修羅場
そう、予想できたことだ。彼氏が見ず知らずの女を連れてきて、
しかも、その女が彼氏に親しかったら不満だろうということくらい。
いくら外見が十代そこらだからって、頭の方もそれくらいだからって、
恋愛やその他諸々のことに反応しないなんてことは無いはずなのに、
どうして俺は事情を説明する役としてついていかなかったのか。
「淡雪はあたいのなんだから!
そんなにひっついたり抱きついたりしたらダメ!」
「お前のなんて誰が決めたんだよ!
減るもんじゃないしそう怒んじゃねーよ!」
「ダメったらダメ! あたいがひっつけなくなる!」
「お前は今までさんざんひっついてたんだろ?
じゃあ今は俺が占領したって、問題ないはずだよな?」
「ダーメーなーのー!」
「まぁまぁふたりとも、二人で仲良く……」
「淡雪は黙ってて!」
「淡雪は黙ってろ!」
「……うん、そうする」
仲裁に入ろうとした淡雪の声は二人に押しつぶされた。
淡雪は押されたまま引き下がり、何処か諦めた様子で二人を眺めている。
女同士の言い争いに男は参加できない。第三者であってもだ。
ならばどうするか、女の言い争いは女に仲裁してもらうのが一番だ。
「姫ちゃん、呼白、紫」
「わかりました」
「えっと、二人を止めればいいんだよね」
「まったく、帰って早々面倒を持ち込むのね」
「悪いね」
あの二人は我が一家の女衆に任せれば万全だ。
じゃあネージュの前でイチャコラこいてしまった男のもとへ行こうか。
「よう。災難だったな淡雪」
「いや、僕が悪いんだよ。そうだよね、
女の子の前で他の女となんて最低に決まってる」
何だちゃんとわかってんじゃねーか。面白くない。
「じゃあどうするのかな?」
「あ、そうだなぁ。火華がひっついてくるのを止めるとして、
代わりにネージュとひっつくのは火華が起こるからダメだ」
「そうだな。だが、自分の相手をしてくれないと二人が不満になる」
「そうなんだ。じゃあそこでどうするか。僕は先人の知恵を借りようと思う」
「ふむふむ、いい考えだ」
「と、言うわけでどうしたら良い?」
淡雪の問いかけに一瞬思考が止まる。
慌てて思考を再開し、先ほどの問いかけについて考えてみる。
先人、先人といえば先人だ。三十億歳といえば先人にも程が有るだろう。
が、俺は人生の大半を姫ちゃん一筋でやって来た男だ。
今の淡雪のように女の子二人から好かれたなんて十六歳の時のみだ。
しかも、その時の決着は二人の間でいつの間にかついていたし、
今のように自分でどうにかしなければならないというレベルではなかった。
つまるところ、俺には先人の知識といえるほどの恋愛知識がないのである。
嫁の愛で方(姫ちゃん専用)であれば腐るほど教えてやれる。
しかし、それは今の状況には役に立たないものだ。
ここまで考えて、俺は考えることを諦めた。
すべてを放り出し、淡雪に任せることにしのだ。
この空色の王様なら、ラブコメの主人公と違って抜けていても鈍感じゃないし、
傷つけたり、肝心なところで気づかなかったりというのは大丈夫だろう。
放ってしまおう。面倒くさい。
「力になれない。頑張れ!」
「ええ!?」
俺は淡雪の方を叩きながらそう言って問題を放った。
友達が悩んでいるならば助けるのが当たり前だ。俺もそうする。
が、それがどうやっても力になれない場合はしようもないだろう。
下手に手を出して、状況を悪化させてしまった場合が恐ろしい。
「女のことはそれに関係した男が自力で解決するものだ」
「え、いや、そうだけど。僕は知識がないから」
「俺も知識はない、経験人数は一人だけだ。
俺の知識はあてにならないと断言できるぞ!」
「そんなに胸を張らないでくれよ……」
男と言われようと無理である。
さて、向こうは向こうで何とかなだめられたようだ。
もしも幸運があるとすれば、我が嫁が何とかしてくれてたり……
「じゃあ淡雪の右もらうから!」
「じゃあ俺は左を占拠するぜ!」
していたらしい。流石は我が永久の伴侶である。
「流石だね、いい感じに収まったんじゃない?」
「いえ、それが左右にはっきりしすぎてしまいまして」
どういうことだろうか。左右にはっきりしすぎ……。
つまる所は少しでも侵入すれば怒り出すとかそんなところだろうか。
「あ、今右に入った!」
「なんだよ! ちょっと入っただけだろ!
あ! てかお前もこっち入ってくんなよ!」
「まぁまぁふた……」
「「……ああ?」」
「……ごめんね」
なるほど、予想通りといったところだろうか。
まぁ、アレぐらいならしばらくすれば収まるだろう。
「さてと、じゃあ姫ちゃん、夕飯の支度しちゃおうか」
「そうですね。呼白ちゃんも行きましょうか」
「あれは……いいのかなぁ?」
「大丈夫よ、淡雪はああ見えて気の利く男よ?」
そんなことを言いながら俺達は台所に入った。
後ろからは女二人の言い争いが未だ響いてくるが、
姫ちゃんが仲裁する前に比べれば可愛い物に見えるものだ。
収まるまで、家族皆で夕食を作るというほんわか空間を満喫しようかな。
……ああ、そういえば紫も居るんだったか。
****
この時代、まだまだ今は飛鳥時代である。
残念なことに、電磁調理器やガスコンロなどといった便利品はない。
ここにあるのはかまどだ。紫が淡雪に言って作ってもらったらしい。
普通は火をおこしたり、途中で薪をくべたり、息を吹いたり面倒だが、
「零ーもうちょっと強くしてー」
「あいさー」
俺にかかれば、薪も息も必要ない。指パッチンで代用可能だ。
本日の夕飯はクリームシチューにするつもりだ。
材料は俺が全て用意することが出来るしとってもとっても簡単だ。
まぁ、それは料理の目的であって、ほんとうはもう一つ、
紫に聞きたいこともあるからだ。
「で、紫。どうして俺をこっちに連れてきたのかな?」
「あら、友人を紹介したい。それじゃダメかしら」
「ダメだな。お前は一匹でぬらくらしてるような奴だ。
友達を紹介するくらいで俺を連れてくるような奴じゃないだろう。
普通なら珍しい知り合いができたから気が向いたら来いと言うくらいだな。
が、今回は『呼ぶ』ではなく連れてきた。どういう目的かな?」
紫は俺の発言の後黙りこんだ。
鍋で炒めている野菜たちを混ぜながら、思案しているのだろう。
まぁ、言わなかったところでわかることだがな。
「実話ね、淡雪が不安定すぎるのよ」
紫は話してもいいと思ったのだろう。俺に向かってそう言った。
が、その言葉はあまりにも要領を得ていない。まぁだいたいわかるが。
「あれか? 能力の幅がありすぎてってところか。
あれ? でも、それならお前やエルンだって負けてないだろう」
「私は元々の基板として人間の肉体が有るわ。
エルンも、幅は効くけど、現実に対しての効果はない。
『未来』や『起こりえる現象』というものに固定されている能力よ」
なるほど、淡雪の場合は『過去』『未来』『現在』関係ない。
世界の歴史を凍結することが出来るというのは、そりゃあ大きいか。
「まぁ、つまる所は世界に影響が出やすい力ってことか?」
「そのとおりよ。因みに、それはさっきの火華にも言えるわ。
彼が世界に影響する存在であるならば、双極の彼女もまた同じことが言える」
「で、俺にそれを解決させようってのか?」
「それ以外に何かあるかしら?」
紫は底を見せない不敵な笑顔で俺にいった。
ふむ、こいつはいつか胡散臭い奴になりそうだな。
と、そんなことを思った。
まぁそれはいい。
「存在を安定させるのは簡単だ。
俺も何回かなったから指パッチンで大丈夫だぞ」
「ふぅん。じゃあ難しいのは?」
「安定の維持だな。大きな精神的ショックに他からの干渉。
肉体的な干渉などで元に戻ることは絶対にないが、
魔術や能力などでの存在の根本への干渉なら簡単に解けてしまう。
ついでのように、今までのが一気に噴出するのも難点だな」
「ずいぶんと面倒なのね」
「存在っていうのはそれだけ難しいもんだってことだよ」
まぁほんとうに難しい。だって、人間一人を弄ると、
その世界の歴史に影響が出るくらいなのだから本当に。
「やってみるけど、その後はお前に任せるぞ?」
「ええ、頼むわね」
俺はそんな会話をして、淡雪と火華を安定させた。
なぜか、寒く感じて、コートを羽織ることにした。
****
蛇は這う、其の身に大きな何かを宿して。
蛇は向かう、自分の力が行こうとする場所へ。
蛇は来る、大きな大きな黒を敷きながら。
蛇は与える、世界が集めた、其の黒い力を。
今日の目的地は……深い森。空色の王が居るところへ。




