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東方兄妹記  作者: 面無し
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よく出来過ぎた三文芝居

「小娘よ探したぞ!」


 降り立った兄さんが吐いた最初の台詞はその一言でした。

 周囲の人達は兄さんの姿を見た途端に逃げようと騒いだ。

しかし、その行動は突如出現した囲いによって阻まれてしまった。

 天さんの姿をした兄さんが私にウインクする。何をどうしたいかはすぐに分かった。


「いつかの妖怪……あの話は断ったはずです!

それに、家族を殺し、村を潰したあなたについていくわけないでしょう!?」


 私は、兄さんの考えたストーリーに乗ることにした。


「何を言うか、お前に選択権などないぞ小娘よ

言っておくが私はお前を諦めるつもりはさらさらないんでな」


 兄さんは大きな声でそう叫んだ。

 周囲の人は私と兄さんを恐々ながらも見ていた。


「ふむ、何にしても小娘よ。

お前の今の状況はどういうことだ?」


 兄さんが顔を歪ませて嘲笑する。


「村一番の妖怪退治屋の娘であり、天才とまで言われたお前が、

まさか退治する妖怪に間違われて檻の中とは……ずいぶんと傑作だなぁ

一緒に逃げた兄はどうした? 途中で死んだか?」


 兄さんは檻に顔を近づけて更に顔を歪ませる。


「小娘よ、妖怪に間違われた気分はどうだ?

居場所を失い、私から逃げ、辿り着いた国では捉えられ、

こんな檻の中で何もできずにいる。どんな気分だ人間よ?」


 兄さんは人間の部分を少し強調して言った。

 周囲の人がざわめいた。


「人間? あの子は人間なのか?」

「いや、それなら家の陰陽師たちが出ていくはずないんじゃ……」

「でも彼女は妖怪が出た時に歩きまわってたんでしょ?

それならあの子がその妖怪なんじゃ……」

「いや、それなら目の前の妖怪が説明できなくなる。

あの時の妖怪は目の前の鳥妖怪で、あの子は人間なのでは?」


 周囲の人のざわめきはどんどん大きくなった。

 目の前の兄さんはそのざわめきを聞いて表情を普通の笑顔に変えた。

そして、私に小声でこう告げる。


「じゃあ、もうひと踏ん張りだね」


「はい」


 私も小声で返した。

 兄さんは周囲の人に目を向けて彼等を睨む。


「馬鹿なものどもめ。

彼女が人間かどうかを自分で調べもせず、

ただ提示されたことを事実と飲み込む阿呆の塊」


 振り向いた兄さんは演技の欠片なく、本心からそう言った。

 そして、黒いものでも立ち上りそうなほど私怨に満ちたその言葉は、

周囲の人達を震え上がらせ、脅しをかけるのには十分だった。


『っ!!』


「俺のものに手を出すということは、

死んでも構わないということと解釈させてもらっていいんだよな?」


 兄さんがそう言いながら手を振り上げる。

 何をどうしたいか、どうするタイミングは今だ。


「待ちなさい」


 私は能力を使って檻を内側からぶち破った。

兄さんが上手くいったと言いたそうな顔で振り向く。

 

「娘よ、出られるんじゃないか、最初からそうすればよかったのに」


「黙ってください。檻を壊すのは結構面倒なんですよ」


 出ることには成功した。

 しかし、まだ妖怪によって私が人間であると言われただけだ。

私が彼等の味方であると主張するにはまだまだ弱い。

 なので、ここで天さんに化けた兄さんを倒すまでが一連の流れだ。

兄さんは私ではなく人々のほうを狙い、私はそれを防いで兄さんを退治する。

逃げた兄さんは途中で元の姿に戻り私の兄として合流する。


「ふむ、まぁ面倒なのはそうだろうな。

結界を壊すのは、防御を崩すのはとにかく面倒くさい。

だがな? 面倒ならば出てこなければいいじゃないか?」


「目の前で人が殺されそうになってるのを見過ごせるとでも?」


 私は兄さんに対して構えを取る。


「ふむ、いいだろう。好きなだけかかってこい。

以前守りそこねた人間を、お前はどこまで守れるかな?」


 兄さんはあくどい笑顔を浮かべながら人の群れに飛んで行く。

 私は兄さんの前に出られるようにその場から転移することにした。


「ぶちますよ?」


「やってみろ!」


 兄さんの前に出たところで私は平手を上げる。

 兄さんはその手を受け、残った手で周囲に霊力弾を放った。


「さぁ防げ!」


「言われなくとも!」


 私兄さんを上空へ放り投げ、地面から生やした岩棘で霊力弾を撃墜する。

そして上空を見上げると兄さんが目の前に、


「ふんっ」


 兄さんの拳が私の顎に直撃する。

が、吹き飛ばされただけでダメージはない。

 私はダメージ無しの吹き飛ばしを大げさに攻撃を受けたように表現した。


「ぐっ!」


「ふはは、まだまだだぞ小娘ぇ!」


 吹き飛んだ私は地面に手をつき受け身を取ると、

削岩の術式で地面をえぐり取り、えぐった塊を兄さんに投げつける。

 が、兄さんに当たるはずもなく、塊は躱され、

兄さんは地面の代わりに人を捕まえて上空に放った。


「うわあああああ!!」


 上空に放られたのは男性だった。どう控えめに見ても筋骨隆々の大男。

兄さんはおまけとでも言うように彼に向けて霊力弾を放った。


「まず一人」


 ニヤリと兄さんが黒い笑みを浮かべる。

 私は急いで上空に向かう男の前に転移して霊力弾を受けた。

 やはり能力で細工されてあった弾丸は私の目の前ではじけて威力を失う。

私はそれを結界で受けたように見せながら、背後の男性を片方の手で抱き寄せる。


「気持ち悪くなるかもしれないので、気をつけてください!」


「へ?」


 私は腕の中の男性にそう叫ぶと、

また新たに人を捕まえようとしている兄さんに向けて急降下した。


「ぜえええええい!!」


 降下中に身体強化の術式を追加し、かかと落としを繰り出す。

 そして、避けた兄さんの顔面に手をつけ、顔面に向けて霊力を爆発させた。


「ブッ!」


 兄さんは爆発の衝撃で吹き飛び、そのまま地面に倒れる。

 顔面から胴にかけて傷だらけだが、おそらくその全てが能力で作ったものだ。

能力強化ではなく、術式による強化と、初期状態の霊力で兄さんに傷はつかない。

それは私がよく知っていることだ。


「始末してきます。ここでじっとしててくださいね」


 私は抱えた男を地面に座らせた。

男は返事はしなかったが、首振りで答えてくれた。


「さて、私が弱いとでも思ってましたか?

前に自分に手も足も出なかったからと油断してませんでしたか?

馬鹿ですね。そんなことをするから最後に負けるんですよ。

今回のために、専用の術式を描かせてもらいました」


 新しい術は実際は作っていない。

専用の新しい術を作れるだけの力量があると思ってもらうためだ。


「さようなら、懺悔は地獄でしてくださいね」


 私は兄さんに手を付けると、転移用の術を展開した。

兄さんに対してそのまま発動し、離れたところに兄さんを移す。

 転移の時に強めの光を発生さ消滅したように見せかけた。

これで一連の流れは終了。後は、上手くいけば万々歳だ。


「全員無事ですよね?」


 私は周りの人たちに目を向ける。

周囲の人達は一瞬固まった後、大きな歓声で私を迎えてくれた。


   *****


 隠密術はとてもいい感じに発動している。

現に今も誰一人に見つかることなく祭壇までこれた。


「ずいぶんとでかい鏡だなオイ」


 祭壇の依代を見てそう呟く。

それの上半身くらいの直径を持つ鏡がそこには飾られていた。


「これが神社の御神体、もとい依代で大丈夫か?」


「大丈夫だよ」


 厩戸に確認すると彼女は笑顔で返してくれた。


「天さん、じゃあ速くやっちゃいましょう」


 呼白ちゃんがそう言って俺を促す。

俺はそれに頷いて鏡に手を付け、妖力を流した。

 すぐに鏡面に波紋が浮かび、見慣れた女神の顔が映る。

そして、


「私を呼び出したのはお前か…って、

あなたどっかで会った事ありません?」


 神妙にしゃべりだしたかと思ったら俺の顔を見た瞬間態度が変わった。


「やぁ天照。先の戦で敵大将を取り、

今まで神を含めすべてのものに人間と思わせてた妖怪だよ」


「………確か天っていう名前だったかしら?」


 彼女の言葉に俺は頷いた。


「すいません、家族みんなで観光に来てるんですが、

二人が知られてないみたいなので、急いでこっちの人に知らせてもらえませんか?」


 呼白ちゃんが天照に向かってそういう。


「あらかわいい子。あの反則人間の娘さんね?」


「そうです。でも、そんなのいいので早くしてください」


「わかったわ。反則人間を困らせて、怒られるのはもう勘弁よ」


 女神は一度引っ込んだかと思うとすぐ現れ、

鏡の中から一枚の紙が出てきた。


「広域に対して情報を伝達する術が書いてあるわ。

結構力いるから、天が起動してあげてね、じゃあまた」


 女神はそう言うと鏡の中に戻っていった。


「ん、じゃあこれで終わりだな。後は発動すれば終わりだ」


「じゃあ早くしましょうか」


「おう!」


 ニコニコ笑顔で妖力を通す。

拡散した情報は国一帯に広がり、国民全員に伝わった。

そして、同時に、先生からの伝言が来た。


『さっきの情報で俺と姫ちゃんが英雄みたいなことになった。

それと、俺がお前に化けて姫ちゃん奪還に一枚噛んだから、

お前は極悪妖怪としてこの国に認識されると思うから……頑張れ☆』


 面倒事でも一番面倒なタイプのものを押し付けられた。

この国では、二度と妖力を使っての戦闘はできないだろう。


「面倒すぎですよ……」


「零さんが迷惑かけちゃいましたね」


「いいんだよ、先生に勝ちたいなら、これくらいどうってことない」


 申し訳無さそうな呼白ちゃんにそういう。


「それに零は、俺の先生だからね」


 俺は自慢顔でそう言った。

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