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東方兄妹記  作者: 面無し
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空色の王様

「『妖精』ってなんなんだ?」


 背中に娘を乗せ、嫁と手をつなぎ、

紫に連れられての遊覧飛行中、俺は紫に聞いた。

 自然の権化、意思を持った現象という答えを予想した。


「自然が形になったもの。意思を持った自然現象といったところね」


 俺の予想は正解といっていいようだ。

 ついでにだが、自然現象の形ならと俺の中で疑問が生まれる。


「なんでそこら辺にいっぱいいないんだ?」


「いるわよ、そこら辺にたくさん」


 俺の疑問に紫は軽い口調で答えた。

 俺自身は一度も見たことがないからわからない。


「何処らへんに?」


「岩の下とか、木の穴の中とか」


 なるほど、そんなところをわざわざ見る奴はいないだろう。

 妖精の国は、そういう奴らがよく集る場所みたいなものだろうか。


「妖精の国、なんだから王様が居るよな?」


「いるわよ、とっても強い氷の妖怪が王様よ」


 妖精の国に妖怪の王様か……不釣り合いじゃないか?

俺はそう疑問に思った。でも、妖怪も自然の権化といえばそうであるとも言える。


「妖怪と妖精ってどう違うんだ?」


 俺はそう聞いた。紫は少し考えた後に答えた。


「人間の意思が絡んでいるかいないかの違いじゃない?

妖怪は、自然を畏れる人間達の意思が形をなしたもの。

妖精は、自然そのものが意思として形を持ったものと考えるといいわ」


「なるほど」


 さすがは紫、俺に合わせてわかりやすく説明してくれる。


「ねぇ紫さん」


 俺が紫の説明を頭で繰り返して頷いていると、呼白が声を上げた。


「どうしたの?」


「零さんが行きたがるぐらいだし妖精って強いの?」


 呼白に俺はどう見られているのだろうか。

野蛮なお父さんとかだったら嫌だな、お父さん泣いちゃうなぁ。


「弱いわよ、ついでに頭も弱いわ、小学校低学年くらい」


 なるほど、つまる所は呼白より弱いのか。

因みに、家の呼白は外見小三位だが、知識は六年生並だ。

我が家の可愛くて女神で強力な家庭教師のおかげだ。

 俺は国を出てからずっと手をつないでいる姫ちゃんを見た。


「どうかしたんですか兄さん?」


 彼女がこちらを向く、引き込まれるような黒目に一瞬見とれた。

そして、彼女が俺の言葉を待っているのに気づき、頭をなでてごまかした。


    ****


 触れてもあんまり冷たくない氷で造った家。


「今日は客人が来る」


 その家の居間で僕は今日の予定を口に出して繰り返した。

記憶力が弱いから、繰り返さないと忘れてしまう。

 紫は自分の旧友だと言っていたっけ、優しい人だとも言っていた。

あと、嫁持ちの子持ちで、反則的に強い存在とも言っていた気がする。


「早くこないかな」


 僕は氷で創った大きな椅子に座って言った。

 身長が足りないせいで足がふらふらと空中を揺れる。

僕の身長だと客人は僕を十くらいの小さい子供に見るだろう。

 見間違いは仕方ない、外見がそうだから仕方ないね。

 しばらくしばらく空中を眺めていると、誰かが入ってきた。


「ただいま」


 かごを背負った彼女は僕の顔を見てそういう。

川で魚を釣ったらしく、籠の口から魚の頭が見えた。


「お帰り、大量だったみたいだねネージュ」


「うん、今日はいつになくついてた気がするわ」


 彼女は満面の笑みを浮かべながら籠の中身を取り出してみせた。

なんとまるごと一匹の鮭がふなやますに埋まっていた。


「重くなかった?」


「これくらい大丈夫! あたい力持ちだもん」


 僕が念のため聞くと、彼女は元気な声で答えた。

僕の好きな人は今日も元気なようだ。


「じゃあ、料理は?」


「いつでもいいよ!」


 彼女は笑顔で近づいてくる。

僕らは仲良く厨房で料理をすることにした。

 客人のためにも、腕によりをかけてつくろうと思う。


     *****


「あそこ」


 紫がそう言いながら指さした方向を見てみる。

あるのは森、森、そして真っ白な家がひとつ。


「あれが国?」


 どうみたって森のなかに白い家があるようにしか見えない。

俺は疑問を口にした。紫は「もっともね」と頷き「でも」と続ける。


「もうちょっと高度を下げたらわかるわ」


 紫はそのまま空中を下がる。俺もそのすぐ後に続いた。

 違いが現れたのは森にずいぶん近くなってからだった。


「ゆかりだー!」


「おかえりー!」


 紫が数人の子どもたちに囲まれる。

子どもたちは全員背中から羽根が生えていて、ひと目で妖精と分かった。

 身長は呼白と同じくらい、小学生と思ったのも間違いではないらしい。


「紫さん、モテモテですね」


「だね」


 隣の姫ちゃんの声に俺は同意した。

妖精に囲まれる紫は美人な小学校の担任の先生に見える。


「ねぇねぇ、あの人たちだれー?」


 紫を取り囲む妖精の一人が俺たちを指さした。


「ああ、あの人達は私の友達」


「どんな人ー?」


 違う妖精が声を上げた。


「そうねぇ、妹好きの反則人間かしら」


「『はんそく』って悪いことだよね、じゃあ悪いお友達なの?」


「ううん、とっても良いお友達、私の大事な人達なの」


「そうなんだ!」


 しばらく妖精たちは紫の周りでそのまま騒いでいた。

 でも、少しすると「かくれんぼしてたんだ」と言って森に戻っていった。


「紫さん皆のお姉さんみたい」


「そ、そう?」


 姫ちゃんが笑顔で言った言葉に、紫は顔を赤くした。

そして、そのまま後ろを向いて少し進んで振り向くと、


「こっちよ」


そう言って白い家の方へ飛んでいってしまった。

 俺達は慌てて彼女追いかけた。

 ああそうだ、紫が少しにやけていたのが見えた。


     ****


 白い家はあまり冷たくない氷で出来ていた。

氷なのに木の板みたいにひんやりする程度の温度しかない。

それでいて、俺が触っても解けない不思議な氷が材料だ。


淡雪あわゆき、友達を連れてきたわ」


 俺が家を見ていると紫はノックもせずに家に入っていった。

 俺達は顔を見合わせてから頷き、ゆっくり扉から顔をのぞかせる。

 デレビが置いていなくて、全て氷で出来ている以外は特に変わったところはない。

扉は部屋の奥の一つだけで、そこは半開きになっている。

 そして、中には紫と少年が一人。


「やぁ」


 彼は俺達を見て挨拶をしてきた。

 身長は百四十くらい、空色の大きな目と同色の乱雑に切られた髪、

女の子のように華奢な体と白い肌。そして、無邪気そうな顔だが、

それとは真逆に雰囲気は閑寂で、同時に解けて消えそうな儚さのある少年。

紫に女王と聞いていたら女の子だと思っただろう。

 子供の顔に似合わない雰囲気を出す少年。王はこの子だとすぐわかった。


「初めまして、妖精の王。神谷零という」


「君が零くんか、僕は淡雪」


 少年は笑顔で僕にそう言うと手を差し出した。

華奢なその手は、握ってみると思いの外力強かった。


「よろしくな淡雪」


「うん、そっちの人は君のお嫁さんと娘さんだね」


「初めまして、神姫と言います。神様の姫と書きます」


「私は呼白です。白を呼ぶって意味です」


 二人は淡雪に頭を下げた。彼はそんな二人に礼を返す。


「淡雪です、淡い雪って書きます」


 彼がそう言った時に奥の扉から人が出てきた。

ウェーブの掛かった雪のように真っ白なショートヘアに、

活発そうで海のような鮮やかな青に輝くつり目、

そして、子供特有の無邪気な顔と同じく無邪気そうな雰囲気、

その背中には四枚の羽が見える。


「あ! 淡雪のお客さんね!

あたいはネージュ、雪の妖精だよ!」


 一人称からして少女でいいだろう。

彼女は俺の方に早足でやってくると手を差し出した。


「よろしく」


「よろしくね!」


 握った途端に大きく手が振られる。満面の笑みがとても可愛い。

そして、俺との握手が終わると、今度は他の二人に両手を差し出す。


「神姫って言います。よろしくねネージュちゃん」


「私は呼白って言うの」


「よろしく!」


 二人が両手を握ると、ネージュはその手をまた大きく降った。

 落ち着いた少年に活発な女の子。あべこべだが面白いコンビだ。

 ふと思いついて、俺は淡雪に話しかける。


「もしかして、惚れまくってたりする?」


 その言葉に彼は一瞬固まってから笑顔で答えた。


「気持ちで全身溶けそうなくらいにね」



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