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東方兄妹記  作者: 面無し
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続・子供薬

 淡雪を巻き込んだ一件から数ヶ月。特に厄介な事件はなく、俺は妖精の国での生活を謳歌していた。

 ただ、事件はないが、暇な間に能力を使ったりしてわかったことはいくつか有る。

 まずは、呼白についてだ。前回の一件で俺の空間から抜け出したりしたことや、術式の習得が異様に速いことに疑問を持って調べたところ、端的に言えば、月に逃げていった都市の人間に近い生命であることがわかった。

 まぁ、これだけなら特に驚くことでもない。いつかは地上に存在する穢れによって、寿命ができ、普通の人間になる。しかし、そうは行かないから驚くことなのだ。

 呼白は、汚れに対して異常な耐性を持っていることがわかったのだ。いや、耐性というのは少々違うかもしれない。怒っていることを性格に話せば、彼女に入り込んだ穢れは入ったそばから浄化される。

 それがどういうことかというと、彼女には実質の寿命がほぼないに等しい。そして、彼女に入った穢れが自動で浄化されるので、穢れを扱う前回の蛇に対して、ほぼ無敵の強さに有ることがわかった。

 ただ、だからといって戦わせるわけがないのだが。

 さて、いくつか話したところで俺の状況をわかってもらうことにしよう。俺は今、諏訪子、神奈子、そして、高矢のじいさん(もう爺さんのが意見ではないが)から全力で逃げている。

 理由は簡単だ。


「零はどこかなー? 美味しい子供薬があるんだけどなー」


 そういうことだ。俺を子供にして、色々といじくりまわしたいらしい。

 因みにクスリの入手経路は、姫ちゃんかららしい。爺さんに使ってイチャラブすると言ったらしい。美味いこと言うもんだ。

 高矢の爺さんがいる以上。能力を使わずに動くのは危ない。術式の隠蔽で先回りされるのも気を付けないといけない。


「厄介とは言わないが、面倒だよ、まったく!」


 追手の連中を能力で探りながら森を走る。速度は加減していないので車並だ。

 こんなことになったのは、姫ちゃんが俺が永琳製の子供薬の時の話をしたからだ。

 走りながら上空を見ると、追手の一人である諏訪子の鉄輪が迫っていた。


「せいっ!」


 気合の声とともにそれを迎撃し、周囲へと注意を巡らす。背後から一人分の気配があった。

 迎撃しよう。俺はそう考えて、霊力を腕に這わせた。

 そして、背後から飛んできた爺さんに向けて正拳を放つ。

 が、渾身の一撃は、予測していたと言わんばかりの身のこなしで躱され、首をつかもうとする手を間一髪で払って、また走りだした。

 背後の爺さんに向かって言い放つ。


「神霊化してハッスルしてますね!」


「ああ、爺の頃に比べてずいぶんと見が軽いよ!」


 背後から聞こえる爺さんの声は雰因気は変わらないがずいぶんと若い。それも当然神霊化した時のが意見は二十そこそこだったのだから。


「それで、俺を捕まえに来たのだけが今回遊びに来た目的ですか?」


 追いかけっこなら俺が遊びに来た時にすればいいのだ。わざわざ来たというのだから何かあるのだろう。

 爺さんは俺の言葉にすぐに答えた。


「実は大和の神から伝え事があってね。君が喜びそうなものだよ」


「俺に挑戦者が現れたとかですか?」


「ああ、そんなところだ。相手側のトップだった天照大御神を覚えているかい?」


「ああ、あの赤髪の神様ですね」


「ああ、彼女の弟が君に挑戦したいらしい。名前は…建速須佐之男命だったかな」


 スサノオ…漢字表記ではたくさん書き方が有る神様だ。たしか、八岐の大蛇を倒した神で、三種の神器である草薙の剣の最初の持ち主だったかな。

 草薙の剣はスサノオから天照に献上されたらしい。

 まぁどちらにしろ、荒っぽい神であり、大蛇を倒しているから武神としても力があるのではないだろうか。

 酔わせて殺すというのもまた戦略だといえるしな。


「それで、予定はいつ?」


「天照さんとは仲がそこまでよろしくないらしい。早めにしてくれとのことだ」


「分かりました。では明日にしますね」


「わかった、後で伝えておこう」


「じゃあ、今は」


 爺さんが速度を上げる。俺もそれに合わせて速度を上げ……用としたその時。

 カチャンという小気味よい音とともに俺の足が止まって動かなくなった。

 足首を見て納得する。金属製の罠が足首をがっしりと掴んでいた。今の俺の脚力を耐えているのだから、神力でも流し込まれた特別製だろう。


「王手です」


「まさか事前に通るのを予測してたとか?」


「勘でね」


 爺さんが気持ちのいい笑顔をしながら肩を叩く。

 彼のその後ろから、明るい笑顔の裏に黒い何かを漂わせた諏訪子が現れ、手に持った薬瓶を俺に投げてよこした。


「観念して、飲んでくれるよね?」


 従うしか無いらしい。「ままよ!」心で叫びながら俺は瓶を飲み干した。

 そこから先は、明日の朝まで記憶が無い。



   ****


 姫ちゃんから手に入れた子供薬、作ったのは月に移住した永琳という人らしい。

 薬の効果は抜群だった。一気に飲み干した零は一気に身長が縮み。あっという間に六歳ぐらいの外見になってしまった。

 どうしていま自分がここにいるのか理解できないようで、周囲をキョロキョロと見回した後、私と高矢に向かって言った。


「僕のお家しらない?」


 首をひねりながら言ったその言葉に私は胸を打たれてしまった。

 あの零が小さくなるとこんなに可愛くなるとは思わなかった。あまりにも可愛らしい。いつもの面白ければ迷惑を考えない彼を見ているからか、純粋そうな目をした目の前の少年が普通の三倍増くらいで可愛く見えた。

 そして、思わず私はまだ柔らかい体を抱きしめた。


「可愛い! 高矢、この子かわいいよ!」


「どうしたのお姉ちゃん?」


「はうあっ!」


 可愛らしい疑問の声に胸を締め付けられるような感覚に陥る。そうだ、この感覚を私は知っている。ちっちゃかった頃の高矢にも同じ感覚がしたんだ。

 姫ちゃんによれば、これはときめきというらしい。そうか、これがときめき……これが、愛!


「なんでもないよ! 零くんが可愛かったから抱きしめちゃっただけだよ!」


「そうなの? えへへ、僕可愛い?」


「可愛い! かわいいよ!」


 小さい頭を撫でくりまわしながらそう叫ぶ。

 溢れる気持ちが抑えられなかった。


「可愛いって言ってる諏訪子も可愛いけどね」


 が、高矢の一言によって溢れる気持ちは一気に飲み干されてしまう。

 ついでに、歳柄にもなくはしゃいでいたのを高矢に指摘されるという恥ずかし事態を、ふたりきりならまだしも公衆の面前で晒していたというのを思い出して、私は一気に顔を熱くした。

 そして、恥ずかしさから逃れようと零を抱いていた手を放し、変わりに手を握って喉からたった一言声をひり出した。


「お姉ちゃん零くんのお家知ってるよ。行こうか、零くん」


「うん!」


「ほほえましい。まるで姉弟みたいだ」


 高矢が珍しいものでも見るように呟いた。

 忘れているのだろうか、以前にこうしていたのは自分だったのに。

 後で追求してやろうと思う。





 小さくなった零くんを諏訪子と二人で挟んで歩く。目指すのは淡雪くんの家だ。

 はしゃぐ零くんを見ながらふと思いついたことを諏訪子に言ってみる。


「子供、ほしい?」


「ふえっ!? 急にどうしたの?」


「かわいいかわいいってご終身のようだからね、欲しくなったのかと」


 真面目な顔してそう言うと、諏訪子は顔を赤くし、頬を掻きながら答えた。


「子供ねぇ、欲しいか欲しくないかで言われると欲しいよ。

 でも、私達まだ新婚だし、もう少しはふたりきりのほうがいいかなぁ。

 それより一つ言うとしたら、いくら零だからって、子供の前でする話じゃないと思うんだけど?」


「中身はもう子供じゃないから気にしなくていいぜ」


『えっ?』


 零くんから聞こえた声に、諏訪子と驚きの声が重なった。

 そのまま手をつないだ零くんを見て見ると、普段の彼と同じどこか不敵な目がそこにあった。


「精神面が幼児化するのは一定時間だけらしいね。

 子供がほしいとかなんとか聞いてたところから全部聞かせてもらったぜ」


 いいことを聞いたとでも言いたそうな悪い笑みを浮かべる零くん。

 そして、それを聴いた諏訪子は耳まで赤くなって固まってしまった。


「爺さん」


「ん? なにかな?」


 零くんが今度はこちらに向けて笑みを作る。


「夫婦生活、頑張ってね☆」


 一瞬わからなかったが、すぐに合点がいった。


「うん、頑張るよ」


「あっ、諏訪子よりも耐性があるとは、大人~」


「諏訪子は純情だからね、からかわないであげてくれよ」


「ちょっと高矢! 恥ずかしいから言わないでよ!」


 うんうん、子供はいいかもしれない。頑張ってみることにしよう。

 そんなことを思いながら零くんを見て思い出す。なぜ彼は戻っていないのか。


「零くん、元には戻らないのかい?」


 それを聞かれた零くんはマズいことを聞かれたというように苦笑いし、答えた。


「いや、なんでかしらないけど戻れなくてさ。

 スサノオと戦うのこの姿になっちゃうね」


『えっ!?』


 私と諏訪子の間抜けな声が森に響いた。

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