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東方兄妹記  作者: 面無し
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コラボ中編






 零がエルミーと夜を連れてきたのは、彼の作った世界の初期位置である神姫がいる星から数十光年離れた環境は地球と同じにしてある星だ。

 ここならばどれだけ暴れても神姫に影響はないだろうと考えてのことだ。


 さて、零が連れてきた人員は二人。エルミーと夜。

 片方は雷撃を操る少女、そしてもう片方は災厄の神である八岐の大蛇の化身。


 零の名乗りに、答えた二人。

 三者は同時に動いていた。

 一撃目は拳が撃ちあう前に、拳が起こした衝撃波が弾けることになった。

 ぶつかる前に跳ね返された拳に三人それぞれ笑みを浮かべた。

 一人は嬉しそうに、一人は楽しそうに、一人は、不敵に。


 仰け反った後、真っ先に攻撃をしたのは夜だった。

 体制を最も早く立て直した彼は、様子見も兼ねて、少し本気で零に拳を向けた。


 拳が振られる。音速を超える速度で撃ちだされた拳は衝撃波を伴って零を襲う。

 が、横目でそれを捉えていた零は転移を使ってそのままの体制で逃げた。


 夜の手が空を切る。

 その背後に、転移によって拳を振り上げた体制になった零がいた。

 チャンス取ったりと拳を振り上げる零、しかし、突撃してきたエルミーの拳がそれを妨げた。

 零は舌打ちしながらも体を仰け反るようにしてエルミーの攻撃を避ける。

 その時間を利用して、夜は振り向きざまの裏拳を繰り出していた。


「そいっ」


「なんのっ」


 零はそれを受け止め、その衝撃を利用して飛ぶ、二人を視界に入れた状態で両手を突き出し宣言した。


「軌跡『流星の尾』」


 零の両腕から赤いエネルギーが溢れだす。それは大きな道を描くように零の前にいた二人に向かう。

 夜は腰を落とし迎撃の準備を取った。だが、そんな夜の近くにいたエルミーは何を使ったか一瞬でその場から消えていた。

 到達したエネルギーに向けて夜が拳を振るう。大地を削るエネルギーはその拳をまえにあっけなく弾けた。


「まじかよ」


 零が面白そうに笑った。いつものように余裕を持って、だが、その油断が彼の目前に現れたエルミーへの対処を遅らせた。


「靭符『サブライトスピード』」


 そう宣言するエルミーの体は雷撃をまとって淡く光っている。

 『亜光速』の名を冠したスペルは、文字通り亜光速の速度を叩き出すスペル。そこから放たれる拳は当然それだけの威力を持つ。

 目にも映らない攻撃を、零は防御をするまもなく受けた。いつもの強化をほとんど行っていない体はあっけなく弾け、弾けた上半身が吹き飛んでいく。


「やった」


 傍から見ればグロテスクなその様相を、エルミーは可愛らしく喜んだ。

 その目には零が初対面の時の大人しさはない。それもそのはず、彼女の深層意識は……殺人鬼だ。

 殺し合いのさなかで生きている時間を味わう者。彼女はこの戦闘、控控えめにしているようで一番楽しみにしていたのだ。

 そして、始まった瞬間から二人を殺すつもりで動いていた。

 エルミーは後方で零のエネルギーを打ち消したであろう夜へとターゲットを変える。亜光速のその動きは誰にも近くできない速度での行動を可能にした。

 振りぬいた直後の夜へ、弾けたエネルギーを消しながら彼女は動いた。

 夜にもきづけない速度で、彼女は拳を振り下ろす。

 が、その拳は振り抜けなかった。夜にあたった瞬間に、その硬さに止められた。


「嘘」


 エルミーが驚きの声を上げる。その声とともにスペルが消え、彼女の速度は元に戻る。

 目前にいる彼女に気がついた夜は、彼の体で止まっている拳を見て、納得したように笑らうと、エルミーを投げ飛ばした。


「残念だったね。その攻撃じゃ俺は傷つけられんようだ」


 中を飛ぶエルミーに夜は自慢気にそう言い。そのまま腰を落とす。次の瞬間、空を飛ぶエルミーの落ちる先に夜はいた。


「我流初ノ型『口無くちなし』」


 夜は奥義の名を唱えた。『弾幕ごっこ』を知らぬ彼にスペルカードはない。代わりにあるのはその肉体から繰り出される奥義。

 『口無』死人に口無しという言葉から取られたその奥義、一撃のもと相手を吹き飛ばす一撃は、その名の通り受けた相手を死人と化して、口を奪う。

 振り上げた拳を、夜は振りぬいた。


 が、そこに肝心のエルミーはいない。あったのは黒い砂のようなものが固められてできた石のようなものだけ。

 夜の拳が、黒い塊を砕く。砕けた先にエルミーがいた。


「磁符『マグネインダクション』」


 彼女はそう唱えた。

 このスペルは磁力を発生させる技。それは周囲の磁力に反応する物体全てに影響を与える。

 黒い塊は砂鉄を固めたもの。彼女は磁力で作った差鉄の塊で自分を押し出すことで夜の拳を逃れていた。


「器用だねぇ」


 夜はのんきにそんなことを言う。目の前のエルミーはまだ体制が整っていないからと油断して。

 だから、先ほどの零と同じように前を取られた。それも、弾けた体を再生した零本人に。


「光道『星の槍』」


 驚いた夜を前に、零はそう唱えた。瞬間、彼の前にはゴルフボール大の黒い玉が現れる。

 現れた黒い球体は、一筋の線となって夜へと動いた。

 夜は慌てて手を重ねてそのたまを受け止める。防ぐ力と、夜の皮膚の防御力に黒い球体は減衰して小さくなっていく。その大きさがピンポン球ほどにもなった時、彼の左手を少し削って消えた。


 攻撃を返そうと夜が零を見る。その背後には帯電した剣を持つエルミーがいた。

 振り下ろされる剣を、零は愛刀の黒い刀で受け止める。

 無理な体制で立っている彼を、夜は隙見たりと追撃した。


「十二ノ型『颶風ぐふう』」


 唱えた夜は息を吸う。大きく大きく息を吸う。それを、彼は災厄の化身としてのそれを乗せて吐いた。

 全てを吹き飛ばす災厄の風が地面を削り取りながら吹き荒れる。それは元々狙っていた零だけでなくエルミーまでも吹き飛ばした。


 空中で零は空間固定の技を発動させる。それで自分を拘束し、その場からあまりにも離れることを防いだ。

 しかし、自らを固定できないエルミーはそのまま風にのって飛ばされていく。地面に一瞬触れた時に剣を刺し固定するが、その時にはすでに距離はかなり離れたいた。

 夜は距離が近い零へと目を向ける。吹き荒れた風がやみ拘束を説いた直後の零へ、夜は跳んだ。


「十一ノ型『草薙』」


 夜が唱える。その足は横へと伸ばしてまっすぐに。

 その足で彼は零を薙いだ。

 山おも切り裂く災厄の横薙ぎを、零は生身で受け止めた。

 亜光速の攻撃を受けた時と、今の零は違う。強化された体は自らに打たれた打撃を受けきるには十分な強度と力を持っていた。

 受け止めた足の余波が空気を震わせ、発生した風が二人の髪をなびかせた。


「やるね」


「家にもアンタみたいな格闘野郎がいてね」


 二人は楽しそうに笑い合う。

 零は返事をするように蹴り返す。が、夜はそれをそのまま地面へ落ちることで回避した。

 夜が着地したところで二人は気づいた、周囲が異常に暗い。

 二人同時に遠くへ飛んでいったエルミーへと目を向ける。

 すると、剣を天へと向けたエルミーがスペルを唱えていた。


「電界『我王雷』」


 楽しそうな声が響く。スペルを唱えたエルミーはどこまでも笑顔で、零はその奥に少しの狂気を見た。

 周囲は立ち込めた雷雲によって暗くなっていた。

 雷が雷雲の中を走るのが見える。その数から見ても、普通の雷雲でないことは明らかだ。

 零と夜はとっさに防御の姿勢をとる。

 その上に、異常な電圧によって見えなくなった雷撃が落ちた。



 雷撃を落とした先に、エルミーは来ていた。

 念の為に四、五回落としてはおいたが、一応の確認のためだ。

 あったのは黒焦げの体が一つ。それに角は生えていないことから零だと分かった。

 エルミーはもう一人を警戒して周囲を見渡す。が、見当たらない。

 先ほどの殴り合いから見て、零が黒焦げということは蒸発したということはありえない。

 エルミーは感覚を研ぎ澄まして夜を待つ。

 そんな彼女の足元が割れ、夜が彼女の顎を撃ちぬかんと現れた。


 雷が落とされた後すぐに、地面に潜って逃げたらしい。

 穴は零の体で塞がれて偽装されていた。

 エルミーはとっさに仰け反ることでそれを避けた。感覚を研いでいたのが助けになった。


 夜とエルミーはお互いに目を合わせて笑いあう。

 そのまま二人の間で格闘戦が始まった。

 剣と拳の応酬は、リーチから見ても剣が優勢に見える。

 が、それは見た目の話。夜の拳はエルミーの攻撃を確実に捌き、リーチなど物ともせずにエルミーを押し返した。

 それもそのはず、拳が武器の夜は近接戦が本職でそれだけの熟練者だ。エルミーも弱くはないが、スペルのある戦闘をしてきた分、拳一つの夜には劣る。

 要は、単なる得意不得意の差、エルミーは夜の土俵に乗ってしまったのだ。


 ただ、押されだしたら誰だって不利だと気づく。

 エルミーはさっさと切り上げ、己の土俵へ持っていく。

 夜から飛び退いた彼女は霊力弾で牽制しながら夜から距離を取る。

 そして、夜の拳が届かないように、牽制を交えながら彼を弾幕で追い詰めていく。


 弾幕勝負に慣れていない夜は攻めあぐねた。

 無理やり突破することも夜は考えたが、エルミーの打つ弾幕に先ほどの雷撃並みの威力がないとは限らない。もしその威力の弾幕に当たれば、彼とて無事では済まなかった。

 だが、そんな不利な状況でも彼には勝算があった。彼は荒れる弾幕を躱しながらその時を待った。


 一瞬、弾幕が途切れた。スペルを唱えるための一瞬、その短い間を夜は逃さなかった。


「御雷『武三日月たけみかづちの巫女』」


 エルミーがそう唱えるのに合わせて、夜が彼女の懐へと迫る。

 夜は完全に自分の間合いに入っていた。

 が、エルミーはそれを見て笑う。私はそうしてくれると思っていたんだよ、と。

 彼女の体が雷撃を帯びた。電撃は周囲に地場を発生させ、彼女の体を砂鉄が覆っていく。

 黒い鉄の鎧を纏ったエルミーは、その剣とともに、懐に入った夜へとぶち当たった。


「三ノ型『陽炎』」


 エルミーが狙った場所に夜の姿はなく、代わりに背後から相手を欺く奥義の名をつぶやく声がした。

 寒気を感じてエルミーは振り向く、そこには夜が笑顔で肘を打ち出していた。

 肘が鎧に当たる。鎧にヒビが入る。


「七ノ型『岩戸砕き』」


 そう唱えると同時に、夜はもう片方の拳を自分の拳に打ち当てた。

 二度の衝撃に鎧が砕けた。中にいたエルミーが体制を崩した状態で放り出される。

 彼女を引き倒し、その眼前で夜は拳を止めた。


「詰みだ」


「そのようね」


 余裕ありげにそういう夜に、エルミーは頷いた。

 観念したエルミーを夜は助け起こした。


「なかなかいい線だったよ。技数があればよかったがね」


「なら、もう少し頑張って考えようかな。まだ私若いし」


「そうしなよ。今回は何億年生きてる俺の年の功ってことだ」


 二人はそう話しながら零の体の前に来た。

 二人が一緒に手を合わせる。


「おやすみなさい」


「案外楽しかったよ。それじゃあな」


 そう言って手を合わせる二人の内、夜の方に後ろから手が置かれる。

 振り向いた夜の目の前に、零の拳が迫っていた。


「でいりゃ!」


「はぶっ」


 完璧な不意打ちによって顔面にヒットした拳に夜が中を舞う。

 それを見て、余裕の笑をうかべる零は言う。


「黒焦げの体を見たからって死んだと思われちゃあ困るな。

 死体偽装している可能性だってあるとは思わなかったかい?」


「そんな小細工を……」


「そう、小細工だよ。俺はそれが得意でね」


 唖然とするエルミーに零は得意そうに応えた。

 その零の先で、ふっとばされた夜が目が覚めたように首を振りながら言った。


「いいものをもらったよ。そうだね、確認を怠ったのは致命的だった」


「目は覚めたかな? 災厄の化身」


「そうだね、久々にぶちのめしてやろうと思ったよ」


 二人がお互いに笑顔でそう告げる。その間には今までの手合わせなんて雰囲気はなく、相手を叩き潰すとでも言うような殺気が漂っていた。

 エルミーは思った。なんか、巻き込まれずに済みそうでよかったと。



 地鳴りを響かせて両者は、踏み込んだ。

 初撃の拳が、派生した衝撃波までも押しつぶして撃ちあった。

 撃ちあう衝撃で周囲に爆風が吹き荒れる。同時に彼らのいた地面までもが大幅に削り取られた。

 

 力の拮抗を感じて、二人は同じことを考えた。一撃喰らったら追い込まれると。

 

 夜が一気に腰を落として足を払う。

 零はそれを飛んで躱すと、そのまま空中で一回転して踵落としを繰り出した。

 夜は足払いの勢いで後方を向きながらそれを受け止めると、空中で零が抵抗できないことをいいことに地面へと叩きつけようとする。

 が、零は地面に手をつきそれを止めると、そのままもう片方の足の裏から霊力弾を放って手を離させ、そのまま倉庫から投げやりを三本発射した。

 飛んできたやりを夜は躱す。三本目を避けた夜の目の前に、黒い刀を振りあげる零が見えた。


なんだ、そんなもん……


 黒い刀を夜はエルミーの剣のように刀の腹を狙って弾こうとした。

 その瞬間、彼は自分の右手が弾けるような予感がして飛び退いた。

 零の刀が空を切る。その顔はしてやったりとでも言いたそうに意地の悪い笑みを浮かべていた。

 夜が未だ怖気の残る右手を振りながら、零に問うた。


「お前さん、それなんだい?」


「生命力の塊、他の攻撃は効果が薄いようなんでね」


 その答えに夜は頷いた。

 『災厄』それは直接的に生物の命を奪う死というものに直結する。

 重要なのは、その化身である夜も同じ性質を持つということだ。

 彼は死というものに直結するがゆえに、その身は生命というものへの負の力が宿っている。

 彼の規格外の防御力は受ける攻撃が命に与える被害が大きいほど上昇する。

 が、その反面彼の死という属性に反する生の属性の攻撃であれば、彼の防御は無に等しかった。

 生命を脅かす存在の化身である彼には、その生命こそが弱点であった。

 ならば、生命力の塊生だというあの刀に触れるというのは、毒に手を突っ込むようなものだ。

 夜は嫌そうな顔をしたが、しばらくするといつもの期待するような笑顔へと戻った。


「考えてみれば、俺に怪我をさせれる武器も珍しいんだ。

 これは、あれかな、久々に命の掛かった戦いができるってやつかな?」


「そうかもね」


 零の含むような笑顔に夜は期待を込めて笑う。

 その笑顔のまま、夜は駆けた。


 夜の拳を零は半歩左にずれて躱し、そのまま、刀を横薙ぎにして夜の胴を切ろうとした。

 が、それを夜はしゃがんで躱し、そのまま足払いへと繋げる。

 それを跳んで躱した零はそのまま空中に浮遊し霊力弾にて牽制して距離を取る。

 霊力弾を弾いた夜は距離を詰めようと一歩踏み出す。その目の前で、零の刀が伸びた。

 夜は強制的に距離を取らざるを得なかった。あのまま振られれば今頃真っ二つだったからだ。


 零が距離をとったのは近距離の不利を知っていたからだ。

 エルミーとの戦闘を見ていれば、今の零では夜に近接戦でかなわないのは明白だった。

 夜の弱点を武器に持って、迂闊に接近出来ないようにし、そのまま少し離れたところから別の武器で攻撃する魂胆だった。

 夜もそれを解っているのか余裕の笑みは少しだけ眉根がよっている。

 それを見ながら零は愉快そうに笑う。


「俺は万能型だからさぁ。弱点をつかないとね」


「なるほどね。じゃあ、それを上からねじ伏せてやるよ」


 頑張ってね。零はそう言って手を振ると、自分の真横に空中浮遊するガトリングを呼び出す。

 夜は一瞬なんだそんなものと思った。彼に人の命を奪うものである現代の兵器は効かない。

 それでも、その勘は彼に告げる、あたったら死ぬぞ、と。

 弾丸が撃ちだされた。それは彼の弱点をつくために作った特別な弾丸。

 永琳の飲んだ不老不死の薬、人の『命』を永遠のものにする薬で作った弾丸。当然、夜に対して絶大な効果を持つ。

 容赦のない弾丸の嵐を夜は例を中心に回ることで回避する。が、これは零が複雑な弾幕を撃っていないからできることであり、夜としては追い詰められていると言わざるを得なかった。


全く、面倒な相手だね。


 先ほどの顔面への一撃を思い出しながら夜は心のなかで毒づいた。

 零は万能型の能力を持つ。それは何でもありの戦闘の中で、基本どんな相手にも嫌な戦い方ができるということだ。

 一芸を極めたものに対してはその戦いかたの影響が大きい。相手の戦い方がわかるがゆえに、相手に付け込ませず、相手の嫌な戦法を取れる。

 だから、こういう時はいつもは絶対取らない行動を取ればいい。

 夜は、あえて零に突っ込んだ。


 そのまま走り続けると思っていた零は銃口をそのまま夜を素通りさせてしまう。

 幾つかの弾丸が夜の体を貫いたが、周回の速度が速かったがゆえに、飛び込んだ自分にあたった弾丸も少なかった。

 

「六ノ型『旋龍せんつい』」


 隙を取った夜は、これを逃すまいと奥義を繰り出した。

 その拳に螺旋を描くように力をこめる。それを拳の回転を加えて打ち込んだ。

 力を溜める行動に比べ、撃ちこんだ光景はあまりにも静かだった。

 零の胴体を軽く小突いただけのような攻撃に零は一瞬あっけにとられた。

 が、次の瞬間それは見かけだったことに気付かされた。

 螺旋に込められた力はそのまま零の体の内部を回転させ、かき混ぜる。体はそのまま右ねじの法則に従って空へと押し込まれた。

 上空に登った零に、夜は追撃した。


「八ノ型『八重桜やえざくら』」

 

 空中へ押された体に、夜の手刀が流れていく。

 音もなく着地した夜が、未だ空中に留まる零を見た。

 瞬間、零の体はまるで紅い桜が散るように大きく血を吹いた。

 散った紅い桜の海に、零は落ちた。


 夜は落ちた零へと足をすすめる。

 さきほどのように不意打ちされないように神経をとがらせながら。

 ふと、彼は自分の体が重いことに気がついた。原因に思いあたって先ほどの銃槍を見てみる。

 綺麗に貫通した後の傷口は、何かに侵食されたように黒く染まっていて、痛みを放つ。

 戦闘時の興奮で抑えられているが、それが終われば数からして意識を奪うほどの激痛になるだろう。


 久々にしてやられたと、悔しく思いながらも奥では喜ぶ自分がいることを夜は感じていた。

 自分の命を奪える可能性を持った者を新しく見つけられた喜びが、彼の中にたしかにあった。

 だから、そんな男がまだ倒れていないと夜は確信していた。

 夜は落ちた零の体の前へ来た。血の海に沈む零は意図が切れたように動かない。

 が、その体と周囲にあの刀がないことに夜は気づいた。

 寒気が夜の背筋を襲った。夜は慌てて振り向く。

 その胸を黒い刀が貫いていた。


「それで動けるとはね」


「再生重視だからね。痛覚をなくしてるのもあるだろうが」


 夜の目前には、捻れた体を無理矢理に動かす零がいた。

 あまりのダメージに回復しきれていない体は時折血を吹く。

 そんな体でも、零の目は闘志を失わず、その手は夜の体を貫く刀をしっかりと握っていた。


 零が刀を引き抜く。

 自分の天敵となる攻撃をもろに受けた夜は足もおぼつかなく膝をつきかける。

 が、彼は膝をつかぬように、地に強く足を打ち付けた。

 鬼灯の瞳が、目前に見つけた自分の命を刈り取れるものへの闘志に煌めいた。


「まだ、負けてない。最後に一発やろうじゃないか」


「いいね、こっちも最後にしようと思ってたんだ」


 ボロボロの体で、二人は笑いあった。自分をここまで脅かした相手への感謝と、その相手への殺気と、最高に高ぶった自分の喜びを込めて。

 零の右拳へ、刀が溶けていく。あらゆる存在を飲み込む圧倒的な生命力をその右手に込めていく。

 白く変化した右手、それが零の武器になった。


 二人が拳を引く。

 夜から黒の、零から白の大きな力が溢れだす。

 それはお互いに押し合うように展開する。激しく渦を巻き、お互いを飲み込もうとする力は、睨み合う一対の怪物に見えた。

 

ついの型『禍哭まがなき』」

「源泉『命降たまふるい』」


 怪物がぶつかった。

 対局にある力はお互いの体を見ては相手を越えようと大きさを増す。

 その拡大する力を持って、怪物は相手と喰らい合った。

 黒と白が混ざり合う。供給され続ける対の力は混ざり合いながら拡大した。

 そして、二つの力が極限まで達した時、拡大したそれは周囲の全てを巻き込み消滅した。

 

 力の消滅した何もなくなった空間に二人はいた。

 光が消滅してお互いの姿は見えていなくとも、相手はそこにいると確信して二人は睨みあった。

 周囲の物質が、光が、空になった空間に入り込む。

 再び全てが充満した世界で、二人はお互いを睨みつけながら崩れ落ちた。





「私が後始末とはね……」


 エルミーは大きなクレーターになってしまった地形を見ながらため息を付いた。

 筋肉痛になるため一日二回しか使わないことにしている『サブライトスピード』を、先ほどの最後の一撃から逃げるのに使ってしまったために、長い時間をかけてここまで帰ってきてもうくたくただったからだ。

 それなのに、目の前の男二人はそんなの関係ないとばかりにぶっ倒れている。

 まだ生きてるみたいだしこのままほ放っておくわけにも行かないし、かと言って疲れているのに動くのはうんざりしてしまう。

 ただ、うんざりしながらも動くのがエルミーだった。

 スペルを使って砂鉄のベッドを作って二人を運ぶ。クレーターからやっとこさ出たところで、エルミーは二人の傷の具合を見た。


「うわぁ、どうしようこれ」


エルミーは思わず声を挙げた。

二人の体は致命傷どころか、まだ死んでいないなんてありえないと言わざるをえないものだった。

夜はその首から下の大部分が弱点である生命力に侵食され、黒く変色している。言ってしまえば首以外の壊死しているも同然の状態。

もう片方の零は、表現として一番わかりやすくするなら一回ぐちゃぐちゃにしてから元の形っぽくしてみたような、そんな状態。血や肉の色がある分、こちらは余計に酷く見える。

 それでも彼らは生きていた。死んでそうな傷で、普通に生きていた。

 エルミーはそんな彼らのでたらめな生存力に驚愕した。


 とはいえ、エルミーにはなんら彼らにしてやれることはない。

 軽い応急処置の知識くらいは彼女にもあるが、この傷ではそれどころじゃないし、そもそも布意外に道具すらないのにどうしろというのか。

 どうしようかと迷って、答えが見つからずため息を付いた。

 瞬間、突然零が起き上がった。体の限界を超えているはずの零が、急に起き上がり、ベッドから降り、ずんずんと一方向へ進んでいく。


「ちょ、ちょっと」


 エルミーは慌てて止めようと声をかける。

 が、零はそんなものに耳をかしている暇はないとでも言うように歩き、しばらくして足を止めると、

 大きく空へ向かって叫んだ。


「姫ちゃーん!!! その愛たしかに受け取ったぜー!!!」


「え?」


 いきなり起き上がって、歩いて空に愛を受け取ったと叫ぶ零に、呆気にとられたエルミーは素っ頓狂な声を上げた。

 そんな彼女を他所に、零は満足したかのように息を吐くと、自分の倉庫から大きな布を出して自分にかぶせた。

 数秒あってその布が剥がれた時、そこには全くの無傷に戻った零がいた。


「ええ!?」


 エルミーはまたも呆気にとられた。

 そんな彼女を無視して、零はベッドの方に戻り、今度は夜に布をかぶせた。

 数秒後に布がとられると、そこには先程の零と同じく無傷で侵食もなくなった夜がいた。

 零が肩を叩くと夜が目を覚ます。


「おはよう。良く眠れた?」


「ああ、結構いい寝心地だったよ」


 先程までの自分の惨状を何ら気にしない二人に、エルミーはもう何も言えなかった。

 しかもこの二人、周囲の状況を見ても派手にやったなぁなんて笑っている。

 どこまでもどこまでもぶっ飛んでいた。


 エルミーは、なんだか一人で考えた。

 私も長く生きたらこんな感じになるんだろうか、と。

 そして決意した。こんな風にならないようにしようと。



 実は、彼らの知らなかった戦闘の影響がある。

 最後の一撃によって零が作ったこの世界の中、あの一撃の余波によって二、三個の恒星が消滅していた。




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