戦に出る男に、神の望みは……
事後処理は約束通り俺が全て行った。
舞台の修理や、巻き込まれた方々を戻したりといろいろやった。
時間の停止を解除した後は普通に試合をやって、
うまく国下に合わせてもらって引き分けにさせてもらった。
本来の結果通り引き分けにしてくれると言ってくれたときは助かった。
このまま負けたら諏訪子に色々どやされかねないからな。
さて、俺は今優勝者として諏訪子の居る本殿に居る。
そして、目の前の諏訪子から重要な話があると言われたところだった。
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「で、話ってのは何?」
俺は目の前で腕を組む諏訪子を急かした。
諏訪子は少し唸ると実はね、と言って始めた。
「これを見てくれる?」
諏訪子が懐を探り、俺達に差し出したのは紙。
丁寧に折られたそれには簡単な言葉が一文だけ、
『宣戦布告 大和』
「こいつは………」
国下は目を細めて紙を角度を変えながら眺めている。
大和? あの大和神社か?
歴史的には諏訪大戦はまだのはずだが……
「戦争だよ」
諏訪子が短くそういった。
歴史が変わったんだろうか、
それなら修正しないといけないかもしれない、
かなり無理矢理な事になりそうだが……
「相手は一柱だけだけどね」
「は?」
諏訪子がそう言ったので能力で紙を少々調べてみる。
紙の角に一箇所神力を感じられた。
「この神力はなんだ?」
「これかい? これは判子みたいなものだよ、
一柱しかないってことは、先兵として出されたか、
はたまた舐められているだけか……」
「誰だかわかるか?」
聞かれた諏訪子は、紙を持ち上げて判子のあたりを凝視した。
「うん、八坂とあるね」
八坂? 八坂神社か?
それは別として、少し調べてみようか。
「ちょっと見てみようか」
「できるの?」
諏訪子が首を傾げる。
当たり前だ、俺は普通の論外だぞ。
「もちろん……見てろよ『世界を我が手に』」
目の前に青いディスプレイのようなものが立ち上がる。
普段は俺の頭に直接流すが、今回は二人がいるので眼の前に立ち上げた。
この紙に書かれたことについての情報が流れていく。
文の中に、正解を見つけた。
「あった、この文が書かれた時の状況だ。
八坂が書いた理由は、最近入った新人、しかも人間に、
今までの地位を奪われそうなため、武功を立てようとして書いたのか。
単独行動だから、今回引き連れる人数は少ないらしいな」
「神がそう簡単に立場を返されるんだから、
随分と強い人間が入ってきたんだねぇ」
………なんだろう、またも嫌な予感がする。
神様を倒せる人間なんてものはほとんどいない。
あるとすれば、俺のように強力な能力を持っているか、
元々の霊力容量が大きくて、それが神の神力より大きかった場合。
俺が想像したのは前者のほうだ。しかも顔なじみの、しかも因縁の姉弟夫婦。
「………」
「どうした零、眉間にシワが寄ってるぜ?」
「引っ掛かりがあるなら言ってよ、考える人数は多いほうがいいよ?」
そういう二人に、俺は顔なじみのことを話した。
能力の概要を話したときはふたりとも驚いたようだったが、
まぁ俺と似たようなもんかとその後のおかしな話は普通に聞いていた。
「で、応戦するの?」
「もちろんだよ」
俺が聞くと、諏訪子がそう言った。
「少数の個人兵で勝てるほど、うちの国は弱くないよ」
諏訪子は立ち上がって自慢げに胸を張った。
小柄の少女の姿だが、そこには確かに神様の威厳があった。
「戦の準備は私に任せて、二人は優勝のお祝いされてきなよ」
「いやいや、準備くらいなら俺も手伝うよ」
「そうそう、三人のほうが早いぜ?」
「いーのいーの」
そう言って諏訪子は俺達の手を取り本殿の扉の方へ引きずっていく。
少々心をのぞかせてもらうと、詳しい概要は調べてないから知らんが、
人と会う約束をしているらしい。
それなら仕方ない。
「よし、国下、行くぞ」
引きずられた状態からしっかりと立ち、
国下の襟を諏訪子の手から取って今度は俺が引きずっていく。
俺達が部屋から出るのと同時に、反対の襖が開いた音がした。
約束の人物だろう、盗み聞きをするのは野暮だ、とんずらしよう。
「おい、さっさと戻るぞ。
美味い飯も食えるし、嫁とイチャイチャできるんだからさ、
戦の準備なんて俺ら二人がいればほとんど要らないし、行こうぜ」
「えー、でもさー俺正体隠してるんだぜー?
人間に化けながら本気出せってそんな無茶な……」
「嫌がるなら力づくでやらせようか?
今度は制限なしだけど大丈夫? 死んじゃうよ?」
国下の頬を霊力で少し焼きながら半ば脅し混じりに言ってみる。
国下はすぐさま承諾してくれた。
「じゃあ行こうか☆」
「……角どうやって隠そうかなぁ」
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「久し振りだね」
私は後ろから入ってきた老人に振り向き、声を駆けた。
「ええ、お久しぶりです、諏訪子様」
目の前の老人は私に頭を下げる。
別にかしこまらなくていいと何十年も前から言っているのに……
「まだ、様付けをするの?」
「ええ、あなたは神ですから」
自分の立場を鬱陶しく感じるのは毎回この時だ。
ふたりきりの時くらいは砕けて欲しいと何度もお願いしたけど、
毎回軽く断られてしまった。
「そんなの関係ないと思うんだけどなぁ、
だって、あなただって皆に敬われるような人じゃない」
「それでも、神と人間では違うのですよ」
座って、と私が言うと、彼は腰を下ろした。
彼の元に寄って行きあぐらに腰を落ち着けて彼を見上げる。
「じゃあ命令で無理やりそうさせるわ、
私には、普通に喋って」
「お断りします」
笑顔で断られてしまった。
不満な私は少し粘ってみた。
「いいじゃない、やってよ、減るもんじゃあるまいし」
「ダメです」
「そんなこと言って、本当は丁寧に話すの面倒なんでしょ」
「そんなことはありません」
「ねぇ……いいでしょ? 高矢」
「……わかった、観念したよ」
彼はやっと観念して普通に話してくれるようになった。
『高矢』が彼の名前だが、里の殆どは知らないらしい。
そもそも、自分で明かしていないというのだから不思議だ。
「高矢、今回の戦さ、指揮取ってもらって大丈夫?」
「私が? さすがに体力が持たないんだがなぁ」
「あら、そう言う割に朝から元気に奔走してたじゃない」
高矢はまいったなというふうに頭をかくと、
やるよ、と言って、私の頭を撫でた。
「じゃあ、準備はすぐできるし、
今日は高矢とずっと話してたいなぁ」
私は頭の上にある高矢の顔を見上げてそういった。
高矢は私が言い出すのをわかっていたと言うように、どこからか酒を用意した。
「朝まで、好きなだけ付き合うよ」
「うん、じゃあよろしくね」
私は彼の膝に収まったまま、彼と話をした。
最近の畑の状態のことや、里での面白い出来事、
微笑ましい恋話、里に来た零達のお熱い話。
そして、懐かしい昔話。
「高矢、あの時みたいに、私を疑うことはしないの?」
「諏訪子が今のままであるなら、私は諏訪子を疑わないよ」
あれから長くたってしまった。
彼はあの時から随分老けた。
そういえば、私は彼に贈り物をしたが、
彼からは何ももらった記憶が無い。
「ねぇ高矢、私、前に上げたもののお返しが欲しいな」
「ああ、あれかい? いいとも」
彼は快く返事をしてくれた。
だから私は随分と前から欲しかったものを思い切って言うことにした。
「高矢、奥さん居る?」
「いや、私は独り身だよ」
「家族は?」
「大丈夫」
「……そう」
ならば良いだろうか。
「じゃあ、お願いする」
私は、あなたがいなくなる前に、
「私、私ね」
あなたの命が無くなる前に、
「高矢の最期が欲しいな」
あなたの特別な時が欲しい。
「ああ」
そう答える声が、聞こえた。




