久しき鬼の祖?
「と、言うわけで、今回はその細身のやつを叩き潰せば、終わりだ」
「なんとも表現が物騒な終わりですね」
昨日の祭りにて、膝枕してくれたまま寝ていた姫ちゃん。
そのなんとも可愛らしいマイヴィーナスに、国建のことを話した。
相手が俺だからか、それほど危ないとは思ってなさそうだ。
「表現が物騒なだけで、実際やることはそれほど物騒じゃないよ」
「兄さんがやると、デコピンが凶器にできるんですけど」
そういえばそうだな、俺がやるとデコピンで腸が吹き飛ぶ。
これは…
「……訂正、本気でやれば物騒だった。本気じゃないから大丈夫」
きちんと訂正しておかねばなるまい。
あ、でももうひとつ言っておくと、国建とやらが妖なら、
少々強化もするかもしれない。
「まぁどちらにしろ、気をつけてくださいね」
「うん」
いつもどおり心配する姫ちゃんのために、
今回も無傷で帰ってくることにしますよ。
「あ、そうだ。呼白は?」
「あの子なら家で寝てますよ」
「そう」
まぁまぁ、今日はゆっくりしててもらおう。
よーしっ、お父さん頑張っちゃうぞ!
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「そういえば、今日の予定は?」
街の広場で姫ちゃんに聞く。
「今日は兄さんとお爺さん、ほか数人の人が先に出ます、
他の人は後から出発して、お昼すぎくらいに決勝大会の予定です」
そうか、俺は先に出るんだね。
「じゃあ、姫ちゃんは呼白をちゃんと連れてきてね」
俺がそう言うと、
「分かりました、ちゃんと連れてきますよ、
兄さんも、はしゃぎすぎて能力使い過ぎないように」
お返しという感じで姫ちゃんが笑顔で言ってきた。
姫ちゃんの手をとって、手をつなぎながら笑顔で返す。
「了解」
周囲の目が何本も自分に突き刺さってる気がした、でも、
そんなことは関係ない、俺達二人の世界に入らせるつもりはない。
さて、出かける前に…
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
定番のやり取りを交わし、お互いに体を寄せる。
三秒ほど見つめた後に、気づいたらキスしていた。
別行動になる時の定番の行事、久しぶりだ、そして、とっても気持ちが良い。
信じてないけど、神よ、俺は今ここに存在できることに感謝します。
「じゃあね」
「はい」
笑顔で姫ちゃんと別れて、周囲を見回す。
二人の世界の中では気づかなかったが、広場の中央あたりに爺さんを見つけた。
少し駆け足で向かう向かうと、足音で気づいたのか爺さんがこっちを向いた。
「やあ、零さん、おはよう。夫婦仲良く、微笑ましいことだね」
そう言って笑う爺さんに会釈する。
「ありがとうございます、見てるとは思いませんでしたけど」
そう言うと、爺さんは安心してと言って、
「抱き合った当たりからは見てないよ」
と、続けた。
最後まで見られていなかったのか、
正直見られても構わないし、恥ずかしくもない、
見せつけてる部分もあるので大丈夫だ。
俺は、薄くい笑顔を爺さんに向けると、
「あら、いいところ見逃したんですね」
そう言った。
爺さんは笑顔を浮かべた。
「見て欲しかったのかい?」
「どっちでも構いませんよ」
「ふむ、そうか」
爺さんはそう言ながら背中に手を回す。
表に出した時、その手には杖が握られていた。
……あんたどこから出したんだ。
「まぁ驚かないけど」
「だろうね、零さんの方が不思議なことをやりそうだ」
「まあね、それより、爺さん杖使うんですね」
俺が意外に思ってそう言うと。
「さすがに神社まで行くには負担がかかってね」
爺さんはそう言って、杖先で地面を叩くと、
右足を軸に一回転して背中を向ける。
その方向には、牛車…みたいなものがあった。
爺さんはそのまま大きな声で、
「出発!」
と言った。
一言いいだろうか、その年して、
「パワフルだな、爺さん」
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神社の境内は人がいっぱいだった。
見渡す限り人、人、人。
ラッシュ時の通勤電車というものがあるが、
それと全く同じ状況というもんだな、これは。
「爺さん、はぐれないでくださいよ」
「はっはっは、この神社は私の庭だよ、はぐれた所で困りやせんよ」
「そういう問題じゃないんですけどね」
ずっこけて怪我したりしたら危ないと思ったんだが…
目の前で笑いながら人混みを進んでいく爺さん。
他の里でも有名なのだろうか、人が割れていく、まさしく人間モーゼ状態だ。
人間モーゼなんて俺はそう何回もやったことないぞ(何回かはある)。
「さて、零さん。参加者は拝殿に入ることになってるんだ、
試合前の説明なんかがあるよ。あと、食事も出る、好きなだけ食べておいで」
「爺さんは?」
「私は、審判の役でもう一つよるところがある。
拝殿にも後から行くから、先に待っていてくれ」
「分かった」
おれがそう答えると、爺さんはどこかへ向かっていく。
割れていた人がすぐに元に戻り、俺は押しつぶされそうになる。
「うぐぐぐ」
これはかなり負担だ。どれくらいかというと、窒息しそうなほど。
羽毛布団で簀巻きにされて、更に真空パックされたくらいだ。
人の波が動く。どこに向かおうとしてるのかは知らないが、
周りが一気に動き出した。
これは移動しようにも出来ない、仕方ないから能力を使おう。
「『転送』」
拝殿の前でいいだろう。
……って、拝殿前も人だかりかよっ!?
俺は賽銭箱の縁を掴んで流されまいとする。
歯を食いしばっていると、襟首を捕まれ、そのまま拝殿に引きこまれた。
「のおお!?」
拝殿の床に倒れる。
強化されていない状態で、背中への衝撃はかなりのものだった。
目の前が明滅するのを収めるのに、目を何度か瞬かせる。
そうしていると、頭の方から声がかかった。
「おお、釣れた釣れた、お前が今回のメインか!」
「ん?」
顔を向けると、どっかで見たことがあるような顔がある。
しかし、奴の顔には角があるはずだからと、首をふる。
「はじめまして、『山上国建』だ」
「ああ、うん。神谷零、普通の人間だ」
「そうか」
国建が差し出した手を握って起き上がる。
岩肌みたいな間食で、とても固い、努力の跡だろうか。
俺の手は傷一つない、目立つ努力の跡がない俺が、
勝つことが、千歳を超えた当たりで申し訳なくなった。
まぁそれでも、負けは嫌だから勝たせてもらうが、
「他の人は?」
俺は囲炉裏をつついている国建に聞いた。
国建は手を止めてこちらを向くと、扉を指さした。
「まだ向こう」
なるほど、まだ人混みの中ということらしい。
まぁこの決勝に出るような奴でも、あの波は返せないだろう。
「なぁ、零」
国建が俺の方に目を向ける。
「なんだ?」
俺がそう返すと、国建は立ち上がる。
俺が首を傾げ、瞬きした瞬間、奴の顔が目の前にあった。
「のおお!?」
「お前は強いの?」
のけぞった俺に聞いてくる国建の目は爛々と光り、
又、強者の可能性を持った相手を前にして期待の色にも染まっていた。
俺はそれに笑顔で返す。
「ああ、強いよ。少なくとも……」
次に起こったことで、俺は国建が普通じゃないことを確信した。
そして、あるやつである可能性もできた。
「「論外程度には強いよ」」
俺のセリフにかぶせてきたのだ。
表情に出てしまっただろうか、それはわからない。
けれど、俺は少なからず驚いた。
「!」
「驚いたか? 俺は強いぜ、鍛えたからな」
そう言って笑う国建。
そうか、そうだろうな、その手は鍛えまくった手だ。
国建が国下である可能性、これが一番可能性が高くなった。
三弟子の一人なら、俺のセリフを予測するのも可能だろう。
面白い、久々に手合わせできると考えておこうか。
「楽しみだよ」
「俺もだ」
俺と国建がお互いの顔面をさらに近づけて睨み合う。
鼻が付きそうな距離での視線の火花は、試合前の余興花火に見えた。




