第7話:Magietheorie(魔法理論)
貴族の礼儀作法を習うのは、休日と仕事が終わってから、ということになった。
あっ!お化粧とか、髪と肌の手入れは朝に内に終わらせてしまうらしい。
まあ、早起きは別に苦じゃないし、礼儀作法を習うんだからそれくらいはしないと!
職場の環境も最高だし。なんと、仕事の時間は、朝食を食べた後から、夕食の時間まで。
と滅茶苦茶短い。前世の休日のバイト時間と比べると、相当に少ない。
でも、休日は8日に一回、と。地球と比べるとかなり少ない。
ただ。私の場合は、月に二回だったから。これも私にとっては多いことになる。
そうこうして。私とハーゲンドルフさんは朝食を摂った後、場所を移動して魔法の勉強を始めた。
「まず、魔法とは『魔力を用いて事象を起こすこと』の総称だ。例えば『ᛋᚳᚺᚥᛖᚱᚴᚱᚪᚠᛏ ᚢᛗᚴᛖᚺᚱ』」
ハーゲンドルフさんが、よく分からない言葉を唱えると。部屋の中のモノが宙に浮きあがった。
私は、驚きつつも。浮いている物に近づいて観察してみる。
上下左右を触ってみるも、糸のようモノは一切確認できない。
正直、まだ半信半疑だけど。・・・魔法って、本当にあったんだ。
「これは『重力反転』、単純に見えてかなり難しい魔法だ。
重力。つまり、この大地の持つ力に反抗する魔法。それだけに、消費する魔力は多い。
分類は『特級魔法』。6段階ある魔法分類の内、5番目に難しいとされている。だが『ᛋᚳᚺᚥᛖᛒᛖᚾᛞ』」
ハーゲンドルフさんがもう一度、詠唱?を行うと・・・。何も、変化しなかった。
でも、詠唱は違うものぽかったし。何かは、変わっているのかな?
そんな私の疑問を知ってか、知らずか。彼は話を続ける。
「先ほど使ったのは『重力反転魔法』。今しがた使ったのは『浮遊魔法』だ。
効果に大した差はないが、消費魔力量には大きな差がある。
こういった、殆ど同じ効果を有する魔法でも、魔力消費量の差は大きい。こともある。
そういうことを知っているか否かを『魔法理解』と言う。
魔法理解が低いと、無駄に魔力を消費する、無能者となる。
いいか、魔導師には多くのモノが求められる。
『魔法適性』『保有魔力量』『魔法理解』『魔力操作』『魔力治癒速度』
『魔法順応適性』『魔法展開速度』。今、思いつく限りでも、これほどある。
魔法適性は天性の才故に、どうしようもない。
保有魔力量も限界は決まっているが。訓練次第では成長限界までは引き上げることが出来る。
そして。ここからが本番だ。
魔法理解、魔力操作、魔力治癒速度、魔法順応適性、魔法展開速度は、訓練次第でどうとでもなる」
ここから、長々と続いたハーゲンドルフさんの話を簡単にまとめると。
魔力操作は、魔法を操るための必須スキル。分かりやすく言えば『調節器』のこと。
さっきの浮遊魔法で言えば、どこまで、どのくらい、どのように、浮遊を行うか。
例えば、1㎝浮かせるのと、10㎝浮かせるのとでは、消費する魔力量が違ってくる。
他にも、1分だけ浮かせるのと、10分浮かせるの。動かしながら浮かせるのと、
静止させて浮かせ続けるの。どれも、消費する魔力量が変わってくる。
それを細かく『調節』し、魔法を自由自在に操るために、魔力操作はとても重要。
次に、魔力治癒速度。魔力を使えば当然、消費されて、最終的にはなくなる。
でも、なくなったからと言って、二度と魔法が使えないわけではない。
魔力は時間と共に回復していく。でも、その回復速度には個人差がある。
数時間で回復する者もいれば、数日・数ヶ月かかる者もいる。
保有している魔力量で左右されることもあるけど。基本は本人の体質。
だけど。特殊な訓練を行うことで、魔力治癒速度を向上させることが出来るらしい。
魔法順応適性は、どれだけ魔法に耐えられるか。
魔法適性が『攻撃力』だとするなら、魔法順応適性は『防御力』。
魔力順応適性も、生まれ持った差があるけど。訓練でどうとでもなるらしい。
魔力順応適性が高いと、体が自然と、魔力を受け流すようになってくれる。
ちょっと表現としては間違っているかもだけど。伝導率みたいなモノかな?
魔力順応適性が低いと、伝導率が高くて、多くのダメージを受ける。
けど、魔力順応適性が高いと、伝導率が低くて、受けるダメージが少ない。
ただ、勘違いしてはいけないのは、魔力の介在している魔法への耐性が高まるだけ。
要するに、魔法で作った火は大丈夫でも、マッチで付けた火には弱いってこと。
最後に、魔法展開速度。これは単純に、どれけ早く魔法を使えるか。
これに関しては、反復練習を繰り返して、体に叩き込むしかないらしい。
まあ、スポーツと一緒だね。何回も繰り返し練習して、体が自然と動けるようにする。
魔法って空想の世界のモノだったから、便利な超能力程度にしか思ってなかったけど。
実際は、とても複雑で難しいモノだったんだ。
何と言うか、本当に学問の一つなんだなって思う。
「ミオ。お前には少なくとも、二級魔導師に合格できる水準にまでなってもらう。
長い時間と、過酷な訓練が待っているが、耐えてみせろよ」
ハーゲンドルフさんはそう言うと、不敵な笑みを浮かべた。
・・・私は、もしかしたら。とんでもないブラックな仕事に就いてしまったのだろうか。