嫁怒り
天才はいない、そういう人もいる。
しかし、やはり世界には天才人間も居るんじゃないだろうか。
小さい頃からやけに物覚えがよく、何故か頭が切れる子供。
そんな創作物の中だけにしていて欲しいような、質の悪い少女が目の前にいる。
「ねぇ、その妖怪さんと何するつもりだったの?」
無邪気な笑顔を俺に向け、
「妖怪たいじのおじさんたちでも呼ぼうか?」
その笑顔で攻撃を仕掛けようとしてくる。
久々の珍しい存在の衝撃に電流が背中をが走った。
確かに脅威、しかし、まだ彼女は子供だ。
彼女のまだまだ幼稚なけしかけに乗る必要はない。
「妖怪退治は遠慮しよう。それに、悪いことしに来たんじゃないしね」
「そうなの? でも妖怪さんは悪いことをするんでしょ?」
「そういうのが多いかもしれないね、けど、
今回連れてきたのはそういうやつじゃないから」
八割は本当の話だ。
悪いことをしに来たわけでもないし、天は人間を基本襲わない。
天は天狗の始祖だ。その存在は自然への恐怖に依存する。
天の子供は天狗という種族へ向く恐怖や畏怖に存在が左右されるが、
暴風への恐怖の形である天は暴風への恐怖が亡くならない限りは消えない存在だ。
故に、基本的に人間を襲って自分を怖がって貰う必要はないのである。
これは国下や尾都にも言えることだ。
「だから、妖怪退治のおじさんは呼ばなくていいんだよ」
「そう、じゃあ何しに来たの?」
「一応の目的は君に会いに来ただけだよ」
「私に?」
「そう君に」
不思議そうな顔をしている少女を撫でて俺は続ける。
「これからとっても頭がいい女の子になりそうな君に会いに来たんだ」
そういうと、少女は納得言ったようだ。大きく頷き、
「うん、私頭いいよ! だって皆私が頭いいっていうもの!」
眩しい笑顔で答えてくれた。
中身が少女で助かった。妖怪=悪というのが基本の大人なら、
天が俺の味方だとわかった時点で退魔師達を呼んでいただろう。
聖徳太子が子供の時に来ておいてよかった。
「将来いい人になりそうな子に会うと、
縁起がいいってよく言うからね、だから妖怪の弟子と来たんだ」
「妖怪さん弟子なの?」
「そう、俺の弟子なんだ。
妖怪は悪い奴も多いけど、いいやつも居るに居るんだよ」
「そうなんだ、でも、さっきの妖怪さん妖怪退治のおじさんと戦ってたね」
「…………」
そこまで感知しやがるかこの超人!
ここは少し嘘を混ぜてでも正直に言ったほうがいいだろう。
「この国の外から来たからね、門番の人が通してくれなかったんだ。
だから、弟子に頼んで少し妖怪退治のおじさんを引きつけてもらったんだ。
大丈夫、誰も殺さないように言ってるから、怪我する人はいても死ぬ人はいないよ」
「あんまりひどくしないでね?」
「大丈夫、俺の弟子は強いからね」
「おーい、零、戻ったぜ」
噂をすればなんとやらということかな?
背後を振り向くと、飛んでくる天が一人、そして、
彼の背後には霊力弾を放ちながら飛ぶ一人の退魔師の姿が………
「おーい、お前しくったのか!?」
「いや、他は気絶させておいてきた!
こいつだけ異様硬くて仕留められないんだ。
『矛盾』並みの結界張りやがるから国下当たりがほしいところだよ!」
なるほど、硬すぎて攻撃が通らなかったのか。
退魔師を見てみる。結構な歳のおじいちゃんだ。
何? この世界の爺さん強いやつ多くないか?
『矛盾』と同程度の結界か、天が壊せないわけだ。
「兄さん、呼白ちゃんと少し避難しますね」
「うん、姫ちゃん頼んだよ」
姫ちゃんが呼白の手をとって走りだす。
聖徳太子はこの国の豪族周知の顔出し狙われることはないだろう。
でも、少し下げるくらいはしないと巻き込まれる。
「危ないから下がってな」
背後の聖徳太子にそういう。
「悪い子としに来たんじゃないんでしょ?
じゃあお兄さんがちゃんと話せばわかってくれるよ?」
「うーん、たぶん無理なんじゃないかな?
今の大人はね、妖怪にいいやつが居ることを知らない人が多いから」
「じゃあ、私が皆に教えてあげる。
だってあの妖怪さんは優しい妖怪さんなんでしょ?」
こどもは優しい。とても純粋だ。だからこそ世間で言われるように残酷でもある。
「! 厩戸様! そのもの達からお離れください!」
爺さんがそう叫んで俺に霊力弾を放った。
すかさず結界を張ってそれを防いだ。
目の前に天が着地する。
彼と距離をおいて、爺さんも着地した。
「なんの用だ妖怪!」
「なんの用も何も、俺は厩戸にただ会いに来ただけさ」
「なんだ、暗示でもかけに来たのか!?
それともさらいにでも来たのか!?」
「さっきも言った。会いに来ただけだ。
それに勘違いしてもらうと困るが俺は人間だ」
「妖かしと手を組むとは……恥知らずめ!」
「その恥は君の価値観での恥だ。
俺は妖怪と手を組むことは恥だと思わない」
「妖怪は人とは相いれぬ存在だ!」
「相入れてるから手を組んでるんですが?」
爺さんが手をわなわなと震えさせている。
結構怒らせすぎたかな?
「天、姫ちゃんの方にいけ、俺はこいつの相手だ。
……そうだ、厩戸も連れて行ってやれ、呼白の遊び相手だ」
「分かった。厩戸、俺の背中に乗れ、放れちゃダメだぜ?」
「うん!」
「厩戸様、いけません!」
「だまれよ爺、お前の相手は俺がやる」
話も聞こうとしないわからずやはお断りだぜ。
****
呼白ちゃんの手を引き、走っていると、
私に天さんが追いついき、私と並走を始めた。
彼の背中には厩戸ちゃんが乗っていた。
「姫さん、先生はあの爺と戦ってますよ」
天さんがそう言う。
兄さんであれば、あの程度の人なら大丈夫だろう。
だが、それでもやはり戦闘しているのは心配になる。
「負けはしないでしょうけど……」
「心配ですか、先生は良い嫁をもらったもんですねぇ」
「そんな、照れちゃいます」
「お母さん」
私に手を惹かれる呼白ちゃんが私を呼ぶ。
彼女の方を向くと、呼白ちゃんは空を指さしていた。
そちらを見ると。人の群れが複数。
「天さん、全員気絶させたんですよね?」
「そのはずですよ、この国の退魔師は未だいることか」
「天さん相手に全勢力切らないなんて随分思い切ったことですね」
「そう言われると嬉しいですね、努力が報われます」
天さんは笑う。イケメンなため、そこそこ格好いい。
が、その体から殺気が漏れていることを私は感じていた。
「どうします?」
「わたしはどっちでもいいですよ、天さんに運んでもらっても?」
「大丈夫です。ちっちゃい女の子の一人や二人は変わりません」
「じゃあ、お願いしますね。呼白ちゃん、天さんの手を持って」
「うん、お母さんは?」
彼女は天さんの手を握りながら聞いてきた。
「私はあの人達を蹴散らした後に兄さんと追いつくから大丈夫」
呼白ちゃんは頷いたが納得いかない顔をしている。私が戦うのはやはり心配なんだろう。
これでも兄さんと同じくらいには戦えるんですけどね。
「大丈夫」
私は彼女の頭を撫で、そして大丈夫を繰り返す。
心配な気持ちを納得させられる言葉などこの世には存在しないから。
「行ってください天さん!」
「了解!」
彼は二人を連れて飛び上がった。
呼白ちゃんを抱いて、厩戸ちゃんを背に乗せ、飛んで行く。
私はその場に立ち止まって追手の方を見た。
「さて、呼白ちゃんはどうしたら素でもお母さんと呼んでくれるんでしょうか。
あ、天さんも零くんのことさっきは先生って呼んでましたね」
ふたりとも素直になればいいんですけどね。
「まぁ零くんじゃなくて兄さんて呼んでる私も同じか」
零くんと呼ぶのは夫婦の日か、私だけの時、
理由は『兄さん』が口に慣れてしまったのと、単に呼ぶのが恥ずかしいからだ。
今も名前を呼んでしまったために彼の顔が浮かんでしまい、顔が火照る。
「ああ零くん、笑顔が最高です!」
火照る顔を手で抑えて悶える。
すると、無粋な輩が霊力弾を放ってきた。
「……もう少し零くんの素敵な姿に悶えさせてくださいよ」
正直言えば現実の零くんに悶たいところを我慢しているのだから。
悪いことをしに来たわけではないのにひどい扱いですね。
「女だからってなめないでくださいね、
これでも、世界征服できるくらいには強いんですから」
指を鳴らして霊力弾を霧散させる。
能力限界まで後五十九分五十五秒……余裕ですね。
「こころしてかかってきなさい、退魔師よ」
少し怒りモードです。零くんとの幸せな妄想を止められたのでね。
容赦なしで、叩き潰させてもらいます。




