第8話:地獄の訓練
正直。魔法の訓練って、キツイ。
最初に、ハーゲンドルフさんから『初級闇魔法書』を渡されて。
「この魔法書に書かれている魔法を、順に使っていけ。
倦怠感・吐き気・頭痛・眩暈、などの症状が出たら、俺に言え。
それは魔力欠乏症の症状だ。辛いだろうから、遠慮せず言え。」
正直、本を読むだけで。魔法?を理解するのはとても難しかった。
特にこれ(ルーン文字って言うんだっけ?)と魔力操作っていうのが難しくて。
ハーゲンドルフさんに教えてもらいながら、2時間かけてやっと初級の中でも初歩的な
『闇』の魔法を使うことができた。
それからは、本に書かれている魔法を一つずつ使っていって、7個目の魔法で・・・。
眩暈と激しい吐き気に襲われた。正直、少しでも動いたら地面に倒れて嘔吐しそうだったけど。
私は、今にも死にそうな声で報告だけは行う。
「ハーゲン・・・ドルフ・・・さん・・・し・・・死にそう・・・です」
あっ!弱音を吐いてしまった。人前では、我慢するって決めていたのに。
特に、お母さんの前で弱音を吐くと・・・。いや、思い出したら・・・。考えるの、やめよ。
それより。ハーゲンドルフさんに迷惑を掛けちゃ駄目だ。我慢しないと。
と思った時。私の横に彼が腰かけて、バケツを差し出してくれる。
そして、私の背中を優しく摩りながら、気を使ってか小さな声で話してくれる。
「ああ。そうだな。私も初めて魔力欠乏症を起こした時は、このまま死ぬと思った。
短いと10分、長いと1時間以上続くが。大丈夫だ、何かあれば俺に言うといい」
いつもの、淡々としているハーゲンドルフさんからは想像も出来ない優しさ。
でも。いつ振りだろう。人に心配されて、こんなに優しくしてもらうのなんて。
それから、私の魔力欠乏症?は20分くらい続いた。
確かに、激しい眩暈と吐き気はとても辛かったけど。気持ちは、どこか楽だった。
「ふぅ。・・・少し、楽になりました。ありがとうございます、ハーゲンドルフさん」
私は、ハーゲンドルフさんの目を見ながら、しっかりとお礼を言う。
すると、ハーゲンドルフさんは驚いた顔をしながら、私の顔を指さす。
「お前・・・昨日と比べて、随分と女らしくなったな?何があったんだ」
・・・もしかして、私がお化粧をしていることに気が付いてなかった?
朝食も一緒にとって、魔法の訓練をして、もう4時間くらいは経ってるよ?
でも、彼のホントに驚いた表情からして。今の今まで気づいていなかったんだろう。
私はそれが、何故か面白くて。彼にバレないように、クスリと笑う。
「いえ。ちょっと・・・」
私は、ハーゲンドルフさんに、今朝メイドさん達との出来事を説明した。
彼は少し驚いていたけれど。「労働時間外は好きにするといい」と言ってくれた。
咳ばらいをした彼は、いつもの無表情に戻る。
「ああそうだ。お前、俺のことをハーゲンドルフさんと呼んでいるな。
それ、やめろ。今からは俺のことを「師匠」と呼べ。お前は弟子なんだからな」
意外だな。ハーゲンド・・・師匠さんは、呼ばれ方なんて気にする人じゃないと思っていたけど。
いや。偏見はよくないよね!確かに、彼は魔法の師匠なんだし、言うことは聞かないと。
私は軽く頷いて「はい、師匠」と返事をする。
「よろしい。では、次の訓練に移ろうか。今、お前は魔力を使い切ったところだ。
次の訓練は、魔力治癒速度と魔法順応適性の向上を、平行して行う」
私は師匠の指示に従って。魔力治癒速度と魔法順応適性の向上訓練を行う。
内容は、またも結構過酷。
まず、魔力治癒速度の向上に関してだけど。意識的に、魔力を吸収する。
魔力は体の外から補給する。一度に補給できる量は決まってるけど、
意識的に大量に吸収するのを繰り返すことで、魔力を吸収する部分が広がって、
意識しなくても、一度に大量の魔力を補給することが出来るようになる。らしい。
魔力順応適性は、師匠が攻撃性のない色んな属性の魔法を、私の体に当て続ける。
色んな魔力に当てられ続けることで、魔力順応適性が高まっていく。とのこと。
正直、私にはよく分からないことばっかりだけど。
師匠の言うことを聞いていれば大丈夫。何故かは分からないけど、そんな気持ちになった。
・・・勇者?として召喚されたからか分からないけど。私の魔力は、一日で回復した。
師匠曰く、全く訓練されていない状態で、一日と言うのはかなり短いらしい。
ただ。毎日、あの眩暈と吐き気を体験しないといけないのか、と思うと憂鬱。
でも、私は魔導師に向いているってことが分かったし、それはいいことだ。
魔導師って結構、お金が貰える仕事らしい。
まあ、危険な仕事を任されることもあるから、良い仕事とは言えないみたいだけど。
ひとまず。この世界で生きて行けるってことは、分かった。
次はこの世界から地球に帰る方法だけど。
当分は魔法の訓練と礼儀作法の練習で忙しくなるから、
考えることも調べることも出来ない、と思う。
正直。あの日常に戻りたいのか?と訊かれたら「分からない」と答えると思う。
はぁ。でも、地球を捨てて、環境も常識も、何もかもが違うこの世界で死ぬまで暮らすって言うのも。
ああ。今日はいつも以上に疲れた。洗濯物も、弁当の準備もしてないのに・・・寝ちゃ、だめ・・・・。




