VS紫
今回は身内同士のバトルなので、
スピード感はそんなに無いかと思います。
が、今回も楽しんでいただければ幸いです。
「やっぱり強すぎよ」
空の上、零の放つ霊力弾と実弾の嵐をかいくぐりながらそう呟いた。
やはり、もっと能力に制限を加えても良かったかもしれない。
私と出来る限り同等になるように制限をつけたと思ったが、
さっきから霊力弾と弾丸が切れる様子がないし、まだ甘かったようだ。
私もさっきからスキマで囲んでは一斉射撃をしまくっているが、
一向に当たる気配がないどころか、楽しまれている節さえある。
「あーやばいわー死にそうだわー」
いかにも作っているであろう棒読みと、
私の攻撃をそよ風だとでも思っていそうな笑みを零は浮かべている。
戦いとはいえないかもしれない。彼は完全に遊び気分にしか思えない。
零と別れてから私もずいぶん成長した。実力は並以上ではあるはずだ。
魔術の類はエルンに教わったし、幽香に協力してもらって能力も扱えるようにした。
もう一度言う。自分で言うのは何だが、これでも私はかなり強いほうだと思う。
それを、それを、こうも簡単に超えてくるのか、このチート男は!
「どんだけチートであれば気が済むのよ!」
「おいおい、お前の制限にそって戦闘してんだぜ?
いつもの数万分の一の戦闘力だし、チートじゃないだろうよ」
「それが言えるのは私が知るかぎりはあなたの三弟子くらいのものよ」
おそらくだけれど、あの覚り妖怪の黙視では敵わないと思う。
次の攻撃をすべて予測できても、それを避けるのはむずかしいだろう。
現に、物理攻撃を吸収して無効にする輩でギリギリなのだ。
おそらく、と言うか絶対に、私と黙視では零に勝てない。
「いやいや、そんなことはないぜ。いつだって勝機はあるもんだ。
紫は頭がいいんだし、よく考えて見れば勝てるかもよ?」
「考える暇をくれないのは誰なんでしょうね」
「あら、これは失敬」
その余裕がどうにも頭に来る。ぶっ飛ばしてやりたい。
ならば、考えないといけない。零が使えない術式を利用して、
不意打ちまがいで直接ぶち込んでやるのがいいだろう。
勝てなくていい、引き分けにしてやる。
私はスキマに手を入れ、術符を取り出し妖力を込める。
直接的な効果があるものは零に当てないといけない。普通なら避けられる。
だから、これは当てなくてもいい広域捕縛術式。
転移が使えない今の零ならこれで無理やり捕まえられる。
「行くわよ」
「ああ、来いよ」
術式を発動すると、札が弾け周囲に黄色い捕縛の波が一気に広がった。
零は動かなかった。避けられないのをわかっているから動かないのか、
余裕だと考えているから避けないのか……おそらく前者だ。
彼は手抜きはするが、気は抜かない人間だ。
まぁ何にしても、
「捕まえた」
「捕まえられちまった」
零は余裕の笑みを崩さない。その裏では何を考えているのかわからない。
できれば何も考えていないでくれると嬉しいのだが。
さて、考える時間が惜しい、捕縛で一旦攻撃が止んだものの、
こちらの霊力弾は空間倉庫から飛び出す盾と、霊力を固めた壁に防がれている。
早めに一撃を与えるのが先決だ。ここで逃したらせっかくの術が泡になる。
足元と零の横にスキマを開き、術式用の札をひと通り掴んで零の横に降りた。
動けない零は霊力弾を空中で作って飛ばす器用な技をやったが、
私はそれをスキマに飲み込んで防いだ。
「くらえ」
霊力弾を防ぎ零に隙ができたところで、
札に妖力を込めて零の脇腹に札を押し付ける。
そして、押し付けた後はそそくさとスキマで距離をとった。
零のほうを見てまだ捕縛されていることを確認し札を発動した。
零の脇腹から閃光が走る。そして、そのまま札を中心に炎の球体が零を飲み込んだ。
赤い、太陽という表現が似合うであろう炎球は一瞬で燃え上がり、零を焼く。
今回の術は簡単、ただの一点集中破壊が可能な爆発だ。
私と同じ強度なら、一撃なら生きていることが可能だろう。
それに、零は不老不死だ。木っ端微塵になっても再生出来る。
そう、燃えているはずだ。
「燃えてる……はずよね」
私は声にだして確認することで違和感を消そうとした。
さっきから零の声が聞こえない、一撃耐えられるということは即死ではない。
どうして、声が聞こえない? あの中なら普通叫んだっておかしくない。
あの状況なら、燃えているはずだ。
「いや、そうとは限らんぜ?」
「っ!?」
背後からの突然の声に慌てて振り向く。
すると、そこには炎の中にいるはずの零がいた。
「どうして?」
「簡単だ。御札の張られた部分以外を全部空間倉庫に送っただけだ」
そう言いながら零は自分の空間に開けた穴からシャツを取り出す。
そこには脇腹の部分だけが切り取られ、ポッカリと穴が開いていた。
ナイフを円になるように配置して空間倉庫から出すだけ、
零にとって難しいことでも何でもなかっただろう。
やろうと思えば私にだってできる手だ。
「零は基本的に器用なのよね」
「そりゃあ長生きしてますからね」
長生きしてるどころのレベルではないと思う。
妖力弾を防いでいた霊力の壁も、ただ固めただけなら砕けるはずだ。
おそらく、一枚に見えたあの壁は数枚ほど重なっているはずだ。
「長生きなら小細工しないで勝てるでしょうに」
「いやいや、小細工しない俺なんて虫みたいなもんだぜ。
それに、小細工は俺のアイデンティティだからな、無くすと俺じゃないぜ」
零とともにお前がチートだいやそれはないとかと会話している間に、
私は隠れてスキマから御札を取り出して妖力を込めていた。
先ほどの札が防がれたなら仕方ない。今度は空間倉庫内から破壊する。
「じゃ、続きをやりましょうか」
「おう、いいとも」
二人で距離をとって、攻撃を再開する。
妖力を込めた御札を妖力弾に見せかけて零に放ち、彼の近くで起爆させる。
今回のものは先程のものに比べると威力が低いものだ。
私はその爆発する弾丸に一つだけ捕縛用の御札を紛れさせた。
先ほどと同じ手では通用しない、今回は少し変えることにする。
まず、零のことを紛れ込ませた先程と同じ捕縛術で捕らえると同時に、
空間倉庫内に逃げた時のため、周囲で開閉している空間の穴に札を入れる。
次に、零の脇腹に起爆用の札を付け、バレないようにスキマで背中にも札を付ける。
二枚では心もとないので、最後は離れたところから起爆の札を投げて爆破する。
空間倉庫内の札は広域爆破にするつもりだ。これならいくら広かろうが関係ない。
倒せなくても、武器に引火すれば向こうの攻撃は先程より少なくなるはずだ。
「うまくいきますように」
念じながら捕縛札を起動させる。
霊力団に偽装された札からの発動に、零は少し気を取られた。
先程と同じく動かないが、先ほどと違うのはよそ見をしてくれていることだ。
私はすぐにスキマを通じて空間倉庫の入り口に広域爆発の札を可能な限り詰め、
そのまま零の脇腹の位置まで移動して、彼の脇腹に札を付けた。
ばれない内に背中の方にも御札を押し付けてスキマで距離を取る。
「止め!」
私はそう叫びながら最後の御札を放ち、
零の眼前で起爆させる。燃え上がる炎は、今度は完璧に零を捉えた。
その証に、
「うわあああああ!!」
空間倉庫の入り口から零の大きな叫び声が聞こえている。
多分当たった、今度は当てた。絶対だ。
「私の勝ちよ」
ニヤリと笑いながら心のなかでガッツポーズをする。
これは勝った。あの三弟子より先に、零に勝った(まぁ手加減付きだが)。
よしよし、幽香やエルンにいいみやげ話ができそうだわ。
「そうか、それは良かったな」
そんな声とともに私の周囲に無数の刀剣が出現する。
私はその状況と、何よりもその声に青ざめた。
「負けてなかったの?」
「燃えたけど、負けてないぜ。
背中の肉の分くらいはダメージを受けたけどなぁ」
ゆらりと揺れる黒い炎のような声に、私は振り向けなかった。
背中の肉、つまり、自分で自分の悪を切り裂いたということなのだろう。
「痛くなかったの?」
「痛くないぜ、だって、麻酔は俺には鎮痛剤にしかならんからな」
不老不死とはなんともうざったいこういう時がうざったい。
ああ、この状況は覆せない。だって、私には痛み止めがない。
この状況で周囲を攻撃すれば、反動で私も傷を負う。
正直に言おう、自分で自分を攻撃することは……できない。
私は両手を上げて降参した。
後で零に聞いてみた。もし、零が手加減抜きだったらの場合を。
どうにもこうに予想通りとしか言いようがなかっただろうと思う。
私の攻撃は術式も含め全てが雲散霧消。
ついでに、零の攻撃は私のすれすれを嵐のように飛んで行く。
もうそれはそれはなぶるような独壇場が広がるらしい。
本当に、本当に手加減ありでよかった。
ああ、そうだ。最後に少しうれしいことがあったっけ。
「うん、麻酔使うつもりはなかったし、今回はいい線いったんじゃないのか?
お前も、見ない間にずいぶんと強くなってたんだな」
零がそんなことを言ってくれた。
なんだかわからないけれど少し嬉しい。
今度は、スキマ利用でも出来る術式でも考案してみよう。
また強くなっていたらまた褒めてもらえるだろうし。




