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東方兄妹記  作者: 面無し
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出来損ないの大蛇

 邪馬台国(仮)から帰ってすぐに呼白へ転移術を教えた。

 彼女は物覚えがよく、霊力の細かな操作が得意だ。

しかも、強化時の俺並みの霊力を所持しているのだから、

術を専門的に学べば、一国を一人で落とせるようになるだろう。


「うーん、やはり家の子は皆天才だったか……」


 俺は呼白の頭を撫でながらそう呟いた。


「私以外にも子供が居るの?」


 前にも俺たちの話を聞いたりしていたからだろう。呼白が聞いてきた。

 思い返してみて思う。俺にとって子育てはいい経験だった。


「居るぜ、二人な、仲の良い兄妹だよ」


 俺は呼白にそう答えた。


「その二人も夫婦だったりするの?」

 

 俺の答えにうなづきながら今度はそう聞いてきた。

 その疑問は自然だろう。俺と姫ちゃんが義とは言え兄妹なのだから。

 しかし、


「いいや、二人は仲がいいだけの普通の兄妹だよ。

スキンシップしまくってるんだけどね、何故か恋仲にはならないんだよ」


「理由は?」


「二人とも『運命の人が他に一人だけ居る気がする』んだってさ」


「すごく……よくわからない理由だよね」


「だねぇ」


 あの二人はほんとうにわからない。

ほっぺにチューとか添い寝とか普通にしてたのに……。

 なんで一線だけ超えないのか……運命の人って本当誰なんだよ。


「で、その二人は今は別の世界を冒険中」


「いつか会えるかな?」


 呼白は期待を目に浮かばせる。


「会えるよ、会いたいと思えばいつでも会える」


「やった!」


 俺の答えに飛んで喜ぶ彼女が微笑ましく、ほっこりする。

 しかし、ほっこりは無理やり終了させられた。

 霊力の爆発が起こったからだ。しかも光柱が立つほどの強力な霊力。

 俺ではない、呼白でもない、ならば可能性は創だけ。

 しかし、霊力開放の影響を考えると、創とは考えられない。


「少し行って来るよ」


 俺は呼白に姫ちゃんと一緒にいるよう伝えて空へ跳んだ。

 跳躍して見た霊力柱の下は、何かの生物がうごめいていた。


    ****


 ことは十数分前、束錬の家の修練場でのことだった。

 束錬は自室で術式理論の構築、弟は修練場で霊力術の稽古。

 大掛かりな術の起動音が修練場に近い束錬の自室には聞こえていた。


「またずいぶんと大げさな音だな」


 術を使う時には音が発生する。

種類は様々で、風の響く音から、鐘の音まである。

 そして、鳴る原因は全てが術者の力量不足だ。

 大きな術を行使するにはその術の理解と、技術がいる。

複雑で大掛かりなものほど理解と霊力行使の技術が必要で、

それが足りなければ足りないほど術を発動した時の音が大きくなる。

 束錬の部屋まで響き渡っている音からすれば、明らかに弟の力量不足だった。


「また、無茶をしているんじゃないだろうな」


 束錬は少し心配したが、すぐに無駄だと首を振る。

弟より下とされた束錬は彼の兄ではあっても立場は上ではない。

 それに、彼のそばには束錬の父もいるはずだ。

いざとなれば彼が止めてくれるはず、束錬はそう考えた。

 しかし、いつまでたっても音は止まない。それどころか大きくなった。

 大掛かりな術を長時間使えばそれだけ負荷がかかる。

先日の邪馬台国(仮)で天が自身の妖力を隠蔽した時も、

強大な妖力を長時間隠すためにずいぶんと疲弊した。

 これだけ長時間やっていればもう限界なはず……。

 束錬は自室から跳びだした。何か嫌な予感がしたのだ。

 そして、修練場の戸を押しのけるとそこには……。


「やぁ出来損ない。家のジジイが三流三流ってうるさいからさ、

俺は一流てところを見せようと思ってね、あの馬鹿親父は今頃夢の中だ」


「……この、術……お前」


 束錬はその陣を見て、予測した。

これが描かれている書を見たことはないけれど、

今まで蓄えてきた知識から予想するに、これは降神術。

 そして、諏訪子の領土であるこの国で使える降神術はひとつしかない。


「お前、ミシャグジ様を降ろすつもりか!?」


 そう、この国の祭神である諏訪子が使役する。

現代二本では家内安全などの神であり、同時に祟り神。

もし、降神に成功したなら術者に絶大な力を与えるだろう。

 しかし、もし失敗したなら……


「やめろ!  お前にはまだ無理だ。

この大きな音がお前には聞こえないのか!?」


「聞こえないね! この術の前提理論は理解した。

起動もできた。完璧だ! 出来損ないのお前なんかとは違う!」


「ああ、お前は俺とは違う。俺より上等な人間のはずだ!」


 束錬は認めなければならない事実を叫んだ。


「お前は高位の術も扱えるようになってきたんじゃないのか!?

ここでこれに失敗したら今までが無駄になるぞ! 目を覚ませ!」


 無駄になった時を知っているからこそ、弟の行為を止めようとする。

自分の後に付いた者でも、自身の大切な家族だ。家族の間違いは正さねばならない。

 彼はその思いで叫んだ。しかし、


「うるさい! 出来損ないには俺のことなんかわからないだろう!

お前が出来損ないだったせいで俺は余計な期待がかけられた。

全部お前のせいだ! 今のこの状況も、全部全部お前のせいだ!」


 弟の理由は滅茶苦茶だった。

 滅茶苦茶を説得するのは無駄だ束錬はそう判断し、

術をどうやって止めるかに考えを巡らせることにした。

 普通の術を止める場合、方法は三つある。

 一つ目は術者の意識を消して霊力供給を止めること。

術者に後遺症が残る負担をかけずに止めるならばこの方法だ。

 しかし、ある程度まで進んでしまっていると術はそのまま発動する。

今の状況からすると、この方法は望ましくない。

 二つ目は術を乗っ取った後にその術を強制終了する方法。

確実な方法を取るならばこの方法が効果的だろう。

 しかし、乗っ取る方も乗っ取られる方も相応の負担が来る。

大掛かりで複雑な術であればあるほど、その負担は大きい。

 そして、これは相手よりも自身が上の場合の話だ。

この状況で束錬が行っても、弾き返されるのがオチだ。

 最後は、強大な霊力で術ごと吹き飛ばす方法。

大きなエネルギーによって術を塗りつぶし、

同時に術者の意識も奪うことで術を強制終了する。

 これの問題点は、塗りつぶすほどの大きな霊力が必要なこと、

そして、吹き飛ばす側にも相応の反動ダメージがあるということ。

 方法としては三つ目であれば可能だ。束錬には大きな霊力がある。

扱いきれていないだけで、その力さえ扱えればまず問題ない。


「……」


 束錬には選択肢が一つしかなかった。

 彼はそれを選択し、無理矢理に自身から霊力を放出した。

同時に、彼が懐にあった創の創った札が反応し、起動した。



      ****



「これはこれは……」


 零は修練場の惨状に困った声を出した。

 それはそうだ。目の前には束錬が倒れているし、

その奥には彼の弟が倒れている。そして、その間には……

全身を灰色の鱗で覆われた大きな大蛇が顕現していたのだ。

 あの霊力によって術は消え、大蛇は存在しないはず。

 しかし、大蛇がいる理由もしっかりあった。

それは、降神術が『普通の』術とは違ったからだった。

そして、灰色の大蛇はま完全ではない。

成功していたなら、その姿は白蛇のはずだ。

こ祟りが固まった蛇、出来損ないの大蛇。

それでも持っいる力は強大で、それを見た零は呟く。


「ヤバイ、創がいないと勝てないわ」


     ****


 終創は今回の件は無干渉にすることにした。

零にとってはそれはとても面倒なことだろうし、

後で会った時には地域一帯を吹き飛ばす大げんかになるだろう。

 それでも、彼は無干渉にすることにした。それはなぜか。


「命ってのはそうほっぽり出すものじゃないと思うんだけどねぇ」


「そうよねぇ、でもあの人どこか悟ってそうだし……」


 大蛇を封じれる人間がもう出動したのだ。

 遺言は残してあるとか、諏訪子には了解をもらったとか、

老い先短いしそろそろ潮時だとか、そんなことを言いながら、

気迫と勢いだけで創と廻を押さえ込んだ人物が出て行った。


「まぁ、あの人なら死んでも神様になって蘇りそうだしね」


「それだけの信頼も持ってるわよねあの人……」


 その人がいれば一応は安心だろう。

 創が行く必要はない。例えそれで人が一人死ぬとしてもだ。

 もし、助けに行ってしまうとその死ぬ予定の人に恨まれてしまう。

恨まれたが最後、事あるごとに小言を言われ、

その死後にはいつの間にか神霊化してたりして強烈な祟りが来るだろう。

 創個人への干渉ができないことは知られている。

おそらく自然災害とかそれのたぐいがたくさん来るだろう。

 それを踏まえて、創は今回のことを断念した。

零には後で事情を伝えなければ、大げんかは避けたい。


「大蛇ねぇ……逃げられたりでもして、強力になられなきゃいいけど」



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