大切なもの
諏訪子の神社の本殿にて、俺は姫ちゃんと呼白の二人とお茶を楽しんでいた。
諏訪子との一戦の後、気絶した彼女を布団に寝かせ、そのまま居させてもらっている。
「久々に強い力を見たなぁ」
俺専用の湯飲みを片手に、姫ちゃんが入れた煎茶をすする。
普通、神社の本殿はご神体があるが、諏訪子の場合は普通の家みたいになっているようだ。
外はまだ明るい、中央にある囲炉裏を囲んでゆったりさせてもらおう。
「あれだけの影響力とは…」
「そうですね、兄さんに効くかと一瞬思いましたよ」
俺も少し心配だった。自動無効はその名の通りすべて無効化する。
しかし、以前に打ち破れた奴が何人かいるのである。
えっと…総数は六人、そのうち二人は姫ちゃんと同じ神だった。
諏訪子みたいな信仰心で出来た神とはまた違う神だ。
その四人が、自分の能力をフルに使い、破ったのが俺の無効化。
神二人が努力して破ったのが、俺の無効化だ。
今回破りかけた諏訪子はトップレベルの実力者と言える。
「まぁ勝ったからどうでもいいけどね」
「呼白ちゃんは見ていてどう思いましたか?」
姫ちゃんが呼白にそう言う。
俺も呼白の方を見ると、少し考える仕種をし、
「おと…零さんはまだ余裕があると思った」
と、答えた。さっきから俺のことをお父さんと呼んでくれない。
戦闘前に読んでくれたお父さんは何だったのか…くそう。
しかし、呼白の答えは正解だ。
「そうだな、本気ではあるが全力じゃない」
全力だったら三秒で殺してやるさ。
まぁ面倒くさいからそんなことしないんだけどね。
湯呑に口をつけ、中身を飲み干す。
姫ちゃんが中におかわりを注いでくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
二人とも笑顔になる。
「二人とも仲良いね」
そう言って呼白も笑った。
今は朝の十一時くらいである。
そろそろ昼ごはんの用意をする時間だろう。
そう考えると、拝殿の方に数人の人が来る音がした。
「諏訪の神様、そろそろお昼時です。
今日も、腹いっぱいお食べください」
声からすると若い男のようだ。
何を置いてったのかは知らないが、発言からするに食べ物だ。
これはちょうどいい、ナイスタイミングである。
因みに、俺が拝殿の音が聞こえるのかというと、
ついさっきの戦闘で飛散した霊力が俺とリンクし、
周囲のの情報を伝えているらしい。
まぁ情報と言っても音くらいだが。
「さて、いただこうか」
能力によって空間に穴をあける。
空間と空間を繋ぐ穴だ。技名は『間穴線』。
出来た穴の中に手を突っ込む。境内に接続し、お供え物をつかむ。
参拝客が出て行くのを見計らって、そのままお供え物を引き込んだ。
布で綺麗にくるまれたそれの中身を見てみると、
炊いたご飯の入った御櫃。それと、魚が五匹に
野菜が色々と入っていた。
「どう? 作れる?」
姫ちゃんの顔を見る。
俺も料理は出来る、しかし、やはり姫ちゃんの方が上手だ。
「もちろんです、兄さんに調味料は預けてますし、
ちゃんとできますよ、さっさとやっちゃいますね」
「うん」
姫ちゃんは野菜と魚を囲炉裏の方へ持っていく。
魚を竹串でさし、そのまま火のそばに刺す。
そこまですると姫ちゃんはこちらを向いて。
「にいさん、おみそはありますか」
「あるよー」
姫ちゃんの近くにおみそを出す。
『間穴泉』の応用で、空間の間を拡張し、
劣化が進まない性質を利用して冷蔵庫代わりに使っているのだ。
「ありがとう兄さん」
そのみそをと野菜を使って姫ちゃんは味噌汁を作っていく。
呼白も手伝うと追って囲炉裏の方へ行った
「う~ん?」
二人をぼぅとみていると、
寝ていた諏訪子が起きた。
上半身を起こしてきょろきょろと周りを見ている。
そして、俺を見つけると寝ぼけ眼で笑った。
「あはは、負けちゃったね」
「強かったよ、久々に本気で戦った」
褒めたつもりだったのだが、
諏訪子は少し不満そうだ。
「全力じゃないのか…人の子に余裕もって勝たれるとわねぇ」
なんだ、そんなことか。
気にすることはない、全力なんてのは、
七人しか引き出せなかった。
「世界相手のときくらいだからね、全力の時は」
「ははは、それは敵わないや」
諏訪子の方に湯呑を出す。
能力で急須を動かしてお茶を入れてやる。
「おお、ありがとう」
二人で同時にすする。
ため息をつくまでが同時だった。
「爺さんみたいだな」
「人間なら私もお前も老人だけどね」
また笑った。
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飯を食い、話し込むと夕方になっていた。
「また来なよ」
俺達が帰ろうとすると、諏訪子がそう言った。
「偶には自分より上の存在と話したいだろう?」
「わかった、また来るよ」
そう約束し、三人で家の方まで転移した。
二人は家の中で夕飯の下ごしらえをするらしい。
外に出ると、目の前の畑で若いのが仕事していた。(と言っても終盤だが)
今日はお参りと言うことでお休みさせてもらったんだっけ。
「お」
畑の端の方に、物知りじいやを発見する。
傍まで行くと爺さんはこちらを振り向いた。
「ただ今、じいさん」
「おかえり」
歳が歳なので畑仕事はしない爺さん。
それでも、今までの経験から、皆の指揮役として活躍している。
俺は爺さんの隣に腰を下ろした。
「で、諏訪子様はどうだった?」
爺さんが畑の方を見ながら聞いてくる。
「うん、いい人でしたよ。久しぶりに本気で戦いました」
「うん? 零さんは諏訪子様と戦ったのかい?」
爺さんがこちらに振り向く。
珍しいこともある物だと言う顔だ。
「戦いました、強かったです」
「そうじゃろう、そして、零さんが勝った…違うかい?」
言い当てるとは思わなかった。
この国の人間は神が最高権力で、最強だ。
人間がかなうはずがないと言う考えがあると思ったのに。
「勝ちました。よく言い当てましたね」
「勘だよ、この歳になるとよく当たる。
零さんと姫さんが、私や、諏訪子様より長く生きている。
というのも、勘じゃが…正解かな?」
「正解です」
俺が答えると爺さんはカラカラ笑った。
俺はこういう高齢の人にかなわない。命の制限がある分、
何か特殊なものを持ってるんじゃないだろうか。
まぁそんなことはいい。俺はお茶を取り出す。
「飲みます?」
「おお、もらうよ」
二人ですする。
爺さんが先に口を開いた。
「零さんは…何か大切なものを持ってるかな?
ああ、目に見えなくとも大丈夫だ」
畑を見突き抜けて、もっと遠くを見つめる爺さん。
それは遠くにいる誰かを見つめる目。そんな爺さんの問い。
俺はうーんと考えて答えた。
「持ってるよ」
「そうか、私も持ってる」
爺さんは腰に結びつけた巾着から何かを取り出した。
球体の赤い石、驚くほど透き通っていて、おそらくは宝石のルビーだ。
穴が開いており、そこから蒼い糸がとおされ、首飾りになっている。
「それは?」
「これは諏訪子様が私にくれたものだ。
若かった頃、両親を病で失った私に、
あの方がくださったもの。神の力を込めた石だ、
これを持っている限り、私はお前と一緒だ。と言って」
爺さんが意志を強く握る。
ルビーの中央がかすかに光る。
神力らしい。
「あの方は私の恩人なんだ。
一人だと思ったところから引き揚げてくれた。
この石は、私とあの方を繋ぐ証拠、一番大切なものだ、命以上に」
爺さんはルビーをかがげて火に照らす。
陽光が当たったルビーはとてつもなく綺麗だった。
「零さん。君の大切なものはなんだい?
命をかけてでも手放したくないもの」
爺さんは俺の方を向いて聞いた。
俺の答えは簡単だった。俺が失いたくないものは一つしかない。
「自分の痕跡です」
今まで生きてきたその痕跡。
俺が広げてきた輪は、俺が手放したくないものだ。
姫ちゃんや、呼白。今まで出会ってきた人たち。
その人たちと会った痕跡が一番手放したくない。
まぁ言ってしまえば俺の記憶だ。
「そうかい」
爺さんは俺の答えを聞くとウンと頷いた。
「君は優しいね」
長く生きて、何度も言われたフレーズ。
一般的な優しい人間の部類に、俺は入れているらしい。
「さて、帰ろうか」
爺さんが立ち上がる。
俺も追って立ち上がる。
「ではの」
「はい」
爺さんが手を振って帰って行く。
爺さんに効かれた問の答えをもう一度考えた。
しかし、答えは同じ。
「懐かしいなぁ」
昔であった奴らを思い出す。
世界ごとでの仲間たちを。
戦って、バカやって、笑って、泣いて、過ごした仲間たち。
「俺の記憶と言う」
大切なもの。




