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東方兄妹記  作者: 面無し
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溶かす者

 淡雪によると、日の妖精がイリョス、雲の妖精がユンという名前らしい。

それぞれ、日光を操る能力と雲を操る能力を持っているらしい。

 イリョスが見えなかったのは、自分が反射する日光を屈折させていたから。

 あの霧だと思ったのは実は雲を地上に造っただけで、

向こうからの声が聞こえなかったのは霧に音が邪魔されたから。

 日光の方は場合によっちゃあ戦闘応用の幅が利く能力だな。


「で、この国を一望させるってどうやるんだ?」


 妖精のことは理解したつもりだし、

ネージュでどれくらいの力があるか走っている。

 しかし、やはりこの十歳そこらの外見の少女はひ弱そうだ。

どうやるのかがわかっていても一度聞きたくなってしまう。


「簡単だよ。空に向かって反射する日光を、皆に向かって曲げればいいだけだもの」


 イリョスは簡単だといったが、彼女だから簡単なのだろう。

液体物や重力を使わずに、日光を曲げるなんて現代では神業だろう。

 というか、妖精ってこの森全体の光を曲げられるほど力強いのね。


「正直そこまで大規模なことができるとは思ってませんでした」


 姫ちゃんが感心するように言った。

 俺自身もさっきのように人間を隠すくらいが限界だと思っていた。

が、どうにもそれは見当違いのようだ。


「でも、日光ってことはお日様が出てる間しかできないんだよね」


 俺達が感心していると、我が娘から鋭い指摘が入った。

そう、日光といえば太陽からの光だけだ。

蛍光灯の光や蝋燭の灯なんかは日光に含まれていない。


「そうだよ、おひさまの光しかアタシは曲げられないよ」


「時間制限付きだからこその強力な力というわけか……」


 俺は彼女の大きな力をそんな風に理由づけた。


「さて、能力の話はそろそろ後にしよう。本題にはいらないかい?」


 淡雪がそう言って話題を変えた。

 そう、元々の目的は森の一望なのだ。


「仕方ないな。イリョス、頼んだぜ」


「任せといて!」


イリョスは自信ありげに自分の胸を叩くと、

空へと手を向け、そのまま目を閉じて何やら念じ始めた。

 すると、空が歪みだし、歪みが消えると、そこには地上が写されていた。


「おおー」


「ね? 簡単だったでしょ?」


 笑顔でそう言ってのける彼女は外見より大人に見えた。

 目の前に写された景色は紛れも無くこの森のもの。

だが、俺はそこに先程はなかった奇妙なものを発見した。


「なんだこれ?」


 森を上空から写した光景は一面の森だ。

今いるこの大きな穴も、森の範囲に比べれば小さいものだ。

 が、その一面の緑の画用紙に、一筋の茶色い一本線が引かれているのを見つけた。


「道……かな?」


「そうみえますが……切り開いた道じゃありませんね、

道の周りの木が溶けたプラスティックみたいにグニャっと倒れてます」


 姫ちゃんが空の光景をよく見ようとしているのか、背伸びしながら言った。

 その言葉に促されて、俺も目を凝らす。道の端に面した木が曲がっていた。

切った場合は切断面があるだろうし、普通の成長ではああは成長しないだろう。

 明らかに何らかの力で作られた道だ。


「でも、俺達が来た時にはなかったはずだよな?」


「そのはずです」


 俺達がこの国の上空にいた時にはあんな道はなかったはずだ。

あれば俺が見逃すはずはないあんな面白そうなものはすぐ目につく。


「調べてきてもいいか?」


 淡雪を見て聞いてみる。

 こういう面白そうなことは首を突っ込む以外にないだろう。


「ああ、いいとも。君には不要だと思うけど、気をつけて」


「アイサー」


 淡雪に答えながら空間に穴を開ける。

接続先を道の真中に設定し、たおれるように穴に落ちた。


    ****


「っと……空間移動は重力が移動する時が一番面白いんだよな」


 空中で上に引かれていたはずが真逆に引かれるあの感覚。

結構癖になってしまうな、あの肝が冷えるような宙に浮く感覚は。


「それにしても……」


 そんな戯言は置いておいてあたりを見回してみる。

 あの写された映像で見たのは正しかったようだ。

木はぐにゃぐにゃと地面に向かって曲がっているし、

その幹は溶けた何かが滴る途中で固まっていた。

 少しこの滴ってるものを調べてみようか。


「適当に削って…とっ」


 空間倉庫から彫刻刀を取り出して木についた固体を削る。

 削ったものを手のひらに乗せて物体の種類を判別する『視覚鑑定』を使う。

 結果は……これも木? 木って一回溶けて固まるようなものなのか?


「うーん」


「ああ、それは俺がいると溶けるんだよ」


 空気にでも溶けていた者が急に現れたようなそんな気配。

急に現れた気配は溶けるのは当たり前という風な台詞を俺に掛けた。


「へーそりゃあすごいね」


 気味の悪い表れ方に驚いたが、その驚きを隠してそう返す。


「だろう? まぁ俺がいて溶けないお前もすごいんだよ。

なぁ、どうして溶けないんだ? なんか仕掛けでもあるのか?」


 背後の声はなにか良いことでもあったかのように明るい声だ。

 俺が溶けないことがどうしてそんなに嬉しかったのか知らないが、

どうしてそんなに嬉しそうなのに殺気を放ってるんだろうか?

 喧嘩好きとか? いやいや、俺は喧嘩好きじゃないし、遠慮したいぜ。


「なぁ、聞いてるか? なんで溶けないんだ? 答えないなら勝手に納得するぜ? 

お前は溶けないからと溶けないんだな……うんよし、大丈夫。喧嘩しよう!」


 やっぱりバトルジャンキー系の方でしたか。

遠慮したいかな、俺は俺は喧嘩が嫌いなんだ。嘘じゃないぜ?

圧倒的な力を保持して相手を楽しみながら戦うのが好きなんだ。

……どっちにしろ喧嘩好きか。


「まぁしょうがないか。いいよ、相手してやる」


「いいねいいね! やろうぜ、固形物に触るなんてこれが二回目なんだ!」


 はしゃぐ声を聞きながら振り向くと、一般の男に対しての毒が目の前にあった。

先程から『俺』と言っているからって男だと勘違いしていた。女だ。

しかも淡雪のせいで高い声でもそんなに違和感がなかった。

 固形物に触るのは初めて、どういうことかというと、素っ裸だ。

 褐色の肌に燃えるような赤毛の長髪。髪と同色の釣り上がった勝ち気な瞳。

淡雪と外見はそんなに歳の差がなく、どう見ても幼女。

なんでも燃やし尽くす炎原のような活発さのある雰囲気だ。


「お、お前……女だったのかよ!?」


 推測していた性別から外れたこととその外見から声が大きくなる。


「え? なにかダメだったか? 

今までこの姿で何もダメなんて言われたことなかったぞ?」


 そりゃあ言うやつはいないだろう。

お前はおそらく妖怪だし、妖怪の外見なんて人間は気にしない。

 しかも、目の前のこいつは結構ないいお顔。

幼女でもいいというそういう趣味の人なら目の保養になる。

誰にも咎められずに女の裸が見れるのに指摘する男は珍しいだろう。


「女はもっと恥じらいをもつものだぞ。

せめてこれでも羽織ってくれ、じゃないと戦わん」


 流石に愛しき嫁もいるし、全く反応しないとわいえ俺も男、

仕方なく呼白用に作っておいた黒いワンピースを取り出して放る。

 が、彼女は慌てたように背を向けてワンピースを躱した。


「おい」


「ああ、俺が触ると大抵の固形物は溶けるんだ。

たぶんそれも溶けるから、俺には渡さない方がいいぞ」


 こいつの特性は溶かすことのようだ。これまた厄介極まりない。

や利用によっては淡雪にも対応できる能力だ。

 このワンピースを着せるのは後にしよう。

着せられないことがわかった以上、今は喧嘩が優先だ。


「わかった、ろうか」


「いいね!」


 素っ裸の女と戦う日が来るなんて思わなかった。

 あ、ついでにもうひとつわかったことがある。

俺は姫ちゃんをアホほど愛してることがわかった。

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