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東方兄妹記  作者: 面無し
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戦争前準備

姫ちゃんたちのもとに戻り、俺と国下は祝福を受けた。

優勝者には神への謁見自由の権限と、名誉が与えられる。

諏訪子への謁見権限はこの国の幹部になったも同然だそうだ。



「近々戦争が起こる」


俺は帰り道の途中で姫ちゃんにそう伝えた。

姫ちゃんは驚かず、そうですかと冷静だ。


「知ってたの?」


聞いていたのかと思った俺の問に、姫ちゃんは首を横に振った。


「兄さんさっきから時々真剣な顔してましたから。

これは何かあると予想してただけですよ」


軽く言って姫ちゃんは俺の手を握る。

今度は隣の呼白から声が掛かる。


「戦争……ねぇ、おと……零さん、戦争っていけないんじゃないの?」


「そうだよ、普通はダメなことだ、まぁ俺の死合も普通はダメだが……

だが、今の時代はそれがあってもおかしくない時代だ。

大丈夫、心配しなくても死傷者は両方に出ないように図るさ」


心配そうな呼白の頭を撫でて俺はそう答えた。

しかし、心配はひとつある。

八坂だったか……あいつは大丈夫として、その次だ。

八坂の地位を奪った人間が俺の予想通りなら、

本命と戦争するときには俺は皆を守れないかもしれない。


「対策を……考えないとな」


俺はそれだけつぶやいて家に向かった。

頭のなかで対策のための技を制作しながら……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「戦争が起こる」


俺はかえって早々に優奈にそういった。


「そう、気をつけてね、あなたはいつも無茶するから」


さして驚いた様子もなく優奈はそういった。

俺はよく喧嘩をするからか、いつしか優奈は変に度胸がついた。


「気をつけるさ、今回は負ける気もしないし」


「お師匠さんが居るから?」


俺は頷いた。

師匠がいたなら大体の敵には勝てるだろう。

問題は、その後のでかいのと戦う時だ。

話に聞いた奴らを相手にするとなると、

おそらく師匠と姫さんは動けない。

対策は用意してくれるだろうが、

俺の方は俺の方で考えないといけない。


「優奈って術使えたっけ?」


「私は……簡単なものならいくつか尾都さんに教わったわ」


簡単なものならあまり期待できない気がする。

あの頃の尾都で簡単な術だと、基本の術になると思う。


「動き止められる奴とかある?」


「あるけど……止められるのは三人くらいよ?」


うーむ、やはり基本呪文だとそんなものか。

期待していなかったとはいえ残念だ。

俺は頭をこねくり回す。

一ついい事を思いついた。


「術の強化を姫さんに言ってやってもらおう」


「え?」


俺は先程考えたことを優奈に伝える。

基本の術はあるのだから、それをあの二人に持って行き、

その場で改造してもらおうと考えたのだ。


「あの二人ならいけるだろう」


「自分で改造してみないの?」


それも少しは考えたが、術が苦手な俺にできるわけがなかった。

仕方ないので今回は師匠を頼ることにした。

しかし、


「まぁ明日までは自分で頑張るけどね」


ほとんどダメ元だが、嫁に期待がかった目をされると弱い。

仕方ないのでがんばろう。


「今日は徹夜だな」


「夜食用意するわね」


嫁の一言が嬉しかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「う…ん…」


朝日に目が覚めた私は自分が布団に収まっていることに気づいた。

昨日諏訪子と飲み明かした時に、途中で潰れてしまったんだったか。

起きてみると誰もいない、諏訪子はどこに行ったのだろうか。


布団には私以外の誰かがいた気配がある。

おそらく諏訪子だとだろう。

昨日の会話が頭を流れる。


「私の、最期か」


個人の特別な、一生に一度しかない時をねだられるとは……

神様も随分と欲張りなものなんだなと私は思った。

でも、それを渡すことを私は約束した。

理由は簡単。


「惚れた弱みというものですかねぇ」


私は苦笑いしながら立ち上がり、本殿を出る。

顔を洗うために井戸の方へ移動して、桶を引き上げる。

神社の井戸には屋根がある。

屋根の影になった桶の水には私の顔が写っていた。


「随分と老けたなぁ」


シワだらけの爺さんの顔を覗いて、そんなことを言ってみる。

自分の顔なのか疑うほど威厳が出そうな顔だ。

私は写った顔を崩した。冷えた水に意識が完全に覚醒する。


「もどるかな」


そんなことを言って本殿への道を歩く。

さて、私はこの国の中でも一目置かれている。

最年長というのももちろんあるのだろうが、

諏訪子への謁見権限があるのが一番だろう。


幼い時に諏訪子に疑問を持ち、

疑いを駆けたことで目をつけられ、権限を得たのだったか。

国の最年長ということは、私以外のみんなはこのことを知らない。

他の年寄りも私より年下だったし、覚えていないだろう。


「歳とは怖いなぁ」


零さんはタフだなんだといってくれるが、

私も普通の人間だ、若いころに比べると随分弱い。

自分でも残りの時間が少ないことがわかるようになってきている。

昔、私の爺さんが自分がいつ死ぬかを言い当てたことがあった。

当たるわけがないと私が行った時に、あの人は「いつかわかる」と言った。

それの意味を理解した気がした。

戦争までは時間がない。


「急がないとね」


私は作戦を考えながら本殿へ入った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


神社の境内、四つに分けられた里の長老と、

大男大会の選手、それと武術家の者どもが集まった。

神様からのお触れ、今回の戦争に関してのことが知らされるのだろう。


『姫ちゃん、聞こえてる?』


俺は隠し持ったマイクが作動しているかを確かめるため、

家で待機している姫ちゃんへテレパシーを送った。


『大丈夫、聞こえてますよ』


『糸なし電話』という技だが意外と重宝している。

マイクの向こうは姫ちゃんと呼白、優奈の三人。

賽銭箱の前に腰を下ろすと、隣に束錬と国下が座った。


「今回の知らせってなんだろうな」


束錬がそう俺達に聞いた。

その答えはもう知っているが……隠したほうがいいかな?


「この後の戦争についてだろう」


「へ?」


国下が馬鹿正直に答えてしまい、束錬が固まる。

周りの皆も石のように動きを止め、次の瞬間一斉に視線がこちらを向いた。


「……国下」


「あー、スマン」


俺が睨むと、国下は素直に謝った。

視線が容赦なく俺たちを貫く。

冷や汗が出そうな雰囲気を誰かが破らないかと束錬に目をやる。


「詳しく聞いていいか?」


俺の視線を受けた束錬は俺の意図を汲んでくれたようだ。


「あー、分かった。話そう」


束錬に答えるようにして俺は口を開く。


「実は…「宣戦布告されたのよ」」


しかし、俺の話はたったひらがな数えの三文字で切られた。

賽銭箱の裏から声が聞こえた、その声が俺のセリフを切ったのだ。

まぁ誰かはわかっている。神社内はあいつの自由だからな。


「おはよう皆、私だよ」


賽銭箱の向こうから顔が覗く。

少女の姿をした神様諏訪子がそこに立っていた。


『おはようございます!!』


俺と国下以外の全員が諏訪子に頭を下げる。

彼らの行動を理解するのに一瞬遅れた俺達は、

またも他の全員から視線で貫かれた。

慌てて取り繕うように頭を下げた。


「いいよ、いいよ、皆顔を上げて」


諏訪子の声に顔を上げる。

拝殿の扉が開き、爺さんが出てきて諏訪子の隣に立つ。


「さっき零が言った通り、戦争が起こる。

隣国の大和の国から宣戦布告された」


諏訪子は真剣な顔で皆に伝える。

今回の敵は神様一柱のみだということも言った。


「一柱でも油断しないように、

神が引き連れてくるんだ、少数でも強力な兵だろう」


諏訪子は賽銭箱を迂回して石の道に降りる。

そして、爺さんを指さした。


「今回はあの子に指揮をやってもらう!

国で最高齢だし、一応武術経験もある」


初耳なことが聞こえた。

爺さんが武術? 初めて聞いたぞ。

時々みせるタフネスとかよくわからん手品はそれか?

そんな考えても無駄なことを考えていると、爺さんが口を開いた。


「今回指揮官に指名された高矢です。

皆も私の顔は知っているだろう。顔なじみもいるしね」


爺さんはいつものほんわかした雰囲気だ。

と、そう思った瞬間爺さんの雰囲気が変わる。


「今回の戦に負けるつもりはない。

我が国の総力を上げて敵を潰させてもらう。

気を引き締めてことにあたってくれ」


いつもの爺さんからは考えられない鋭い目つき。

声までもが低く威圧感を感じさせるものになっていた。


「作戦については今日の午後に会議を行う。

大会の優勝者、武道家の家長、長老陣は忘れないように」


そう言った爺さんは、すぐさまいつもどおりの爺さんに戻った。

俺はいつもとのギャップに苦笑した。

じゃあまた後で、と手を降った爺さんに、

俺と国下以外はぞろぞろとその場を後にした。


「爺さん、武術やったことあるんだな」


「私はそんなに強くないよ、かじった程度だ」


爺さんはなんでもないというふうに言った。

賽銭箱の上に諏訪子が一飛で乗り移る。


「そんなことないだろう?

高矢はなかなか強かったじゃないか」


高矢というのは爺さんの名前か、これも初耳だ。

本当に謎ばっかだな爺さん。


「自信を持っていいんだよ、高矢は」


「諏訪子がそう言うなら仕方ない、

今度からは少し自慢げに行ってみよう」


諏訪子!? 呼び捨てで呼ぶんだね爺さん。

爺さんは空気の俺達に悪かったねと言ってから改めて自己紹介してくれた。


「私は高矢、この国最高齢の人間で、

最年少で諏訪子への謁見権限をもらったものだ」


武術は合気道によく似たものらしい。


「まぁ、ここで話すのはなんだろう。

お昼を一緒に食べよう、姫さんたちを呼んでおいで」


そう言って爺さんは拝殿の中に入った。

諏訪子が俺達の方を向く。


「じゃあ、二人共、今回の活躍期待してるよ」


「「へーい」」


俺達の返事を聞くと諏訪子は拝殿の扉を開けた。

そして、さり際に、


「高矢は強いよ、昔に大会優勝者を、

気に食わないって理由でノシたことがあるからね」


と言った。

顔を見合わせた俺達の口は開いていて、

姫ちゃんを呼ぶまでの二十秒ほどの間ふさがらなかった。

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