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東方兄妹記  作者: 面無し
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諏訪の国から妖精の国へ

 降神術は普通の術と陣の構成が同じなため、

術者がかき消す時に間違えやすい術がこれだ。


「降神術は神様を降ろす術」


 複数の鍵付き扉がついた棚を二つ思い浮かべてほしい。

片方は降神術、もう片方は普通の術だと考えてもらおう。

鍵を使って扉を開ければ、術に見合った効果が得られる。

鍵をそろえる行為が、陣を描き、それに霊力を与えることだ。

そして、二つの術の違いは、鍵をいつ使うかのタイミングにある。

普通の術は鍵を全て揃えてから、一気にすべての引き出しを開ける。

降神術はひとつの鍵ができるたびに一つの引き出しを開ける。


「普通は効果が一回で全て出てくるのに対し、

降神術は神を少しずつ顕現させ、力を貸し願う術だ」


 故に、鍵をそろえる行為を消しても、

途中まで開けられた扉の分は効果が現れるのが降神術だ。

 そして、それを消す方法は、降ろした神を棚に戻すか、

降ろした神を消滅させるか、それをそのまま封印するかに分けられる。


「消す方法は簡単なものが多い……でも」


 術が成功していたとすればミシャグジ本体に影響がある。

 しかし、術が途中放棄された今回はどれを行おうと問題はない。

 ただ、


「消滅させるなら創がいるんだよなぁ」


零がそう呟く相手であるのが問題だった。


「創が早く来ますように!」


 零はそう叫びながら大蛇に飛びかかった。


     ****


 俺は何度か死にかけた経験がある。

一度目は世界を管理する者達と戦った時。

二度目は世界の俺に対する修正力を抑えこんだ時。

三度目は今眼の前に居るやつ……になるかもしれない。


「まぁ、今のままならそんなことにはならないけどな」


 俺は大蛇の首根っこを掴んで叩きつけた。

 祟の塊が神格化している以上、俺に消滅させることはかなり難しい。

 神を消滅させるには根っことなっている信仰を潰さないといけない。

 しかし、こいつがさっきから放ってるのは神力混じりの妖力。

信仰を得た妖怪と同じ扱いらしい。

 そして、こいつの根っこは祟……つまる所は災厄全般。

国下や天のように人間が消えない限りは死なない類の存在だ。


「創造と消滅に特化した創じゃないと骨が折れるな」


 あいつの能力は創造と消滅を操る程度の能力になるだろう。

まぁ名前からも分かる通り、何かを創ったり、何かを消すことに特化した能力。

そこに制限がない故に、俺と対等に渡り合える人物だ。

 創造と消滅には制限がある俺では時間がかかりすぎる。

ざっと二日ほどほしいところだ。

 そんなことを思っていると大蛇が起き上がってきた。


「少し寝てろよ」


 すかさずその頭を蹴りあげる。

 封印するという手も一応存在はする。

 しかし、呼白に教えたような基本術以外は専門外だ。

封印術なんて高等技術は扱ったことすらないので術の描き方を知らん!


「おーい、零さん」


「はい?」


 後ろから掛かった声に振り向くと、そこには高矢の爺さんがいた。


「あれ? 高矢さんって術使えましたっけ?

てか、他の妖怪退治の奴らは何やってるんです?」


「術は一応かじった程度だよ。

あと、他のは祟におそれて出てこんよ」


「戦争の時のあの勇姿は何だったんでしょうね」


「まぁ皆も人間だったということだよ」


 爺さんが言うのと同時に、大蛇が首をもたげて飛びかかってきた。

 俺はそちらを見ずに大蛇を吹き飛ばした。


「じゃあ、高矢さんは人間じゃないんですか?」


「人間だよ。たぶんあと一月くらいで死ぬ老いぼれだ」


「一月ィ!?」


 爺さんの突然の暴露に俺は驚いた。

 しかも、爺さんの予想ということはかなり当たる。


「爺さん。今のうちに延命……」


「しない。悪いが約束があってね」


 「できないんだ」そう言って爺さんは笑った。

 ちょっと待て爺さん。それは少し死に急いじゃいないか?

 おれはそう疑問に思いながら大蛇に霊力弾を当てた。


「延命すりゃ、諏訪子といられるけど?」


「ああ、大丈夫。私が死んだ後どうなるかは話してあるんだ」


 爺さん。あんたはどこまで予想してるんだ?

 まぁどちらにしろ、こいつを止められれば一件落着だ。


「爺さん。俺が抑えるだけ抑えるんで、

肝心なとこ、よろしくお願いしときますね」


「わかったよ、気をつけてね」


 爺さんの言葉を聞いた後に振り向くと、

目の前には大蛇の大きな口が開いていた。

 俺はその顎を上下から掴み、無理やり閉じさせ、

振り回しながら地面にたたきつけた。


「うーん、後は霊力の供給源が居るなぁ」


「じゃあちょうどいい人物がそこで伸びているよ」


 俺がつぶやくと、爺さんがそう答えた。

蛇の相手をしながら周りを見渡すと、

確かに一人十分すぎる霊力の持ち主がいる。


「束錬くーん、いいところに居るじゃないか」


「じゃあ、私が彼を起こすから、よろしく頼むよ?」


「あいあい」


 俺は爺さんに軽く返事をして目の前の大蛇に集中することにした。


      ****


「束錬くん、起きてくれ、君じゃないとできないことがあるんだ」


そんな声に呼ばれて目を開けると、

雲が流れる青空が目の前に広がっていた。


「何ですか、術は止めましたよ?」


「止まっていなかったんだよ。

降神術は君の考えている術とは違う。

まだ一件落着じゃない。蛇が、出てきたよ」


 俺は上半身を起こして周りを見た。

 大きく崩れた修練場の瓦礫の中で、零が戦っていた。

 何だあの蛇は……灰色だからミシャグジさまではない。


「なら、あれは何だ?」


「祟の妖怪というのが一番近いんじゃないかな?

術の失敗で産まれた未完成品だから、今は赤ん坊のようなものだ」


 それは大変だ。早くどうにかしないといけない。

 でも、俺に何ができるんだ?


「高矢さん、俺に何をしろと言うんです?

俺は霊力をまともに扱えない人間ですよ?」


 その言葉に高屋さんは笑って答えた。


「君は気づかなかっただろうね。

君に渡したあの札。もう発動しているんだ」


「え?」


「あれは君に霊力を扱えるように手助けしてくれる術だ」


「今の俺は……術が使える?」


「ああ」


 驚いた。長年願ってきて、半ば諦めていたことが降って湧いた。

 嬉しさは感じなかったというより驚きにかき消されてしまった。


「早くしてくれ束錬!」


 そして、そんな驚きも、零に急かされて消されてしまった。

 

「高屋さん。俺は何をすればいい?」


 俺は高矢さんに聞いた。


「なあに、簡単だ。この札を起動してくれ」


 高矢さんが取り出したのは一枚の札。

 おそらく封印術の札だが、何故か肝心な部分が抜けている。


「これ、対象をどこに封じ込めるんですか?」


 封印術なのだから封印する場所を指定しないといけない。

だが、これにはこの札に封印するとか、この土地に封印するとか、

そういうたぐいのことが指定されていないままだ。


「これに」


 高矢さんは腰の巾着から青い石を取り出した。


「これは僕の霊力を結晶化したものだ。こいつに封じ込める。

肝心な部分は起動した後に私が継ぎ足すから、安心して起動してくれ」


「あ、はい」


 高矢さんに促されるまま俺は札を起動した。

 起動は上手くいった。今までなら札が爆発してるところだ。


「よし、じゃあそのまま……零さん!」


 高矢さんが零に声をかける。

 零がその声に答えて手を上げたかと思うと、その後は一瞬だった。


「セイッ」


 零が消えたかと思うと蛇が地面に霊力の槍で縫い付けられていた。

まさしく一瞬の出来事に、俺は唖然とした。

 そして、その次の瞬間には大蛇が消えていたことで、

俺は唖然とした口が塞がらなくなることになった。


       ****


 一応これで一件落着だと思いたい。

 ただ、高矢の爺さんに気をつけてねと言われたことから、

油断はならないということだけ肝に銘じておいた。

 さて、事の終りを話そう。

 当然だが束錬の弟は家を継げなくなった。

 そして、跡継ぎの代わりとして束錬が指名されたが、

束錬はそれを撥ね付け、もっといろんな術を見て回ると言って国を出た。

腰の巾着袋に大蛇を封印した石を持っていったが、大丈夫だろうか。

 爺さんは予告通り一月たったころに神社の本殿で亡くなった。

死ぬ瞬間に隣にいたのは諏訪子だけ、最期の言葉を聞いたのも諏訪子だけ、

あの人の最期の時を全てあの神様は頂いていった。

 諏訪子は泣かなかった。と言うより泣く必要がなかった。

葬式の後、ふと空を見ると青年が一人空中に浮いている。

 ……正体だけ言うと、神格化した高矢の爺さんだった。

長く生きた事や知識への尊敬が信仰のようだったらしい。

爺さんは皆の頼れる人から、頼れる神様になったようだ。

 で、ここまで話した俺はというと、


「なぁ紫、さすがに拉致るのは無しじゃないかい?」


「拉致? 人聞きの悪いこと言わないでよ。

意外とノリノリでついてきたんじゃないの?」


「いや、そうなんだがな」


 我が家全員が紫に連れられて空中遊覧中だ。

何やら珍しいものがあったから来いとのことらしい。

 家は一応空にしてきた。戻るか戻らないかは気分次第だ。

知り合いとはいつでも連絡が取れるから住む場所は関係ない。

天や山下一家も置いてきた。まぁあいつらならまた会えるだろう。


「で、どこ行くんだ?」


「妖精の国」


「は?」


 俺は疑問を口にしたが紫は何も答えてくれなかった。

 なんだろう、よくわからないが妖精とは面白そうだ。

三人家族、仲良く妖精の国に行くことが決定した。



     ****


 夜半。

 修練場の跡地で、瓦礫の中から出てきたものがあった。

それは小さな灰色の蛇、大きさだけで見れば大人の小指ほどの者。

 そのものには、妖力でない何かが宿っていた。


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