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東方兄妹記  作者: 面無し
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~古墳時代(たぶん)~天才への勝手な苛立ち





 現在西暦三百年の少し前。ヨーロッパにて暮らしていた俺が、日本に戻ることにしたのは愛しい娘から相談を受けたからだった。


『厩戸ちゃんがなんだか以前と変わった気がする』


 日本にいる厩戸に度々会いに行っていた呼白がそう俺に相談してきたのは一ヶ月前のこと。

 聞けば、厩戸……いや、豊聡耳でもいいだろう。彼女は自分に寿命があることに不満を感じていたらしく、それが解決できるとどっかの誰かに勧められ、道教にハマったんだとか。

 そういうわけで、修行をしていた彼女だが、呼白いわくなんだか最近は随分と人を上から見るようになったように感じたらしい。

 ただの娘の主観だし、根拠は違和感だけだ。

 それでも、愛娘のため動くには十分な理由だ。

 もしも、本当だったらの話。これは俺の勝手な予想だが、あらかた力を得て私は人を超越した特別なやつだなんて思ってるから上からになってるんじゃないだろうか。

 若い御仁に教育するのが大人の役目、ついでに同士になってる奴も含めてボコってやろう。とまぁそんな感じの理由で俺と姫ちゃんは日本に戻ることにした。

 まぁあいつに説教をし、叩いたところで考えが変わるとは思えない。あいつは頭がいいからな。ただ、気に喰わない奴はボコるのが俺のやり方だから叩くだけだ。

 あいつも悪ではないし、ただの意見の対立だから、そうそう酷いことはしないつもりだ。あくまでつもりだが。

 一応、須佐之男と束錬、呼白は留守番だ。呼白はまだ魔術の修行も途中だしな。


『いってきまーす』


『いってらっしゃーい』


 久々に出した音速飛行機のなかから、城にいるメンバーに別れを告げた。


 加速していく飛行機の中で、姫ちゃんが口を開く。


「私の忠告、意味は伝わらなかったんでしょうか?」


 『何となろうと人は人』そう姫ちゃんは豊聡耳に言った。彼女ならいつか力を持ってもその意味を理解するだろうと考えて。

 俺の隣で遠くを見る彼女は姫ちゃんにはあの子が忠告を理解せず、育ったということが信じられないようだった。

 だが、うちの娘も馬鹿じゃない。彼女が感じたのは嘘じゃないはずだ。


「見ればわかるさ。天や国下が連絡をよこさないことからして、少々のニュアンスのスレ違いだけの可能性もある」


「そうですね。結論は言って決めればいい」


「そういうこと」


 二人で、頷いた。



    ****


 

 今の時代、三百年前倒しになっていることからして、今の日本では仏教と神道がぶつかっている最中で、ちゃんぽんという名目で仏教が主流になるのはもう少し先のはずだ。

 さて、仏教と神道の対立は神様の直径に近いか遠いかが一番の理由だろう。有名な対立としては曽我氏と物部氏が争ったところか。

 物部は饒速日命という天津神の直径。対して蘇我は天津神の子孫ではあっても随分以前にわかれた分家。

 物部は今までの系譜から神道を信仰し、蘇我は分家という恩恵を受けにくい立場からでて仏教を信仰する。

 この二つの家が大きな勢力だったら、信仰の違いから当然溝ができてくる。

 まぁこの後ドロドロした後に結局は蘇我が勝つわけだ。

 歴史に介入する気はないのでこの仏教と神道の間に立つことはしない。ただ単に、その二つの争いの影で仏教を推すフリをして道教をやってた豊聡耳が調子に乗ってないかを確かめに行くだけだ。


 

 さて、豊聡耳の家についた。大王の隣で政治をする立場に登る人物の家だけあって、その外見は豪勢に作られている。木製なのに金ぴかに見えるほどだ。

 服装は紛れてもいいように偽装してきたが、ここに来るまでに俺たちを不思議そうに眺める奴らがいた。普段見ない顔だからだろうが、あまり長居はしないほうがいいか。

 そう考えながら門番に話しかけた。


「すいません」


「はい、なんでしょう?」


「『疑心安気』スマンが入れてもらえるかな?」


 能力による催眠術で暗示をかける。おとなしく入れてもらうことが出来た。


「さて、行こうか姫ちゃん」


「はい、こっちですね」


 姫ちゃんが気配を読んで教えてくれる。ハイスペックな嫁である。

 豊聡耳の部屋は外から見れば特に豪勢だという印象はなかった。

 女の部屋だとは解っているが、俺は姫ちゃん以外にそんなことを気遣うことはない。

 何も告げずに襖を開け、目の前で何やら書物をしていた豊聡耳に向けて挨拶する。


「よお、久しぶりだな」


「ええ、お久しぶりです、お二方」


 いきなり入ってきた俺に驚く様子もなく豊聡耳は答えた。

 俺達が来ることを知っていたのか、家に入った時に知ったのか、後はどういう手段を使ったか。興味はあるが今はそれは別問題だ。

 俺はコイツ相手に遠回しは出来ないと知っている。だからこそ、素直に聞いた。


「道教を熱心に勉強しているんだって?」


「はい。霍青娥という方に勧められまして」


 特に呼白が言うような人を下に見ているような感じはない。

 いや、俺が相手だからか? それとも、霍青娥は自分と同じ道教を学ぶものだからか?

 この疑問もぶつけてみる。


「呼白に聞いたんだ。お前が人を下しているような感覚がするって」


 俺の問に、豊聡耳は目を細めた。不快だったからか、疑っているのか、凡人の俺には読めなかった。

 永琳とや紫と同じで、頭のいい此奴に墓穴を期待はできない。苦しくなるだろうか。

 少し間を開けて豊聡耳は答えた。


「それは誤解だと言いたいですね。私は人を見下ろすようなことをした憶えはありません」


 その言葉に、嘘っぽさはない。まぁ俺相手にボロは出すはずないよな。

 当然、元々俺ごときがなんてできるなんて思ってない。なんのための嫁だと思ってる。

 俺が姫ちゃんに目配せすると、彼女は予想していたかのようにウインクして、豊聡耳と話し始めた。


「ま、違和感があったということは覚えていてください」


「分かりました。えっと、それだけですか?」


「いえいえ、最近政治に関わる方のところにいるので、できればどんな感じのことをやっているのか教えてもらおうと思いまして」


 姫ちゃんの声に変わりはない。いつもの優しい姫ちゃんだ。

 ただ、直感でわかる。もうすでに心のなかの姫ちゃんの目は笑ってない。

 豊聡耳に何ら変わった様子はない。だが、あえて心のなかでは手を合わせておこう。ご愁傷様と。


「そうですか、ではこちらに」


 豊聡耳が近くの棚からガサガサと紙の束を出す。おそらくは彼女のやってきた政治に関する資料なのだろう。

 俺たちを手招きする彼女に、姫ちゃんが近づいていく。

 俺は遠慮しておいた。俺が見て指摘しても論破されるだろうから。


 豊聡耳はなれた様子で姫ちゃんに一つ一つの概要を説明していく。

 案の定その説明は俺にはわかるようでわからなくて、姫ちゃんに任せて正解だったと思えた。

 資料の後半、その説明に宗教の言葉が入った瞬間に、俺はその言葉を聞き逃すまいと耳を傾けた。


「海外から来た仏教にて民衆をまとめ、これまで話した政治を完成させます」


「今までの神道はどうするんです?」


「私はあれは切るか、もしくは仏教を主にして合わせてしまおうと思っています。

 今までの宗教では権力が血筋に依存し、権力が特定の家に集中します。だからこそ、仏教を推して民衆の思考を変え、平民からも優秀な人材を集められる仕組みを問題なく機能できるようにします」


「自分は道教を行っているのに他の人には仏教を教えるんですか?」


「力を下手に与えてはこの世は荒れてしまいます。それに比べて、仏教の教えは民衆を纏めるために都合がいい。

 道教は選ばれたものだけが使わなければ、この世はいつまでたっても進みません」


 心の中で姫ちゃんが冷めたのが分かった。何を考えているのかはやすやす想像できる。

 自分は選ばれた人だなんて思っているんですねってところだろう。

 豊聡耳の考えには概ね同意だ。道教を広めれば、世紀末状態で力を振り回す輩が多く出るだろうし、政治をする上で、命を大事にし(苦行なんてものもあるから自分の命は含まれないんだろう)、戒律によって人々の行動を規制できる仏教というのは都合がいいというのも納得だ。

 ただ、道教は選ばれたものが使うべきだ。その一言に姫ちゃんは冷めたのだろう。俺も同じくだ。

 その言葉は豊聡耳が自分が特別な人間だと思っていることを示している。

 自分が使っているのは自分が選ばれたものだから。それは自分に対する自信であり、他人は凡夫で自分には及ばないと思っている証拠だ。

 だから、冷めた姫ちゃんはそれを表情に出さず、話を切った。


「もういいですよ。聞きたいことは聞けましたから」


「そうですか。貴方に失望されたのが残念です。

 用は、もう終わりでいいですか?」


 豊聡耳が姫ちゃんに聞いた。ああ、彼女はやっぱり何をしに来たか見透かしていたのだろう。

 おそらくは呼白か、俺あたりからでも分かったんだろう。ただ、姫ちゃんが冷めたことまで読んだのは予想外だったが。

 ただ、それを知ってくれたのなら早い。


「いやいや、まだ一つありますよ」


「そうですか。受けて立ってもいいですよ」


 豊聡耳は俺達の考えを読んでそう告げる。負けないという自信があるからかは分からないが、その顔には自分が負けないという自信が貼り付いていた。

 姫ちゃんの笑みが影を帯びる。


「そうですか、ならあとの二人と霍青娥さんも呼んでもらえますよね?」


 豊聡耳は姫ちゃんの言葉に少しだけ目を見開き、そのまま頷いた。

 あと賛同者が二人いる。それを見透かされたのが以外だったのだろう。俺の嫁を舐めているからそうなるのだ。


「いいですよ。予定は組んでおくので後で送ります」


「分かりました。では、しばらく観光です」


 行きましょう兄さん。そう言って俺の手を引く姫ちゃんに素直についていくことにした。

 さり際に見た豊聡耳は何もなかったように作業に戻っていた。



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