鬼討、人討
会場の空気が張り詰め、刺すような威圧感が私に降り注いだ。
目の前の二人、私の兄さんこと神谷零と、兄さんの弟子の一人、
山上国下さん、以前はなかった苗字もつけておきましょう。
「「……」」
睨み合い続ける二人。
その時間が長くなるほど、威圧感は増していく。
威嚇の仕合による殺気の膨れは、今や神社全体を覆っていた。
先に折れたのは国下さんだった。
彼の殺気が一気に集約され一点に向かう。
兄さんの腹部にめがけたものだった。
「ふっ」
国下さんの息を吐く声とともにその姿がぶれる。
一瞬で距離を詰めた国下さんは、その右手で兄さんに向け正拳をつきだす。
拳が受け止められた音と同時に殺気が止んだ。
兄さんが殺気を国下さんに集めたのだ。
周りの空気は張り詰めたまま止まっていた。
「遅い」
兄さんの腕が視界から消え、国下さんが吹き飛ぶ。
吹き飛んだ先の地面に両手をつき、バク転の容量で国下さんは地面に降りた。
「容赦無いなー」
兄さんの拳が当たったのであろう、額をこすりながら彼は唸った。
「もっと本気でいいんだぜ? 事後処理もしてやるからさ」
兄さんはそう言って国下さんに微笑を向ける。
「そうだな…」と国下さんが答えを決めている間に兄さんの次が始まった。
「よっ」
兄さんがいた部分の床がきしみ、同時に兄さんが分裂した。
残像の中で、本体の兄さんは国下さんの襟掴んだ、右手は握られ、後ろに引かれている。
「だらああああああああああああ!!!」
兄さんの右手が分裂する。
複数にわかれたように錯覚する速度で、拳は国下さんの顔に何度も振られた。
しかし、国下さんは微動だにしない。拳が当たったなら衝撃で動くはずだが動かない。
「処理は、任せていいんだな?」
ミットにボールがハマるような、普通は拳で出ないような音で兄さんの手が止まる。
国下さんが左手で拳を受け止めたまま笑って言った。
今度は兄さんが答える。
「もちろんだ」
そう答えた後、国下さんの額にツノが生え、彼の目が赤に変わる。
目が光ったかと思うと、彼の周りに妖気が溢れだし、
その勢いで風邪の渦が起こった。
「行くぜぇ、久々の死合だ!」
兄さんの手を放し、一気に国下さんが加速した。
所々で残像が現れては消え、全く目が追いつかない。
幾つもの残像の中で、兄さんは笑顔だった。
「ああ、ちゃんと処理するさ、ただ、すぐ負けるなよ?」
兄さんが指を鳴らす。
山上夫婦と私達家族の人間が全て止まった。
何をしたかは簡単、彼らの時間を止めただけのよくあることだ。
指を鳴らした姿勢の兄さんが影を残して消える。
「はぁ!」
「せいっ!」
轟音と共に西側から風が吹いた。
見ると、そこには拳を伸ばしている兄さんと、
それを掴んで笑っている国下さんがいた。
「こっちの番だ!」
国下さんは右手で兄さんの顔面打ち抜いた。
兄さんの首から嫌な音がなり、くるりと真後ろに向く。
ショッキングな光景だったので呼白ちゃんの目を塞ぐ。、
「大丈夫大丈夫」
そんなことを言って兄さんが開いた手で指を鳴らす。
すると、骨が折れる音とよく似た音で首が元に戻った。
「まだまだぁ!」
国下さんは兄さんの腕を握り、地面へ叩きつけようとする。
すると、兄さんは途中で足を曲げてブリッジの体制に。
そのまま脚力で飛び上がると、国下さんの後ろへ回り、その背中に一撃を加えた。
「ぐっ」
空中で飛ぶ国下さんはそのまま一回転で体制を立て直した。
兄さんは無理な駆動で壊れた腕を戻し笑う。
その笑顔に向けて、国下さんが飛んだ。
一歩の踏み出しで一気に距離を詰めた国下さんに兄さんは拳を放った。
顔面を狙ったそれは国下りさんが腕で逸らし、ニヤリと笑う。
そのまま兄さんの腕を取り、上空へ放り、その顔面を蹴りあげた。
「ぐああ!」
頭を蹴られ、飛んでいく兄さんに、国下さんが追撃を用意する。
落ちる兄さんの腕を取り、更に加速させて床に叩きつける。
「がはっ」
頭から床に突っ込んだ兄さんだったが、ただでやられる人ではない。
床をぶちぬいて国下さんの足を掴むと、そのまま引いて床下に連れ込む。
足を床につき、膝から上を無理やり引きぬく。
能力あればこその芸当だが異様な駆動だった。
「捕まえたぁ!」
兄さんは掴んだ足を引っ張り、
引きぬいた国織さんを床に叩きつける。
もう一度、今度は空中に浮かし、背中に肘打ち。
回転して回ってきた顔面に蹴りを入れ、フィニッシュにストレートを入れる。
「どーん!」
床が破壊される。神社の木々で作られたというお高そうな舞台が。
拳を食らいながらも問題なく着地した国下さんの、
減速するために突き立てた両足によって破壊される。
「あれ、ダメージ無し?」
「なわけ無いだろ、ただ単に俺に通りにくいだけだ」
兄さんは頭を掻いた。
これはやばいとでも考えているのかもしれない。
兄さんの髪色が変わっていないから、今はまだ『暴君』だけだろうが、
ほとんど通っていないところを見ると、もう一段階強化してやっと通るくらいでしょう。
「いやはや、面倒だね」
「だろうなぁ」
「やばい」
兄さんが真顔になる。
「今回負けるかもだわ」
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俺は久々に負けを予想した。
何年ぶりかは忘れたが、もう何億年としていない。
「専門職にはかなわないなぁ」
国下の場合は格闘技、尾都の場合は術、天の場合は遠距離攻撃。
今までもいろんな奴とやってきたが、そいつの専門分野では全くかなわなかった。
だいたいなんでもできるというのは器用貧乏ということでもある。
格闘技は国下にかなわないだろう、術は尾都の方が速く展開できそうだ。
遠距離攻撃はあるが、広域ばかりで単体攻撃なんて殆ど無い。
スナイプなんて出来る技術もない。意外とないないづくしの俺が悔しいね。
「へっへっへ、どうよ、万年単位の修業の成果は!」
「いやはや恐れいった、久々に冷や汗だよ」
胸を張る国下に俺は苦笑した。
今回は体術縛りだ、どうあがいても国下に敵う気はしなくなった。
だが、それでも戦うことは続けよう。
手を抜かないことも続けよう。
「二段階目、強化『革進』…改め『猛虎出草』」
今以上に全力も出すこともしよう。
お前を倒そうとするのも続けよう。
「英雄が、伏した草から出てきてやったぜ」
お前の成長を楽しむために、お前に俺を見せてやろう。
「脳筋野郎」
俺の髪が血のような暗い赤に変色する。
同時に体の奥から沸くように力が噴出する。
その力を使い、俺は国下に向かって飛び込んだ。
「はやっ」
そんなことを言いながら国下は俺の拳を受け止める。
問題なく受け止めれているんだから大丈夫だろうに。
俺は間髪入れずに足を繰り出した。
「受けて、流す!」
その足を国下は受け止め、勢いを殺さず放り投げようとする。
しかし、そう簡単に流されては困る。
足を切断して頭を掴みにかかった。
「えっ、ちょっ!」
左手が国下を捕まえる。
右手を握り、その顔面へ振り下ろした。
しかし、それは当たらなかった。
国下はその手で俺の手を受け止めていた。
足を再生し膝蹴りを打ち出す。
同じく足で受け止められる。
「まだまだぁ!」
「こいやぁ!」
残った頭を振りかぶり、ヘッドバッドてあいうった。
俺が押し負けた、頭がクラクラして、めまいがした。
だが、倒れない。強化された肺に空気を詰め込む。
声帯を無理やり震わせ、音の振動を被害が出るまでに大きくする。
方向をつけて、国下の顔面に放つ。
「あ!!!」
国下もさすがに音までは受けきれずに離れて避けた。
逃がさない、そう思って俺は一気に距離を詰めた。
「あああああ!!」
俺の拳は受けられた。
顔面に衝撃が走り、視界が揺れる。
俺は地面に足を踏ん張り、二撃目を繰り出した。
それもまた、受けられる。
「関係ない」
そう呟いた。受けられた両手を能力で切断し、
瞬時に再生させながら顔面に一撃を与えた。
国下の体が飛ぶ、飛ぶが、手応えがない。
また、起き上がる。
「いったー!」
「予想通りだ」
傷一つ無い、いや、あるんだろうが分からない。
俺の体術では霊力なんかでの武装が必要そうだ。
「じゃあ、反撃でいいか?」
国下がそう聞いてくる。返事の代わりに俺は構えた。
国下がぶれた、脇腹への一撃を受け止める。
次に迫ってきたストレートを、首をひねって避ける。
「ふっ」
開いた手で顔面を狙うと、国下は後方へ一回転。
飛び上がる足で俺の顎を蹴りあげた。
「ぐっ」
衝撃でのけぞった俺の腹を、強烈な衝撃が貫いた。
その衝撃で今度は体がくの字に曲がる。
右から迫る足が見えたが、俺はそれを手で受けるので精一杯だった。
横飛に飛ばされ、床が俺の体を打つ。
「国下……手加減してたか?」
先程よりも強い力に俺は国下を睨む。
手加減といえば、強化をひとつ下げていた俺も同じなのだが、
師匠だからというのは………理由としては認めてもらえないだろうな。
国下はそんなことないというふうに手を前で振った。
「強化も手加減もしてないぜ、
これは、俺の能力がもたらした自然的な強化だ」
なるほど、納得がいった。
能力、それも自然発生で止められないなら仕方ないだろう。
「『縁を力にする程度の能力』そう俺は読んでる」
「……縁が増えるほど、自らの膂力が上がる能力か?」
「そう、この場合は自分と敵との戦闘相手としての縁だ」
戦闘相手の縁、恋仲での縁、友情での縁、
顔見知りでの縁、すれ違った縁、話した縁、
つながりさせ持てれば膂力になるとは、いささか強すぎる。
が、疑問がある。
「縁なんてどこでもつながるんだ、
何故俺より膂力が大きくなっていない?」
その疑問に国下は頭をかく。
「すまん、予想と違うと思うが、
俺の能力は相手が俺と縁、詰まるところの
つながりがあると認識してくれないと発揮されなくてな。
まぁ死んだ奴との縁は切れないみたいだからある意味ありがたいが」
と言うことは、こいつの強さは今までのご縁あってのことか。
その中には俺も含まれているんだろう。
先ほど強くなったのは、俺の中に、弟子としての縁だけじゃなく、
敵として、一人の対戦相手としての縁ができたからか。
なんだろう、軍隊かなんかと戦ってる気分だ。
「チッ、面倒なことが増えた」
「まぁいいだろ? まだ勝機はあるんだろ?」
その言葉に俺は頷き、もう一度脱力する。
目線から発せる殺気を、自分が出せる全力の殺気を国下に向ける。
膂力ではかなわない、ならば、一発勝負。
俺は霊力を腕に這わせた。
「!」
国下が気づいたように身構える。
奴の右手にも同じように妖気が這っていた。
霊力などによる細工は認められない……だったか。
スマンが両者ともに同じルールを反則してるんだから見逃してくれ!
お互いの両手に這わせた力は目に見える厚さになって蒸気を発していた。
青く霞む俺の手と、紫に揺れる国下の手、
俺が踏み出すのと、国下が飛び出すのは同時だった。
「吹き飛べクソ弟子!」
「吹き飛べクソ師匠!」
俺と国下の手は交差し、お互いの顔に直撃した。
負けられない、吹き飛びそうになる体を踏ん張り、
手を振りぬいた……と思ったら倒れていた。
地面にぶつかる衝撃で拳による朦朧とした頭が覚醒する。
上半身を上げると、目の前には同じく上半身を上げ、ぼーっと知っている国下がいた。
「勝った? 負けた?」
「わかんね」
最後をお互いに見届けていなかった俺達は、
お互いの嫁に判断を要求するように視線を向けた。
姫ちゃんと優奈が顔を見合わせる。
なぜか目を塞がれた呼白は何が起こったか理解していない。
二人の嫁は笑顔で答えた。
「「引き分けです☆」」
俺達は気が抜け、息を付いた。
しばらく、喧嘩は控えたいところだ。
国下の能力詳細。
縁があると自らの膂力が上がる。
縁と認められるのは、相手が自分との縁(敵味方、や友人、知人、自己と他人など)を認識した場合。
縁が強くなれば、上がる身体能力幅も上がる。
(今回の場合、師弟関係の中に、強い信頼もあるから)
質問あれば承ります。
これからも、よろしくお願いします。




