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1-21 探り

 リズを謁見室に残したまま、まっすぐにエントランスに向かう。ラッケル伯爵が横たわる、物々しい雰囲気のスルンガルド城のエントランス。そこではスルンガルドの護衛騎士が困惑した様子で対処にあたっていた。騎士団長が汗を拭きながら俺の元へ駆け寄ってくる。


「他の者たちは本当に何も知らないようです」


「そう……じゃあ、解放して」


「いいんですか?」


 謁見室を出た先で、伯爵の付き人を拘束していた護衛騎士が顔を曇らせてそう言った。


「あぁ。ここにいられても困るからな。誰か一人この書面持って、ラッケル伯爵の亡骸を送り届けて」


 そうして主の亡骸を運ぶ不安そうな者たちを見送った。


『……あのおじさんについてた魔道具、リズの首のやつと同じ匂いがした』


 ロズが俺の足元でそう呟いた。その意味を頭の中で噛み砕いてから、ため息混じりに答える。


「今回のは、やっぱりあのクソ皇太子の様子見だったってことだな」


『様子見?ウィルにリズが好きだって言わせて、呪いの下の術を解放しようとしたんじゃなくて?』


「……多分俺が術に気付いてるのを知った上で、俺がどういうつもりなのかを探ってんだろ」


「ウィルフレド様の性格を良くわかった上でのねちっこい作戦ですなぁ」


 ゴースがやって来てのんびりとした調子で言った。白い髭がさわさわと風に揺れる。ロズはそれをまぶしく見上げながら、首を傾げた。


『なにそれ。よくわかんないんだけど』


「つまり、皇太子は、罠だと分かっててリズ様を捨てられないウィルフレド様をニヤニヤと見守ってるんですよ」


「気味が悪い言い方すんなよゴース」


「ほほほ、しかし事実でしょう?」


 にこやかにそう言ったゴースの顔を盗み見る。


 ゴースは笑顔だったが、その目は笑っていなかった。


「――100日の求婚を受け続けるのも、真実の愛で呪いを解けるのも、ウィルフレド様だけです。求婚の呪いの下にある術は、恐らくウィルフレド様の命に関わるものでしょうなぁ」


『呪いが解けたら、ウィルは殺されるの?』


「さぁ、どうでしょうなぁ。ただ、今回のことで、ウィルフレド様がリズ様を愛していることが皇太子には明確にわかったでしょう。奴は間違いなくその弱みに付け込んでくるでしょうねぇ」


 ロズが柄にもなく不安そうな顔で俺を見上げてくる。その滑らかな黒い身体を撫でてから、大丈夫だ、とポンとその背中を叩いた。


「求婚の呪いが薄くなってきて、段々術が見えてきた。100日が経つ前に対策を取ればいい」


『でも……皇太子もウィルの様子めっちゃ探ってるじゃん。ほんとに大丈夫?さっきも呪いの刺繍、光ってたし……』


「あれな。わざと光らせてんだよ」


 ニヤ、と悪い顔で笑うと、ロズはギョッとした顔をした。


『は!?なんでわざと!?』


「絶妙に光らせといて、皇太子の野郎をおちょくってやろうかと」


『はぁ!?』


「ほっほっほ、いいですなぁ!」


 ゴースは嬉しそうに笑った。


「そのぐらいの気概は見せたいところですし、何より私はその方が楽しいです」


「お前はただ楽しんでるだけだろ。で、お茶の準備はできたの?」


「おっと、そうでした。反対側の庭園にご準備済みです。リズ様にも声をかけますので、少ししたら来てくだされ」


 そう言うとゴースはご機嫌そうに去っていった。


『……ゴースがあんな顔するなんて、ほんとにヤバそうだね』


「……そうだな」


 ロズと二人で、ゴースが去った背中を静かに見送る。ロズは金の目でちらっと俺を見上げた。


『わざと光らせてるとか言って……どうせ半分は耐えきれずに言っちゃってんでしょ』


 ぼそりとそう言うロズを何も言わずに見下ろす。ロズは、呆れたようにため息を吐いた。


『多分、ゴースもウィルの強がりが分かってるんだよ。ウィル、ほんと気をつけてよ。何かの拍子に本当に呪いが解けちゃったら大変だよ?』


「……分かってるよ」


 そう呟いてから、空を見上げた。


 午後の、穏やかな風が吹く。空には柔らかそうな薄い雲が浮かび、ゆっくりと流れていた。


「……あのドレス、死ぬほど似合ってたな」


『あぁ、ウィルがゴースにこっそり作らせといたやつね。あれ、リズの体に合わせた特注品でしょ?リズわかってんのかな』


「可愛いって褒めちぎって、めちゃくちゃに撫でて羽交い締めにして俺のにしたい」


『ダメだよウィル……』


 ロズが困った顔でそう言った。その顔には、心配がはっきりと滲んでいる。


『もう、半分以上は過ぎたから。100日が終わるまでは、我慢だよ』


「……分かってる」


『リズはまだ呪いの下の術のことは全然気付いてないよね……?』


「多分な。それ知ったらあいつ死ぬ覚悟でここ出てくだろ。術が暴発しなくてもさ」


『だね……絶対に隠さないとね』


 ロズと一緒に、もう一度空を見上げて。それから、リズの待つお茶の席へと足を向けた。




読んでいただいてありがとうございました!


ウィルはメロメロですが、すんなり相思相愛とはいかなさそうです。

「クソ皇子、まじで邪魔しないでくれます?」と半ギレになったラブコメ待ちの読者様も、

「ウィルの愛で私も解けそう」となんらかの呪いが解け始めたあなたも、

リアクションブクマご評価ご感想なんでもいいので応援して下さると嬉しいです!

ぜひまた遊びに来てください!

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