雪の結晶
淡雪達が造った大量の魚料理を皆で囲む。
初対面なので自然と会話は自己紹介になった。
そして、お互いが何者であるかを知るための第一歩として、
俺は淡雪の種族を確認することにした。
「淡雪は妖怪だったよな?」
「そうだよ、僕は妖怪」
焼き魚を綺麗に骨だけにした淡雪が答える。
外見からしても氷などに関係する妖怪だと予想する。
「氷の妖怪とか?」
「少し当たりかな」
予想をそのまま聞いてみる。が、あたっていたのは少しだけらしい。
じゃあなんだろう、雰囲気や外見、この家からしても氷が主体なのは明らかだ。
「じゃあ何の妖怪なんだ?」
「僕は凍結の妖怪」
「凍結」これならば氷が主体になるのも頷ける。
そして、氷の妖怪とは似て非なる存在であるのも当然だ。
凍結とは文字通り凍りつくことだ。そして、凍結は停止も意味している。
科学の絶対零度での物質のように、完全に凍り付けば全ては停止する。
「じゃあ結構強力な妖怪だったり?」
「まあね、でも使い方を誤ると全てが駄目になる可能性もある」
淡雪は困ったふうに答えた。
彼なら空間も時間も大地も大空も大海も関係なく凍結できる。
彼の台詞はもっともだ。使いすぎれば世界全体を停止してしまうだろう。
世界全体を凍結させられれば、俺も勝つことはできないだろう。負けはしないけど。
「極端だね、その能力で凍結した物って溶けるの?」
「うーん……力加減によるかな。この家の氷も一応は溶けるよ」
ふむ、強弱がつくならそこそこ便利といえば便利だろう。
「ふーん、どう溶けるの?」
「この家を作ってる氷なら水に一瞬で変わる。
確か、前に試した時は溶岩に突っ込んだら溶けたよ。
それから、一つの氷はだいたい五千年で溶けるかな」
規格外にも程が有ると思う。そんなもの溶けないのと同じだと思う。
溶岩と同じ温度の物体なんて今の時代人類には溶けた金属くらいしかないだろう。
「ずいぶんと恐ろしい能力だな」
「そうだね、僕自身も結構気を使ってるよ……
まぁそれはいいや、零の能力も規格外って聞いてるけど?」
俺の恐ろしいという言葉に同意した彼の表情は少し悲しげであるように見えた。
しかし、その陰りはすぐに隠れ、彼は今度は俺のことを聞いてくる。
無理に話題を引き伸ばすこともない、俺はその話題に乗っかった。
「俺の力はあらゆる現象を起こすんだ。
ざっくりさっくり言えば、『だいたいなんでもできる力』」
「それは……予想以上だ。紫の話からして、無限増殖の能力だと思ってたよ」
淡雪は俺の台詞に驚いたようだ。
無邪気だが何処か落ち着いている淡雪は驚き顔も大人のようだった。
外見相応の反応でない故に違和感がある。が、そこが彼の味だろう。
「どうせ霊力の無限増幅や、身体能力の強化ばっか聞いてたんだろ?」
「正解。一瞬で移動すると聞いてたから、
自分の感じる一秒を増殖させたりしてるのかと予想してた」
俺がニヤニヤしながら問うと、淡雪も微笑で返してきた。
淡雪の惚れた女は妖精で、どう考えたって十代前半の外見。
うちの嫁も、外見はだいたい中学二年生くらいだ。
女の好みもよく似ているし、こいつは意外と気が合うかもしれない。
「予想といえば、淡雪とは雰囲気的に合わないんじゃないかと予想してたんだ」
「奇遇だね、僕も最初はそう思ってたよ」
俺達は笑顔で言葉を重ねる。
「「でも、意外と気が合うかもしれない」」
外見でかなりの歳の差があるコンビがここに結成された。
****
「姫さん、姫さん! これ美味しいですね!」
「本当、とっても美味しいです」
呼白ちゃんがムニエルによく似た料理に手を付けながら言った。
私も唸ってしまうほどの料理で、異論がなかったから素直に同意した。
淡雪さんとルージュさん二人が作った料理は、
お互いの雰囲気を足して二で割ったの如く調度良くて隙がない。
「さすがね、姫ちゃんの料理も負けちゃうんじゃない?」
「……」
紫さんの言葉に返せない、私の唯一の得意分野が……。
「姫ちゃんの料理のほうが美味い!」
淡雪さんとの会話を中止した兄さんが紫さんをお箸で指す。
お行儀悪いですよ兄さん。
兄さんによると私の料理のほうがいいらしい。
「ふへへ」
「姫ちゃん、にやけてるわよ。
それから零はお箸で指さないで頂戴、行儀悪いわ。
あと、負けてるなんて言ってないわ、負けちゃうかもって話よ」
「ああ、ならいいんだ。箸で指したのも悪かったな」
そう言って兄さんは淡雪さんとの会話に戻っていった。
ふと紫さんを見ると、助かったとでも言いたそうに胸を撫で下ろしていた。
「どうしたんですか紫さん?」
「零が起こりそうで怖かったの。半分鬼に見えたわ。
姫ちゃんの事になると零は自分が二の次になってるし、
お箸で人を指すなんて普段は絶対しないはずよ」
紫さんお言葉通り普段の兄さんはお箸で人は絶対に指さない。
それだけ私が大切だと想ってもらえてるということだろう。
「ふへ、ふへへへ」
「お母さん、にやけてるよ」
「そういう呼白ちゃんもお母さんになってるわよ」
やだもー兄さんったらそんなに想われたら私変になっちゃいますよぅ。
というかもう周りからもわかるほど十分に変になってるかもしれませんが、
そんなのどうでもいいです。兄さんがいるなら変で全く構いません。
世界なんてどうでもいいです。兄さんがればそれでいいです。
「姫ちゃーん姫ちゃーん……だめね聞こえてないわ」
「お母さん! ……えいっ!」
と言うか世界=兄さんにしちゃってもいいというか……痛い!
誰かに背中を叩かれてしまった。すごい痛いです。
「誰ですかぁ?」
「私、お父さんにニヤけるのもいいけど、今ご飯です!」
「あ、はい。ごめんなさい呼白ちゃん」
呼白ちゃんはその可愛らしいほっぺたを膨らましながら言った。
その可愛らしいながらも起こる娘に反論できるわけもなく、私は素直に誤った。
「賑やかな家族ね」
そんな私と呼白ちゃんを見てネージュさんが笑いながら言った。
「そうですね、家はとっても楽しい家族です」
私も笑顔で同意する。
ところで、ネージュさんは妖精さんだ。
背中の羽は虫の羽よりも薄く滑らかで、そして、光の屈折で虹色に見える。
雪の妖精さんということは名前のとおり雪を降らせたりできるのでしょうか?
「あ、聞きたかったんだけど、ネージュさんってどんなことができるの?」
私が話題を変えて話そうとすると、呼白ちゃんに先を越されてしまった。
「あたい? あたしは雪が造れるんだよ!」
ネージュさんは胸を張って得意そうに答えた。
そして、彼女は水の入った器に手をかざす。
手が引くと、そこには体積が大きくなって大盛りになった雪があった。
「綺麗!」
呼白ちゃんは目を輝かせた。
雪の結晶は光を反射してキラキラと光る。
どこかの写真にでも写っていそうな真っ白な雪がそこにあった。
「すごい」
「見事なものよねぇ」
はしゃぐ呼白ちゃんとは別に、私と紫さんもそうつぶやいていた。
「もっとすごいことも出来るよ!」
ネージュさんがもう一度雪に手をかざす。
次に手が引いた時は、雪はなく。代わりに大きな雪の結晶がひとつあった。
テレビでよく見るような雪の結晶の特大版。
それには追加で風にさらされたような流動的で繊細な模様が描かれていた。
自然の具現である妖精が造る雪の結晶は、
人工物では作り出せない自然さをそのままつめ込まれた美しいものだった。
気づけば私が発せた言葉はただ一言だった。
「……綺麗」
ふと、手を握られた。
見ると、兄さんの手が私の手を握っている。
私はその手をそっと握り返した。




