コラボ(前編)
コラボ参加者を書き忘れていました。
現在はもうなろうにいない方のキャラもいるので、
なろうにいる方のキャラだけ一応紹介しておきます。
八雲優一さん家の大丈仁君
八樹クロクさん家の八岐夜
ksr123さん家のエルミー・イーストファーちゃん
以上の三名とプラス一名となっています。
今回もよろしくお願いします。
幻想郷で一番戦っちゃいけないのは? この世界の幻想郷で聞けば真っ先に神谷家の名前が出るだろう。
そのせいもあってか、彼らの暇つぶしという名目のバトルに付き合ってくれる輩は少ない。
手加減すると言っても、制限つけると言っても、最終的に負ける結果が見えている戦いに身を投じる奇特な奴は少ないというもの。
神谷家の家長こと神谷零は、自分の弟子で『打倒零』を掲げるいつもの三人以外が殆ど相手をしてくれないことに不満を感じていた。
「適当に他の世界から連れて来れば、兄さんのことを知らないし戦ってくれるのでは?」
だから、彼は溺愛する嫁の提案に嬉々として乗ったのではないだろうか。
流石俺の嫁と嬉しくなって、彼女をベッドに押し込んだのもそれのせいではないだろうか。
いや、押し倒したのは一月一度の夫婦の日だったから仕方ないことなのだろう。
ある日、月に一度の恒例として有名な、甘い声が終わると、彼の家の屋根から扉が生えているのを見つけた。
私の経験からして、あの扉の向こうはいつもの様に彼の作ったバトル用の世界で、おそらくあの扉の向こうには、今回呼ばれた人達がいるのだろう。
見に行きたくはなるがやめておこう。とばっちりを受けて死ぬはゴメンだ。
跡形もなく蒸発なんてザラに有り得そうだし、ここは彼が話をしてくれるのを楽しみにするのが一番だろう。今回も、それなりに楽しい話になることを期待している。
****
「やぁ、よく来たね」
俺が異世界に開けた穴、それによって連れてこられた四人に俺は笑顔で挨拶した。
「久しぶりだな、零」
「久しぶり、零さん」
「誰よあなた?」
「やぁ、よく来てやったよ」
俺の挨拶に同時に俺に答えてくれた。
顔見知りの男が一人、娘の友だちの男の子が一人、初対面の男女が一人ずつ。
「まぁ、全員の返事は一応聞こえたけど、ゆっくり一人ずつ返すせてもらうぜ」
無理やり連れて来ていきなり自己紹介の、バトルというのも失礼だろう。
知り合いもいるし、ここはゆっくり返すことにした。
まずは、顔見知り二人の内、年寄りの方に返す。
「よう竜平、儲かってる?」
「本業よりサブでやってるほうが儲かってるのが癪だよ」
「そうか。まぁ俺には関係ないな。暮らせてるならいいじゃないか」
「そうだな、そう思っておくよ」
燕尾服にシルクハットという出で立ちの彼は黒羽根竜平。
職業はマジシャンといったところだ。まぁ魔法も使えて戦えるというのが加わるが。
確かもう四十を超えているはずだし、外見はいい年した男である。
さて、次に来たのは俺の娘のご友人。性別は男。
「やぁ、仁くん。久しぶりにしては随分成長したね」
「もう二十五だしね」
「そんなになったか、俺もオッサンになった」
若人の特権である活力ある雰囲気を醸す青年は白のシャツに黒のガーデとズボンを着ている。日本男子でそれなりにイケメンである。名前は大丈 仁。俺の知り合いの息子で俺の娘の友だちだ。
少年時代を知っているからか、感慨深いものがある。良い青年になったものだ。娘はやらんが。
腰には彼の武器である霊楼剣という大太刀が下げられている。自身の身の丈ほどもあるその刀身がどういう原理で地面にこすらない角度を保っているのかは謎だ。
「さて、待たせたねお嬢さん」
「本当に待たされたわ。それで、あなたの名前は?」
「神谷零、一応は人間だよ。よろしく」
「ふーん。うん、よろしくされたわ。私はエルミー・イーストファー」
金髪を短く揃え、薄い黄色のワンピースを着た小柄な少女は気さくな笑顔でそう言った。
まぁ、まだ少し俺への疑問が顔に出ているが、まぁいきなり連れてきたししょうがないだろう。
さぁ、最後のやつだ。
「最後になってすまんね」
「いや、構わんよ。俺は八岐 夜だという。よしなに」
「あいあい。よろしく頼むよ」
最後の一人は声も出ぬほど美青年。その鬼灯の瞳と頭から飛び出た濁り紫の捻れた角が、彼が人外であることを示している。
少し崩した着流しと、カラリとなる下駄。そしてなによりその口調が彼の飄々とした人柄を存分に表に出していた。
多分、好奇心が強いのだろう。その目には俺に対する疑念などなく、何を言うのか、どんなやつなのかとワクワクしていると言わんばかりに輝いていた。
「さてと、急に呼び出して悪かったね。そろそろ家内が来るだろうから、それまでに用件を話してしまうことにしようかな。
えっとね、今回は俺と嫁の暇つぶしに付き合ってくれないかな? 内容はいつもの様に手合わせなんだけれど。
どうだろうか?」
「俺は構わんよ。元々、お前さんが出てきた時からそういう類だと思ってたんだし」
一番最初に返してくれたのは夜だ。あの好奇心の目は俺の強さに対するものだったか。
「話が早くて助かるよ。他の三人は?」
「俺は……その……」
「えっと……零さんとかぁ、お父さんの知り合いだしなぁ」
男二人は歯切れが悪い。まぁ以前にあった時も問答無用で吹き飛ばしたりなんだりとやらかしたから仕方ないだろうか。
「じゃあ、姫ちゃんの相手をすればいいよ。今日は彼女も参加だ」
「あっ、なら大丈夫かな」
「だな」
ふっ……ちょろい。俺の嫁だぜ? 仁くんは直接戦闘シーンを見たのはずい分昔だから忘れているだろうが、俺より強いぞ。まぁ教えてやる気はないが。
さて、残りの一人だ。
「エルミーはどうする?」
「私? そうね……私も参加でいいわ」
「なら、欠席は無しだ。今日は俺の相手をしてもらうやつと、姫ちゃんの相手をしてもらうやつに分かれてもらう。
まぁ、さっきのやり取りから察してもらうが、初めましての二人が俺の相手だ」
「わかったわ」
「かまわんよ」
「よし。じゃあ、残りの二人は姫ちゃんが来たら、案内してもらって。
俺の勘だとあと一分と三十二秒でつくはずだから」
そう言いながら残る二人に手を振って、俺は自分で作ったこの世界の遠く離れた地点へ扉を作って移動する。
相手をしてくれる二人も、俺の後から続いて入ってきてくれた。
俺は振り向きながら二人に問うた。
「ルールだけど、乱闘と二対一、どっちがいい?」
「当然乱闘だね。初対面で連携なんて出来ないだろうし」
「私も同じよ。もう一つ理由を言うなら、数で勝っても面白く無いしね」
「そうかい」
彼らの理由に頷いた俺は、ふわりと空中に浮かびながら二人にもう一度自己紹介をする。
「初めまして、お二人さん。俺は神谷零、種族は人間、二つ名は『片割れの黒』。
今日はよろしく頼むよ。楽しませてくれると、嬉しいな」
いつもの不敵を匂わせて、俺は笑った。
対する二人、夜は期待するように、エルミーは自信ありげに、笑う。
「それはこっちも一緒だね。お前さんは、どう俺を楽しませるのかな?」
「楽しむ余裕がなくなるくらいには、相手してあげますよ」
三人で笑顔を交わす。
その笑顔のまま動いたのは、三人同時だった。
****
「お久しぶりですおふたりとも」
顔見知りのお二人に、私はそう言って挨拶した。
「久しぶりだな。姫さん」
「お久しぶりです。姫さん」
ふたりともいつものように笑顔で返事を返してくれました。笑顔での挨拶とは気分が良くなりますね。
さて、やることは兄さんが説明してくれてるはずなので、私は前置き無しで要件を話すことにした。
「じゃあ、いつもの様に戦っちゃいましょう。二対一で構いませんよ」
「悪いね。気を使わせるみたいで」
「大丈夫? 竜平さんは歳があるけれど、僕は結構強くなったよ?」
笑顔で不利な状況を作った私を心配して、二人が確認をとってくれた。
大丈夫ですよ。と不安そうな二人に私は軽く返す。
「私もまだまだ強いです。お二人相手でも……ね?」
少しだけ落とした声を笑顔に乗せる。その声に察したか、二人は言い返しませんでした。
ただ、答えの代わりとでも言うように、自分の武器を取り出して私を見た。
私はその身振りでの答えに頷く。
「ええ、それでいいです。私もまだやすやす負けられませんから」
二人に向けて、いつでもいいと言うように手招きする。
それを見て、二人は口の端を上げ、私に向けて駆けた。
刀とナイフ二本の刃が神姫の結界にぶつかって音を立てた。
ぶつかった瞬間、神姫が用意していた術式結界を霊力の青い濃霧へと変換しながら爆発した。
視界を埋める青の濃霧の中、目眩ましの中で戦うのは不利だと、二人は風の術を使って霧を晴らした。が、彼らの目前に神姫の姿はない。
二人が周囲へ神経を巡らせる。最初にその音を知覚したのは仁だった。
風を切る高い音。背後から迫るソレを、仁は振り向きざまに斬りつけた。
ぶつかったのは青く光る糸。ただし、仁の刃で切れぬ霊力の糸。
グニャリと鞭のようにしなるその糸の先に、白い篭手をつけた神姫がいる。
仁は切れないことを利用して大太刀一回転、そのまま糸を絡めとった。
それを見て、竜平はナイフに魔力を流しながら飛んだ。
神姫がそれを見てもう一度結界を展開する。
竜平はそれを視認すると、予想通りといった風にナイフに魔力を流した。
ナイフが先ほどよろしく結界へぶつかる。ただ、その切っ先は結界をやすやすと貫いた。
これでは無理だ。竜平はそう予想していた。そして、それは正しい。
神姫はすでにナイフの腹めがけて膝を蹴りあげた。
蹴られたナイフが竜平の手から飛んで行く。神姫は霊力の糸を消失させ、後ろに跳ぶ。
が、その目に写った竜平の手には先程のナイフがもう一本。
竜平はそのナイフを彼女へ向けて投げた。
隙を付かれた投擲ナイフを神姫は篭手で防いだ。しかし、とっさの追加動作で体制が崩れてしまう。
それを見て仁は一気に近づいた。防ぐことで体制を崩した神姫に仁は大太刀を振りかぶる。
神姫は避けなかった。代わりに、いつもの倉庫の入り口を開け、そこから飛び出した剣を大太刀へと向ける。
剣が仁の大太刀を弾いた。
神姫はそのまま体制を直すついでに剣を手に取ると、そのまま剣を構え直した仁へと投げた。
そして、仁が剣に対処をする一瞬、彼女の目はもう一人へ向く。その視界にはさも当たり前のように火水風土の属性を付加したナイフを袖から、襟から無数に取り出す竜平がいた。
一斉攻撃を受けたら面倒ですね。
神姫はそう考え、竜平へと狙いを決める。
そして、剣を弾いた仁へ向け、煙幕と噴射すると同時に時間停滞の術式を発射する。
煙幕で視界を潰された仁は時間停滞に捕まり動きが遅くなる。その時間を利用して、神姫は動いた。
転移術で竜平の直上へと移動する。ナイフを取り出すの彼の真上で、神姫は自分が出せる全ての現代兵器の砲門を彼に向けた。
影に気が付き、上を見上げた竜平が一瞬青ざめる。
そこには、文字通り鉄の雨を降らそうとする巨大な鉄塊の雨雲があった。
「鋼雨『破壊の雨』」
発射する一瞬前に神姫はスペル名を宣言する。その顔には期待を込めた微笑があった、この程度防いでくれますよね? そんな期待を込めた微笑が。
攻撃が開始される。竜平のいた地点一帯を、黒い雨が殲滅した。
それは力任せの暴力で、容赦無い雨に砕かれた地面はその場に大きな大きな大穴となった。
「生きてますかー?」
神姫が土煙で見えなくなった大穴のそこへと問いかける。
答えを返すように、ナイフが死ぬほど空へ落ちてきた。
「そうでなくては」
神姫は笑顔でそう言って、投げられたナイフを空間の穴で飲み込む。
飲み込むついでに土埃も消して、底を見れば、どこから出したかトランプのジャックを掲げる竜平が。
そして、彼の前には四枚のジャックのカードが大きな盾となって出現していた。
「その程度じゃあ貫けないぜ」
竜平は得意気にそう言った。内心は間一髪だったと寒気に押されていたが、取り繕えるのも彼の強さだ。
だが、そこで得意気に言ったのがいけなかった。
神姫には『期待通り』防いでくれた相手が、今度は自分に『貫いてみろ』と言っているように見えた。
竜平がセリフを言った直後、先程まで空にあった鉄塊の雨雲は消え去って。
そこには青い光の球体が無数に散らばっていた。
先ほどの竜平に仕返しするように、神姫は得意気な顔で彼に手を振る。
得意気だった竜平の顔は凍りついた。
「収束『光一点』」
神姫が宣言したスペルはただただエネルギーを収束させた貫通攻撃を放つもの。
通常、太陽ほどの直径を持って発射されるはずのエネルギーは、圧縮により直径をサッカーボール程度にまで小さくして打たれる。
その光線は通るふきのものを例外なく蒸発させ、消滅させる。
神姫の背後の光球が光った。青く光るエネルギーの筋が神姫の前で収束し竜平へと放たれる。
放たれた一撃は彼を守るジャックを数瞬の元に蒸発させた。
だが、その数瞬は竜平に逃げる時間を与えてくれた。
転移の術式で神姫の目前に来た彼は、先ほど受けたショックによって溜まったなんだかよくわからない衝動を、彼女への攻撃へと変えて打ち込もうとする。
「竜平さん、歳ですか?」
が、ひっくり返る天地と神姫の冷静な言葉が、その攻撃を崩した。
竜平は自分が体術で返されたことを理解すると同時に、自分の歳による衰えを看破されたことを少し悔しく思った。
が、黙ってやられる訳にはいかないと、竜平はそのまま神姫の足を掴み、首に足をかけて締めあげた。
「あ……ぐっ……」
神姫が締め付けを解こうと力む。その力んでいる隙を時間稼ぎから逃れた仁が狙っていた。
「霊楼符『夜桜』」
そんな宣言とともに、神姫の視界が奪われる。
神姫は考える。この状態ではまともに動けたものではないのに、仁の攻撃なんて避けられるはずもない、ならばどうするのか。
そして、彼女の頭は種族を変えるという答えを出した。
「変種『オールモンスターズ』」
神姫の宣言が出されると同時に、仁が大太刀を振りぬいた。
が、仁は自分の攻撃が無効化された瞬間を見た、先程まで首を絞められていた神姫の体が液体のようになり、自分の刃が彼女の服だけを引き裂いたのを。
ズルリと、竜平の足から液状化した神姫の頭が抜ける。
二人は拘束の危険を感じてすぐに距離をとった。
神姫の体が液体から人型へと戻っていく。しかし、その体は人のものではなく、ドロリとした水色の液体が人の形を取っただけのものだった。
「姫……さん?」
仁が、あまりにも変わってしまった神姫が大丈夫なのかどうかと不安に感じながら声をかけた。
「ハイ、ナンデショウ?」
人型になった液体は答えた。
竜平と仁は驚愕した。目の前で液体となった神姫が片言でも、問題なく答えたことに。
「大丈夫なんですか? その姿」
「ダイジョウブデスヨ。ワタシノシュゾクヲ『スライム』二カエタダケデスカラ」
種族変更なんてデタラメにも程がある。男二人はそう思った。
が、自分の周りを見れば、出来そうな人がいないと言い切れないために大声で言うことも出来やしない。
なんだかもどかしい気分を持ちながら。二人は気を取り直して武器を構えた。
神姫は体を元に戻した。流石に、刀とナイフ以外では霊力弾などが武器の二人に体をスライム化するのはあまりに有利がすぎるだろうと考えたからだ。
ただ、少しだけ神姫の悪いところが出た。相手のことを考えて、少し自分の状況を忘れていた。
彼女は仁に服を切られ、しかもスライム状態になったことで服すら通り抜けてしまっていた。
つまり、全裸だ。
「「「あ」」」
気づいた三人の声が重なり、神姫の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
男二人も慌てて顔を逸らしたが、その目は男の欲望に従い神姫を向いてしまっている。
「いやああああ!!」
神姫はその場で体を小さくした。
そして、理不尽だと分かっていながらも服を切った本人に叫ぶ。
「仁くんのせいです!」
「ええ!?」
言われた仁は理不尽だと思いながらも、本当のことなので言い返せない。
なんとも言えない微妙な空気が流れる。
すぐに新しい服を着たものの神姫の顔はまだ赤い。そして、男たちも美少女の体を見たとあればその衝撃は消えるはずもない。
そして、たぶん忘れてもらえないことを解っているから、神姫はキレた。
「記憶を消します」
「ま、待て姫、そんな物騒な!」
「そうだよ姫さん。忘れる、忘れるから!」
目の据わった神姫に対して、男二人が慌てて止めようとする。
「兄さん以外の男の人に見せたくなかったのに!!!!」
が、ダメ。
叫んだ神姫の周りに青いクリスタルを内蔵された大砲が数百と出現する。
「シャレんなってないよ姫さん!」
「死ぬどころか跡形もなくなるから!」
「最初からそのつもりです」
止めようとする二人に、神姫は宣言する。
「殲滅『ラストオブジェノサイド』」
出された砲門に青い光が灯る。
この大砲、零の作った『零式』という大砲である。威力は彼のお墨付き、三台あれば月の都市を陥落できるすぐれもの。
それが数百台、まさしく殲滅するためのスペルと言って過言ではない。
青い閃光が発射される。男二人の内、身を呈したのは年長者だった。
「トランプ術 『四天王・キング』」
竜平がそう宣言すると、彼の前には四枚のキングが出現する。
そして、それに合わせて彼は追加で唱えた。
「トランプ術 『剣の舞』」
四枚のキングが剣を取り、閃光を切り裂いた。
が、いかんせん数が多すぎる。彼の四枚だけではギリギリだった。
仁は急いで加勢する。
「雨符『垂れ桜』」
仁が宣言した直後、神姫の背後にあった大砲の群れへ無数の斬撃の雨が降り始める。
それは大砲を安々と貫き、そのまま神姫を襲う……はずだった。
神姫は壊れていく大砲の前にいない。大砲の雨が止んで、そこに神姫がいないことに気づいた竜平と仁の背後に、その黒い微笑はあった。
「仁くん、避けろ!」
竜平が叫んで仁を押す。
仁の位置に変わった竜平の頭を神姫の手が包み込んだ。
「崩壊『終末の景色』」
神姫がやさじい声でそう唱える。母親のように温かい安心する感覚なのに、それが竜平には死神の死刑宣告に聞こえた。
その手から流れるように、竜平の頭には神姫の持つ世界崩壊の記憶が流れ込んでいく。
すべてのものが崩れいく世界の光景は、そのまま自分の崩壊を想起させ、そのまま自我を蝕んでいく。
世界の管理者であった神姫にすらトラウマを残したそれは、竜平の自我をたやすく崩壊させた。
黒く塗りつぶされた自我のまま、竜平は力なく崩れ落ちた。
それを神姫は優しく抱きとめ、能力で作った別空間へと寝かせた。
一連の光景を見ていた仁は動けなかった。邪魔をすれば死ぬ、どこかそんな直感が彼の中に流れたから。
そして今、今度は先程まで竜平に向いていた瞳が仁に向いている。彼は自分の底から湧いてくる恐怖を抑えられなかった。
だが、彼は逃げなかった。彼は恐怖に立ち向かう人間だった。だから、目の前の恐怖に向けて自らの大太刀を向ける。
「姫さん、僕は簡単に倒せませんからね」
「あら、倒しません。ただ記憶をなくしてもらうだけですよ?」
「そんな黒い笑みで言われても信じられませんよ!」
「そうですか? まぁいいです。早く、済ませちゃいましょう。
たとえ仁くんであろうと、兄さん以外の男の人に私の裸の記憶があるなんて許しません。
私は……私は……兄さんのものなんですから」
そう言う神姫の目には黒い恨みのようなものが宿っている。
仁は今までに感じたこともないどろどろした恐怖を前に、覚悟を決め、逃げ出さぬようにと自分から仕掛けた。
振り下ろされる大太刀を躱し、神姫はそのまま掌底を心臓めがけて打ち込む。
仁は慌てて体をそらして直撃を避けた。左肩のあたりにあたる衝撃を、彼は斜め後ろに飛ぶことで緩和した。
危なかったと冷や汗をかく一方で仁の顔には驚愕があった。
素人じゃない!?
仁は今までの彼女の兄の戦闘法から見て彼女も肉を切らせて骨を断つタイプだと考えていた。が、現実は違った。さっきの掌底といい、その前の体捌きといい、あまりにも素早く無駄がない。
強すぎるな。
仁はそう思った。そして、それは正解だ。神姫は零とは違い勉学や修行を好む、故に気になったらそれなりに頑張るのだ。それなりといえど、時間をかければ当然上手くなる。世界管理者時代も含めた膨大な経験値がある彼女は、能力無しでも規格外の強さがあった。
なら、リーチで有利に稼がせてもらおうかな!
仁はそう考えて、距離をとって戦うことにした。
神姫の拳の届かない、距離から、じわじわ削るように彼は攻めていく。
神姫は攻めあぐねた。武器を出してもいいのだが、武器を出したらそれを手にするときに隙ができてしまう。
だからといって、このまま負けてしまって自分の裸体を覚えていられるのは我慢ならない。(自分の責任がほとんどなのだが)
神姫は本気で潰しに掛かることにした。
早速、神姫は転移術を使っていっきに距離を取る。仁が近づいてくる時間を利用して、宣言する。
「流星『星降の大地』」
宣言したスペルは、上空からの広範囲に渡る弾幕攻撃。
近づく仁に近づかれないように逃げながら、神姫はこれで削り切る考えだった。
持っている武器からも分かる通り、仁は近接戦闘を得意としている。別に、遠距離が苦手ということはないが、長く鍛えてきたのは近距離であり練度は近距離が圧倒的に上だろう。
それは、有利にするには遠距離で戦うのが一番だということだ。
早く解決したい神姫は、その理に則り、万能型であるがゆえに相手の嫌がる戦い方ができるという自分の利点を利用して遠距離戦に持ち込んだ。
そして、その意図が読めない仁ではない。降り注ぐ弾幕を結界と斬撃で対処しながら、弾幕を放って神姫を足止めし、接近しようとする。
が、そこは練度の違いか神姫は誘いに乗ってこない。
「そんな小技じゃ、私に近づけませんよ」
焦る仁に向けて、降り注ぐ弾幕の中を遊々と泳ぐ神姫は言った。
仁はもう一枚スペルを使うことを決めた。大太刀を振りながら、スペルを唱えた。
「旋風『春一番』」
振った大太刀から、湧き出るように竜巻が発生し、それが遠くにいた神姫まで一気に加速し、そのまま彼女を飲み込んだ。
神姫は竜巻の中心、無風状態のそこから外側の風邪に少し触れてみる。
「痛っ」
指先が、少し切れた。斬撃を纏った風だと、神姫すぐに予想をつけた。
対処は簡単だ。彼女は能力で霊力を強化し、それを一気に放出した。
莫大な霊力の放出に竜巻が霧散する。その威力で神姫は近づいてくるであろう仁も吹き飛ばすつもりだった。
が、それはかなわない
「結界『繚乱結界』」
真下に展開した場合、自身を大幅に強化する効果を持つ結界、それによって強化された仁は巻き起こる霊力の圧力を物ともせずに神姫の前に飛び出した。
そして、その勢いのまま宣言する。
「繚乱符『千本桜』」
目にも留まらぬ斬撃、それが神姫を襲った。
神姫は霊力を放出から、自分に纏う方へと移行する。
千回に及ぶ斬撃で、纏った霊力を削り切られないように供給しながら、彼女は反撃した。
「指向『波衝撃』」
一方向への強力な衝撃を加える技。神姫は攻撃から予測した方向へとそれを放った。
空気が衝撃によって音を立てる。一瞬止んだ斬撃の中、神姫が見たのは自分を囲む桜の枝と、横にずれることで衝撃を躱し、大太刀を振りかぶる仁がいた。
『繚乱結界』は仁の特殊結界であり、彼に近い未来を予知する力と驚異的な身体能力を与える。神姫の反撃はすでに予知されており、彼は自分の一撃はその先の防御を崩すところまでを見ていた。
仁の斬撃が面食らって集中を切らした神姫の霊力を弾けさせる。瞬間、周りを囲んでいた桜が弾け、周囲へと桜の花弁が舞う。
神姫の直感はこの花弁に触れてはいけないと警告する。が、あまりにも囲まれすぎている。
霊力を纏うにはあまりに時間がない。
花弁が、神姫を覆った。
仁は思った、これならあの馬鹿みたいな生命力がある神姫でも気絶してくれるだろうと。
が、さっきまで感じていた彼女の脅威が凄まじかったせいか、彼は安心してうっかり残心を忘れてしまっていた。さっきまで使っていた結界も解いて、息をつく。
それが命取りだった。
風に舞う桜が、消えた。
瞬間、彼の目の前に神姫の顔が出現していた。斬撃の傷は回復していたが、その顔や体は血に濡れて不気味に見える。
その目は仁を捉えて離さない。まっすぐ貫くような視線に圧倒的な力を感じて仁は圧倒されて後ずさった。
神姫は限界だった。零以外に見られたなんて人生の汚点そのものなのである。今にも零に抱きついて泣きついて、二人がかりでなんていう思考だってよぎっている。
だから、負けたみたいな状況を作られたことに、我慢ができなくなった。
神姫は実は戦闘や零が絡むと意外と短気だ。自分でもそれを理解している。戦闘関係になればなるほど、零が絡めば絡むほど、思い通りに行かないと我慢ができなくなる。そして、その我慢ができなくなった時、彼女は吹っ切れたみたいに何も考えなくなるタイプだ。静かな気持ちで、ただ叩き潰そうとしか考えなくなる。仁が見た雰囲気はそのただ一つの意思に圧倒されたのだ。
「姫……さん?」
仁は神姫に問いかけた。
神姫は答えない。代わりに、技の宣言が出た。
「炎天『プロミネンス』」
宣言と同時に開いた黒い穴、そこから赤い赤い炎が湧きでる。
それは、そのまますべてを燃やしつくそうと周囲を覆う。
仁は逃げ場がなかった。
神姫が微笑する。黒い黒いその笑みに、仁は背筋が震えるような恐ろしさを感じ思わず叫んだ。
「く、来るな!!」
大太刀を向け、威嚇するも、神姫はその刃に構わず突き刺さった。
そして、その笑顔のまま、ズブズブと自分をさしながら仁へと近づいてくる。
薄気味悪さに、仁は大太刀を抜いて、大きく後ずさった。
そして、その気味悪さを払拭するため、自分の持てる最高のスペルを『繚乱結界』まで使用して唱えた。
「満開『桜吹雪』っ!!!」
その言葉とともに、仁が大太刀が桜色に色づく。そのまま彼が大太刀を降れば、桜色の斬撃が神姫を斬らんと飛び出した。
神姫が結界を貼る。が、斬撃はそれを無視するようにすり抜けた。
神姫の腹部に斬撃が当たる。それは神姫の体を切断し、その進行を止め…………たように見えた。
切り飛ばされた神姫の上半身が消え、仁の前に現れる。……その顔は笑顔だった。
その得体のしれない威圧を纏ったままの笑顔で、しかも上半身だけで向かってくる神姫に仁は尻餅をついた。
血に濡れた笑顔が仁へと向けられる。彼は自分は死ぬんだとどこかで思った。
「怖くありませんよ。記憶を抜き取るだけですから」
だから、その声は死刑宣告にしか聞こえなくて、彼は恐怖に押しつぶされて意識を手放した。
「まだくっつかないですね」
半分になってしまった体をくっつけようとしながら、椅子に座って私はつぶやいた。
相手をしてくれた二人は記憶を一部抜き取って隣のベッドに寝かせてある。
仁くんは相当うなされていましたが、そんなに怖かったでしょうか?
まぁ、確かに怒ったを通り越して何も考えなくなった私は怖いと兄さんも言ってましたけど……。そんなあからさまに怖いみたいなことされたら流石に凹んでしまいます。
なかなか仕留められてくれない仁くん達が悪いんですよ。
それにしても、最後の仁くんの攻撃は驚きの一撃でした。あの結界、実は物理防御だけじゃなく、空間隔絶と次元干渉もつけてたから、普通に破壊しても私のところに来る頃にはぺちゃんこになって消えてるはずだったんですけどね。
「仁くんも強くなりましたね」
私は隣で眠る青年の頭をなでた。うなされていた青年はそれで安心したように寝息を立て始めた。
私はお母さんでも恋人でもないですよ? 私はそうツッコみながらも彼の頭を撫でながら顔を見る。
その寝顔は以前に見た時とは違い凛々しさを感じさせる。
まぁでも、まだ少し幼く見えるのは、彼の性格が素直で快活だからだろう。
なんだか自分の息子を見ているみたいで可愛くなって、私は笑った。
「早く起きてくださいね」
そう言いながら、ようやくくっついた体を持ち上げて、竜平さんの方へと移動する。
寝息を立てる竜平さんの自我は一応直してある。私が見せてしまった記憶を大部分抜き取らなかったら無理だったけれど。
悪いことをしてしまった。怒っていたとはいえ、自分がいちばん見ていたくなかったものを人にも見せるなんて。……まぁ技として確立していますから、他にも見せた方はいますし、反省もしてます。後悔はしてませんが。
なんにしても、悪いことは悪いことですよね。
「ごめんなさい、竜平さん」
私はそう言って彼の顔を見た。後で起きたらもう一度謝ろうと思う。
……なんだか関係ありませんが、やっぱり竜平さん少し老けましたね。
まぁ、私の周りが若すぎるというのもありますが、なんかこう……老練な雰囲気を感じさせるといいますか。そんな感じの顔です。
兄さんには出来ない顔ですよね。珍しいです。
竜平さん、年取ってダンディになってますね。何か格好いいです。
「まぁ、何があろうと兄さんが一番なんですけどね」
寝顔のイケメンなことと言ったら……ああ、思い出しただけで腰砕けになっちゃいます。
そう、あの輝きの前ではどんな方も輝かないのです。兄さんの後ろには後光があるんです。
「兄さん私の愛を受け取ってください!」
私は今遠くで絶賛戦闘中であろう兄さんに向けて愛を叫ぶ。
振り向いた瞬間、そこには二つの顔。
「姫さん」
「姫」
「あ」
寝ていた二人が私の声に起こされ、面食らったような顔をしてそこにいた。
そして、何も見ていなかったかのように目をそらすと、もう一度ベットに入る。
堂々とされていれば恥ずかしくなかったのに、なんだか気遣われてしまったせいで羞恥心が出てきてしまった。
思わず、叫んだ。
「二人の記憶消します!」
「「やめて!?」」
「問答無用!」
「「うそおおおおお!?」」
この後二人はもう一度ベッドでお休みすることになった。




