第3話:黒の貴公子
「お、大きい・・・」
銀髪のお兄さん・・・。レオポルト・フォン・ハーゲンドルフさんは、
私を雇った?後「まずは、保有魔力量と使用可能な魔法を増やすことからだな」と言って、
修行場所、に連れて行かれることになりました。
でもまさか、その修行場所が、ハーゲンドルフさんのお屋敷だったなんて。
「どうした?早く入れ、時間がもったいない」
私の住んでいた家よりも大きなお庭に、公園にあるモノより大きな噴水。
もしかしてハーゲンドルフさんって、とっても偉い人だったりするのかな?
あっ!それよりも、早くお屋敷の中に入らないと、ハーゲンドルフさんに怒られる。
私は駆け足で、ハーゲンドルフさんの下に向かった。
扉を開けて中に入ると。ホールに飾る花瓶を運んでいるメイドさん?と目が合った。
お屋敷の大きさから何となく予想してたけど。本物のメイドさんって初めて見る。
なんて思っていると、メイドさんが驚愕と喜びに満ちた顔をした。
そして器用に素早く花瓶を台座の上に置くと、お屋敷の奥の方に走って行って大きな声で叫ぶ。
「皆さん!旦那様がご婚約者様をお連れになりました~~!!!」
私は、メイドさんを止めようと思ったけど。
・・・大きい声を出すのが得意じゃないから、結局、止められなかった。
代わりにハーゲンドルフさんの顔を見ながら、「ご、誤解、解かなくていいんですか?」と訊く。
「黒髪に黒目、闇の魔法適性に、大人しそうな性格。
俺が婚約者選びの際に出した条件にピッタリだからな。アイツも勘違いしたんだろ」
と言って、屋敷の奥へと向かって歩き始めた。
私も慌てて、後ろについて行く。進んで行くに連れ、騒ぎ声が大きくなる。
もしかして、もう屋敷にいる人全員に、私がハーゲンドルフさんの婚約者って誤解
広めちゃったのかな?なんて考えていると、大きな厨房に着いていた。
そこに、さっきのメイドさんと色んな人が集まって話をしている。
その内の一人がこちらに気が付くと「旦那様!」と言いながら、駆け寄ってくる。
そして、私の顔を見ると涙を流す。
「ご婚約者様!お名前を伺ってもよろしいでしょうか!!」
あまりに嬉しそうに聞かれるものだから、私はつい
「はい。えっと、東雲澪って言います」
と、普通に答えてしまった。
「この国では聞きなれないお名前ですね。外国からいらしたのでしょうか」
ああ、そっか。この世界の名前って日本人のモノと違うんだった。
じゃあ、簡単に説明した方がいいかな?
「はい。えっと。日本って国から来ました。名前が澪で姓が東雲って言います」
私の名を聞いたメイドさんは
「そうですか、ではシノノメお嬢様と呼ばせていただきますね」
と、頭を下げた。私がどうしていいのか分からず困っていると。
隣にいたレオポルトさんが大きな溜息をつき、手を叩く。
すると、騒がしかった厨房が静かになり、その場にいる全員がレオポルトさんに視線を向けた。
「お前ら全員、勘違いしているようだから先に行っておく。
ミオは私の弟子であって、婚約者ではない。そのことを留意しておくように」
レオポルトさんの言葉に、がっかりしたような様子で皆が解散していった。
それは、私に話しかけてきたメイドさんも一緒で・・・。
「申し訳ございませんでした。『黒の貴公子』と呼ばれ、幾度もご婚約の話を断っていた旦那様が、
初めて女性の方をお屋敷にお連れになったので、つい、勘違いしてしまいました」
そう言って、深々と頭を下げると。彼女も、自らの仕事に戻って行ってしまった。
ちょっと、申し訳ないことしちゃったかな?・・・相変わらず、何やっても上手くいかないな。
勉強も運動も、人並みかそれ以上に出来ても、1番になれたことはないし。
人間関係ではいつも失敗してばっかり。今回も、迷惑かけちゃったし・・・。
「はぁ。アイツらは相変わらず、思い込みが激しいな。迷惑をかけたな、ミオ」
考え事をしていた私はこの時、レオポルトさんの言葉が耳に入っていなかった。
だから、不思議に思ったレオポルトさんが、私の肩に手を置きながら声をかけるまで、
全く気付かなかった。
「あっ!申し訳ありません。か、考え事をしていて・・・聞いていませんでした。」
私は深々と頭を下げる。すると、頭上から大きな溜息が聞こえてきた。
ああ。まただ。私はいつも、人に迷惑を掛けて、呆れられてばかり。
怒ってもらえる内はいいけど。呆れられたら、もう二度と、気に掛けてすらもらえない。
そう思って、もう一度謝罪しようとすると、レオポルトさんに止められた。
「お前。別に悪いことしたわけでも、ミスをしたわけでもないのに、謝罪しすぎだ。
変なプライドを優先して一切謝罪をしない奴よりましだが・・・。
謝罪し過ぎると、舐められるぞ?俺の弟子になるんだから、もう少し自信を持て」
と・・・怒られた?よく分からないけど。今までのどの人とも違う反応に、私は戸惑ってしまった。
そんな私を見て、レオポルトさんもう一度大きな溜息をつく。そして・・・。
「まあいい。これからの予定について説明するから、ついて来い」
と言って、歩き始めた。