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東方兄妹記  作者: 面無し
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安心安全な人質

ここはどこだろうか。見知らぬ天井が目に映り、

驚いて体を上げると、私が全く知らない部屋だった。

後頭部が痛み、まだ少し意識が揺れる。


「まだ、私は生きていたのか」


揺れる意識の中で私は戦争を思い出した。

地面が割れ、仲間が倒れる光景。

私を超える人間が私を前に現れた光景。

そして、私の全力の剣が、あっけなく止められた光景。

止められた後、私は意識を失ったんだったか……


「後頭部の痛みはそれか」


私は後頭部をさすってみた。

コブになっていたようで触ると痛かった。

さて、ここにいても仕方がない。

警戒しながら抜けださせてもらおう。


「さてと」


腰を上げ、足を立てて立ち上がる。

目の前の襖に手をかけ、気配を探る。

誰も居ないことを確かめてからゆっくりと襖開けた。


「やぁ、起きたみたいだね」


「わぁ!」


顔をのぞかせたると目の前に人間の顔が大きく写った。

驚いて体をのけぞらせてしまう。

目の前の人間は空間に開いた穴のようなものから上半身だけを出していた。

男はのけぞる私を見ておかしそうに笑った。


「さぁ、来てもらおうか、全員本殿の方で待ってる」


彼は穴に一度戻ると足から出して地面に降り立った。

微笑を浮かべて体を半回転させ進んでいく。

逃げさせてはくれないだろう。私は彼の後ろをついていくことにした。


         ****


「おまたせ、連れてきたぜ」


俺は本殿の襖を開けた。

居るのは我が家族と山上夫妻と爺さんと諏訪子。

囲炉裏を囲んでいた全員が一斉に振り返った。

大量の視線に少し引いてしまったのは一瞬だけ、


「ああ、起きたんだね。じゃあ座ってもらおう」


爺さんがそう言った。

俺は八坂に入ってと言って中に入る。

諏訪子とヒメちゃんの隣が開いていたので、

姫ちゃんの隣に腰を下ろすと、すぐにお茶が出てきた。


「ありがとう姫ちゃん」


「どういたしまして」


できる嫁はいいね。ニヤけが止まらなくなる。

さて、八坂は諏訪子の隣に座った。

周りを敵に囲まれているせいか、少し警戒しているようだ。

口を切ったのは爺さんだった。


「はじめまして、大和の神よ。

私は今回の戦で指揮を任された高矢というものだ」


爺さんの声はいつもどおりゆったりした雰囲気だ。

一口お茶をすすってから爺さんは続けた。


「今回、私たちは戦に勝った。

悪いが君を向こうに返すつもりはない、情報を渡されると困るからね」


「だろうな、それは私もわかっている」


八坂は囲炉裏の火をまっすぐ見つめながら答えた。

爺さんはゆっくりとしゃべる。


「ただ、君が考えてるようなことはしないよ。

殺さないし、拷問しないし、安心して暮らしてくれ」


爺さんの言葉に八坂が固まる。


「……いいのか?」


「いいとも、それに」


驚く八坂に爺さんはもう一つの驚きを与えた。


「君の仲間は全員生きてるよ」


「は?」


そう、八坂の仲間は全員生きている。

意識はないが、全員無傷で眠ってもらっている。

全ては姫ちゃんと優奈の働きだ。


「別室で仲良く寝ているよ。

彼らも一定地域からは出せないが安全は保証しよう」


「それは本当か!?」


八坂が目を見開いて爺さんを見る。

爺さんは笑みで答えた。


「本当だよ、君の仲間は全員生きている」


八坂は笑みを浮かべた。

そして息をゆっくりと吐いてから短く、


「ありがとう」


そう言った。


     ****


さて、俺は八坂を仲間の元へ連れて行くことになった。

その間にでも、戦場で何があったか、俺達の戦略は何だったかを話そう。


まぁ簡単なことだな。

俺が障壁を展開し、仲間が周りから襲撃。

途中で仲間を転送して離脱させ、国下が地面を割って制圧。


傷ついたやつや死んだ奴を神社へと移し、

姫ちゃんと優奈が手当と蘇生作業。


こちら側に人質として大量の兵と一柱の神、

向こう側への脅しとして役に立つ、と爺さんが立てた。


俺が気づかれずに障壁を貼ったり、

国下が地割れを起こせることを勘で予想して立てていた。

どんだけあんたの勘はすごいんだと疑いたくなる。

実は能力持ちなんじゃないだろうか。

まぁいいや、本命の戦略は本丸線の時らしいし、

その時にまたよく見せてもらうことにしよう。


「八坂」


俺は俺の後ろを歩く神様に声を掛けた。


「なんだ?」


返ってきた声は少しだけ、

先程本殿にいた時よりほんの少しだけ上ずっていた。

やはり先日の戦闘で少しビビらせすぎただろうか。

それとも突然声をかけられて驚いただけか、


「怖かった?」


「………」


俺の短い質問。

八坂はその意味を理解しているだろう。

そして、応えなかった。黙り込んだままでいる。

ただ認めたくないのか、認めて民の信用を裏切るのが嫌なのか。

俺は人々を統治したことがないから分からないが、

人々を統治するものにはやはり相応の覚悟もあるのだろう。

部屋につくまでに、応えは返されなかった。


「ついたよ」


俺は襖を開けて八坂の方を向いた。

八坂は部屋の中に入った。

彼女の兵は部屋の中で布団をかぶっている。

雑魚寝させてるとでも思った?

残念、人質は大切にしないとね。


「意識はじきに戻るさ」


俺は八坂の背中に向けてそういった。

彼女はゆっくり頷いた。


「じゃあ、俺は戻ってるから、気がすんだら戻ってこいよ」


俺は部屋を後にして本殿の方へと廊下を歩き出した。

後ろから小さく礼を言う声が聞こえた。


「どういたしまして」


俺は同じく小さな声で返した。


   ****


本殿に戻ると、爺さんが今度の作戦を話していた。

国の他の幹部を抜いた、謁見権利がある者俺達だけの会議。


「よう、ただいま」


「ああ、お帰り」


爺さんが広げた地図に石が数個置かれている。

赤と青に色分けされた石は、青が自軍である。


「それで、勝算はあるんですか?」


俺が姫ちゃんの隣に座りながら聞いた。


「もちろん」


爺さんはさらりと答えた。

俺は広げられた地図を見る。

どう考えても自軍の石の数が少ない。

割合でいくと七対三くらいだろうか、ゲリラ戦でもやるつもりか?

まぁ大和の国との間は森が広がってるから、撹乱なんかは有効だろう。

だが、奇襲したりするなら別に地図を広げるのは相手が来てからでいいんじゃないか?


「どうするつもりですか?」


「うん、これを見て」


爺さんは地図を刺す。


「どんな陣形で来るか全くわからないから、

今は3つくらいのパターンを考えてる」


爺さんが説明してくれたのは3つ。

相手が横に広がって囲ってきたタイプ。

縦に配置して突撃してくるタイプ。

もしくは散らばって各々奇襲するタイプ。

すべて俺がいない場合を想定している。

俺は今度の戦では謎の超強力人間と戦るだろうから。

一応兵達のそうびや体に細工は色々施すが、

それでも不安であることに変わりはない。


「負けないようにしてくださいよ?」


「ああ、ここで負けては諏訪子が危ないからね」


爺さんは俺達の前では諏訪子に様つけることなくなったな。

まぁ以前してくれた少年お話も大体わかってたし、

結構親密だとは予想してたよ。

諏訪子が爺さんに熱い視線を送り続けるほど惚れてたのは驚きだ。

さっきから諏訪子は爺さんに視線を向けっぱなしだ。

頬が少しピンクなのもわかるぞこのやろう。

危ないっていうのは信仰がなくなるってことか、

神様は信仰の塊だから、信仰がなくなると諏訪子も消えるということか。

ふむ、それは俺としても嫌だな、久々に俺に干渉できかけたやつだし、

ここでなくすのは惜しい。

知り合いを呼ぶのも考えたほうがいいかもしれない。

まぁ、細かいことは本番で考えよう。

いざとなれば兵士を全員俺の分身に変えればいいんだ。


「今は英気を養わないとね」


俺はそう言って姫ちゃんの手をとった。

姫ちゃんは俺の方を向くと少し笑って握り返してきた。

小さいその手の感触を楽しみながら、

俺は論外人間との戦闘の作戦を考えていた。


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