フラグ成立、戦闘開始
一回戦は突破した。
オッサンには悪いが、今回はモブになってもらおう。
それにしても、
「強いなぁ」
そう、俺の目の前では、国建と束錬の勝負が始まっていた。
二人の戦い方だが、国建は軽快な動きでちょこまか動き、軽い攻撃を連続する。
束錬は移動や回避は遅いが攻撃と防御の反応が早い。
ぱっと見は攻撃を受けているのは束錬であり、避けている国建が有利に見える。
しかし、束錬の攻撃はギリギリかすっていたりするし、
防御が上手なのかダメージが通っていない。
俺の見立てでは、技術だけなら互角なんじゃないかな?
「ふうううう!」
「せえい!」
まぁ、フラグが成立したみたいだからそろそろ国建が勝つだろうけど。
「イエァ!」
「ちょ、速!?」
うん、フラグ成立。ちゃんと妖怪だったみたいだ。
いや、それは置いておこう。今はもっと重要なことがある。
俺は今、そろそろついたであろう姫ちゃんを探している。
この人混みだと全く見つからない、だが探す!
能力なんていらない、愛の力で十分だ!
姫ちゃーん、どこだーい、愛してるよー!
「姫ちゃあああああああああん!!」
人混みを両手でかき分ける。
姫ちゃんの黒髪が見えないか周りを見渡していると、
周りの人が歓声を上げる、勝負がついたみたいだ。
結果はわかっているしどうでもいい、今は姫ちゃんだ!
「姫ちゃーん! マイアルティメットヴィーナス姫ちゃーん!」
ふむ、返事がない、これは思いの丈をこの世に叫ぶしかないのか?
姫ちゃんにしてみたいあーんなことや、こーんなことを暴露しないといけないのかい?
世界は好奇心旺盛だなぁ、そんなに知りたいなら教えてあげるよ。
「姫ちゃんに……」
「兄さん! そこまでです!」
「ん?」
俺の後ろから声が聞こえる。
振り返ると我が最愛の女神が、真っ赤な顔でこちらに向かっていた。
姫ちゃん、よくその人混み分けられる、いや、押しのけられるね。
姫ちゃんは、俺の方に猛烈な速度で近づき、
そのまま顔面に飛びついた。
「わぶっ」
「兄さん、何を言いたかったかは予想がつきますが、それはダメです!
別に好きなだけ思ってもらって結構ですし、思ってもらえるのは嬉しいですし、
それを現実にしちゃっても大いに結構、大歓迎です! で、す、が!
この大勢の前で言われるのは私もさすがに恥ずかしいです!」
そうか、そうだね、恥ずかしいよね分かった。
いいよ、言わない、だって俺今幸せだもの!
柔らかいヒメちゃんの胸が俺に押し付けられる。
俺と身長差がある姫ちゃんは、今は地面に足をついていないだろう。
そして、姫ちゃんは今、ずり落ちていない!
つまり、やわいものが直接顔面に…ふへへへ。
幸せ幸せ、でも苦しいな、いきがとっても苦し……
「ちょ! お母さん、お母さん!
お父さん苦しそうだって! 死んじゃう死んじゃう!」
「え? あっ!」
「………」
ああ、世界が揺れる。
姫ちゃんの顔が分身する…
姫ちゃんがいっぱい……天国だぁ。
「あわわわわ、兄さん兄さん、しっかりしてください!」
「唇が紫に……でも幸せそう」
「うへ、うへへへへ」
ああ、ここは天国。
私は今、天国にいるのですね、そうでしょう神!?
おや、なにか見える、拳?
「零、起きろー!」
「はんぬらぶっ!」
痛い、痛い、変な音がしたからおそらく鼻が折れた。
目の前には得意そうな国達の顔、そしてその隣には、マイファミリー。
ちくしょう、せっかく天国を満喫してたのに。
「国建、よくも俺を天国から脱出させたな!」
「そうしなかったら、俺と戦ってくれないだろう?」
そう言って国建は得意そうに胸を張った。
おそらく、国建の予想は当たっている。
あのままだと俺は天国に昇って帰って来なかっただろう。
「それもそうだな。
じゃあやるしかないね、戦ろうか」
俺の言葉に国建は満面の笑みを見せた。
「おう!」
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あー皆様、一言いいだろうか。
「何この地獄絵図」
『ワアアアアアアアアアアアアア!!!』
「大丈夫大丈夫、いつものことだよ」
俺と国建の試合が間近になったので、決勝戦用の特設舞台に来た。
諏訪子が話すには、神社内の木々で組んであり、金銀は宝物庫のものを使い、
布もミジャグジ様本体が宿ってるらしい湖の水を使って染めて、
一切合切、端から端まで神様の力が宿ってるらしい。
そんな舞台を見る事ができるのは一年の今日だけ、そりゃあ民衆も沸くだろう。
隣においてある座敷は何に使うんだろうな?
そんな疑問より、俺には人がもみくちゃになって死なないか心配だが。
『ワアアアアアアアアアアア!!!』
「こう熱狂してると、どうしても冷静にんだよね」
「まぁ俺もそうだな、でも、今回は別だ」
そう言って国建は拳を俺の方に突き出す。
「お前がいるからな」
「それは嬉しいことだ」
俺もその拳に自分の拳をにあわせて笑う。
「「よき勝負を」」
「さあ、始めようか」
よく通る声が聞こえる。
ざわりと人が沸き、真っ二つに別れる。
杖をついた爺さんと、その後ろには姫ちゃんと呼白、
ともう一人美人の女の人が一人。
「爺さん、後ろの皆は?」
割れた人たちの間を畑の脇道でも通るみたいに歩く爺さんに俺が聞いた。
爺さんは一度後ろの三人を見てこちらに向き直る。
「決勝選手の家族は一番近くで観戦するのが普通じゃろう」
まぁ決勝戦の出場選手の家族だから特別だろうな。
さて、姫ちゃんと呼白、二人以外の美人女性。この人に俺は見覚えがある。
格好は普通の農民と同じなのに、顔のせいで不釣り合いだ。
長い赤髪を一つにまとめ、お母さんの雰囲気を全身にまとった人。
あの時から持ってた世話焼きな性格が余計進化してる気がする。
ひさしぶりと言おうとして、
「『はじめまして』、優奈といいます」
止められた。
「……はじめまして、零と言うんだ」
なんだろう、眼力に押されてしまった。
と、そこでぴーんときた。俺達はここでは知り合いじゃないことになってる。
俺が久しぶりなんて言ったら怪しまれるだけ、
はじめましてと言わされて正解だった。
「はじめまして、神姫といいます」
「どうも、国建っていうんだ、よろしく頼む」
「うむ、挨拶は大事だね。だが、そろそろ始めないといけない。
三人はあっちの座敷に座ってくれ」
なるほど、そりゃあ見やすい席にするよね。
三人が座るのを見届けて、爺さんはこちらを向く。
壇上にもう三人爺さん一人と婆さん二人が入ってくる。
今回の審判だろう。
「さて、始めようかの」
爺さんがそういう。
「「おう」」
俺と国建は笑顔で答えた。
それを見た爺さんは頷いて、手を挙げる。
「それでは、只今より大男大会決勝戦を始める。
神の御前故に正当な勝負をするように!」
爺さんが揚げたてを振り下ろすと同時に叫ぶ。
「始め!」
その声のあった次の時、
勝負が始まった瞬間に。
特設舞台が殺気に包まれた。
会場が静まり返る。
「「覚悟はいいか」」
静かな、二人の声が響いた。




