中
特にこれといった用事もなかったので、下校がてらに俺は昨日と同じ公園に立ち寄った。
どうやらまだ友利子さんは来ていないようだ。まあ、彼女がいようがいなかろうが、あまり関係はないが。
俺はベンチに座り、コンビニで買ったおにぎりを食べる。ちなみに具はシーチキンだ。店員曰く、何気におにぎりの中で一番人気があるらしい。
「おいしそうね」
「!?」
急に真後ろから声を掛けられ、心臓が止まりそうになった。振り返ると、友利子さんが立っていた。
「……友利子さん、脅かさないで下さいよ。本気でショック死するところでした」
俺の反応に満足したのか、彼女は微笑みながら俺の隣に座った。
「大袈裟ね」
くすっと彼女が笑う。それにしても彼女、普段は何をしているのだろうか? いつも夕方にはここにいるし……。
「友利子さんって、普段は何をしているんですか?」
「ん? 私? そうだなぁ、ニートかな」
……はぁ。無意識に溜息が漏れた。
「ついこの前まで、婚約してたんだ、私」
へぇー。てか過去形!?
「何かあったんですか?」
離婚は多いが、婚約破棄なんてそうあるものではない。何か複雑な事情があるのだろうか?
「実はね――――」
“死んだんだ、私”
「え?」
冗談だろ? というか、冗談だよな。流石にそれはないだろう。だって今俺とこうして会話してるし。
「あ、さては信じてないな?」
彼女は表情一つ崩さず、そう言った。
「ええ。残念なことに信じてません」
俺がそう返すと、「そっか」と呟き、彼女は目の前に広がる光景に目を向ける。
「食べます?」
俺はコンビニ袋から二つ目のおにぎりを取り出し、彼女に差し出す。
「ありがと」
彼女はそれを受け取り、包装フィルムを剥がす。
「すいません。信じられなくて」
俺の言葉に彼女はまたくすっと笑った。
「いいのよ」
彼女はおにぎりを一口食べる。
空はいつの間にか藍色に変わっていた。公園の電灯が点いていく。
そろそろ、帰り時か。
だが、今日はもう少しいたい気がした。
「夜も綺麗よね。ここの景色は」
彼女は立ち上がり、柵から身を乗り出す。
「危ないですよ」
「わ、わ、落ちる!!」
その言葉を掛けた直後だった。彼女の足が宙に浮き、ばた足をしている。
俺はとっさに彼女に駆け寄り、彼女の体をしっかりと掴んだ。
何というか……言った尻からこれか。何とか間に合い、胸をなでおろす。ついでに呆れ半分の溜息も出た。
「言わんこっちゃない」
「……ありがと。彼も、ハジメくんくらいに優しかったら良かったのに」
彼女は苦笑いを浮かべ、そう呟いた。
「…………」
彼女が初めて見せた、切ない表情に動揺してしまった。
気休めの言葉も言えない。情けないな、俺。
「今日はありがと」
…………ッ!?
直後、俺の唇が彼女のそれが重なった。
「凄い顔してるよ?」
くすっと笑い、彼女はまた元の表情に戻った。
「冗談きついですよ」
ヤバい、マジで惚れそうだった。
「じゃあ、私はそろそろ帰るわね」
彼女は昨日と同じく小さく手を振り、何事もなかったかのように公園の前の坂を下っていった。
「ふう……。まったく、厄介な人だな」
しばらく無心で夜空を眺めた後、俺は帰路についた。




