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東方兄妹記  作者: 面無し
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夫の条件

朝の畑仕事。

朝の五時ごろから起きだし、

そのままお昼まで、水をやり、雑草を抜き、

田んぼでは、害虫を取り除き、水を調節する。

畑や田んぼがダメにならないように、朝早くから、

広い範囲の土地の面倒を見る。手作業なので時間がかかる。

まぁそれも……


「ヤッハ―――――!」


『おおおおおお!?』


俺がいなければの話だ。

俺がいれば、能力による念力で

午前中と言わず三分で全て片づけてやろう!

ふはははははは!


「す、すげえ!」


「なんだあれ!?」


周りの男衆から歓声と驚きの声が上がっている。

俺は能力によって恐ろしい速さで害虫駆除と、

水撒きと、雑草処理と、水調整、その他もろもろをこなしていく。

水は空間を弄れば手元から出せるのでいちいち汲みに行く必要はない。

今日の作業は残り十秒ほどで終わらせられる。


「終ったらなんだったっけ?」


そう、この後に、男衆で何かの会議だったはずだ。

強い奴がどうのこうのだった気がする。国いちばんを決める大会のことだとかとも言ってた。

まぁいいや、


「終わってから聞こう」


俺はさらに、作業を速めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――


「いやぁ、零はすげえなぁ!」


「いや、ホントホント、今日はもう何もないもの」


仕事が終わって男衆の集まりへ入ると、

男衆は歓声を上げて迎えてくれた。

朝にもかかわらず野郎どもはお酒を蔵からだし、

俺に飲ませてくれた。


「あっという間に作業が終わってなぁ、俺達が出る間もないよな!」


「出たら邪魔かもしれないよな」


「そもそも術使いなんて初めて見たよ!」


「人気じゃのぉ零さん」


「爺さん」


物知りじいさんが俺の隣に腰を下ろす。

その手には酒、しかもそれは持って来られたものの中でも特に強いもの。


「爺さん強いなぁ」


「いやいや、零さんにはかなわないよ」


爺さんはそう言った。まぁそうだろう。

爺さんと同じ酒を、今に換算して二升ほど飲み干して、

俺はアルコールが入った気分にすらなっていない。


「そう? でもこれは小細工だ、普段の俺は酒に弱いよ」


そう、これは小細工。能力で酒に強くなってるだけ。

酒に酔わない技『酔民不足』、これのおかげで全く酔わないぜ。


「小細工でも凄いことは凄いことだ」


そう言って爺さんは笑う。

そうしてはしゃいでいると、一人の男が手をたたいた。


「よし、皆そろそろいいだろう? 

今年の大男を決める祭りがそろそろだ、代表を決めないといけない」


真面目な顔をした青年、彼は今回のイベントの取締役。

大男を決めるか、なるほど、思い出したぜ。この国いちばんの強い男を選ぶ大会だ。


「選出自身は簡単だろ? 例年通りので一番の奴にしたらいい」


今日は一日あいてるんだからさっさと決めようぜ、と青年は言った。

男衆は老人と子供以外全員参加らしい、もちろん俺もだ。


「じゃあ早速行こうぜ!」


『おう!』


男衆がぞろぞろ広場へ移動する。

俺も後をついていこうとすると後ろから襟をつかまれた。

振り向くと一人の大男。


「あんた……あれは術じゃないだろう、お前は一体何をしたんだ」


何か知らないが疑われている。

いや、知ってはいるんだ間違えた。

術を使わず能力でやっていたことがばれているらしい。


「霊力の流れなんてみじんもない、お前は一体なんだ?」


どうやら人間じゃない何かと思われているようだ。

大男はすごい形相で睨んでくる。


「おいおい、落ち着け、俺はれっきとした人間だ。

さっきのあれは、簡単な小細工だよ」


「小細工? なんな大がかりな小細工なんてあるわけがないだろう!

何をたくらんでる? この国でも落とすつもりか」


この男ずいぶんと疑り深いようだ。

もう少し物事はおおざっぱに考えないと。


「勝手に考えてなよ、言っておくが、俺は人間だし、

この国を落とそうなんて面倒なことはみじんも考えてない」


男に背を向けて俺は広場に移動した。

後ろの男について少し調べてみる。さっきの男は術なんかを少しかじったらしい。

村でも他人をすぐ疑うことで有名な男で、よそ者が嫌いらしい。

後から来た俺達家族が気に入らないようだ。


「まぁ人間いろいろだな」


調べたのは能力でだ、『この世をわが手に』って技だぜ。

後ろからどんな手でも化けの皮を剥いでやるとか聞こえたけど気にしない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


広場に行くと、男衆が集まって地面に何か書いていた。


「おお、零さん。名前を書いてくれ、あみだくじで対戦相手を決めるでの」


爺さんが俺に向かってそう言う。

縦の棒線が入った地面。その棒の先端に参加者の名前が書かれていた。

俺も棒を受け取り、地面に名前を書く。でも、これどうやって隠すんだ?

横棒もまだ書かれていないぞ。


「じゃあ若いのは下がっておれ、後は老人の仕事じゃ」


爺さんはそう言うと名前の部分を大きな布で隠した。

この後は老人どもが横棒を一人三本ずつ書き、その後はいつも通りだ。

男どもが見ている中、爺さんたちが書いた線に沿ってなぞって行き、

名前を指名し、対戦相手を決める。村の男衆はそこそこだ、三十二人だし、すぐ終わる。

一人最大で五回戦う計算だ。


「さて、では最初の十六組を言おうかの」


じいさんが代表して選手を呼ぶ。

隣にいた男がルールを教えてくれた。

どうやら現代の相撲から、土俵をなくした物らしい。

ルールの細かい説明をすると、

一・過度な暴力は禁止

二・相手をこかす、もしくは押し倒せば勝利

三・土を投げるなどの卑怯な行為は即刻退場

四・霊力や術による細工は認められない

五・滑ってしてこけた場合はやり直し

六・反則行為、勝利判定は四十以上の男子二人、女子二人で行う

(もし以下のルールを破った場合、追放が待ってるらしい)


爺さんが組み合わせを言い終わる。

一度に四試合ずるらしいので、俺は三番目だ。


「さて、では、誰か女たちを呼んできてくれんか?」


そう爺さんが言うと、何人かの男が走って広場から離れて行った。

俺はそれを見ながら通信する技『糸無電話』を発動した。

効果は名前のまま、テレパシーで会話をすることができる。

接続先は姫ちゃんだ。家でご飯の下ごしらえや洗濯、服を作ったりするのは基本的に女の人だ。

男は基本的に畑仕事であり、狩りや、鍛冶などの仕事は畑仕事と並行してやってるらしい。

そういう別の仕事がある男は割り当てられた土地を少なくして、仕事の釣り合いを図っている。


『兄さん?』


そんなこんなしているうちに姫ちゃんに繋がった。

声に出さずとも伝わるので、俺は頭の声でそのまま返す。


『やあ姫ちゃん、仕事が終わったよ』


『ずいぶん早かったですね、それで、急に連絡なんてどうしたんですか?』


姫ちゃんは不思議そうだ。


『いや、大男の大会を今日やるらしくてね』


『なるほど、わかりました。あ、来ましたね』


さっき走って行った男が来たようだ。


『じゃあ兄さん、すぐ行きますね』


『うん、待ってるよ』


通信を切り、そのまま男衆と話していると、女たちがやってきた。

此処の女の人はすごい、どう凄いかというと、ものすごく働き者だ。

性格は様々だけど、全員がきちんと働く人たちだ。

その中に呼白と姫ちゃんを見つけ駆け寄る。


「お待たせです兄さん」


「お……零さん、お待たせ」


「いやいや、二人ともよく来たね」


親子三人でそのまま談笑していると、取り仕切りの男が来た。

そろそろ始めるらしい。


「さ、行こうか」


「「はい」」


姿が対照的な嫁と娘。

どっちも可愛いから困り者である。

贔屓? その通りだ、家族を贔屓して何が悪い。


―――――――――――――――――――――――――――――――


さて、長々続けるのは嫌だからな。

俺の試合だけに絞ってお送りしよう。


「さてさて、皆様よろしいでしょうか。

次の試合こそ本命! 今日注目の新人!急に現れた謎の超人、神谷零ー!」


司会役のような男がハイテンションで叫ぶ。

自分の試合は先ほど終わったらしい、負けたが自分にはこれがあるとか叫んでいた。


「対する相手は、神谷が来てから少し鍛えだしたこの選手!

村一番の女好き! 露璃魂ろりこん選手ー!」


……名前がおかしい。俺からすれば何とも気まずい名前である。

そして……俺は気づいた。奴がチラチラと観客の方を見ていることに。

視線の先には呼白。……あ? 何考えてやがるこいつ。


「さっさとやろうぜ神谷……」


チラチラと呼白の方を見るやつは言う。

そして我慢できなくなったのか叫んだ。


「呼白ちゃん!」


「ひゃい!?」


予期しない叫びに呼白が驚く。

ああ、驚いて跳びあがった呼白もまた可愛い。

目の前の男はまた叫ぶ。


「この勝負に勝ったら結婚してください!!」


「え?」


呼白の目が点になる。

俺自身も予想していたとはいえため息が出た。

呼白の隣の姫ちゃんも目が点になっている。

呆れと同時に少し怒りがわいた。


「うおおおおおおお!」


「待ってください! 私はまだ……」


叫び終わって満足したであろう男が突っ込んでくる。

襟をつかもうとするその手を見切り、自分の体を相手の後ろへ持っていく。


「うわあ!」


「ですから私は……」


空振りし、ふらついた男は生き多い良く振り返った。

後ろから攻撃されるとでも踏んだのだろうか。


「御父さん! 僕は必ずあの子を幸せにします! どうか、僕に呼白さんをください!」


「話聞いてください!」


大きな声で叫ぶ男。

観客席の者どもはいつも通りだと呆れ、

爺さんは気の毒にと呼白を見ている。

男はそれにも気づかずさらに俺を倒そうと掴みかかってくる。


「娘さんを、この僕に、ください、絶対、絶対、誓って、

彼女を、今より、幸せに、すると、誓いましょう!」


「お母さん、どうしよう……」


「大丈夫、兄さんに任せればいいんですよ」


言葉を区切り、何度もその切れ目でつかみかかってくる男。

俺は聞いているとむかむかしてきた。お前が呼白に何してやれる?

そして、呼白の幸せが何か聞いたことある? 聞いてから言えよ。

いや、無茶だとは思うが。


「うおおおおおおおおお!」


男が掴み掛る。俺はわざとつかまってやった。

投げようと男は力む。しかし、俺の足は地べたから一寸たりとも浮かばない。


「呼白と結婚したいなら条件を言おうか」


「なんですか!? なんだってやって見せます!」


「兄さん!?」

「お父さん!?」


よく言った。何でもするんだね。


「じゃあ言ってやろう。不老不死になり、

この国のミシャグジ様を倒せる力を持ち、六十四万の敵を二秒で倒し、

一京の能力を持つ輩を三秒に一回殺し、二刀の剣を高速で振るう相手に素手で勝ち、

音速の相手をとらえ、岩を砕く男に拳で打ち勝ち、視覚化するほどの妖力を持つ狐に霊力で勝ち、

心を読む者の心を逆に読み返し、空間を切り裂き、時間を操り、世界を創造し、破壊し、

秩序を崩壊できるだけの実力を、余裕で持ち。なおかつ、俺に勝てたなら大丈夫だ」


「は?」


「……兄さんらしいですね」


「無茶だよお父さん」


男が固まる。ついでに、何故俺が浮かないのかというと、

単に能力で体重を増やしているのである。暴君使わないと筋力が足りず動けない。

地球の重力ってすごいね。


「ほらやってみろよ」


俺はにっこり笑顔で男に聞く。

男は出来るわけがないと叫んだ。


「何を言ってるんですか、神でもないのにそんなことできるわけがない。

そもそも、あなたはミシャグジ様に勝てないくせに、何を言っているんだ」


「ほう、ほざいたねガキンチョ」


俺は俺の襟をつかんでいる男の手を取り、投げ飛ばす。

三メートルほどとんだ男はもろに地面に激突した。

その後、よろよろと立ちあがる。


「いいかいガキンチョ」


俺はその男の目の前に歩いていく。


「不老不死はあり得るんだ。言っておくが、俺はこの国の誰より長く生きてる」


自分では笑っているつもりだ。

(後に爺さんから聞いたが、俺は目が笑ってなかったらしい)

その笑顔に目の前の男は顔を引きつらせる。

まぁ、今回の条件に関しては無理難題を押させてもらった。

最後の条件である、俺に勝利すると言うのもね。


「ミシャグジに勝てない?」


俺は体重を増やしていた能力を切る。

足に集中して脚力を強化し、地面に向けて蹴りを放つ。

通常時の約一万倍、術による強化もあるので一万二千倍ほどの脚力を放たれた地面は、

メコリッという砕ける音とへこむ音が合わさったような不気味な音を立てて足を飲み込んだ。

男の胸ぐらをつかむ。男が肩を震わす。


「俺が勝てるから言ってんだよおおおおおお!」


俺は男の顔面に向けて叫んだ。

強化された体のせいで拡声された声が目前の男を襲う。

顔面を音で撃たれた奴は気絶し、だらりと手を下げた。

そいつを地面におろし、俺は胸を張って告げる。


「三十六億二千三百三十五万六千三百二十一年遅かったな」


「零君の勝利~」


爺さんの声が響く。

周りはしばらく口をあんぐり開けていたが、気づいたように歓声を上げた。

因みに言うと、俺が投げ飛ばした時点で俺の勝利は決定していた。

先ほどの胸ぐらをつかんだあたりからは俺は殴ってもよかったんだぜ。

まぁやってら頭が吹き飛ぶからやらないけどね。


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