戦争終結
「これは……なかなか……」
「爺さん、あんたまじで人間かよ?
大妖怪数匹相手に余裕かます俺と、なんで普通に戦えるんだよ?」
「さぁ?」
覚悟していたことだったが、やはり先生の知り合いは強かった。
いや、人間として見るなら化物以外の表現の仕方がわからなかった。
俺の音速を超える攻撃を撃墜するし、衝撃波の影響も受けてないし、
そもそも、音速の攻撃って普通に振るより威力段違いに強いんだ、
なんでそれを平然とした顔で撃墜できるんだよ。
「あんた、俺が見えてんのか?」
「いやいや、君の姿は影すらもわからないね」
「じゃあ、なんで攻撃できるんだよ……」
「勘だね」
勘で撃墜できたりするもんなのか攻撃って……
いやいや、そんなことはないはずだ!
そう、なにか小細工があるはず、先生みたいに何か小細工してるはずだ!
その予想は的中した。先生の知り合いは、腰の辺に何か変なものを持っていた。
変なもの、と言うのは何かとつながってるような変な気配。
おそらくは、巨大な力の供給源になるような存在とつながるための何かと見た。
俺は笑った。そのリンク用のデバイスさえ潰してしまえば勝てると踏んだからだ。
「なにかおかしいかい?」
「ああ、その勘の正体見たりだ!」
「ほう」
得意になってドヤ顔を作った俺に、爺さんがニヤリと笑った。
「じゃあ勝ってみなさい、妖怪の少年」
「おれは爺さんより年上だけどな!」
そう言って爺さんの腰についた何かをはぎ取らんと飛びかかる。
爺さんは体をひねらせ、俺の攻撃を服を破かれながらもギリギリで躱した。
俺の手の中には赤い宝石の付けられたデバイス用の首飾りがひとつあった。
少し疑問が浮かぶ、この爺さん先ほどまで問題なく回避していたのに、
何故今の攻撃はかすらせたんだ?
いや、と疑問を流した、先ほどの攻撃でデバイスのようなものを外したんだ。
これで、あの爺さんに手こずることはないはず!
「せえい!」
勢い良く地面を蹴る。
空中に舞い上がり、上空から不規則に起動を変えながら急降下する。
ふはははは! この一撃で決着つけてやるぜ!
「爺さんさよならだ!」
「ああ、さよならだ」
俺の加速が突然現れた金色の縄たちによって止められた。
背後に開いた空間の穴から出現したそれらは、俺の動きを完全に絡めとっていた。
似たようなものを見た記憶がある。あれは先生の技の一つだったが……。
神力の大縄……この爺さん、神なのか?
「ああ天くん、君の読み通り君が私から奪ったそれは私と諏訪子をつなぐものだよ」
考えが読まれてることは気にしない。
「それで、このつなぐための奪ったんだが?
なんで爺さんは神力を使って縄を召喚できたかおしえてくれるかな?」
爺さんが笑う。俺の考えがどこか間違っていただろうか。
「いやいや、私は召喚していないよ。召喚したのはその首飾りだ」
爺さんの言葉を聞いて手の中にある宝石を見た。
すると、宝石が光り、中から誰かの声がした。
『おーい、大丈夫? 高矢、また無茶してないよね?』
少女としか思えない幼い声。
しかし、神力を伴ってるこの宝石からの通信ということは、向こうの神か。
「ごめんよ諏訪子。零さんの弟子に会って舞い上がっちゃってさ」
『私無茶しないでってお願いしたよね?
お願い聞けないなら帰ってきたら一日高矢を独占するよ?
膝の上でゆっくりさせてもらっちゃうよ?』
「仕事が一日出来ないのは痛いね、私の仕事は多いから」
『そう? でももうダメだよ。だってもう無茶したもの』
「これは厳しいね」
爺さんと宝石から流れる神の会話。
爺さんのセリフはどう考えても神に向けるものじゃないし、
神から爺さんへのセリフもどう考えても民に向けるものじゃない。
一番近いのは……おかしいな、なんでここで先生と姫さんの会話が思い浮かぶんだ?
あれか? この二人夫婦みたいとかそんな感じか?
……うそーん。
「さて、天くん。この縄は私ではなく、
こちらの国の神、諏訪子が召喚したものだ」
「なるほどね、それで俺を縛ることが出来たわけだ」
爺さんは頷いた。まぁ、今のところは安心してもいいだろうか。
俺は急降下の途中だったこともあり、爺さんとは五メートルほど上空に居る。
この高度では爺さんの攻撃は届かないだろう。
「じゃあ反撃させてもらうね」
「はい?」
俺はそう聞き返していた。
爺さんが指をこちらに向ける。
瞬間、俺の周囲に無数の霊力剣が出現した。
「……爺さん。術使えたの?」
「使えないといった覚えはないけどね」
そのとおりだった。爺さんは一度も術式なんかを使えないと言ってない。
「反撃開始」
俺に向かって剣が飛んでくる。
それを撃墜するために俺は息を吐きながら目を閉じる。
能力が目覚めてからあまり時間が立ってないんだ。
この能力を使うにはまだ少し集中がいる。
「『霊剣・剣牢獄』」
爺さんのそんな声が聞こえる。
剣の牢獄、名前そのままだが、そのままな分強力なんだろう。
爺さんが術も使える人間でよかった。
この能力は術者にしか意味が無い。
「無効」
そうつぶやくと、周囲に漂っていた剣の霊力と、
俺を縛っていた縄の神力が消えた。
目を開けると、驚いた爺さんの表情が見えた。
「何をしたんだい?」
「俺の周囲に漂う霊力、神力の回路を無効化して霧散させただけだ」
「どんな反則技だい?」
「術式を書き換える程度の能力」
「おお、それは厄介な」
爺さんが感心するように唸った。
厄介だと言っているくせに感心できるのがすごいよ。
「じゃあ、攻撃させてもらうね」
「ああ、おいで」
俺は加速した。
音速を優に超える速度に達し、
その速度のまま爺さんに向かって四方八方から攻撃する。
が、その攻撃はすべて受け流される。
爺さんは涼しい顔をしながら俺の攻撃を受け流す。
これでは埒が明かない、これで決めさせてもらおう。
「『暦・時の同一』」
俺は術式を展開する。
俺が五世紀と半世紀かけて作ったこの術。
効果は簡単、どこかの別の時間軸で活動する俺の行動を復唱する。
それだけ。たったそれだけだ。だが、これは俺の切り札だ。
俺は爺さんに拳を振るった。別の時間軸の俺が現れる。
敵の正面から攻撃した時の俺、後ろから攻撃した時の俺、
右から攻撃した時の俺、左から攻撃した時の俺、
下から奇襲をかけた時の俺、今までの俺の人生の、すべての俺が現れた。
一斉攻撃、同時攻撃、三百六十度全方位からの攻撃は、防げない!
「ぜあああ!!」
爺さんが霊力を体から放出する。
術式でないため無効は出来ない、防御としては初歩だが、
今のタイミングでは有効な防御方法だった。
しかも、この爺さんどこにそんな霊力があったのかというほどの霊力を放出した。
攻撃の通りが悪い、が、このまま仕留める!
「『疾風・叢雲の龍』」
爺さんに触れた右腕に妖力を集中させる。
俺の腕に妖力の風を起こし、それを龍の形に固めていく。
そしてそれを何匹も作り自らの腕に這わせていく。
連なった龍たちを爺さんの体に打ち付ける。
吹き飛んだ爺さんに、体全体から放出した妖力で作った龍をぶつける。
龍に飲み込まれた爺さんは風にもまれながら地面へと落ちた。
「悪いな爺さん。一応先生の生徒なんでね、
先生夫婦以外の人間に負けるわけにはいかないんだよ」
「そうかい」
地面の爺さんから返事が返った。
その体で生きてることに驚き、立ち上がったことにも驚いた。
「私の負けだ、しかし、君の先生が今度は大将になる手筈でね」
あーうー、それは……俺の負けかな?
そう思ったところで俺の隣に空間の穴が空く。
にゅっと誰かの顔が出てきた。
見慣れた顔、俺が倒したいランキング第一位、
我らが最強の人間、先生だった。
「零!」
「よう、天。元気だった?」
「あーおう、一応な」
「高矢さん、すみません。俺はライバルとやって四肢がもぎ取られてるんですよ。
正直言って戦ったり指揮できる状態じゃないです」
それを聞いた爺さんはため息を付いた。
「じゃあ、家の軍の負けかね?」
それもそうだ、大将を撮ったんだし、俺達の勝ちか?
「いや、国下が敵軍大将に勝った。
この戦争引き分けとして両国で講和条約結んだほうがいいと思うぜ」
国下いたんだ。
あいつも強くなってんだろうなー。
「被害は?」
「ゼロと言っていい、道具については仕方ないが、
兵士については死者は出てないよ、俺クオリティだね」
「そう、くおりてぃと言うのは分からないがそういうことなんだね」
「はい」
「と、いうことらしい。
天、お前このまま戻って敵大将倒したって言ってこい」
先生から声が掛かる。
仕方ない、先生の言うことだし行ってきますよ。
「わーたよ」
「高矢さん、この後のことはこちらで話しましょう。
講和条約ですし、悪くはならないはずです」
「分かった」
俺の目の前で勝手に話が進められていく。
いやまぁ、俺は報告にいかなきゃならないから勝手に帰ってしまおう。
「じゃあ、またな零」
「あいあい」
先生に挨拶して空に飛び上がる。
本陣へ移動すると、そこは地面が焼け焦げ、大将がぶっ倒れていた。
ついでといううふうに国下も一緒にいる。
「よう、国下。久しぶりだな」
「天、師匠には会ったか?」
俺は頷いた。すると、国下がドヤ顔でこちらを見てくる。
「なぁ天。俺、師匠に体術で互角になったんだぜ」
「!?」
初耳過ぎて目を見開いてしまった。
先生と体術で互角!? そうか、こいつも化物になったか。
「俺は……弱いなぁ」
「そうなのか?」
「今さっきお前んとこの大将に圧倒されたとこだよ、勝ったけど」
国下が固まる、目をこちらに向けたまま表情が固まっている。
しかも何だそのこの世のものではないものを見るような目は、
そのめんたまほじくってやろうか。
「爺さんに、勝ったのか?」
「勝ったよ」
「お前いつの間にそんな化物になったんだ?」
いや……あの……へ?
「あのチートに勝つとか何したんだ?」
「いや、チート技使っただけだが……」
そう言った途端に国下の表情がいつもの気さくな男の顔に戻る。
「なーんだ、そういうことか。どうせ全方位攻撃でもしたんだろ?」
「わかるんだな」
「だって兄弟弟子だろ?
師匠がとる戦法を俺たちも使いやすいからな」
その通りだ。同じ先生を持つ人は先生と戦い方が似るって言われるしな。
「で、今の本陣の状況は?」
「大将が俺に負けたから降伏しようかどうか慌ててる」
「ならほっとけ、後から先生の伝令かなんかで講和の話がくるさ」
「さすが師匠、行動が早いね」
そんなことを言っていると、その三分後にはもう伝令が来た。
うちの答えは決まっていた、大将が戦闘不能だし、
降伏以外の手があるならとすぐ飛びついた。
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講和は似たような条件だったので一つを除きすぐに片付いた。
相手に渡す条件として、あちらとの戦争の放棄、
信仰の分割、農産物の輸入、神谷兄妹の自由散策権。
相手からの条件として、こちらとの戦争の放棄、
信仰の分割、鉄製品の輸入、終姉弟の自由散策権。
戦争放棄は両方の望みだったのですぐに済んだ。
農産物輸入は鉄器の輸入と物々交換で行われる。
自由散策権は認めないとひどいことになりそうなので承認された。
問題は信仰の分割だった。
まぁそれも俺の一言で一応すぐ終わった。
「表看板替えて、八坂入れて神力の路線繋げりゃいいんじゃね?」
その一言に基づき、信者の表看板の神様の名前を変え、
八坂と諏訪子の二人で神社を運営することになった。
ただ、諏訪子は面倒臭がって途中から八坂が運営を全部やるようになった。
一応、これで今回戦争は終わり。
少し、散策に出てみようか、
もしかすると、大きな国が見つかるかもしれない。




