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 寒い……。

 もう四月の頭だというのに、何だこの寒さは? これが地球温暖化の影響だというのか……。

 そんなことはともかく、どうして俺の通う高校は丘の上なんかに建ってるんだ? そんなとこに建っているものだから、行きは上り坂、帰りは下り坂が延々と続いている。当たり前だけど。

 そして今は下校中。まさしく下っている最中だ。幸い学校の前にコンビニがあるから帰りは買い食いして英気を養える。それでも長いがな、この坂。生徒からは別名、“地獄坂”と呼ばれている。

 いらない予備知識だが、本当は車坂というそうだ。名前の由来は昔、輪入道がよく現れたからだとかなんとか……。

 こんな坂でも実は一つだけ自慢できることがある。中腹辺りに公園があるのだが、そこから見る景色は最高だということだ。何せこの街を一望できるのだから。まあ、ほとんどの生徒は気にもかけないが……。これは俺の趣味ということで。

 そして今日も、公園に立ち寄って日が沈むまで景色を一望する予定だ。

「やっと着いたな」

 ん?

 公園に入ると、一本だけ立つ木に寄りかかる人影が目に入った。

「先客か」

 たまに見かけるが、いつの間にかいなくなっているので俺はあまり気にはしていなかった。

「こんにちは。あ、もうこんばんはかな」

 今まで一度も声をかけたことも、かけられたこともなかったのに、何を思ったのかその影の女性は俺に挨拶をしてきた。

「こんばんは」

 俺も挨拶を返し、彼女の隣に立った。年は俺よりも上で、少したれ目のおっとりしとした顔立ちが印象的だった。

 彼女のセミロングの髪が風に靡く。

「私、ここから見る景色が凄く好きなの」

「あ、俺もです」

「そうなんだ。気が合いそうね」

 彼女はくすっと微笑んだ。

「私ね。ここから景色を眺めていると、嫌なこととか忘れられるんだ」

 嫌なこと……ね。確かに、ここから眺めているだけで、気持が落ち着く。

「俺も似たようなもんですよ。毎日が退屈で、でもここにいるときだけは何もかも新鮮に感じられる」

 雲の位置一つですべてが違って見える。そんな幻想的な世界に俺は魅かれたんだと思う。

 それからしばらくは無言で景色を眺めていた。特に会話が必要というわけでもないし。

 日は沈み、空は次第に藍色へと変わっていく。

 そろそろ、帰り時かな。

「飲みます?」

 コンビニで買ったのはいいが、結局飲まないままのホットココアを彼女に差し出す。

「もらっていいの?」

「ええ、結局野まず仕舞いでしたし。今日はよく冷えてるので、何か温かいもの飲んだ方がいいですよ」

 彼女は「ありがとう」と言い、それを受け取った。

「あ、そういえば自己紹介がまだね。私は二ノ宮友利子。友利子って呼んで」

 そういえばそうだな。特に必要ないと思っていたが、名乗られたからには名乗り返さないと。

「俺は野々蔵初って言います」

「ハジメくんかぁ……。良い名前ね」

 友利子さんはペットボトルの蓋を開け、お茶を飲んだ。

「ありがとうございます。じゃあ、俺はそろそろ帰ります」

 あまり遅くなると、晩飯を作るのが面倒になる。

「そう。じゃあ、またね」

 彼女は小さく手を振る。

 そんな彼女を背に、俺は長い下り坂を歩き始めた。

 

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