分相応
邪馬台国と言われるところに来て三日目になった。
邪馬台国と呼ぶのは正確には違うのでどうかと思うが、
一番近い呼び名はその呼び方じゃないだろうか。
「良い朝だ」
俺達は一般人の方々に連れられ、
彼等の中でも一番の米持ちの家に泊まらせてもらった。
元祖日本酒とでも言える米の酒を味わったが、
何か体から悪いものが全部流れるようなそんな味の酒だった。
「兄さん」
俺の背後から声が掛かる。
振り向くと、愛しの彼女がそこにいた。
寝間着として使用している白い麻の着物を着、
流れるような黒髪をなびかせ、眠たげに目をこすりながらも、
その微笑は太陽すら霞むほどに眩しく輝く一人の少女。
我が永遠の女神、姫ちゃんがそこにいた。
「おはよう、良く眠れた?」
俺は姫ちゃんに問う。
「はい、気持よく眠れましたよ……でも」
姫ちゃんは少し頬をふくらませる。
「今日はおはようのキスがありませんでした」
今すぐ昇天してしまえそうな気分である。
この表情、この頬の膨らみ具合、すねた眼の俯き具合!
たまらん! これはすぐに彼女の要望に答えねばならん!
「姫ちゃん、こっち向いて」
俺は姫ちゃんの顔を両手で包みながらゆっくり持ち上げる。
姫ちゃんは俺の背中に手を回し、両目をつぶって準備万端のご様子。
俺はゆっくりとそこに唇をおとし、その口を堪能した。
口を放した後もすこし見つめ合ってから口を開く。
「今日はどうしようか」
「そうですね……厩戸ちゃんのところに行きましょう。
呼白ちゃんも仲良くなったみたいですし、遊ばせてあげるのはどうですか?」
「いいね、そうしよう。じゃあ、昼過ぎくらいが無難かな」
「そうですね、それくらいに行きましょうか」
こうして今日の最初の予定は早く決まった。
*****
本日は天を置いてきた。あいつは家でゆっくりしている。
彼は昨日の一件で妖力を隠さないといけない。隠蔽に力を使って眠いそうだ。
面倒すぎることを押し付けてしまっただろうか、言ったら助けてやるのに。
さて、そんなこともあったが、俺達家族は何事も無く厩戸の家についた。
位置は俺の能力で特定したんだが、この家は、どうにも……
「デカイ」
「ほわぁ」
「大きいですねー」
俺たち三人の声が重なる。
目の前の厩戸の家は、身分そのまま超豪華だった。
神社ほどとはさすがに言わないが、それにしてもデカイ、
デカすぎて肝が抜かれそうな気分だ。
「貴族ってのはどの時代でもすごいね」
「そうですね、前見たのは全部黄金でできた建物でしたっけ?」
「あれ確か重すぎて地面にめり込んでたんだよなぁ」
「黄金の建物なんてあるんだ……」
俺達は建物を見ながらそんな会話をする。
三人が横一列に並んで喋る姿は少し異様だっただろう。
そして、彼女にとってそれは見つけやすかったんだろう。
「あ、お姉ちゃん!」
「厩戸ちゃんだ!」
厩戸は歳相応の無邪気さを出しながら走ってきた。
「やあ、厩戸、また会ったね」
「あ、羽の妖怪さんの先生だ!」
「おう」
「遊びに来てくれてありがとー」
この年のこどもは可愛いなぁ。
たちの悪い嘘は吐かないし、基本正直だし、いつ見ても可愛い。
「ああ、こちらこそ、家の呼白と遊んでくれてありがとう」
「うん。……あ、お姉ちゃん、あっちいこー」
「わかった、じゃあ行ってきます零さん」
「行ってらっしゃい」
駆けていった二人に俺と姫ちゃんは手を振った。
さて、今日決めた厩戸と呼白を遊ばせるのは完遂した。
「この後はどうしようか」
「神社にでも、行きましょうか」
姫ちゃんとデートすることになった。
****
手をつなぎながら神社へと歩く。
「そろそろ帰らないとですね」
そう、姫ちゃんが始めた。
「そうだな、最近爺さんも元気が無いし」
最近は爺さんがよく部屋に籠もるようになった。
そして、諏訪子はいつもそのそばにいる。
約束がどうのこうの言っていたので、それの関係だろう。
それにしても、よく籠もるようになったというには……
「そろそろ、歳も取り過ぎたってところかな」
「ですかね。まだ元気ですし、そうは見えませんが、
天さんと戦ったり戦争の指揮をしたりと、年の割に体を使いすぎです。
元々の年齢もありますし、そろそろ時間が来てもおかしくないです」
そうか、爺さんもやっぱり人間か……。
人間であるなら死ぬことは避けられない。
俺も、能力での不老不死を解けばすぐに死んでしまう。
例外であって、例外でない、そんな微妙なところの存在。
そして、不老不死だからこそ、知人が天に登るのを何度も見た。
やはり、見送りくらいはしなければいけないだろう。
「そろそろ戻らないといけないかな…」
「そうですね。元々の目的である、
厩戸ちゃんに会うのは達成してます。
ただ、呼白ちゃんに悪いですよね、仲良くなったのに」
「転移術を教えよう。そうすればいつでも来れる」
「分かりました。帰ったら転移符を作りますね」
「頼むね」
少し重い話はそこで打ち切り、
気持ちを切り替えて楽しくしゃべることにした。
せっかくのデートだ。楽しまなければもったいない。
そうして愉しめば距離は短くなる。すぐに神社にもついてしまった。
目の前には大きな大きな天照の神社。
「神様か……強い力だよ」
「ですね、でも、強い力は強い責任を伴います」
「失敗すれば、今までの大きな力が全て自分に返ってくる」
「世界のルールを知らない内は、分相応を知らなければいけません」
「まぁ知ったからどうなるってものだけどね」
「ですね、私達のような存在でないと知ったところで意味が無いです」
「帰ろうか」
「はい」
*****
「今から言う話を最後まで聞くように」
「はい」
厩戸達のところに行き呼白を前にそういう。
「明日から呼白に転移術を教える」
「本と……」
目を輝かせた呼白を人差し指を立てて止める。
「実は、明日国に帰るから、
こっちに来る時にそれを使うようにするんだ」
「わかった」
大きく頷いた呼白の頭を撫でる。
サラサラした白髮が気持ちよかった。
「さて、俺は変える準備をするから、もうしばらく遊んでな」
「はーい、ありがとう、零さん」
「おう」
さて、と息をついて姫ちゃんの方を見ると、
彼女は彼女の方で厩戸に何かを話していた。
「いいですか、今は意味はわからなくてもいいので、
この言葉を覚えていてください。『何となろうと人は人』」
「『何となろうと人は人』?」
「そうです、意味はわからなくていいです。
あとでちゃんと分かるようになります。ただ、忘れないでね」
「うん! 私頭いいから忘れないよ」
「そうですか、じゃあ、忘れないでくださいね」
姫ちゃんはそう言って厩戸の頭をなでた。
さっきの言葉の意味、あれは彼女の未来を予想してのことだろう。
おそらく、彼女は人を超越した者になり、その力を使い不老不死を求め、
最後は世界を統治する救世主にでもなろうとするだろう。
が、そんなことは分不相応だ。姫ちゃんの言葉には、
そのことが意味として縫い付けられている。
彼女ならば気づくだろう。後の超人なのだから。




