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1-19 友達

「帰るわ」


 早朝。寝間着から着替えたばかりの私の所に、キャロラインがやってきた。完璧な旅装。窓の外を見ると、既にお付きの者たちがせっせと荷物を運んでいるのが見えた。


「随分急だね?」


 状況が飲み込めないまま、困惑してそう問いかける。


 そんな私に、キャロラインはカッと目を見開いた。


「なんなのよ!!!」


「!??」


 えっ?今の言葉を発したのはキャロライン?まさかそんなはずがない。が、目の前にはキャロライン以外いなかった。驚愕する私を前に、キャロラインは変わらず激しく悪態を吐いた。


「何をぬぼっとしてんのよ!『よくわかんなーい』が可愛く見えるのは私みたいな可憐な令嬢よ!あんたみたいな藁だらけの女がやると本気で分かってなさそうだから逆に気になるでしょう!?」


「!?」


「私はずっとウィルのこと見てきたのよ!?小さい頃からずぅぅぅっと!どんなものが好きでどんな色が好きでどんなことが嫌いでどんな風に笑うのかどんな風に怒るのかどんな風に優しいのかどんな事がどうでもいいのか、全部全部見てきたのに……横からぽっと出てきて急に掻っ攫ってくんじゃないわよ!」


「掻っ攫って!?」


「そうよ!何も知らなさそうな顔して、美味しそうにご飯食べて、私の煽りにも気づかなくて、むしろ私とも一緒に楽しく遊んじゃって、ウィルとボードゲームみたいな遊びもできて、祝福まで持ってて……普通にいい子じゃない!むかつく!!!」


 けなされてるのか、それとも褒められてるのか。より困惑してしまった私に、全ての猫を脱ぎ捨てたキャロラインは、人差し指を突きつけた。


「それよ!その顔!全部手に入れたくせに、ぼんやりした顔してんじゃないわよ!」


「全部手に入れたってどういうこと!?キャロライン、何の話?」


 まったく状況が読めない。私がそう言うと、キャロラインはキッと涙目で私を睨みつけた。


「絶っっっ対に教えないわ!あんたなんか大っっっ嫌い!!!」


 そうして勢いよく背を向けたキャロラインは、少しして私を振り返った。


「ウィルのこと不幸にしたら許さないから」


 キャロラインは、大きな目に涙をためてそう言った。


 そうして、屋敷を出ていくキャロラインのさみしげな背中を窓から眺める。


「――キャロライン!」


「えっ!?」


 なんだか、黙って見ていられなくて。私は二階の廊下の窓からひらりとエントランスに飛び降りた。


「ちょっ……何してるのよ!?」


「あのさ」


 ちょっと悩んでから、困惑顔のキャロラインに手を差し出す。


「またね。今度はキャロラインの所に遊びに行かせて」


「なっ……なんで!?」


「えっ?だって、友達になってくれたでしょ?また会おうよ」


 違っただろうか。本当に嫌われてしまったのなら仕方がないけど。でも単純にまた会いたいなと思った私は、そのまま手を差し出してへへへと笑った。だって、久しぶりにできた同年代の女友達だもの。


 そんな私をキャロラインは目を丸くして見て。そして、次いでわなわなと顔を赤くした。


「そういうところよ!!!」


 べしん!と差し出した手を叩かれる。


「ウィルよりかっこよくなってどうすんのよ!?」


「かっ……かっこいい!?あ、ありがとう……」


「照れてんじゃないわよ!」


 キーキー怒ったキャロラインは、一通り私をどつくと、馬車に乗り込んだ。


「……私、普段は帝都にいるから」


「帝都!華やかそうね」


「当たり前じゃない!こんな田舎と違うわよ!……約束したんだから、ちゃんと来てよ」


 そう言い残して。キャロラインは、怒ったような赤い顔をして馬車の扉を閉めると、金の髪をそよ風に揺らしながら去って行った。


「行ったか」


 エントランスでキャロラインを見送った私の背に、ウィルが声をかけた。


「うん。来る時も帰る時も突然だったね」


「あいつはそういう奴だからな」


「なら突然会いに行ってもいいってことよね!」


 明るくそう答えると、ウィルはふはっと可笑しそうに笑った。


「凄い発想だな。お前らいつの間にそんなに仲良くなったの」


「え?最初から友達になったよね?」


「そういうこと」


 呆れたように笑うウィルを見上げる。遠目に見える馬車を、ウィルは何とも言えない顔で眺めていた。


「……ちょっと寂しい?」


「まぁ……親戚の騒がしい妹みたいなもんだからな」


「そんな顔するならウィルも見送りに来たら良かったのに」


「変に気持たせるより良いだろ」


 そう言ったウィルの横顔を見て思う。分かりにくいけれど、やっぱりウィルは優しい。きっと、今までもこうして、人知れず嫌われ役を買ってきたんだろう。


 そんな風に思ってウィルを見上げていると、ウィルはひょいと私の方に顔を向けた。


「ありがとな」


「え?」


「キャロラインの去り際のあの顔。多分ほんとに嬉しい時の顔だから」


 そう言ってちょっと優しげに笑ったウィルは、私の頭に手を伸ばすと、何故か嬉しそうに目を細めて私の頭をわしゃっと撫でた。


 その表情に、どくんと胸が跳ねて。さっきまで忘れていた昨日のあれやこれやを思い出してしまって。私は思わず真っ赤になって上ずった声を上げた。


「〜〜っ、獣舎!行ってくるね!!」


「待て」


 がしっと腕を掴まれる。待って、なんでと心の中で慌てる私に、ウィルは意地の悪い顔で私に言った。


「今日の分。忘れてるぞ」


 ぽかんと口を開ける。そうだ。今朝の呪いの求婚はまだだった。忘れたら死んでしまう。だけど。


 もう一度、ウィルの顔を見る。


 ウィルは、ニヤ、と笑うと私の目を覗き込んだ。


「まさか照れてんのか?」


「なっ……そ、そんなわけ、無いでしょ」


「ふーん?じゃあはい、今日の分」


「〜〜〜〜っ、けっ……結婚、して下さい!!!」


 なんて最悪な呪いだ。真っ赤になってそう叫ぶと、ウィルはなんだか子供みたいに、嬉しそうに笑った。


「だめ」


「知ってるわよ!!!」


 そうしてウィルの手を振りほどき、獣舎に向かって走り出した。


 なにこれ……なにこれ!??


「私、愛さないって言ったよね!?」


 獣舎の中に駆け込み、頭を抱える。


『言ったね』


 ちょうどそこにいたロズが、呆れたように返事をした。その冷めた金の目をわなわなと見つめる。


「これってどういう状況なの!??」


『さぁ?』


 ロズは呆れ顔のまま、つややかな黒い前足をのんびりと毛繕いしていた。それから、ちら、と金の目を私に向けた。


『まぁ……とりあえず、このまま毎日求婚するしか無いよね』


「そ、れは……そうよね……」


 なんということだ。こんなバカみたいな呪いにここまで苦しめられることになるなんて。平常心でできる気がしない。


 盛大にため息を吐き出し、赤くなった顔を覆う。どうしよう。落ち着いて考えられない。


 じわりと移る体温。硬い腕の感触。間近で見たウィルの、どことなく甘い顔と声が、頭から、離れない。


 ――真っ赤


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


『リズ、うるさい』


「とりあえず!体を動かそう!!!」


 冷静に考えられなくなってしまった私は、えぇいと気合を入れて獣舎の箒を手に取った。


 掃除だ。とにかく無になろう。汚れを取り去ることだけ考えよう。そうすればきっと――


「はは、真っ赤!」


「!??」


 バタンと箒を手から落とす。その向こうでは、赤いパンツを履いたトニと他の獣騎士たちが、変なポーズで、しまった!という顔で顔でこちらを見ていた。


「すいませんリズのアニキ!お目汚しを……ちょっと一芸を考えてまして」


「あ、あああそう、大丈夫、大丈夫よ」


「えっでもこの格好嫌じゃないですか?」


「いっ……嫌じゃ、ない、けど……っっっうあぁぁぁぁ」


 もうだめだ。全部アレに繋がってしまう。頭を抱えてしゃがみ込んだ私に、ロズがボソリと言った。


『リズも難儀だね』


「うぅ……」


『頑張って』


 ぴょんと塀によじ登ったロズは、うぅんと伸びをしてから、ほんの少し私の方に目を向けた。


『……リズ』


「なに?」


『愛さないって約束したよね』


 ロズは、なぜか随分と真面目な雰囲気で私に金の目を向けていた。


『別に、リズがどう思っててもいいけどさ。呪いが解けるまでは、ウィルに好きとかそういう事は言わないでね』


「そ……それは、もちろん」


『……あんまりウィルを誘惑しすぎるなよ』


「誘惑!??そんなんしてないよ!?」


 一体私がいつ艶めかしくウィルを誘惑したというのか。ギョッとしてそう言うと、ロズはひひ、と笑った。


『まぁ、そうだよね。……とりあえず残り半分、このまま頑張って』


 そう言うと、ロズはしなやかな体でひょいと壁を乗り越え、どこかに行ってしまった。




読んでいただいてありがとうございました!


ウィルはちょっと調子に乗ってきましたが、やっぱり雲行きが……

「ヤバそうだし黙ってて欲しいけどイチャイチャもして欲しい!!」と頭を抱えて下さった読者様も、

「きっとリズが好きって言ったらウィル暴走するよね」とロズと一緒に冷静に分析し始めたあなたも、

この先も応援して下さると嬉しいです!


☆早速リアクションや評価、ブクマご感想で応援して下さった方、ありがとうございます!!!

ほんとにほんとに嬉しいです!

皆様の応援が創作活動の糧です……!


完結まで残り半分程度、ぜひ最後まで応援よろしくお願いします!

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