあやしむでもなく外見相応の子供に話す言葉だった。


「おうとも、俺が須佐之男だ。

 なかなか派手な登場だったな童子わっぱよ、悪いが俺はここで人を待っていてな。遊んでやれんぞ?」


「悪いが俺があんたの待ち人だ。

 訳あってこんなナリしているが、俺が神谷零、あんたに戦いを挑まれたものだ」


 男は俺の言葉に一瞬固まり、その後半ば呆れ顔で返してきた。


「冗談だろう?」


「冗談かどうかは戦えば分かるさ」


 呆れた声に不敵な笑みで返してやる。

 すると、男は遊んでやるとでも言わんばかりに指で誘ってきた。

 だから、乗ることにした。


「せいっ」


「ぬお!?」


 俺の足払いは、外見で油断していた須佐之男の足を余裕で掬い上げ、地面に倒れこませる。

 そして、倒れこむ須佐之男の顔面に、油断したバツとして蹴りを入れて吹き飛ばしも追加する。

 須佐之男は顔面への蹴りで縦にくるくると回りながらにバウンドすると、壁に派手な音を立てて激突した。

 吹き飛んだ男に挑発する目的で俺は言った。


「弱いのに手加減なんてしようとするからそうなるんだぜ?

 言ったろ、俺が神谷零だって、全力で来い」


 吹き飛んだ須佐之男は、口を開けた間抜け顔で俺の台詞を効いていたかと思うと、急に楽しそうに豪快に笑い出した。

 そして、一頻り笑うと、体制を建て直して一度頭を下げこういった。


「力量を見抜けず、油断し、無様を晒した無礼をお詫びする。

 今一度、天の下で手合わせを願うことを了承してもらいたい」


 丁寧な言葉、俺もそれに丁寧に返すことにした。


「訳あっての外見、見抜けずとも無理はない。非礼ではあるが、許しましょう。

 また、この天の下、その手合わせを受けさせてもらう」


 須佐之男を眼前に据え、舞台の真ん中に立つ。

 自然と、二人の口から交互に、大きな名乗り声が出た。


「我は大和の神にして、八岐の大蛇をくだせしもの!

 今、この諏訪の国に強者ありと聴きて、勝負せんとここに立つ!

 我が名は須佐之男!」


「我は世を渡るものにして、人の身を超えるもの!

 今、大和の国より強者来たりと聴きて、勝負せんとここに立つ!

 我が名は零!」


 名乗りが上がり、二人の目線が重なって、同時に叫んだ。


『尋常に、勝負!』


 先手を打ったのは、須佐之男の拳。おそらく誘いの一手として打ってきたであろう軽いが遅いそれを、俺は受けてやると返すために、拳を受け止めた。

 須佐之男は、受けた俺の腕を、待ってましたと言わんばかりにもう片方の腕で掴むと、空中へ放り投げた。

 おそらく、この後は腹部あたりに一撃が来るはずだ。俺は空中で身構えた。

 須佐之男は、俺の予想通りに拳を放ってきた。予め予測していた俺はその手を受け止め、拳を支点にして須佐之男の顔面に向けて膝蹴りを放ってみた。

 須佐之男はそれを受け止めると、押し戻すように俺を放り投げた。距離を取るつもりらしい。

 空中を飛びながら、能力を発動する。今は通常の十倍程度の強化。それを百まで引き上げることにした。理由は…面白そうだからだ。

 受け身をとって舞台を転がる。体制を整える間もなく、俺は須佐之男に向けて加速した。

 加速のために踏み抜いた足が、舞台を作っているご神木をギシリときしむ、まさしく一瞬で移動した俺は、須佐之男の腹部に向け、速度に任せて一撃を打ち込んだ。


「な……えっ!?」


 俺の急な加速に、衝撃でむせ返しそうな須佐之男が目を見開いたのが見える。

 まだ彼からの対応はない。俺はそのまま二撃目を打ち込む。グシャリと何かが潰れる音が聞こえた気がする。

 次で決めるつもりで跳び上がり、二撃目のダメージで怯む彼の頭を蹴りぬいた。

 が、彼は動かない。俺の攻撃が効いていない。威力が弱すぎた。

 何かが潰れた気がしたが、アレは俺の拳だったようだ。指が、ひしゃげていた。

 須佐之男の手が俺の顔面に近づく。 

 あわてて須佐之男の肩に向けて足を振りぬき、その反動で宙に浮き、距離をとった。

 須佐之男は腹をさすりながらゆっくりとこちらに近づいてくる。

 俺は、すでに完治した拳を見て、痛覚遮断を使っていてよかったと思った。もし痛かったりしたら、あんな状態ではまともに戦えなかっただろう。

 須佐之男の戦い方がわかった。自分の驚異的な耐久に任せたゴリ押しがこいつの戦い方だ。一撃目の誘いはまだしも、その後宙に浮かせるのは間違いだ。国下や爺さんなら地面に叩きつけているはず。

 相手が衝撃で怯む分、そのほうが得なはずだ。それをしないということは、戦闘技術はそれほど鍛えられていないということ。

 技術がないが、身体能力は高い。それは、ずいぶん俺に似ている。

 俺の場合は耐久力ではなくて回復力だがな。そして、俺のほうが速度が早い。

 眼前にまで来た須佐之男が拳を振る。が、その拳はずいぶんと遅い。威力はあるが、速度はない一撃。

 その拳を受けた俺は、拳の勢いを殺さず、俺の後ろへ流した。


「うおっ!?」


 須佐之男が自分の拳を止められずに前のめりになる。その腹部を思い切り蹴りあげた。

 が、男は吹き飛びすらせず、代わりに、俺の足の方からベキベキと嫌な音が出た。

 これでは相手に効いているはずがない。もう一度距離を取ろう。そう考えて、蹴り足とは逆の足で後方に跳んだ。

 開けた距離を詰められないように気をつけながら、須佐之男に話しかけてみる。


「あんた、ずいぶん頑丈な体しているんだね」


「そういうお前は、ずいぶん回復が早いんだな」


 お互いの顔を見合わせてニヤリと笑う。お互いに負けるつもりはない、そう感じられた。

 今の現状、俺のほうが不利だ。いくら攻撃しても、効かないのであれば勝つことができない。

 それの一番の原因は子供化だろう。五歳の力と十六歳の力では違いがありすぎる。それに、体の耐久度にしても十六歳のほうが強いはずだ。

 負けはしないが、勝てないぞ。

 少々焦る気持ちを見せないように、会話を続けることにする。


「これでもずいぶんと生きているんでね。色々と体に細工がしてあるのさ」


 なんでもないことのように言ってみると、須佐之男はにんまり笑ってこういった。


「人の身でありながら、人を超えた存在といったところか。

 これは、今日はずいぶんと珍しいものと戦える日だな。嬉しいよ」


 今まで反則だとか言う奴が多かったので、こういう反応は嬉しい。

 俺も、自然に笑顔になっていた。


「俺もあんたみたいな珍しい戦法のやつと戦えるなんて、嬉しいね」


「それで、今までので全力と見ていいかな?」


 須佐之男は探るように言ってきた。

 隠す必要はないので、正直に話すことにする。


「うーん、すごく不本意ではあるが、今の体術は先ほどのが限界だね」


 俺がそう言うと、須佐之男は「なるほど」と短くいい。少し考えた後言った。


「ならば、この状況、俺が負けることはないということか。

 そういえば、聞いていなかったが、武器などの使用はどうなっている?」


「どちらでも構わない。が、武器を使用すると、俺が勝つ可能性が出てくる」


 それを聞いて、須佐之男は顔を輝かせて言ってきた。


「ならば、武器をつかえるようにしよう。負けない戦ほどつまらないものはないからな。

 お前の更なる力を、俺を超えるかもしれない力を、俺は見たい!」

 

 自分から負ける要素を作るやつを久々に見た。これは面白い。


「いいとも、とっておきで相手をしてやるよ」


 両手を合わせ、能力を発動する。空間倉庫から四本の剣を選択し背後に浮遊させる。

 そして、一本の黒刀を取り出し、五歳の自分では身の丈ほどもあるそれを構える。

 須佐之男は、俺の姿を見て更に顔を輝かせた。そして、「自分も」と言って両手を打つ。


「今ここに、大蛇の尾より出たる剣を召さん!」


 そう叫んだ須佐之男が、合わせた両手を空へ向けた。

 すると、空は雲に覆われ、周囲に稲妻が走り、須佐之男の手に光が灯った。

 そして、その光が消えた時、須佐之男の拳には白く光る白銀の剣が握られていた。

 あれが、天叢雲剣だろう。天を操る神剣、おそらく、剣事態の威力もお墨付き。

 顔がにやける。俺は意図せずして叫んでいた。


「いいねぇ、戦おうよ! 今日は楽しめそうだ!」


 二人は同時に、駆け出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ