第26話:第一王子の思惑
「兄上、どうしてシノノメ嬢にあのような提案を?
勇者を野放しにすることを最も嫌っていたのは、兄上ご自身ではなかったのですか?」
弟の発言は最もだった。ミオという存在を一番警戒していたのは、彼自身なのだから。
なのに、ミオの肩を持つレオポルトに彼女を預けたままにするどころか、
彼女に「勇者か国民か」というとんでもない質問を問いかけた。
そして、彼女が国民として生きることを許可しただけでなく、支援するとまで言ってしまった。
慎重で、法や規則を重んじる自分の兄が、兄らしくない行動を見せた。
弟は何かあると考え、今、必死に兄に理由を問うているのだ。
兄は、弟の必死そうな顔を見ると、大きな溜息をついた。
「時期王位に最も近いお前には、話した方がいいのか、話さない方がいいのか、
取り扱いに困る情報だった。だが、暴走されたり、被害を被られた方が困ると判断したから、話そう。
確かに、ミオ・シノノメは放置するにはあまりにも危険な力を有している人物だ。
だが。ハーゲンドルフから聞いた話、私の部下に調査させた彼女の特徴、そして実際に会って話してみて、
理解した。彼女は基本的に無害な人間だろう。細かな所作や話し方から、自信のなさが伺えたからな。
ハーゲンドルフの弟子で、奴と同じ偉業を成し遂げようとしている人物が、自信を持てていない。
生まれた時からの性分なのか、育った環境のせいか、私には分からんが“今”は大丈夫だろう。
それに、魔王軍の侵攻が近い。勇者が育っていない今、彼女とレオポルトは貴重な戦力だ。
敵に回したくない。その上彼女は素晴らしい戦略眼を持っているようではないか。
彼女は物覚えがいいし、平民にしては言葉遣いも丁寧だ。
前の世界ではそれなりの教養があったのだろう。味方となれば、心強い。
・・・他にもある。・・・私が牢に入れておいた召喚師達が何者かに殺害された。
恐らくだが、奴らの後ろには何らかの大きな存在がいる。
そもそも、召喚師という存在はよく分からん。
魔導師管理委員会に属してはいるが、彼らは秘密主義者だ。何かあるのだろう。
今はそちらの調査に集中したい。もしかすると、奴らに関係しているかもしれないからな。
以上の理由で今だけ、彼女の意見を全面的に優先する。
なに、魔王さえ倒せば元の世界に帰るだろう。自由にされるのも今だけだ」
兄の言葉の全てを理解し、納得したわけではないが。
いつもと同じよう、理性的な思考の下で決められた『計画』なのだと分かり、
弟は一旦落ち着きを取り戻した。
~ 一方:王城魔導師長特別実験室 ~
王城にある師匠の研究室に向かうって聞いてたから、どんな凄い所なんだろうって思ってたんだけど。
まさか、師匠と会った時に連れてこられた、薄暗くて、少し臭う部屋が研究室だったなんて・・・。
師匠らしいと言えば師匠らしい気もするけど。なんで、こんなところを研究室に選んだんだろう。
「来たか。早速だが、お前には他の魔導師と魔法を学んでもらうことにした。暫くは、彼らと共に学べ」
研究室に来て早々、同僚の話をされた私は、動揺を隠せなかった。
同僚?なんで?もしかして、私にはもう伸びしろがないから、別の人に預けるのかな。
だとしたら、どうしようもない。師匠が伸びしろがないって判断したなら、本当にそうなんだろうし。
もしかして、このままお屋敷も追い出されるのかな?仕事もクビ?うぅ。嫌だ、でも、どうしよう。
彼は、目の前であわあわしている私に大きな溜息をつく。
「はぁ。くだらん心配はするな。お前のことをクビにする気はないし、伸びしろもまだまだある。
別の問題があって、お前に俺以外の魔導師をつけることにしたんだ」
師匠の言葉に、私は一瞬だけ安堵を覚えた。けど、問題がないわけじゃないらしい。
もし、その問題を直せなかったら、次こそはクビにされるかもしれない。
「お前は、他の魔導師を過大評価する傾向にある。それが悪いことだとは言わん。
戦場では、運が悪い奴と相手を舐めた奴から死んでいく。まあ、これは俺の個人的な考えだが。
それはさておき、お前は相手を過大評価するだけでなく、自分のことを過小評価しすぎる。
それはただの“臆病”だ。臆病者は長生きするが、前線では役に立たん。
お前が軍師ならば、それは美徳の一つとして数えられたかもしれないが。
前線で戦う魔導師にとっては、ただの弱点でしかない。
そこでだ。お前は俺以外の、もっと多くの魔導師と接し、魔導師とは何かを理解する必要がある。
・・・お前たち、入れ」
師匠の話が終わると、研究室の扉が開き狭い研究室に窮屈そうに7人の男女が入って来た。
その内二人は、一度見たことがあった。私が二級魔導師試験を受けに行ったときに、
扉を蹴破って入って来た二人だ。あとの人達は、分からない。
でも、師匠の言い方からして、全員が魔導師なんだとは思う。




