①514.人を拾った時の対処法
初投稿です。温かく見守っていただけると幸いです。
「————人の子よ。此処は魔女の庭。不可侵の領域です。覚悟がなければ去りなさい。」
少し裾の寄れた紺色のワンピースを着た少女が、屍のように動かない少年を覗き込んで言う。
しかし、少年は地面に伏したまま、身じろぎもしない。
森には風に揺れる草木の音だけが響いている。
少女は途方に暮れたように空を見上げると、少年を引き摺って森の中を歩き出した。
***
「.......」
自分の寝床で寝ている少年を見つめて、少女はそっと溜め息を溢した。
彼女は、魔女である。郵便局のある小さな町からずっと歩いて、峠を越えた、深い森の中に住んでいる。そんな人里離れた場所で比較的穏やかな毎日を営んで居たわけだが、なんの不幸だろうか。森で人間を拾うだなんて。思えば、今日は朝から森の動物たちが騒がしいような気がしていたし、昼食に作っていたシチューも焦がしていた。やっぱり今日は悉くツイてないらしい。
(人かぁ)
森に人が迷い込むことは稀にある。本当に稀なことだが。少なくとも私がこの場所に住み始めてからは一度もなかったのだ。そのお陰でわざわざ一度家に帰って、埃を被ったマニュアルを読み込むことになったのである。人並み、いや、魔女並みの生活を送れるようにと彼女の師が用意したものである。
パラパラと頁を捲って目当ての頁を開く。
“514.人を拾った時の対処法”
“513.人が迷い込んだ時の対処法”は既に試した。
513.人が迷い込んだ時の対処法
≪「————人の子よ。此処は魔女の庭。不可侵の領域です。覚悟がなければ去りなさい。」ということ。出来るだけ厳かに、魔女としての威厳を見せなさい。大体それで解決するでしょう。
≫
書かれた通りに実践したのに何の反応も無かった。仕方がないので少年を拾って514を実践してみることにしたのである。
514.人を拾った時の対処法
≪Ⅰ環境を整えましょう
人には衣服、食事、住みかが必要です。まずはこの三つを用意しましょう。
≫
少女はすっかり忘れていた。自分の師匠はかなり気ままな人だったことを。
そして、知らなかった。師匠は100個目を書いたときにはマニュアル作りに飽きてきていて、残りは使い魔たちに書かせたことを。
(さぁ、どうしようかなぁ。)
パタンと本を閉じると、床に積まれた本の山の中に戻す。少年は未だ起きる気配がない。ともかくマニュアル通りにしてみようと、魔女は部屋を出て行った。




