人神大戦
祭神、諏訪子は神である。
諏訪大国を治め、ミシャグジ様を操り、この国を起ち上げた。
私は強い、そういう自信が諏訪子にはあった。
そう、今目の前に立っている人間と戦い始めた時も、
少々特殊な人間に負けるはずがないと思っていたのだ。
しかし、現実は全く逆。
「避けてみやがれ!」
「うっ、ぐっ」
たかが人間ごときに、私は押されていた。
今までの神としてのプライドが崩れ、悔しくなる。
神力の弾丸をあてても無傷で立っている。
地面をせり上げ、結界で縛っても、やすやすと出てくる。
自分の得意技も三つほど破られた。
「いい加減に…あたりなよ!」
神力で弾幕を作り出す。
いや、弾幕と言うより、弾壁と言う方が正しいだろう。
「脆い」
しかし、それも片手を振るだけですべて相殺された。
その腕は薄くだが蒼い光を纏っており、それが霊力だということはすぐにわかった。
おそらく振った時に霊力を放出し、その威力で相殺したのだろう。
だが、
「神力の弾丸を消せるほど強力な霊力なんて見たことない」
「じゃあ始めてってことか、いいじゃん、記念だぜ」
「うるさい!」
空中で加速し、懐に潜り込む。
人間の少女であるこの体は、こういう時に便利だ。
「吹き飛べ!」
そう叫んで相手の腹に向けて拳を繰り出す。
もちろん、神力を纏わせた、人間なら半年寝たきりが保障されるもので、ただの拳ではない。
「ふんっ」
だが、目の前の人間はそれを受けても踏みとどまった。
外見はやせ気味の筋肉すらない少年。
私の攻撃は、そんな彼に止められてしまう。
「いいパンチだ、だが、本業じゃないからかまだ軽い」
彼が私の襟を掴む。
目の前に私を放り彼が振りかぶる。
腕がぶれた瞬間顔面に衝撃が走って吹き飛んだ。
一瞬の出来事、認識できても反応できなかった。
「俺はもっと強いのを知ってる」
地面を転がる。
ようやく止まって立ち上がると、
彼が立っている位置からずいぶん吹き飛ばされていた。
「どうした諏訪の神、そんなものか?」
「やるじゃないか神谷零、人の子が随分と力を持ったもんだね」
目の前の少年はにやにやと笑う。
私は殴られた衝撃でふらつく頭を押さえる。
私は今までさまざまな敵とも戦ってきた。
大国の人間を守るため、巨大な妖怪とも戦った。
目の前の人間はその妖怪どもと比にならない、強すぎる。
神を圧倒する初めての敵、私はただの人間に本気を出すことにした。
神が人間に本気を出すなど、普通はしてはならない。
何故なら、神は常に人々の想像もつかないほど上にあるべきであり、
信仰を集める者たちからは、力の差を持って相手に勝つのが望ましいだからだ。
しかし、今はそんなことは言っていられない。
この大国を治める神が、祟り神ミシャグジを操る祭神が、
そういう理由があろうと、人間に負けるのは論外だ。
「神をなめるんじゃないよ人の子!」
神域内は私の領土。
私は自分の宝物殿の中から、武器を取り出す。
最近作られた、この国で最も新しい武器。
「この輪はね、鉄と言うものからできているらしい。
最近に鍛冶屋が持ってきたんだ。丈夫で強い…」
その輪を右手に通して回す。
宝物殿にある輪は一つではない。
一つ、また一つと私によって宝物殿から呼ばれた輪が飛んでくる。
人の子は、この時代の人間は見たことがないであろう武器を見ても
へぇとしか発しなかった。
「さて、ここに神力を流すと…」
鉄の輪が神力によって光り輝く。
刃がついてなくとも岩を切り裂けるほどの力を持った鉄輪。
腕に通して回していたそれを止める。
すでに握って構える。
「よくやったよ人の子、此処からは腕試しじゃなく
試合だ。神が本気で相手してやる」
そう言うと彼は笑った。
「そういうのを待っていたよ、本気の神を知りたかったんだ。
こちらも…久々にまともに戦える」
彼が手を上げる。
すると、彼の周囲に四つの波紋が浮かぶ。
「四剣」
波紋が浮かんだ空間より四本の剣が生える。
柄は黒で統一され、刀身がそれぞれ、
赤、青、緑、茶という色で染まっている。
彼はその中から緑の剣を手に取った。
「風剣『エア』」
他三本が解けるように消えると、
それと同時に彼の周囲に風が舞った。
彼が消え、私の周りの地面が砕けた。
――――――――――――――――――――――――――――――
エアを片手に、諏訪の神を中心にぐるぐると回転移動する。
移動の速度は音を優に超えている。この速度で十分であると信じたい。
もっと早くすることもできるが、周りが危険になる(今も十分危険だ)。
「ふっ」
諏訪子の後ろに来た。
速度を落とし、衝撃波を消す。
方向を転換し、音には届かないまでも、
見え方だけならテレポートと呼んでもおかしくない
速度で近づき、諏訪子を後ろから切りつける。
「ぬっ!」
諏訪子が自身を前に倒して斬撃を躱そうとする。しかし、少し対応が遅かった。
諏訪子の肩から背中が切れ、切れた服から白い肌が見える。
血はあまり出ておらず、薄皮が切れたような状態。
久々に四剣を使うせいか、間合いが分からず、斬撃が甘かったようだ。
諏訪子はそのまま跳躍し距離を開けてこちらを見る。
俺自身は、遅れたとはいえ対応出来たのが驚きだった。
「ありゃ? タイミング分かったの?」
「何とかね、さっきの速度ならわかるみたいだ」
あらあら、それは昔の天なら倒せるくらいは力があるってことかな?
ふむふむなるほど、これはますます面白くなったぞ。
面白すぎて口の端がつりあがる。
「いいねいいね、じゃあ今度は…」
エアを縦に振りぬく。
「これを避けてくれよ」
エアは風の剣として作った。
元々はゲーム世界で作った剣だからか、
斬撃を飛ばす設定だったが、現在出て行くのは竜巻だ。
地面を削るほどの威力を持った風が、
諏訪子に向かって突撃する。
「せえい!」
諏訪子は鉄の輪を重ね、竜巻に打ち込み、受けようとする。
「ぐぐぐ」
神力はや魔力は不思議を体現するものだ。
通常、竜巻に触れるなんてことは出来ないが、今は神力がそれを可能にしている。
「一本じゃあ無理か、じゃあ二本だ」
今度はもう少し強く振りぬく。
先ほどよりも威力を増した竜巻が起こる。
それは前に売った竜巻と合わさり、諏訪子に襲い掛かる。
「ぬぬぬぬぬ」
諏訪子は押され始めた。
神力によって防いでいた竜巻が進み始め、
諏訪湖の鉄の輪を飲み込んでいく。
しかし、
「ぬあああ!」
竜巻は一気に消えた。
「はい?」
突然のことで声が出る。
間があいて、周りに神力が飛んできたことからやっとわかった。
「ああ、神力を爆発させて消したのか」
「その通りだよ、少し大変だったけどね」
やれやれ困った、と諏訪子は言った。
そのまま鉄の輪を両手に持ち、構えると、
「じゃあ今度はこっちの番だ」
諏訪子がいたところの字面が割れる。
気付けば諏訪子画面前まで移動し、輪を振りかぶっていた。
「ふんっ!」
「甘い!」
その輪を受け止め、後ろに下がると、
彼女は追撃せんと輪を投げつけてきた。
「あらよっと」
それを上空に打ち上げ、今度はこちらが攻勢に出させてもらう。
諏訪湖の目の前まで、移動し、後ろに下がる諏訪子を追いかけ、
なんども踏み込んで斬撃を放つ。
諏訪子は鉄の輪を駆使して、それをいなす。
「さっきの速度はどうしたんだい?
あの速度で動けば簡単に勝てるんじゃないのか?」
「だろうね、でもしない」
お互いの武器をぶつけながら話す。
本気ではある。ただ、全力ではない。
全力は出さないしいらない。
「だって、たまには苦戦したいじゃないか!」
「言えてるねぇ!」
鉄輪の輝きが増し、威力が上がる。
こちらも霊力を剣に流し込んで対応する。
お互いの漏れ出した霊力と神力が武器がぶつかるたびに飛散する。
周囲は金と青の粒子が舞っている様に見える。
「随分と綺麗だと思わないか?」
「その通りだね、もう一度聞くけど人間かい?」
打ち合いながら諏訪子がそう聞いてくる。
その問いに俺は笑って答えた。
「もちろん。どこにでもいる普通の論外な人間だよ」
「そうかい!」
その答えを聞いた諏訪子が大きく振りかぶり
振り下ろす。俺はそれを受け止め、
つばぜり合いに突入する。
「いいねぇ諏訪の神! 久々に本気を出した!」
「そうかい、それはよかったねぇ、
こっちも久々に本気になれたよ」
お互いの顔が笑顔になる。
諏訪子を押す反動で俺が下がり、つばぜり合いを終える。
俺に押され、諏訪子を突き飛ばして、お互いに地面を滑りながら見合ってこう叫んだ。
「「まだ全力じゃないけどね!」」
地面から残りの四本を呼び出す。
エアを含め、四本を諏訪子の方へと投げつける。
それを避けた諏訪子に向かって、
地面をけりぬき加速する。
諏訪子の目の前まで行くと、
そのまま腹へ一撃。
「ぐっ」
「はっはぁ!」
そのまま力を込めて吹き飛ばそうとす。
空中にいる諏訪子は鉄輪を振りかぶるとこちらに投げつけた。
振りぬいた体制の俺は対応が遅れ腕にくらってしまう。
ボキンと言ういい音がして右手の感覚が薄くなる。
「切れると思ったんだけどねぇ」
地面から立ち上がった諏訪子が言う。
随分と腕を切断なんて物騒なことである。
まぁもう治ったが。
「痛いなぁ」
「折れたのにそう動かしていいのかい?」
「治ったから」
「…」
おいおいそんな目で見るなよ。
「これでも普通なんだぜ?」
「どこがよ、まぁいいわ、次で決める」
諏訪子がつま先で地面をたたく。
すると、周りに飛散して居た神力が集められ、
諏訪子の背後の地面が円形に光り輝きだした。
「久々に本気を出させてくれたんだし、褒美よ。
全力の一撃を食らわせてあげる」
諏訪子の背後、神力によって輝くそこから、
ぬっと白い蛇が出てくる。予想はつく、あれこそここにいる祟り神。
ミシャグジ様。
「そしてそれを操れる神様…守矢神だっけか」
随分と昔に読んだ本のことを引っ張り出す。
あのころの記憶が引っ張り出せるのだから自分はまだまだボケないようだ。
本を乱読していた十六歳のころ、随分長く生きた。
「ミシャグジ様の祟り」
諏訪子の後ろの蛇が俺を睨む。
紅い目の白蛇、その眼に祟りが集まっていくのが視覚出来る。
蛇が目を見開くと、俺にその力が流れる。
「へぇ」
「安心して、今回は可愛く骨折の祟りだ」
それのみに特化させた力とはずいぶん強くなる。
時には、俺の干渉無効をはねつける力になる時もある。
少し面白そうだ。
「くらっても後で治してあげるよ」
流れた力は俺の中から効果を発揮する。
俺の骨に作用し、全身のあちこちの骨を砕こうとする。
祟りの力はどす黒い気を放って体をかける。
祟りに特化した力、それは素晴らしいほどの影響力だった。
しかし、
「こんなものか」
「え…」
俺の干渉無効ははねつけられなかった。
まぁそうだろう。はねつけたものなど四人しかいない。
「諏訪の神、無理だな、俺に能力干渉は効かない。
ミシャグジの祟りも能力に分類されるようだ」
「嘘…」
諏訪子の顔が固まる。
効かなかったものなどいない。
今までの現象が、諏訪子が勝てると確信した理由だろう。
だが、それは効かなかった。
「今度は俺が全力を出そう。一瞬だけな」
両手を合わせる。
技の中でも最上級に位置するものを呼び出す。
「『三十五億三千三百四十三万千三百三十七年の記憶』」
これは俺の記憶を、能力によって脳と違った場所にしまってある
俺の記憶を含め、すべての記憶を、相手に一瞬のうちに詰め込む技。
「う…あ…」
目の前の諏訪子が倒れる。
大容量すぎる記憶についていけなかったようだ。
体のキャパを越えた相手はパンクし、最終的には廃人になることもある。
倒れた諏訪子に近づき抱き起す。
目が虚ろになり、口からよだれが垂れている。
相当きつかったようだ。
「仕方ない」
背中に彼女を乗せる。
外見少女の彼女は外見そのまま軽い。
娘を背負っているときの感覚に懐かしくなる。
「そんなこともあったか」
戦闘が終わった事で気づいた。
周りの被害がひどい。姫ちゃんたちに影響があれば自殺するしかない。
「ひめちゃーん」
「はーい」
遠くの茂みから声が聞こえる。
ガサガサと音を立てて姫ちゃんと呼白がでてくる。
「勝った!!!」
俺は二人に胸を張った。




